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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百六十七話

「ええっ!王都に行くの?」

「はい。そのほうがリュウジさんたちの為になると思います」

「えー、どうしようか?」

「私は、行ってみたいですが、王都までは二か月くらいかかりますよ?」


 海底迷宮から帰ってきた僕たちは、暁の風と一緒に組合の窓口に向かった。そこでミレナさんに真珠の買取をお願いしたんだけど、僕たちが出した大きい真珠を見た瞬間、ミレナさんの目が怪しく輝いた。


「これはうちでは買い取れません。と言うかですね、こんなに大きな真珠は王都の競売に出さないといけません。今から手続きを行いますので暫くお待ちくださいね。普通の大きさの物は、こちらで買い取れます」


 ミレナさんが酒場の机を指してとってもいい笑顔になっている。


「わかりました。行こうか」


 もう、王都に行くことは決定したんだろうか。もしかして、ミレナさんの中では決定事項か?

 皆と空いている席に陣取り相談する。


「なんだか話が勝手に進んでいってる感があるけど、皆はどう思う?」


 ニーナは、行ってみたいだな。タニアは、


「あたしは行きたい。あの真珠が幾らになるかこの目で見たいじゃん」


 行きたいのね。ガルトは、


「お前が行くというなら行くぞ」


 どっちでもいいのか。エリシャは、


「王都に行ったら大神殿にも行きましょう。使徒様を紹介したいです」


 行きたいのね。まあ、エリシャは元々王都にいたんだから里帰りか。あとは僕か。


「ん-……二か月かぁ…」


 ニーナとタニアとエリシャが期待の籠った眼で見てくる。ガルトはリュックから水筒を取り出して飲んでいる。

 そういや、王都ってどこにあるんだ?ここから二か月かかるって馬車でか?そうなるとかなり遠いな。


「王都って、どこにあるんだ?」

「ぶっ、はぁー、リュウジそんなことも知らなかったかぁ」

「そうか、リュウジさんはこっちのことあまり知らないんでしたね」

「もう、一年以上経つのに、知っといてよ」

「面目ない。セトルの町とフルテームは分かるんだけどね。あとはさっぱり」

「使徒様、フルテームがここです」


 エリシャは、羊皮紙と羽ペンを出して地図を描き始めた。

 フルテームって半島の付け根にあるのか。フルテームの東側に伊豆半島みたいな形の半島があり、西側にはユーラシア大陸みたいな形の陸がある。半島の中ほどには以前、地図を描いた迷宮と村がある。それより先には村などはなく、山地と森が広がっているらしい。

 セトルの町は、フルテームから北東の方角にあり、間には山脈がある。ああ、山賊に襲われたところか。セトルの町からフルテームまで一週間くらいだったかな?


「この大陸側の山脈の向こう側は、スバル帝国ですね。この王国とは友好的な関係です。それで、王都はこのあたりになります。ここ大きな湖があって、そこからさらに北に行ったところですね」


 フルテームの街から北にかなり大きな湖があるらしい。その湖の南側まで馬車で一週間、そこからどちらを回るにしても、早くて一月半はかかるそうだ。

 この世界にも橋はあるけど、こんな大きな湖に掛けることが出来るほど技術が発達していない。

 魔法で出来ればいいんだろうけど、出来てないってことはそういうことなんだろう。

 

「この湖の湖畔には、宿場町がいくつかあります。街道もあるため、比較的安全に行くことができますよ」


 エリシャの話が丁度途切れたところで、ミレナさんが来た。


「お待たせしました。こちらは、普通の真珠の買取代金です」


 そう言ってミレナさんは、麻の小袋を机に置く。ジャラっと貨幣の音がした。この音だと、もしかして金貨だけか?


「え?こんなにですか?」


 中身をちらっと見たら、金貨が10枚以上入っているのが分かった。


「はい。真珠の大きさが普段扱う物ものよりも大きかったのでその価格になりました。暁の風の皆さんが持ち込まれた物も競売に賭けることになりましたよ」

「そうなんですか?じゃあ、一緒に行けますね」

「あれ?リュウジさん、王都に行くことは決定ですか?」

「そうだよ。なんだか嫌がってたじゃないか」

「いや、行くのはいいんだけど、ちょっと遠いかなって思ってさ。だって二か月もかかるんだろ?」

「使徒様、旅程が二か月ならちょっと遠いですが普通の範囲です」

「そうですね。私は今までセトルの町から出たことはなかったんですけど、行商している商人は半年程度かけて行程を回るそうですよ」


 ああ、そうか。この世界の基本的な移動方法は徒歩だ。馬を持っている人やお金を払える人は、馬車が選択できる。あと、街と街をつなぐ乗合馬車があるか。乗合馬車は乗り継がなきゃいけないから王都まで二か月では行けないそうだ。


「移動手段はどうすればいいんだ?」

「それならば、組合の馬車に護衛として同行できますよ。暁の風の皆さんにもこれから打診してみます。依頼ではないので依頼料は出ませんが、食事つきです。しかも街に寄る時は宿代も出ますよ」

「それは有難いな。どうする…って皆行く気だね。それじゃあミレナさん、よろしくお願いします」

「はい、承りました。こちらこそよろしくお願いします。ちなみに私も同行しますので、護衛の方も期待しています」


 ミレナさんは、ガルトの方を見て微笑む。分かりやすいなぁ。見た目が大きな二足歩行の猫だから微笑むと糸目になって大変可愛いらしい。

 ガルトは、ミレナさんに見つめられても照れることなく小さく頷いていた。ガルトって異性に興味がないのかな?あ、もしかしてすでに彼女がいるのかな?


「え?ミレナさんも行くんですか?」

「はい。基本的には手続きをした人が行くことになっています。今回は私ですね。大きな真珠を見たときは心が躍りましたよ。ありがとうございます」

「ああ、お礼ならライルに言って下さい。あいつが誘ってくれたんで」

「そうだったんですね。では暁の風の皆さんにもお礼を言っておきますね」

「いつ出発ですか?」

「はい、そのことですが、これから暁の風の皆さんとも調整しないといけませんので、また明日の午後に組合に来ていただけますか?」

「わかりました」

「おそらく一週間後になると思いますが、詳しいことはまた明日ということで、よろしくお願いします。それでは失礼します」

「お疲れ様でした」


 ミレナさんは、綺麗にお辞儀をして業務へ戻っていった。はぁー、出来る人って感じだなぁミレナさん。


「これからどうしますか?」

「そうだなぁ、まずは一度宿に帰ろうか。そこで報酬を分けよう」


 組合を出ようとしたところで、暁の風が入ってきた。


「おっ、リュウジたちじゃねぇか」

「ライルか。ミレナさんと話し合いに来たのか?」

「おう、そうだ」

「王都に行くのか?」

「勿論だ。お前らもそうだと思うが、この仕事は金が要るからな」


 確かに冒険者は、お金がいくらあっても足りないぐらいだ。装備品に食料や薬品類など挙げればきりがないくらいだ。しかもケチると全部自分に返ってくるから質が悪い。


「お前らは?」

「僕たちは終わって帰るとこだよ」

「そうか。あっ!お前ら今晩空いてるだろ?飯いこうぜ、おごるからよ」

「そりゃ有難い。どこにする?」

「あそこでいいだろ、魚のうまいとこ」

「ああ、いいね」

「んじゃ、日が落ちる前に集合だ」

「わかった」


 じゃあなと受付に歩いていくライルたち暁の風。僕たちも宿へ帰ろう。




「リュウジさん、今回の報酬は組資金にしていいと思います」


 今は宿に戻ってきて、男部屋で集まっている。


「え?いいの?結構あるよ?これ」

「いいんじゃない?王都に行けば競売でもっとでかいお金が入ってくるんでしょ?それをみんなで分ければいいんじゃない」

「うむ」

「けど、恐らくとんでもない値段になると思いますよ。しかも、出品される内容によっては王族も参加することがあるらしいです。今回の真珠が出されるとわかったら出てくると思いますよ」

「そうなんだ…王族かぁ…かかわると面倒くさそうだなぁ」

「いえ、今の王族の皆さんは温厚な方々ですよ。国王様にもお会いしたことはありますが、気さくな良い人でした」

「ええ?本当?王様って腹黒そうじゃない?」

「まあ、それは否定できませんが…表面上は気さくなお爺さんですよ」


 他の国と交渉したりしないといけない王族なんて、何考えてるかわからない人たちだと思うんだけどなぁ。王様と会ったことあるんだ。エリシャってすごい人なのか?いや、凄いのは知ってるけども。


「ま、まあ、一介の冒険者が王族と会うことなんてありませんよ」

「そうは言うけどさぁエリシャ、僕って使徒なんだよねぇ?」

「はっ、そうでした。神殿で枢機卿様に報告すると謁見になるかもしれません」

「うーん、行きたくなくなってきたぞ」

 

 間違いなく王族と関わることになりそうだなぁ。あー、うーん、まあ……うーん、いいか。


「どうします?リュウジさん。行くのやめますか?」

「ニーナ…いや、行くよ。今逃げてもいつかは関わることになりそうだからね」

「そう来なくっちゃ!」


 ということで僕たちは、王都に行くことになった。というか、行く気になったといったほうが正しいか。主に僕が。

 あとは、ライルに奢ってもらいに行くか。


「ちょっと早いけど、出かけるか?」

「いいですよ。あの店も久しぶりですね」

「そうだね、楽しみだな」

「金の皿亭ね。ライルもいいとこ選ぶじゃん」


 海鮮料理 金の皿亭についたら暁の風はもう店の前で待っていた。


「おう、来たか。入ろうぜ、席はとっておいたぞ」

「じゃあ、ご相伴にあずかりますか」


 やっぱりこの店は美味い。コース料理なんてないから、みんなで一杯頼んで騒いで楽しかったよ。



 翌日、昼過ぎに組合に行くと、すぐに僕たちを見つけたミレナさんが受付から出てきて会議室に案内してくれた。


「皆様、お越しいただきありがとうございます」

「こんにちは、ミレナさん。どうなりました?」

「はい、やはり準備に時間がかかるので一週間後ということになりました。よろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」


 出発は一週間後か。着くまでに約二か月。エリシャは、ああ言ってたけど、結構な長旅だぞ。気を引き締めておこう。

 



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