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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百四十四話

「はあ、はあ、まだ出て来るのか…」


「いつまで出てくるんでしょう?」


 あれから三十分くらい経っただろうか。ひたすら骸骨を倒して、倒して。


「出てくる数が大分少なくなって来たからもうすぐ終わるよ。しっかりしな!」


 タニアの叱咤が飛ぶ。彼女も肩で息をしてるから相当疲れてるな。


 ガルトも僕も汗だくになっている。だんだん剣の重さで腕が上がらなくなってきた。ガルトも戦斧を振る速度がかなり遅くなっている。


 皆、幸いなことに傷はほとんどない。もうちょっと頑張れば切り抜けられるか。


「よし!もうちょっとだ!頑張ろう!」


「おう!」


「頑張ってください!」


 ガルトから力強い返事が返ってきた。ニーナとエリシャの二人はまだ余裕がありそうだ。タニアも力を振り絞って剣を構えている。


 骸骨は魔石を壊せば消えて無くなるから足場が悪くなることはない。ないんだけど、全部なくなっちゃうから得る物も無い。残るのは疲労感だけ……空しい。この罠は恐ろしい罠だなぁ。


 ひたすら骸骨を倒してさらに十分ほど。やっと出てこなくなった。


「最後の一体…っと」


 僕の前にいた最後の骸骨を倒すと、全員がその場に座り込む。僕とタニアは寝転んで大の字になった。


「やっと終わった…」


「ふぅ」


「もう、手が上がんない。もう無理…何もやる気が起こんない…」


「皆さん、お疲れ様でした。浄化の魔法をかけますね」


 ニーナが一人ずつ魔法をかけてくれて、汗でぐっしょりだった肌着や髪がサラサラになる。


「ありがとう、ニーナ。すっきりしたよ」


「どういたしまして。リュウジさんたちが頑張ってくれたおかげで私とエリシャさんはそんなに疲れてないですからね」


「そうですね。回復も必要ないようでしたので神聖力もまだまだありますよ」


 力こぶを作るエリシャ。


「ん?神聖力ってなに?魔力じゃないの?」


 回復魔法も魔力を使ってるんじゃないのかな?


「リュウジ、後にしようよ。もう疲れたし」


「そうだね」



 暫くこの部屋で休憩を取ることになった。壁際に移動して各々水分補給や体を休める。その間の警戒は、ニーナとエリシャが担ってくれた。


「エリシャ、さっき神聖力って言ってたよね。魔力とは違うの?」


 今はニーナが警戒に当たってくれている。エリシャは僕の隣に座って尻尾をゆるゆると振っている。


「はい。わたしにもよくわからないのですが、魔力とは違うものだとされています。教会で教えていただいた話では、神聖力を持っている人は魔法を使うことができないか、使えても生活魔法までだそうです。そういう人たちの中で神を信じる度合いの高い人に稀に見つかるそうです。わたしも魔法は使えません」


 エリシャのことを信じないわけじゃないけど、後でニーナに見てもらおう。


「神聖力が使えるようになった人は、いずれも人格者ばかりだそうです。でも、一般的に悪いことと言われている行動をすると神聖魔法が使えなくなったそうです。それが神聖力が魔力とは異なると言われている所以です」


「へえー」


「今までに使えなくなった人は、何をやって使えなくなったんですか?」


 ニーナが僕を挟んでエリシャの反対側に座る。あれ?見張りは?


「えーと、教会内の権力闘争で卑劣な手段を使って相手を失脚させた人が使えなくなったそうです。あとは、教会の備品を盗んで売った人も使えなくなりましたね」


「突然使えなくなるんですか?」


 ああ、ガルトがやってくれてるのか。


「はい。ある日突然使えなくなるみたいです。まるで神様が見ているかのように、です」


 きっと見てるんだろうなぁ。あの女神様なら出来そうだ。


「じゃあ、神聖魔法が使える人は清廉潔白な人ってことだね」


「はい、そうなります。わたしも使えますので、まだ罪は犯していないということなのでしょう」


 そう言いながら胸元のペンダントを握りしめるエリシャ。


「そうなると、僕は使えないと思うなぁ。盗賊を殺してるからね」


 殺人は罪の中でも相当重いからなぁ。


「あ、盗賊は大丈夫です。町の人を傷つけたり殺してしまうと駄目ですが、犯罪者を討伐するのは当然のことなので大丈夫です」


 そうだった。世界が違えばルールも違う。犯罪者の討伐は当たり前に行われる。捕まえることができれば犯罪奴隷として買い取られることになるし、犯罪奴隷は抜け出すことができなくて一生奴隷のままだそうだ。


「そうなんですね。じゃあ、リュウジさんは大丈夫ですね、私が保証します」


「はは、ありがとうニーナ」


 笑顔で僕の腕に抱き着くニーナ。僕越しにエリシャを見てる?


「そろそろ出発する?それとも一回地上に戻る?」


「まだ五階層に下りる階段を見つけてないから、見つかったら一旦地上に戻ろうか」


 この迷宮は何階層まであるんだろう。ここまで来るのに三日くらいかな?時計がないから正確なことはわからないが、こういう暗くて湿度が高い環境は精神的にも体にも良くないな。


「ん、分かった。みんなそろそろ再開するよ」


 タニアが立ち上がり伸びをすると他の皆も準備を始める。僕も盾を左腕に装着して準備完了だ。


「地図からすると、すぐに見つかりそうだね。タニア、よろしく」


 書きかけの地図からすると四階層の三分の二くらいは埋まっているはずだ。


「ん!よし!もうちょっと頑張りますか!」


 


 もうちょっと頑張ってみたけど、まだ階段が見つからない。進む方向はタニアに任せてあるんだけど、ことごとく行き止まりで骸骨や腐肉人がいた。


「うがぁ!また行き止まり!もうやだぁ」


 タニアは、隠し扉があるかと部屋の中を調べるが、何もない。


「まあまあ、落ち着いてよタニア。焦れてもしょうがないさ」


「そうですね。こうなったら虱潰しですよ、タニアさん」


 出てくる魔物はすべて倒しているけど、ほんとに得るものがなくて徒労感が強い。


「もう行く先はリュウジが決めて!あたし決めるのもうやだ」


 タニアがいじけてしまった。


「わかったわかった。じゃあ次はあっちにしよう」


 タニアから右側にある扉に決める。


 罠がないか見てもらってから扉を開ける。


「あ、階段あった」


「ええっ!?」


 とびらを開けた先には短い通路があってその奥に下に降りる階段があった。地図に書き込んでおく。


「一回戻る?それともこのまま続ける?」


 さっきはああ言ったけど、もう一度皆の意見を聞いておこう。


「あたしはどっちでもいい」


「私もどちらでもいいです」


「わたしは一度戻りたいです。先ほどの聖書のこともありますから」


「俺もどっちでもいい」


 この迷宮があと何階層あるかわからないけど、もう少し頑張ってみようかな。


「よし。なんとなくキリもいいし、五階層を探索して一度戻ることにしようか。エリシャには申し訳ないけどそれでいい?」


「あ、わたしのことは気にしないでください。まだ役に立ってないですから」


「じゃあ早速五階層に行きましょう。また安全地帯があるといいですね」


「あたし、見てくるよ」


 タニアが小走りで階段を下りていく。


 僕たちは歩いて追いかけていく。あ、戻ってきた。


「下は安全地帯だったよ。ちょっと長めに休憩しようよ」


「そうだね。さっきの休憩じゃ全然疲れが抜けてないしね」


 ここまでの階層の階段下にはすべて安全地帯があった。探索する上ではかなり有難い。しっかり記載しておく。


「扉は一か所か。タニア、調べてくれる?」


「わかった」


 タニアが扉を調べている間に食事を作るか。リュックサックからいつもの道具を取り出して並べていくと、手の空いたニーナとガルトが机とかを広げて準備してくれる。エリシャはまだ慣れてないからニーナに指示されながら手伝っている。


 今回はオーク肉のステーキにするか。ステーキソースなど無いので、シンプルに塩胡椒で。


 焚き火台で火を熾し、鉄板が熱くなるまでに人数分に肉を切り、両面に塩胡椒を振りかける。


「よしこんなもんかな」


 熱された鉄板にオークのラードを一つ置いて、溶けたら肉を並べて焼いていく。じゅわわぁと肉の焼けるいい音がする。


 鈍い虹色になったトングで焼き色を見ながらひっくり返していく。うん、いい色。美味そうだ。


 焼けた肉は鉄板の端の弱火のところに移動して蓋をする。豚肉は確り焼かないとね。空いたところ

に次の肉を。


「ニーナ、お皿ある?」


「はい、これですよね」


 蓋を取って仕上げにアウトドアスパイスで有名な「ほ」から始まるスパイスを適量振りかけて完成だ。


「いい匂い!リュウジ、あんた迷宮でなんてもん作るのよ…」


「堪らない匂いです、涎が止まりません…」


 タニアとエリシャが肉を焼いている鉄板の傍まで来て涎を垂らしている。ニーナのお腹がくぅ~と可愛く鳴いて両手でお腹を押さえている。ガルトは目が鉄板に釘付けだ。


「さあ、焼けたよ。みんなで食べよう」


「いただきまーす!」


「今日の糧を得たことを神に感謝し…」


 感謝の言葉はエリシャだ。前はニーナも言ってたけど今は、手を合わせていただきますで食べている。


 一人二枚のこの肉は普通の豚肉より物凄く美味しいお肉だ。語彙が貧弱だがそれしか言いようがない。


 つまりは、めちゃくちゃに美味しいってことだ。


「ふわぁぁ、お、美味しい…」


「リュウジ…最高」


「うーん、ちょっと油っぽくないかな?」


 引いた油がラードだったからか、僕にはちょっとしつこく感じられる。


「いや、美味い」


「セトルのお店で食べたものよりも美味しいです」


「あの店よりもか…あ、スパイスか」


 このアウトドアスパイスは、何にでも合うけど、鳥でも牛でも豚でも肉に使うのが一番美味しいと思う。


 肉を一緒に付け合わせの野菜も焼いておいた。塩だけの味付けだが、肉の旨味を吸ってとても美味しい。これでご飯があれば完璧だったのになぁ。まあパンでも悪くはない。


「もう無くなっちゃった…」


「まだ食べたいです…」


 タニアは空になった皿を呆然と見つめている。エリシャはお皿を舐めそうな勢いで匂いを嗅いでいる。本当に犬みたいだなぁ。


「ご馳走様でした、リュウジさん。とても美味しかったです。また作ってくださいね」


 ニーナはハンカチに使っている布で口元を拭っている。ガルトもじっと空になった皿を見つめている。


「はい、お粗末さまでした。こんなのでいいならいつでも作るよ」


 そう言うとタニアとエリシャが飛びついてきた。


「ほんとっ!次はいつ作るっ?ねえ、明日?次も食べたい!」


「わたしもっ!わたしもまた食べたいです!」


 エリシャの丸い尻尾が千切れんばかりに振られている。おお、尻尾の残像が見えるな。


「つ、次もこれ?もうちょっと後のほうが良くない?胃にもたれるよ?」


「大丈夫!」


「もたれないっ!」


 二人をなだめるのが大変だった。迷宮を出たらオークを狩りに行くことが決まった。若いって素晴らしいね。


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