第百六十五話
1月の後半から2月にかけては、もう勘弁してくださいって言いたくなるぐらい忙しかったんです。
更新が滞ってしまって、大変申し訳ありませんでした。また、頑張りますので見捨てないでもらえると有難いです。
「痛たたた…」
昨夜の見張りは、みんな何事もなく終わったようだ。ニーナと交代して見張り終わったあと、平らなところを探し、外套を折り畳んでなるべく厚みを作って寝たんだけど、やっぱり体がバキバキになったよ。
寝てる間も何回か目が覚めちゃったから少し寝不足気味だ。
「おはようございます」
「おはよう」
真横で寝ていたニーナが目を覚まして僕に抱き着いてくる。
「大丈夫ですか?体痛いですよね」
「まあ、暫くすれば良くなるよ。でも、やっぱりマットは人数分欲しいな」
「街に帰ったら商業組合で聞いてみましょうか。そろそろ販売してそうですよね」
「そうだね。マーリさんやる気だったもんなぁ」
マーリさんは、僕とニーナが鉄級昇格試験の時に出会った商人だ。あれから随分と時間がたったなぁ。懐かしい。
「こらそこ。朝からいちゃいちゃしないの。リュウジは朝ごはんの準備よろしく」
「わかったよ。ほら、ニーナ離して」
「むぅ。もうちょっとぐらいいいじゃないですか。最近、ルータニアさん絡みでご無沙汰ですし…」
ニーナがぶつぶつと愚痴をつぶやき始めた。うーむ、今度宿に帰ったら可愛がってあげないと駄目か。
「うう、体が痛い?……あれ?わたし、マットで寝てない…?」
エリシャはマットから落ちて地面の上で丸くなって寝ていたようだ。そうか、エリシャにはマットなくてもいいかもな。
「わたしって、寝相悪かったんですね…」
「そうね。なかなかだよ」
横で寝ていたタニアはエリシャの寝相の被害にあったのか、朝起きた時には寝場所が変わってた。
まあ、エリシャのことは追々だな。すぐになんとか出来るわけじゃないしなぁ。今は、朝ご飯を食べてまた真珠集めをやるか。
「ニーナ、手伝って」
「はい!」
手伝ってとは言ったが、どうしよう。サンドイッチ作るのもなんだなぁ。出来合いのものがあったと思うんだけどな。と思いながらリュックに手を突っ込むと街で購入した串焼きやら丸パンやら野菜炒めみたいなものなどがたくさん脳裏に浮かんでくる。
結構買い溜めしてあるなぁ。それなら串焼きの肉と野菜炒めと丸パンでなんちゃってハンバーガーだな。マヨネーズとケチャップがないのが悔やまれる。
「ニーナ、このパンを横に半分に切って軽く焼いてくれる?」
「はい、わかりました」
リュックからテーブルを出し、パンと串焼き、野菜炒め、まな板や皿を並べる。ニーナにパンを任せて、串焼きの肉を串から外していく。
ニーナは、魔法で小さな火球を出して切ったパンを炙っていた。器用なことするなぁ。
「できましたよ」
「ありがとう」
味付けはせずに買ってきたままの味で大丈夫だろう。
僕は、ニーナがカリッと焼いてくれたパンの下半分を並べてその上に野菜炒めを少し乗せ、串から外した肉を並べ、その上に野菜炒めを多めに載せて上半分のパンで挟む。
「はい、完成。一人一個だけど大きいから足りるよね?」
「わぁ、変わったさんどいっちですね」
「これはハンバーガーっていうんだよ。僕の世界では手軽な料理だったんだ」
「はんばあがあ、ですか」
「ハンバーガーね。ほんとはキュウリの酢漬けとかマヨネーズとかを入れたりするんだけど今は持ってないから、似たようなものだけどね」
「これはこれで美味いよ。名前なんてどうでもいいんじゃない?美味しけりゃさ」
「そうです。これは使徒様が考えた食べ物として教会で広めましょう!」
「やめてくれエリシャ。それはちょっと恥ずかしいし、これ、僕が考えた料理じゃないからね」
この世界にだってこれくらいのことを考える人はいるはずだから、どこかの町や村で食べてる人はいるだろう。僕のほかにもこっちに来てる人はいるからね。
「ご馳走様でした!さあ、探索に行くよ!」
「美味しかったです、ありがとうございますリュウジさん」
「どういたしまして。意外と美味しかったね」
「使徒様が作ってくださるものならば、わたしはどんな物でも頂きます!」
「最近エリシャの思いが重いんだけど…」
出したものを片付けて探索を再開しよう。今日も頑張ろう。
三階層の探索は、順調に進んでいった。途中で蟹が出たときなんかは、タニアとニーナが張り切って倒していた。大口貝のほうはなかなか出会えずにいる。まだ始めたばかりだが、魔物の数が少ないような気がする。
「なんだか…うーん、迷宮の雰囲気がおかしい?」
「どうした?タニア」
先頭を歩いているタニアが首を傾げながら何か呟いているのが聞こえてきた。
「うん、なんとなくだけど、昨日と比べて…なんて言ったらいいのかなぁ?ピリピリした感じがする…ような気がする」
「そうなんですか?私には変わったところはないように見えますが…」
「俺も同感だ」
「ガルトもか…エリシャは、わかんないのね。ああ、大丈夫僕もわかんないから」
僕が顔を向けるとエリシャは首を振っていた。冒険者の経験が豊富な人だけが感じるんだろうか。
だけどタニアとガルトの二人が何かありそうって言うなら何かあるんだろう。
「これからは警戒をもっと強めよう。タニアよろしくね」
「任せときなって。あたしだけじゃなくてガルトも同じように感じたならきっと何かがあるはずだよ」
「俺もそう思う」
「ライルたちは無事だろうか」
「一度合流したいですね」
「そうだね」
何かあって僕たちだけで対処出来ればいいんだけど、人数は多いほうがいいから、ライルたちと合流出来たらそっちのほうが都合がいい。きっと向こうもスレインとが気が付いてるはず。とれる行動は同じはずだから探してると思うんだよね。ライルが考え無しじゃなければだけど…
「そうしたら、二階層に行く階段のところまで戻るよ」
「わかった」
ニーナに明かりを作り出してもらい、タニアとエリシャとガルトに明かり役をお願いして進んでいく。
ニーナとエリシャで地図をかいてもらっていたからそれを頼りにするのかと思ったら、タニアはそれを見なくても頭の中でマッピング出来ているらしく、どんどん進んでいく。
僕たちはそれについていくだけ。ニーナとエリシャは、描いた地図を確認しながらなので付いていくのが大変そうだ。
「暁の、見つけたよ」
「流石タニア」
「先行してくる。そのまま進んできて」
「わかった」
振り向いて喋ったと思ったら、タニアが持ってる明かりがすぐに見えなくなってしまった。角を曲がったのか?なんでそんなに遠くからわかるの?
ニーナに地図を見せて貰ったら、確かに曲がり角があった。その先は小部屋になっているみたいだ。暁の風の皆は、そこにいるんだろう。
「あー、いたいた」
「暁の風の皆さんですね。あ、タニアさんがいますよ」
その小部屋は行き止まりだったので暁の風は、そこで休憩していたみたいだ。部屋の端っこでシアさんとルータニアさんがマントに包まっている。
「おう、リュウジ達も来たか。タニアから聞いたが、なんか変な感じがするんだって?」
「僕にはわかんないけど、そうらしいよ。ガルトも感じるって言ってるし。スレインは何も感じてないの?」
「ああ」
ライルたちは火を使っていないが、魔道具のランプを使って明かりを灯している。そうだ、ランタンがあったな。ニーナの魔法のほうが明るかったから忘れてた。
「お前らの組の二人を疑うわけじゃねぇが、ほんとに何かあるんか?」
まあ、ライルの言うことも尤もだな。でも僕はタニアとガルトを信じる。
「タニア、今はどう?」
「んー…今はいいかな?さっきは間違いなく嫌な感じだったんだ」
「確かに今はどうということはないな」
「そうなんだ。どうする?今回の探索はここまでにするか?」
ライル達じゃなくて自分のパーティメンバーに聞く。暁の風の皆とは一緒に来たけど、行動を共にはしてないからな。引き上げる判断もそれぞれでいいだろう。
「あたしはそれがいいと思うな。暁の風には悪いけど、あたしたちは帰ることにするよ」
「俺らは別にいいが…んー、どうする?」
ライルは、起きているガウラスとスレインに話を振る。
「俺は、どっちでもいい。ライルに任せる」
「うーん、タニアさんの勘を無下にするわけにはいきませんね。俺は、撤退するほうで」
「そうか…わかった。シアとルーが起きたら改めて考えてみっか。情報ありがとよ」
「うん。まあ、なんの確証もないんだけど、経験豊富な二人が何だか怪しいって言うからな。参考になればいいな程度だよ」
「おう、俺らも気を付けるわ」
冒険者は、命あっても物種だ。だからこういう些細な感覚を大事にする。時には無理をしなくちゃいけない時もあるけど、基本的には、君子危うきに近寄らずなほうがいい。
タニアが帰ると言うなら異論はない。ライルたち暁の風も実績のある冒険者だから、そんなことは言われなくてもわかっているだろう。
「ニーナ、最短で出口まで行ける道を選んで行こう」
「わかりました。えーと…」
早速自分で描いた地図とにらめっこしながら、タニアに相談しに行った。
「使徒様、暁の風の皆さんの傷を治してもいいですか?」
「ん?いいよ」
「そりゃ、ありがてぇが、いいのか?」
「わたしの神聖力を使い切っても、使徒様がいますからね。使徒様の神聖力は、少なくともわたしの数十倍はありますからこの迷宮を出るまでなら何ら問題はありません」
「お、おお…すげぇな…」
エリシャは耳をぴんと立て、胸を張ってどや顔だ。でも、神聖力は多くても使える魔法がまだ治癒と解毒の二種類だけだからな。障壁が張れるエリシャのほうが凄いぞ。
「では早速、我が信仰する女神アユーミルよ、その名において彼ものを癒したまえ、治癒」
エリシャが聖句を唱えるとライルの体が光に包まれ、傷が治っていく。いつ見ても不思議な光景だなぁ。
「はい次」
そう言いながら、ガウラス、シアさんと治療していく。
「骨折とかは無さそうなので、外傷だけ治しました。スレインさんとルータニアさんは傷を負ってないんですよね?」
「そうです。ありがとうございます、司祭様」
「どういたしまして。あなたたちが無事に帰ってくることを祈っています。使徒様を悲しませないでくださいね」
スレインがエリシャの前で両膝をついて頭を垂れるとエリシャは胸の前で複雑な形で手を組み、最後に十字を切る。この世界の祈りの形なのだろうか。初めて見たな。
最後のエリシャの微笑は、なんだか迫力があったなぁ。
「さあ、使徒様、我々も出発しましょう」
「あ、ああ。じゃ、タニアよろしく」
「あいよー」
「無理するなよ、またな」
「ああ、わかってる。ありがとな」
ライルと握手して別れる。何事も無ければいいけど。
帰り道でも蟹と大口貝を見つけ次第倒して、貝柱と蟹足を拾っていく。残念ながら真珠は出なかったが、蟹足と貝柱はニーナたちが満面の笑顔になるくらい拾うことができたので、今回の迷宮探索は大成功だったんじゃないだろうか。
あとは、暁の風が無事帰ってくることを祈るばかりだ。




