第百五十九話
いつも誤字脱字報告ありがとうございます!大変ありがたいです。もう本当に大変ありがたいです。
ないのが一番いいんですけどね。読み返してもどうしても目が滑ります。
では、今回も楽しんでいただければ幸せです。
宴会がお開きになって、酔いつぶれたニーナとエリシャを僕とガルトで宿まで背負って運び、自分とガルトに浄化の魔法をかけてベッドに潜り込んだ。
疲れていたからかすぐに寝入ったんだろう、気が付いたら窓から差し込む日の光で目が覚めた。
「おはよう」
「おはよう、早いね」
「ああ、寝起きはいいんだ」
ガルトはもう着替えてベッドに座っている。僕も起きて顔を洗ってくるか。
昨日飲んだとはいえ、二日酔いになるほどは飲んでない。ちょっと体が重いかなっていう程度だ。これくらいならすぐに元に戻るだろう。
「顔洗うわ。ガルトはどうする?」
「俺ももらっていいか?」
「もちろん」
洗面桶に生活魔法で水を出して二人で顔を洗う。あー、手に髭の感触があるなぁ。剃るか。
この世界に来た時に髭とか薄くしてくださいってアユーミル様にお願いしたからかなり良い感じになった。昔は毎朝剃ってたからなぁ。
だからといって生えてくるものはどうしようもない。
顔を拭ってリュックから折り畳みのナイフを取り出す。柄が木で出来ている有名なナイフだ。
なるべく刃を寝かせて滑らせるように剃っていく。最初にやったときは怖かったし血だらけになったけど、さすがにもう慣れた。ただ石鹸とかシェービングフォームみたいな滑りをよくする何かがあるといいんだけどな。ほかの人はどうやってるんだろ?一度探してみるかね。
「リュウジさん、起きてますか?」
「ん?ああ、起きてるから入ってもいいよ」
「失礼します」
ノックの音と同時にニーナの声がした。入ってきたニーナは、なんだか申し訳なさそう?
「どうしたの?」
「昨日はご迷惑をおかけしました。私、途中から記憶がなくて…」
「あー…とっても可愛かったから気にしなくてもいいよ」
「そ、そうですか…」
両手で顔を覆い隠してもわかるくらい真っ赤になってるな。
「ご飯は食べた?」
「あ、いえ、それを誘いに来たんです。一緒に行きましょう」
「よーし、行こうか」
「はい!」
ガルトも誘って下に降りていくと食堂ではタニアとエリシャが席を取ってくれていた。
「おはようございます、使徒様。昨日はありがとうございました」
「モテモテだったね!リュウジ」
エリシャは立ち上がって頭を下げている。タニアはニコニコで揶揄う気満々だな。
「でさ、ルータニアさんどうするの?うちに入れるの?」
「聞いてたのか、何とか断ったよ。でもまだ諦めてはいないみたいだったよ」
「いいじゃん入りたいっていうんだから入ってもらえば。リュウジだって嬉しいでしょ?ルータニアさん美人だよ?」
タニアは手でボンキュッボンを作り出す。断ったのはそっちの問題じゃないんだ。いや間違ってはいないけどさ…
「駄目です!」
「ニーナには関係な…あるか」
「わたしもいます!」
ニーナとエリシャが両腕にくっついてくる。二人とも鼻息が荒いな。落ち着け。
「冗談はこれくらいにして、まじめな話、ルータニアさんが仲間に入ってくれればかなりの戦力になるよ。あの人水魔法が得意でしょ?」
「確かにそうなんだけど…そうなるとライルたちが困ると思うんだよ」
ライルのパーティは確か、ライルとガウラス、シアさんが戦士系でスレインが狩人、ルータニアさんが魔法使いの五人パーティだ。ルータニアさんが抜けると物理攻撃ばかりのパーティになってしまう。
「うーん、そっかぁ……あー、確かに」
「それにうちにはニーナとエリシャがいるからな」
「えへへ」
「不死人なら任せてください」
「まあ、ルータニアさんがどうしてもって言うなら考えるけどね。でもライル達も引き留めるよな」
「リュウジにその気がないことは分かった。あたしだって無理に引き抜くのが良くないことは分かってる」
「はい、待たせたね」
「お、ありがとうございます」
給仕のお姉さんが朝食をワゴンに載せて持ってきてくれた。メニューは、大きな硬いパンと野菜の切れ端ばかりで具沢山とは言えないが旨味の濃いスープだ。
「さあ、食べよう。いただきます」
「いただきまーす」
暫く無言な空間が出来上がる。お酒飲むと次の日お腹空くからなぁ。
タニアは結構早食いだなぁ。ニーナとガルトはのんびり味わって食べる派か。エリシャは流石司祭なだけあって上品に食べている。僕は美味しく食べられれば、食べ方はそこまで気にしない。
「ご馳走様でした。あー美味しかった」
タニアがいい笑顔で手を合わせる。確かに美味しかった。硬いパンも顎が疲れるけど味はいいんだよな。
「みんな今日はどうするの?なんか予定ある?」
「今日は特に決めてないなぁ」
「私もです。じゃあリュウジさんお出かけしませんか?」
「あ!わたしも一緒に行きたいです。ニーナさんいいですか?」
エリシャが手を挙げて参加を希望すると、ニーナの表情が一瞬むっとなったがすぐに戻る。二人だけで出かけたかったんだろうな。
「仕方ないですね」
僕に拒否権はなさそうだ。拒否するつもりもないけどね。今日は三人で街を散策しよう。
「ガルトは?」
「特にない」
「タニアは?」
「あたし?あたしもリュウジたちについていこうかな?いい?ニーナ」
「いいですよ。二人も三人も変わりませんからね」
「じゃ、そういうことで。あ、ガルトも行く?」
「俺はいい」
みんな予定はなかったんだね。このまま出発かな?
「私、一度部屋に戻って着替えてきますね」
「わたしも」
「あたしはこのままでいいや」
「僕もここで待ってるね」
「急いで行ってきます。行きましょうエリシャさん」
「はぃひゃぁぁぁぁ」
言うが早いかエリシャの手を引いて部屋に戻って行くニーナ。エリシャを引き摺っていったよ。ニーナもいつの間にか力が強くなったなぁ。
あっけにとられながらタニアと出入り口の前で待っていると五分くらいで二人が戻ってきた。
「お待たせしました。行きましょう!」
「はわぁー、目が回りますぅ」
「早かったね」
「頑張りました!」
「頑張らされました」
ニーナが着てきたのは、クリーム色のワンピースに薄いカーディガンみたいな服で、エリシャは飾りの少ない簡素な神官服かな?ニーナはわかるけど、エリシャはどうなんだろう?普通にお出かけするときに仕事の服って…ああ、あれが普段着なのか。そうか、司祭だもんな。
「エリシャ、服買いに行こうか。獣人用の服ってこの街に売ってるのかな?」
「いいですね!私も可愛いとは思うんですが、仕事着ですからね。この街に詳しいタニアさんなら知ってますよね?」
僕は何気なくエリシャの頭をなでると、両耳をぺたんと寝かせ、ちょっと恥ずかしそうに俯いてしまった。ニーナは、期待した目でタニアに話を振る。
「うーん、あったかなぁ?…………あっ!あそこにあった!」
この世界というか、この国では獣人などの亜人系の差別は全くない。それどころかちゃんと長所を生かして生活や仕事ができるようになっている感じがする。ほかの国だと差別が酷いところとかあるんだろうか?
タニアが先頭で出発する。ニーナとエリシャは僕の両側を歩いている。ニーナはニコニコで、エリシャは真面目な顔をしているが、頬が赤くなり、くるんと丸まった茶色い尻尾が左右に凄い勢いで振られている。相当嬉しいんだなぁ。
「確かここだよ。普通の服屋さんだけど獣人用もあったはず」
「可愛いお店ですね」
「僕は入るのにちょっと勇気がいるなぁ」
「使徒様なら問題ありませんよ」
その店は、タニアに案内されて十分ほど歩き、大通りから一本入ったところにあった。ニーナが言った通り可愛い外観の服飾店だった。
この世界の服は古着が主だけど、新品の服を売っている店も数は少ないがある。そういう店は値段が高いことが普通だ。値段のことはわからないが、この店はその数少ない内の一つみたいだな。
入口の横には珍しくショーウィンドウがあり、飾ってある服は高級そうなドレスだ。値札は見当たらない、高級店なのか?
「高そうなお店ですね」
「そう思うでしょ?なか入ると吃驚するよ」
タニアが扉を開けるとカランカランとベルが鳴る。珍しいな。
「いらっしゃいませ~」
出迎えてくれたのは、若そうな女の人だ。ただし服装が凄い。黄色いフリフリがたくさんついたメイド服みたいだ。黄色いといったが目が痛くなりそうな蛍光色だ。あの色ってここにもあったんだな。どうやって染めたんだろう?
「おはようございます。初来店ですか?」
「はいそうです」
「そうですか。それではちょっと説明しますね。当店は、新品の服と古着を扱っています。この辺りにあるのは古着ですが、すべて程度の良いものとなっています。新品の服は店の奥にあります。ご自由に手に取って選んでください。試着もできますよ。私に声をかけてくださいね。では、どうぞごゆっくりご覧になってください」
店員さんが一礼して店の奥の方へ引っ込んでいった。うーん中々凄いインパクトだったなぁ。
「リュ、リュウジさん、服と値札見てください。私、こんなに上等な古着なんて初めて見ました。これ古着ですか?しかも、なんでこんなに安いんですか?この装飾の服が大銅貨二枚なんて……信じられません」
ニーナが手に取って驚いていたのは、前合わせのボタン部分にひらひらの装飾がついている白いブラウスだ。こんな白いのに古着なのか?
「獣人用の古着もこんなにあるんですか…あ、これ可愛いですね」
「これも見てください!こんなに可愛いのもあります!」
ニーナもエリシャも服を手に取りながらとても嬉しそうだ。女の子はどこの世界でも買い物は楽しんだねぇ。
「んー、この店のはあたしには可愛すぎるな。もうちょっと動きやすいのはないのかな」
「タニアも可愛いんだから一着くらい買ったら?」
「えー、いいよ。趣味じゃないし。それにあたし、可愛くないし」
「そんなことないと思うけどなぁ。あ、これなんか似合うんじゃない?」
僕が選んだのは、デニムっぽい生地のパンツだ。ちょっと分厚くて丈夫そう。タニアはよく動くからな、上はTシャツみたいなのが似合うと思うんだ。
「どれ?……リュウジにしてはまともな選択じゃん。動きやすそうでいいね」
「あー!タニアさんだけずるい!私もリュウジさんに選んで欲しいです!」
「使徒様、わたしも、お願いしてもいいですか?」
タニアに選んだのがばれてしまった。二人に似合う服かぁ。難しいなぁ。でも、ニーナはいい。ニーナの好みは何となくわかるから、僕の選んだ物ならきっと喜んでくれるだろう。エリシャの好みはよくわからんからなぁ。どんな感じのが好きなんだろう?
二人に可愛くお願いされたんで、断るわけにはいかないな。全力を尽くそう。
「わかった。ちょっと待ってて探してくるよ」
「待ってます!」
「お願いします」
たくさんの服が、全部が木でできたハンガーみたいなものにかけて並んでいる。上の服も下の服もだ。
この中から選ぶのか…よし、まずはニーナの服から選んでいこう。
掛けられた服を見ていく。色はクリーム色か淡い青色が好きだな。普段着として使うから…これがいいか。選んだのは、淡い青色のワンピースタイプ。胸元に飾りで長めのリボンがついていて、ウエストも背中側で搾れるようになっている。ニーナの髪色に合いそうだ。
エリシャは、どうしようかな?獣人用の服が置いてあるスペースで服を眺める。獣人用の服はあんまり数がないな。ああ、古着だから数が少ないのか。うーん、エリシャは神官、だけど女の子、髪色は明るい茶色で耳の前は白色だ。ほんとに赤柴と同じだなぁ。うちで飼ってた柴犬と同じだ。うーん、エリシャには何が似合う?うちで飼ってた犬に着せていたのは、確か赤い服だったなぁ。赤か、うんいいね。赤にしよう。そしたらこれだな。赤というよりは薄い朱色で木の実みたいな変わったボタンのあるシャツと黒っぽい膝丈のスカートがいいかな。
「ニーナにはこれがいいかな。似合うと思うよ。エリシャにはこれ。」
「ありがとうございます!早速試着してみますね!」
「ありがとうございます。…これが使徒様の選んでくれた服……」
すっごいいい笑顔のニーナと渡した服を胸にギュッと抱いてにやにやしているエリシャ。まあ、喜んでくれたようで何よりかな?
試着室から出てきたニーナとエリシャは二人ともいい笑顔で、とてもよく似合ってたよ。僕の見立ても問題なくてほっとしたよ。




