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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百三十九話

「もう!また行き止まり。仕方ない、戻ろう」


「わかった。しかし、変な迷宮だね。迷宮っていうより迷路だな、こりゃ」


 地図を描きながら今まで通ってきた道を見ると、部屋はなく通路も行き止まりのところが多い。で、分岐も多くて行ったり来たりの繰り返しだ。タニアが苛立つのもわかる。


「まあまあ、あとここの道を行けばきっと何かありますよ。あとここだけですもんね、行ってないのは」


「そうだね。この先も同じだとタニアがキレそうだけど、行くしかないよな」


 地図を見ると空間的に部屋は無さそう。どこかにつながる階段でもあればいいけどなぁ。


「ここしかないんだから行きましょ」


 タニアが先行する。今までも結構罠があったから慎重に。突き当りまで行くと下に降りる階段があった。


「やった、階段だよ。どうする?行く?休憩する?」


「うーん、入ってどれくらい経ったかわかる?」


 体感的には、夕方くらいだと思うんだけどな。


「そうだなぁ、あたしはもう日暮れは過ぎたと思うよ」


「そうだな」


「そうですね」


 そんなに時間たったのか。僕以外が皆同じならみんなが正しいんだろう。


「よし、一度降りてみて危険そうじゃなかったら下で、こっちのほうが良さそううだったらこっちで休憩しよう」


「降りてった先に安全地帯があるといいんだけどね」


「安全地帯って何ですか?」


「まあ、字のごとく敵に襲われる心配がない場所のこと。こういう迷宮には時々あるんだ」


 タニアが言うには、こういう地下迷宮には時々安全地帯になってる部屋があるらしい。階段を下りてすぐだったり、何の変哲もない部屋がそうなってたりするらしい。


「よく知ってるね。さすがタニアだ」



「まーね。情報収集の賜物さ」


「じゃあ、お腹も空きましたし、降りてみましょう」


 とりあえず皆で階段を下りる。なんだか冒険してるなぁ。深森迷宮じゃあ迷宮探索って雰囲気じゃないから、こういうのはワクワクドキドキする。ちょっと不謹慎かな?



「ここは…部屋だね」


「そうですね。あそこには扉がありますね」


 階段を下りると八畳くらいの広さの部屋になっていた。階段の対面には扉が一つ。あれの向こうが地下二階か。


 部屋の隅には火を使った跡がある。先に入った三人の痕跡だろうか。


「これは安全地帯か?」


「階段のほうを気を付けていれば大丈夫なんじゃないですか?」


「よし!リュウジ、食事にしよう。終わったら交代で仮眠を取ろう」


「わかった」


 焚火跡で薪を組み、火を点けて五徳を設置して鍋を置く。鍋の周りの空いたスペースにパンを置いて温める。


 パンでもいいけど夜はお米が食べたいなぁ。どこかに無いだろうか。


 今日のスープは、野菜と干し肉で出汁を取って醤油で味を調えたものにした。干し肉の塩気が多いから醤油は色付け程度だ。


「いつもと違って味が薄めですね」


 ちょっと醤油が少なかったか。


「そう?じゃあもう少し醤油を足してみようか」


 目分量で醤油を足してニーナに味見をしてもらい、オッケーが出た。


「安全地帯があって助かったね。この状態で休憩もできないなんて大変だもんね」


「今回は良かったけど、次も確実にあるわけじゃないからね。寝ることもできないときもあるよ」


「そうだな。運がいいと思ったほうがいい」


「そうなんですね。じゃあここでしっかり休息をとった方がいいですね」


 晩御飯を食べ終えて休息をとる。いつも通りに四人交代で見張りを立てる。


「マット出して」


 タニアが当然のようにマットを所望する。もう地面に直接寝ることは出来なくなったか。


「はいよ」


 リュックサックから三枚取り出して壁際に並べる。


「最初はガルトでいいかな?次に僕でタニア、ニーナの順番でどう?」


「わかった」


 見張りをガルトに任せて外套に包まって横になるとニーナとタニアからすぐに寝息が聞こえてくる。寝つきが良いな。羨ましい。



「リュウジ、交代だ」


 いつの間にか眠っていたみたいだ。


「わかった」


 ガルトも横になったとたんに寝息が聞こえてくる。冒険者って皆こうなんだろうか。


 魔法の明かりだと明るすぎるから焚火を絶やさずにおこう。


「あ、一酸化炭素中毒のこと忘れてた。換気しないと」


 一人で薪を放り込みながら暫くぼーっとしてた。ここが室内だってこと忘れてたよ。


 片方は階段だから扉をちょっと開けとけばいいか。


 タニアと交代するまで何も起こらず。良かった。



「リュウジさん、起きてください。タニアさんも」


 朝、かどうかはわからないがニーナに起こされて目が覚めた。タニアももぞもぞと動いてるからそのうち起きてくるだろう。ガルトはもう鎧も着て準備万端だ。


「お疲れさま、ニーナ。何もなかったかい?」


「はい、大丈夫でした。お湯を沸かしてありますよ」


「ありがとう」


 みんなのコップはニーナが洗ってくれていたので、そのまま注いで冷ましておく。


 まだ焚火は熾火なので人数分のパンと干し肉を出して炙り、朝御飯にする。


「今日も、迷宮探索だな。二階層にはお宝があるといいなぁ」


「んー、ここが何階層まであるかわかんないけど、浅い階層にはないんじゃないかなぁ」


「そうか、そんなもんかね。あんまり期待せず行こうか。あとは、先に入った冒険者三人だね。どっかで会えるかな?」


「これくらいの強さの敵ばっかりなら、暫くは会えなさそうだね。あたしたちは地図を描きながらだからかなり遅いんだよね」


「彼らの階級にもよるが、神官もいることだし装備が良ければかなり進んでるだろうな」


 だんだんガルトが饒舌になってきた気がする。慣れてきたんだろうか。


「なんでそんなに会いたいの?」


「いや、そんな深い意味はないんだ。ただ獣人の神官さんを見たくてね」


 生前柴犬を飼ってたから、くるんと巻いた尻尾って聞いて、それを思い出しちゃったからなぁ。柴犬って毛は短いけどもふもふしてて気持ちいいんだよ。


「なんだ、浮気じゃないのかー」


「う、浮気って…そんなんじゃないからなっ!ニーナ、違うよ!?」


「うふふ、大丈夫ですよ」


 ちょっと焦ったけどニーナの方を見ると、とても良い笑顔だ。んー、怒ってない、かな?ニーナは心が広いな。


「まあ、リュウジを揶揄うのはこれくらいにして出発しよう」


 タニアとガルトについて外に出ようとしたら、裾をくいっと引っ張られる。


「?」


「えいっ」


 振り向いたらニーナが抱き着いてきた。


「どうした?」


「補充です」


「そっか。じゃあ僕も」


 きゅっとニーナを抱きしめて、額にキスをする。それで満足したのか、真っ赤な顔で扉へ駆け出すニーナ。


「さあ、いきましょう!」


 出口を見たら扉の向こうからタニアがこっち見てたよ。


 相変わらず、迷路のような通路を進んでいく。一階層と違うのはところどころに部屋があることだ。部屋の中には大体ゾンビがいる。


 今も戦っている最中だ。部屋の中には五体のゾンビ。


「しかし、弱いんだけどしぶといな。それに旨みもないし」


「そうなんだよね。だから人気がないんだよ」


 動きが遅いから倒すだけなら簡単だ。タニアもショートソードで首を刎ねている。ニーナは燃やす係だ。


「僕たちの目的は、お宝なんだけど…あるよね?」


「ある確率が高いから来たんだよ?無い可能性もあるね」


 タニアが最後のゾンビの首を刎ねながら返事をしてくれる。


「皆さーん、そろそろ燃やしますよー」


 ニーナの掛け声で三人でゾンビを部屋の中央付近に纏める。


「…火球(ファイヤボール)


 僕たちが離れた後、火球が命中するとゾンビの山が炭になる。凄い熱量だなぁ。


「相変わらずニーナの魔法は凄いね。また威力が上がった?」


「魔力を籠める速度が速くなったと思います。なので同じ時間でも威力は上がってますね」


「おお、ニーナが凄く強くなってる」


 ニーナは今までどれだけ努力してきたんだろうか。苦労してたんだなぁ。


「換気するね」


「あ、私がやりますよ」


 そう言って生活魔法を唱えると、僕がやった時と比べて柔らかな風がニーナから吹く。


「リュウジとは違うなぁ」


「…うるさいぞ、タニア」


 にやにや笑うタニアに言われたけど、否定できないのが面倒臭い。


「ほら、行くよ皆」


 タニアが罠チェックを済ませて部屋から出ていく。いつの間に!?



「やっとあったね。下に降りる階段」


「何と言うか、意地悪なつくりになってるなぁ」


 二階層も八割くらい地図を描いたところで下に降りる階段が見つかった。


「どうする?このまま降りる?それとも二階層の残りを埋めに行く?」


 地図の外側は埋まってるから、全部を回らなくても埋めることが出来そう。宝物も無いしまあいいかなって思うんだけど。


「あたしは下に行きたいな。地図を見た感じ、何もなさそうだしね」


「タニアさんが言うなら下に行きましょうか。私はどちらでもいいです」


「下に行こう」


 満場一致で下に降りることになった。腹の減り具合からすると、降りたところでまた休憩かな。



「おー、また安全地帯かぁ。有難いね」


「これで休憩できますね。お腹空きました」


 腹の減り具合からすると、お昼過ぎ十四時くらいだろうか。


 ここにも焚火の跡がある。ちょっと暖かいからそんなに時間は経ってなさそうだ。


「軽く何か食べようか。屋台のサンドイッチでいいかな?」


 リュックサックから人数分を取り出し配る。


「いただきまーす」


 タニアが早速齧り付いていた。


「この程度の魔物ならポーションは要らなかったなぁ」


 ここまでの探索では、一人も怪我をしていない。


「きっと、ここからだよ。リュウジの剣に期待してるからね。死霊系が出てくるとあたしもガルトも手が出ないからさ」


「そうなると、死霊系の敵が出てきたら僕とニーナしか戦力がいないのか」


「うん、そう。がんばれ?」


「がんばれって…やるけどさ」


「まあまあ、沢山出てきたら逃げましょう」


 そうだな、対処しきれないんだったら一旦逃げて態勢を整えればいいか。


「そうしよう。あ、幽霊ってきっと壁をすり抜けたり出来るよね?そしたら、逃げ切れないんじゃないかな」


「普通の家の壁だったら抜けてくるけど、迷宮では無理みたいだよ。だから心配しなくても大丈夫」


「そうなのか。じゃあなんとかなりそうかな?まあ、用心だけは忘れないようにしよう」


「そうですね。冒険者は生きて帰ることが一番大事ですからね」

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