第百四十七話
お待たせしました。
更新再開します。
「きゃっ」
ガルトを除いた皆でトイレまでやってきた。今はニーナが中で使っているはずだ。
「んん……ふわぁぁ」
「ど、どう?ニーナ」
「どんな感じなんですか?ニーナさん」
出てきたニーナは、とても良い笑顔だった。
「リュウジさん!これはとても良い物です!私は毎回使いたいです」
「そんなに?」
「わたしも使ってみたいです!次、いいですか?」
「どうぞ」
エリシャが尻尾を振りながらトイレに入っていった。
「わわっ、わうっ…………わふぅぅ」
トイレにわんわんがおる。普段は普通に喋ってるけど驚くと出ちゃうのかな?
「使徒様、これは素晴らしいものです!わたしも使いたいです」
出てきたエリシャは、顔が緩んでいた。
「あ、あたしも!あたしもやってみる!」
エリシャを押し退けて中に入るタニア。
「使徒様、使徒様の世界にはほかにもあんな素晴らしい道具があるんですか?」
「んー、僕がいた世界は魔法がなかったからね。いろんな道具や機械もあったね」
「機械?」
「ああ、こっちで言う魔道具だよ。僕はこっちの魔道具のほうが面白いと思うな」
そんな話をしていたらタニアが出てきた。なんだ?顔が赤いぞ?
「どうでした?タニアさん」
「あたしは…いいや。いや、時々使うかもしれない」
タニアはそう言うと寝室に行ってしまった。どうしたんだろう?
「なんか変だったね。後で様子見といてくれる?ニーナ」
「はい、いいですよ。でも、どうしたんでしょうね、タニアさん」
女性陣には概ね好評だったな。僕も使うからここに置いておこう。
「魔石一つでどれくらい動くんだろう?二人とも動かなくなったら教えてね」
「わかりました」
「はい」
「見て回っただけなのに、なんだか時間がかかったね」
「リュウジさんの道具のせいですね」
「ごめんね。もう暗くなってきてるな。明かりとか準備しなきゃいけないし、夕食も作らないと」
「私も手伝いますよ」
ニーナとエリシャに手伝って貰って、楽しい夕食だった。ガルトはそれまで外で素振りをしていた。僕も見習わなきゃいけないな。タニアは普通に戻ってた、よかった。
まだ暗いけど目が覚めたら右手が重い。しかも、柔らかくて温かくて良い匂いがする。右側を見ると、金色の物体がある。
なんと、僕の右腕を抱きしめてニーナが寝ていた。
「うわっ!」
慌てて手で口を塞ぐ。ガルトのベッドを見ると壁のほうを向いて寝ている。
「ニーナ、ニーナ、起きて」
いつ潜り込んだんだろう。全然分からなかった。寝込みを襲われるなんて冒険者失格じゃないか?これ。
「うぅーん……あ。おはようございます、リュウジさん」
「うん、おはよう。じゃなくてね、なんでニーナが僕のベッドで一緒に寝てるの?」
「はい、夜中に忍び込んじゃいました」
「よくガルトに気づかれなかったね」
「え?気が付いてましたよ。私が扉を開けたらこっちを見てましたから」
ガルト、気が付いてたなら止めてくれればよかったのに…
「そうか…このままじゃまずいから、ニーナは自分の部屋に帰ってくれる?」
「ええー?このままでもいいじゃないですか」
「タニアとエリシャに知られたらまずくないか?」
「それなら大丈夫です。二人とも知ってますから」
「え?知ってんの?」
「はい」
にっこり笑うニーナ。知らなかったのは僕だけ?
「じゃあいいか。もうちょっと寝る?」
「はい!」
日が昇るまでニーナを腕枕しながら二度寝した。うーん、だんだんニーナが強かになってきた気がするなぁ。甘えてくれるのは嬉しいけどね。
「リュウジさん、起きてください。朝ですよ」
起こされて目を覚ますと目の前にニーナの綺麗な瞳と目が合った。どうやら抱き合って寝ていたらしい。
「おはよう、ニーナ。よく眠れた?」
「はい。リュウジさんはどうでしたか?」
「すっきり目が覚めたよ。ありがとう」
「うふふ」
「どうしたの?」
「リュウジさんの寝顔が可愛かったなぁって」
「そうか…なんだか恥ずかしいな。さあ、名残惜しいけどベッドから出ますか」
「そうですね。お腹も空きましたし、今日は何しましょうか」
休暇はあと二日間ある。ほんと、何しよう?
「とりあえず、朝ご飯作ろうか、手伝ってくれる?」
「はい!」
タニアは僕とニーナを見て、にやにやしながら、エリシャは目をキラキラさせながら「わたしも使徒様の寵愛が欲しいです」などと言いながら賑やかに朝食を済ませ、今日の予定を立てる。
「あたしは、ちょっと情報収集してくるね」
「わたしは、神聖魔法の訓練をします」
「俺も鍛錬だ」
タニアはニーナにウィンクしていた。されたニーナは顔が真っ赤だ。
「僕は、村を散策してみるかな」
「私も一緒に行きたいです。いいですか?」
「ただの散歩だよ?それでもいい?」
「はい」
予定が立つとそれぞれ動き出す。僕はニーナと散歩だな。
「よし、腹ごなしにゆっくり歩こうか」
「はい!行きましょう」
途中でタニアと出会って三人で一緒に散歩したんだけど、思い切り揶揄われたよ。
まあ、当然ながらイベントなど何もなく、二日間がすぎる。
簡易シャワーの魔道具は、魔石の魔力は切れることなく使えている。一回に使う時間が短いからかな?あ、ガルトも使って気にいったみたいだ。
「それじゃあ、お世話になりました」
「いやいや、あんた達みたいな冒険者なら大歓迎じゃよ。またなんかあったら頼むからの」
「はい、その時は任せてください」
村を出てフルテームへ向けて出発する。行きと違って帰りは徒歩だ。
「歩きだとどのくらいかかるんだっけ?」
「ん~、七日はかかんないと思うよ。何事もなければね」
「何事もないことを祈りましょう」
「そうですね。エリシャさんもいるので怪我をしても安心ですね」
「任せてください。よほどの大怪我じゃなければ治せますから」
フルテームまでは一本道だ。みんなでひたすら歩いていく。
結局五日歩いて何事もなくフルテームに着いた。
「やーっと着いたぁ。リュウジ、早く報告して宿に行こうよ」
「そうですね。私も疲れて足が痛いです」
「組合には僕とエリシャで行ってくるから、ニーナたちは宿に行って部屋取っといてくれる?」
「わかりました。ではまたあとで」
ニーナたちと別れて僕とエリシャは組合へ。中に入って受付を見ると人波の向こうに忙しなく動く猫耳が見える。
ミレナさんだ。暫く並んで順番が回ってきた。相変わらず人気がある。
「ミレナさん、ただいま帰りました。はいこれが描いた地図です」
依頼票と迷宮の地図を一緒に渡す。
「あ、お帰りなさい……はい、承りました。え?こんなところまで行ったんですか?」
「え?何か問題ありましたか?」
「いえ、わかりました。お待ちください、処理してきます」
「あ、あと新しく仲間になったエリシャの登録をお願いします」
「あら、あの神官さんですか、よかったですね。わかりました。そちらもやっておきます。でもそろそろ組名をつけてくださいね。いつまでもリュウジさんの組では呼びにくいですから。お願いしますね」
ミレナさんにちょっと怖い笑顔で言われてしまった。猫の顔だけどはっきりそれとわかる迫力があった。
パーティ名なぁ…考えてはいるけど…うーん。みんなと相談してみるか。うん、そうしよう。
「どうしました?リュウジさん。難しい顔してますよ?」
「うん。組の名前を決めないといけなくてさ、前から言われてたんだけど、いいのが思い浮かばなくてね。エリシャも入ってくれたし、そろそろね。宿に行ったらみんなと相談しようかなって考えてたんだ。と言うことでエリシャも何か考えといてね」
「ええ?わたしはいいですよ。皆さんが決めたのならそれでいいです」
「そっか、そうだね。入ったばっかりじゃ気が引けるか」
「はい」
そんな話をしていたらミレナさんが戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが報酬です。五階層まででしたので金貨二十枚になります」
「そんなに!?」
「はい。こちらの地図ですが、各階層ほぼすべて記載されていますし、罠や安全地帯なども記載されています。このように詳しく描かれているものは中々提出されませんのでこの値段です」
「そうなんだ…他の人たちはどんな地図を描いてくるんだ?」
「この依頼でしたら、大まかなものがほとんどですね。中には次の階層への階段も記入していないものもあります。しかも三階層分もあれば御の字ですね」
迷宮で詳細な地図がなかったら大変じゃないかな?自分たちだけで共有するならわかるけど、依頼だったら出来るだけわかりやすく詳細に。が基本だと思うんだけどなぁ。
「……そうなんですね。わかりました、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとうございます。またこの種類の依頼があったらよろしくお願いしますね」
とてもいい笑顔のミレナさん。でも報酬はいいかもしれないけど、もう一回やるのはちょっと考えるかな。面倒臭いしなぁ。
「いやぁ、考えときます。それでは」
「はい、ありがとうございました」
組合を出て宿に向かって歩き出す。と、隣にいたエリシャがちょっと後ろに下がってついてくる。
「エリシャ、なんで下がってついてくるの?」
「いえ、なんとなくリュウジさんは、使徒様だったことを思い出しまして」
「いやいや、そんなことは気にしなくてもいいから。喋りにくいし」
「そうですか?…では」
エリシャが隣に並ぶと視界の端に柴犬のようなまっすぐ前を向いた凛々しい三角耳がちらつく。
いかん。無性に触りたくなってきた。実際の柴犬の耳は短い毛で覆われていて非常に触り心地が良い。エリシャの耳も同じ感じだ。さすがに意思疎通ができて、しかも女の子の耳を許可なく触ることは出来ない。
「エリシャ、僕も神聖魔法が使えるようになったんだよね?治癒は使えるようになったけど、ほかの魔法はどうやったら使えるの?」
「普通の神官は、毎日神殿で神に祈りを捧げていると、ある時突然頭の中に神聖句が浮かんできます。リュウジさんのようにあの書物が読むことができる人は、読めばほぼすべての神聖魔法が使えるようになりますよ」
「あれか。わかった。暇なときに読んでみるよ。ありがとう」
「いえいえ」
やっぱり耳が気になるなぁ。ダメもとで聞いてみようかな。
「ねぇエリシャ、耳触ってもいい?」
「えっ…い、いいです、よ?使徒様なら…」
そう言うエリシャの顔は赤くなっている。やっぱり恥ずかしいのかな?申し訳ないことしたかなぁ。なんか立場に任せて無理やりな感じがするな。いや、気にしないことにしよう、後ろめたいが…
「それじゃあ」
プルプル小刻みに震えている犬耳をそっと触る。
「ん、んん」
指先で犬耳を優しく撫でる。根元から先へ向かって撫でると短い毛がふわふわで気持ちいい。
「ひゃっ、あ、あぁ…」
エリシャから変な声がした。周りの目が気になるからやめておこう。顔が真っ赤だし、小刻みに震えだしてる。なんだか大変危ないことをしている気がしてきた。
「ごめん、ありがとうエリシャ。ふわふわで気持ち良かったよ」
「あ…い、いえ、すいません、耳は敏感なので…あ、あの、わたしも優しく触って貰えて気持ちよかったです」
「そ、そうか。とにかく宿へいこうか」
「はい」
そこから宿へ行く間、エリシャはずっと僕の真後ろを歩いていた。そんなに恥ずかしかったのか。悪いことしたなぁ。また今度何かお詫びしよう。
手術も終わってやっと書けるようになりました。
片方使えないと不便ですね。




