第百三十六話
すいません 投稿し忘れてました。ごめんなさい。
「んむ!これは美味い!滋養もありそうじゃ」
初めて見た豚汁を恐る恐る口にした村長さん。一口飲んだら目が輝いた。
「ね、美味しいですよね!リュウジさんの作るご飯は簡単に作れて美味しいんです。凄いですよね!」
ニーナを始め、みんなが凄い!美味しい!って言ってくれるのは純粋に嬉しいんだけど、自分で食べてみると、やっぱり何か足りない気がするんだよなぁ。
「豚汁は、ご飯じゃないとなんか違和感があるなぁ。味もまだまだだなぁ」
「そうなんですか?十分美味しいと思いますけど…」
「ああ、いや、これは僕自身の感覚だからね。ずっとお米と食べてたからさ」
「すまんが、このスープの作り方を教えてもらえんじゃろうか」
ニーナと話していると村長さんが豚汁の作り方を教えてほしいと言われる。
「いいですよ」
「いいのかの?こんだけ美味いんじゃ、秘伝とかじゃなかろうかとも思ったんじゃが…」
秘伝て…ああ、味噌だけは僕の一存じゃあ許可が出せないな。
「作り方は教えることができますが、味噌の入手先はフルテームの街の飲食店なので、そこで聞いてもらわないといけないですね。場所はわかりますから地図でも書きましょうか?」
「ほほう、この黒色のスープは味噌というんですかの。ぜひ地図を書いてくだされ」
タニアと一緒に手持ちの羊皮紙に地図を書いて、余白に豚汁の作り方を書いておく。
「はい、これでわかりますか?」
村長さんは羊皮紙を手に持ち、目一杯まで腕を伸ばす。ああ、老眼か。滅茶苦茶わかる。近くは見えないんだよなぁ。
「老眼ですか?」
僕はこっちに来て老眼鏡なんてもういらなくなった。若いって素晴らしい。
「老眼?ああ、近くが見えんくなることじゃな。村に帰ればお嫁さんに見てもらえるから気にせんでええ。ありがとうよ」
羊皮紙を丸めて懐へ仕舞う村長さん。ほくほく顔で馬の世話をしている。
小一時間休憩して出発となった。
「そのまっとれすとかいうやつはいいもんじゃのぉ。小さい奴がありゃあ儂も手に入れたいの」
「多分、大きいのしかないと思いますよ。それよりもクッションを作ったほうが早いんじゃないかな?」
御者台に敷くなら座布団のほうがいいのか。綿花ってあるのかな?
「タニア、綿花ってどこで栽培してるか知ってる?織物があるからあると思うんだけどなぁ」
あ、服は麻布か。もしかしてまだ発見されてないとか?
「綿花?高くて手が出ないと思うよ?あのふかふかの布団に使われてるやつでしょ?貴族様くらいしか使ってないんじゃない?」
宿屋の掛け布団も厚手の布一枚だったな、そういえば。季節がないからそれで済んじゃうのか。
「そうなの?んー、じゃあ布を重ねて作るしかないのか」
布を重ねただけじゃ、あまり柔らかくはならないか。クッションって珍しいんだ。
「ん?毛布ってなかったっけ?」
「あれは羊毛だよ。綿花ほど高くはないけど結構するんだからね」
そうだ。羊毛があったな。でもあれじゃクッションにはならないか。んー、暇があったらつくってみようかな。ニーナと一緒にやれば楽しそうだし。
「そっか」
そんなことを話しながら馬車は進んでいく。もう夕方だ。本当に何も出ないな。ゴブリンくらいは出そうなもんだけど…
「長閑だなぁ」
「そうですねぇ。セトルの町とは景色が全然違いますけどね。あそこはもう少し森が深かったですし、海もありませんから」
今進んでいる道は、右手が海で左手側が山になっている。山までの間に広めの草地があるから開放感がある。
海に沈んでいく太陽の光で水面に光の道ができている。空も真っ赤になってそろそろ野営地に辿り着かないと暗くなりそうだ。
「もうすぐ野営地じゃ。準備をしてくれんかの」
「わかりました。皆、準備しよう」
四人パーティになったし、テントは複数あるから男女二人ずつ分けて寝れる。マットは三枚しかないけどニーナとタニアで二枚使って、もう一枚は僕とガルトの見張りの順番を考えておけばいいかな。
「天幕は二つあるから男女別で、マットも僕とガルトで一枚にしようと思う」
「ん?でも、それだと結局二枚いりますよ?」
「ん?……あ、そうか。じゃあ天幕一つで寝ないと駄目なのか」
そうだった。三人なら交代で良かったけど、四人になったから三人はテントで寝ないと駄目だった。んー、そうするとテントは大きいのを一つ使うか。
「よし、じゃあ今日の見張り番は、僕が最初でガルト、タニア、ニーナの順番でいいかな」
「わかったー」
「それじゃあ、天幕出すから建ててくれる?」
リュックサックから四人用のドーム型のテントを取り出す。ドーム型のテントは僕とガルトで建てていく。このテントは前室があるタイプだ。
「この天幕は丸くて可愛い形をしてるんですね」
「いつものも三角で可愛いけど、あたしは丸っこくてこっちが好きだな」
タニアはこのテントが気に入ったらしい。
このテントも材質こそ変わってるけど造りはほぼ一緒だ。慣れてるから使いやすい。良かった。
ポールを通すスリーブとか金具とかも変更されていない。強いて言えばポールの材質がよくわからない金属になってることぐらいかな。元々は硬質アルミだったはずだけど、金色でキラキラしたものになっている。
「リュウジ、ちょっと待って!それ!オリハルコンじゃない?よく見せて!」
「ええ!?オリハルコンって伝説の金属じゃないか。そんなことないんじゃない?真鍮かなんかだと思うよ?」
僕が持っているポールを引っ手繰ってまじまじと見つめるタニア。これがオリハルコンって…そんなことあるのかな?ありそうだなぁ。スマホも変わってたしなぁ。
「うーあたしにはよくわかんないなぁ。ねえ、街に帰ったら鑑定して貰わない?良いとこ知ってるからさ」
「まあ、見てもらう分には構わないけど、売らないよ?」
売っちゃったらテントが使えなくなっちゃうし。
「ええ~、オリハルコンだったら売っちゃって新しいの買えばよくない?」
「だーめ」
それからもタニアは諦めきれないのか、暫くしつこく迫ってきた。
なんだかんだそれを宥めながらテントを建て、夕食を作って食べ、食休みの間焚火の周りで話をする。
「村長さん、先に行った三人ってどんな人たちだったんですか?」
「ん?あの三人か?そうじゃのう、男二人は戦士か剣士じゃったと思うたな。神官様は、女の人での、優しそうな獣人さんじゃったな。あれは、犬人族じゃな。可愛い丸い尻尾があったからの」
「丸い尻尾ですか。獣人族の神官は珍しくないですか?」
神官の人自体が珍しいって言ってたし、しかも獣人だし犬人族で丸い尻尾って…それ、柴犬じゃないか!くぅ~、見てみたい!
「そうだねぇ、あたしも会ったことないなぁ」
「俺もだ」
「ガルトも会ったことないのか。それはそれは珍しいんだなぁ。是非、会ってみたいね」
「迷宮の中で会えるといいですね。私も会ってみたいです」
「だがの、男二人と神官様はなぁ、何と言うか仲が良いようには見えんかったのう。男二人が神官様を疎んじとるように見えたからのう」
同じパーティなのに仲が悪いってこと?何か変だなぁ。訳ありか?
「仲が良かったんじゃないんですか?いい人だって言ってましたよね?」
確かにそれは言ってたな。
「一人一人はいい人じゃったな。男二人は仲が良かったが、さっきも言ったが、男二人と神官様は仲は良いようには見えんかったのう」
「なんだか不思議な組ですね。臨時で組んだんでしょうか」
「その可能性が高いな」
ニーナが疑問を口にすると、ガルトが答えてくれた。そうか、臨時パーティね、それだったら仲があまり良くないのもしょうがないのか。
「臨時で迷宮に入るって結構思い切ったことするね」
「まあ、何か事情があるんでしょうね」
僕だったら臨時で組んだパーティなんて怖くて嫌だな。背中を預けるなら信頼できる仲間がいい。今のパーティは最高だと思う。
信頼してもらうには、こちらも相手を信頼しないと関係性は築けない。まあ、それなりに騙されることもあるけど、騙すよりは良いんじゃないかなと思う。
「はいはい、今から考えてもしょうがないよ。そん時に考えればいいんじゃない?それよりも早く寝ようよ」
「そうだね。あ、村長さんはどうするんですか?」
「儂か?儂は荷台で寝るからの。気にせずじゃ。夜番をしてもらって悪いのう」
「いえいえ。習慣みたいなもんですから。それにいくら危険が少ないといっても、全く無いわけじゃないですからね」
警戒しておいて損なことはない。この世界、何が起きるか分からないからなぁ。
「それじゃあ、リュウジ頑張ってねー。おやすみー」
「リュウジさん、おやすみなさい。気をつけてくださいね」
「うん、お休み。ガルト次よろしく」
「ああ」
焚き火が消えないように薪を足す。長い時間燃えてほしいから太い薪だ。ここにも針葉樹と広葉樹があって、広葉樹のほうが燃え難いが長く燃えてくれる。木の名前は全然違うんだけど何処となく特徴は似ている気がする。薪を売ってる店で葉が落ちる木と落ちない木を教えて貰った。
焚き火の上に薬缶を置くための道具を木の枝で作る。材料になるちょっと太めの枝と短いY字の枝は拾っておいた。
まず、太めの枝に薬缶を吊るすための溝を刻む。あまり深すぎると折れてしまうので浅めに斜めの切り込みを三つ入れる。で、地面に刺すほうは尖らせておく。これでほぼ完成だ。この枝を焚き火が当たる場所で地面に斜めに刺して、支える短いY字の枝をいい具合になるようにつっかえる。薬缶に水を入れて引っ掛ける。
「よし、上手くできたな」
湯を沸かして紅茶を飲もう。
「そろそろ時間かな?」
空を見ると青い大きな月が大分昇ってきていた。こういう時に時間がわからないのはちょっと不便だ。愛用していた腕時計があったんだけどこっちに来たら金属の塊になっていた。ショックだったよ。
テントを覗くと三人とも気持ちよさそうに寝ている。起こすのは忍びないが、交代してもらおう。
「ガルト、ガルト、交代の時間だ。起きて」
ガルトをゆさゆさ揺するとぱちっと目が開いた。
「む…交代か」
起き上がるとすぐに身支度を整えるガルト。寝起きが素晴らしくいいな。熟練の冒険者ってこういうもんなんだなぁ。
「待たせた」
「いや、やっぱりガルトは凄いな」
「?…そうか」
ガルトは僕の言葉に不思議そうな顔をする。テントの前室で鎧とブーツを脱いで纏めて置いておく。
テントの中に入ると左端が空いていた。真ん中はニーナか。長い金髪を頭の上に流して綺麗な寝相で寝ている。右端の凄い格好で寝てるのがタニアか。二人を起こさないように静かに寝転ぶとすぐに睡魔が来た。




