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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百六十八話

 王都へ出発する日になった。

 僕たちは、1週間の間買い出しなどの準備を整えた。何せ二ヶ月の長旅だ。どれくらいの食料がいるのか検討に検討を重ねて、結局いつもと変わらない程度の量に落ち着いた。

 今まで買い込んだ物が、リュックサックにかなり大量にあり、買わなくてもいいんじゃないかなんて話にもなりかけたけど、心配性の僕とニーナの主張に他の三人が折れた形になったのだ。


「途中にも町や村があるんだからさぁ、食料とか生活雑貨なんてそこで買えばいいじゃん」

「まあ、そうなんだけどさ。んー、まあ、僕の癖みたいなもんだと思ってよ」


 タニアは、結構現実的なところがあるから、きっと僕の気持ちは理解して貰えないだろうなぁ。


「わかった。リュウジの癖ね。ま、あんたにゃリュックがあるから好きなだけ買っといてよ。準備し過ぎて悪いことはあんまりないからね」

「ありがとう、僕も気をつけるよ。買い過ぎは良くないもんな」

「でも、リュウジさんがいろいろ買っておいてくれるので、依頼の最中でも美味しい物が食べれるのは嬉しいですよ」


 ニーナは、嬉しい事を言ってくれるねぇ。撫でとこ。


「わっ」


 吃驚したニーナは、小さく声を上げてこちらを見上げて微笑む。それを見た僕も思わず笑顔になる。


「こらそこ、いきなりイチャイチャしないの」

「そうですよ、わたしも撫でられたいです使徒様」

「あんたも馬鹿なこと言わないの」


 エリシャは耳を伏せて頭をこっちに寄せてくる。こ、これは、ヒコーキ耳!飼ってた犬を思い出すなぁ。撫でてほしい時や嬉しいときにやってた。


「あ!ふへへ」


 思わず撫でてしまった。


「もう!暁の風が待ってるんだから。ほら、リュウジ!さっさと行くよ!」

「ごめんごめん」


 宿の女将さんに残りの宿泊予定のキャンセルを申し出る。残っていた期間の返金をしてもらい宿をでた。


「返金してくれるんだ」

「あたりまえだよって言いたいところだけど、あたしたちが冒険者だからだね」

「冒険者だからなの?」

「そうですよ使徒様。王国と冒険者組合の間で交わされた契約の一つですよ。冒険者は依頼で突然長期間出かけることがありますから、昔の総組合長が当時の国王と直談判したことがあってこうなったそうです。因みにわたしたち教会の外回りの人員も対象になっていますよ」

「へぇ」


 昔の人のおかげで、冒険者の労働環境が良くなっているのは有難い限りだね。


「リュウジさん、王都に向かう間の毎朝の日課ってどうするんですか?」

「ん?さすがに走るのは無理だから、素振りだけかな?あ、ライルとかと模擬戦でも出来たらいいね」


 僕が冒険者になってニーナとパーティを組んでから始めた日課は、毎朝の素振りと町中のランニングだ。セトルの町で始めたんだけど、この街に来てからも依頼のない日に続けている。併せて一時間くらいだからそんなに苦ではないしね。今は慣れてきて物足りなくなってきている。でも、最近は素振りしてても何が正しいかわからないからなぁ。今のところは、基本的な斬り方やあの時のホブゴブリンを仮想敵にしてやっている。


「私もルータニアさんに魔法の使い方とかを聞いてみたいです」

「じゃあ、一緒にお願いしてみようか」

「はい!」


 旅の間はランニングは無理…じゃないな。馬車と一緒に走ればいいんだ。だれか付き合ってくれないかな?誰もいなかったら一人で走るか。


「あ、組合の前に馬車が一台止まっていますね。近くに暁の風の皆さんの姿が見えますよ」


 エリシャの声で組合の方を見ると幌馬車が一台、組合の出入り口とは違う場所に止まっている。その横には大きな荷物をいくつも持った冒険者がいる。ライル達暁の風だ。

 こっちに気が付いた女の人が手を振っている。あれはルータニアさんか。


「おはよーございますー、リュウジさーん」

「おお、来たか。リュウジ、悪いがこの荷物仕舞ってくれないか?」

「いいですよ」


 スレインから頼まれた荷物をリュックに仕舞っていく。全部で五つか。


「魔法鞄持ちがいるといいな。いつか買おう」

「へへん、いいだろう。あたしたち最近大荷物なんか持って依頼に行ったことないからね」

「タニアさんが威張ることじゃないですよ…」

「そうですね。そこは使徒様がいらっしゃるが故です」

「いいじゃんちょっとくらい」

「わはは、そのうち俺らも買うからよ。今回の金額次第じゃすぐに買えるぜ」


 そうだった。大きい真珠を競売にかけるために行くんだった。


「あ、リュウジさんたちもいらしたんですね。すぐに出発しますか?」


 組合の出入り口からミレナさんが出てきた。

 ミレナさんの格好は、いつもの受付嬢の制服ではなく、革鎧に刺突剣を腰に佩いている。ミレナさんって冒険者だったのかな?


「僕たちはいつでもいいですよ」

「俺らもだ」

「それでは出発しましょう。御者は私がやります」


 そう言いながら御者席へ颯爽と乗り込むミレナさん。様になってるなぁ。これは経験者だ。


「ミレナ嬢は、冒険者だったんですか?」

「はい、これでも以前は銀級の冒険者でした。馬車の扱いもお任せください」

「俺らよりも上だったんか」


 ミレナさんはガルトに向けてウィンクを一つ。アピールが凄いな。猫の見た目そのままだけどかなりの美人さん(美猫さんか?)がこれだけ好意を向けてるのに、ガルトはどう思ってるんだろう?

 ガルトを見てみると……お?ちょっと顔が赤くなってる?照れてる?あ、下向いたぞ。


「ガルトぉ、なんか言ったらぁ?」


 タニアがにやにやしながらガルトを突く。


「む、よろしく頼む」

「はい、お任せください」


 と言って微笑むミレナさん。うわぁ、くっそ可愛いな!猫が笑うとこんな破壊力があるのか!


「あいたぁ!」


 ミレナさんの笑顔に見惚れてたら、右腕と左腕に痛みが走った。


「もう!」

「使徒様!猫人などに現を抜かすなど…」


 なんだ、ニーナとエリシャが抓ったのか。嫉妬かな?ここにも可愛い人がいた。二人も。

 そのあと、ルータニアさんが僕に抱き着こうとして二人に阻止されたり、ガルトがミレナさんから座る場所を指定されて困惑したりしながら皆馬車に乗り込んで出発した。

 これで暫くフルテームとはお別れだな。帰ってくるのは半年後くらいかな。そのまま王都に居つくことになるかもしれないしな。でも、まだこの街でやってないこともあるからなぁ。勇者温泉も掃除してないから入れてないし、三か所の迷宮も入口付近しか入ってないからなぁ。また帰ってくるか。

 それじゃあ、行ってきます。








 フルテームの街を出て、暫くは街道に沿って進むだけなんだけど、最寄りの町までは馬車で二日ほどかかるらしい。街道といっても人や馬車が踏み固めた道があるだけだ。石畳で舗装されているわけではない。

 でも、いろんな人や馬車が通る道なのか、草が生えているわけでもなく土がしっかり固められている。馬車の轍が四本ある。それがあるお陰で馬車の揺れも少ない、のかな?

 周りは見渡す限り草原で、かなり向こうのほうに森があるのがわかる。まだ街を出て半日も経っていないが、とても長閑な光景が広がっている。


「ここら辺りは、魔物も少なくて安全だな。まあ、お前らもここに来た時に通ってるから知ってるか」

「まあね。あの時はこの景色に見惚れたなぁ」

「おお、あの時は感動したよな。セトルは山ん中だったからよ」

「ライルはどこの出身なんだ?」

「俺か?俺は王国と帝国の境目にある村だな。スレインとガウラスもそうだ。幼馴染なんだぜ」

「そうなんだ」


 ライル達のパーティは、仲がいいとは思ってたけど五人中三人が幼馴染だったのか。


「男三人で村から出てきて冒険者になってシアと仲間になってね。最後にルーが入ったんだ」

「あん時はスレインが大変だった時だな。こいつ、こう見えて正義感が強くてよ、報酬のことで揉めてたシアの組に一人で突っ込んでいってなぁ。あん時は参ったぜ」

「結果的にシアが中に入ったからよかったじゃないか」

「そうだな。あれから大分楽になったからな。大変だったけどよ」

「もう散々謝ったから何も言わねぇぞ」

「あはは」


 そんなことを話しながら、馬車が進んでいく。


「そろそろ一度休憩します」


 御者をしているミレナさんがこちらを振り返る。


「わかりました。何か手伝えることはありますか?」

「ありがとうございます。それでは、その桶に水を汲んできていただけませんか?もう少し行けば休憩場所になります。その向こうに小さな川があるはずですので」

「わかりました」

「私も行きます」


 僕が手伝いを申し出ると、ニーナも一緒に手伝ってくれることになった。ミレナさんが言っていた大き目の桶は、中にいろいろなものが詰め込まれていたので取り出しておく。

 それから十五分くらい進んだら街道沿いにちょっと開けた場所についた。


「ここで暫く休憩しますね」

「それじゃあ僕とニーナで水を汲んでくるよ」

「わたしも行きたいです」

「いいよ、行こうか」


 エリシャも手伝うというので一緒に行くことになり、残りの人は火を熾したり馬の世話をすることになった。


「わたしもーリュウジさんとー行きたかったですー」

「気持ちはわかるが邪魔すんな、ルー」

「次の機会にでも手伝ってくださいね」

「わーい、絶対ですよー」


 ルータニアさんは、相変わらずだなぁ。と思ってたら、両腕に柔らかいものがくっついてきた。


「私たちがいるからルータニアさんは大丈夫ですよ」

「そうです。使徒様にはわたしたちがいますからね」


 僕の両隣からルータニアさんを威嚇するワンコが二人いた。とりあえず宥めておこう。


「二人ともそう威嚇するんじゃない。ルータニアさんが困ってるだろ?」

「ちょっとは困ればいいんですよ。使徒様は渡さないですよ」

「そうです!ルータニアさんにはライルさんがいるじゃないですか!」


 ニーナがライルを指さしてルータニアさんに噛みつく。ライルの方を見ると、


「んなっ!」


 ライルの顔が真っ赤になっていた。あれ?ライルってノルエラさんに言い寄られてなかったっけ?


「んー、ライルのことはーどうでもいいんですよー」

「うえっ」

「わたしはーリュウジさんがーいいですねー」

「うぐぐっ」

「それにー、ライルはーノルエラがーお似合いですー」


 これ以上話してるとライルのダメージが立ち直れないとこまでいっちゃいそうだ。ここはさっさと水汲みに行こう。


「ほら、二人とも水汲み行かないと」

「はい、行きましょう」

「お供します」


 帰ってきたら立ち直ってるといいなぁ、ライル。呆然と立ってるけど意識あるかな?

 

更新が安定してなくて申し訳ありません。

ちょっと環境が変わってしまったので暫くは不定期になってしまうと思います。

これからもよろしくお願いします。

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