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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百三十話

 あの後も部屋で二人でお喋りをして過ごした。ニーナは僕の腕にくっついて離れなかったから、相当嬉しかったんだろうなぁ。


「そろそろ夕食の時間だから食堂に行こうか」


「はい!お腹空きました。タニアさんを起こして一緒に行きましょう」


 隣の部屋の扉をノックするとすっかり着替えたタニアが出てきた。なんだかニヤニヤしてるぞ?


「お楽しみだったねー、お二人さん」


「うぇぇ!」


 ニーナから美少女にはあるまじき声が出たなぁ。


「聞いてたのか?」


「いやだねぇ、ちょっと聞こえちゃっただけだよ~。やっとニーナもちょっと進んだねー」


 宿の壁の薄さを見誤ってた…ニーナは僕の後ろに隠れてしまった。


「ま、遅いくらいだよね。あたしのことは気にせず、どんどんやりたまえ」


 いつから聞いてたんだろう?まさか、最初からか?…まあ、僕とニーナの関係はタニアも知ってるから隠さなくてもいいか。


 そう思ったら別に恥ずかしくはないな。でも聞こえちゃうのはちょっとなぁ。


「もうちょっと壁の厚い宿探さないと、か…」


「そ、そんなことは考えなくていいですぅ。…でももうちょっと…」


 僕のつぶやきが聞こえたのか、ニーナがごにょごにょ言いながらまた真っ赤になってる。


「んじゃ、ご飯食べにいこうか。ガルトは帰ってるかな?」


 ガルトの部屋をノックするとすぐに出てきた。


「ん?何かあったか?」


 ガルトは僕たち三人の様子を見て首を傾げている。ガルトの部屋にまで聞こえてたってことはないよな?


「いや、晩御飯を一緒にどうかと思ってね」


「ああ、いこう。どうした?」


 ガルトはニーナの様子をみて声をかけている。


「い、いえ、何もないですよ。何も」


 真っ赤なまま、顔の前で手を振って何事もないことをアピールするニーナ。


「気にしなくてもいいよ。僕とちょっとね」


「そうか……そうか」


 僕と僕の後ろにくっついているニーナを見比べて納得の表情のガルト。今ので分かってくれたのか。




「魔石の付与ってできたの?」


 夕飯を食べながら情報の共有をする。こういうときでもないとみんな揃わないからね。夕食は川魚をワインやらなんやらで煮たものだ。結構美味しい。


「出来ましたよ。一個だけ水属性にして、残りは炎属性です」


「ぎりぎりだったけど僕でも出来た。炎のはニーナが二十四個作ってくれたよ」


「リュウジも一個作れたの?水の?」


「そうそう。僕もほら、生活魔法使えるからね。やってみたんだ」


「凄いじゃん!倒れなかったんだ?」


「うん、ぎりぎりだったけど大丈夫だったよ」


「リュウジさんがやるときは私が傍に付きますから。あまりやってほしくはないんですけどね」


「あたしにもできるかな?どう?ニーナ」


 ニーナがちょっとだけ集中してタニアを見つめると


「うーん、タニアさんには魔力はなさそうですね」


「そっかー、残念。ま、あたしに魔力がないのはわかってたからね」


 タニアはあんまり残念じゃなさそう。この世界の人たちには全員魔力があるわけではない。少なくはないけど限られた人しか魔法は使えないんだそうだ。僕は生活魔法だけとはいえ魔法が使えるからラッキーだったね。


「ガルトさんも使えませんね。あ、すみませんつい見てしまいました」


「いい。わかってた」


 ガルトも使えないのか。じゃああの身体能力は素なんだ。すげえ。


「でもこれで新しい迷宮に行く算段が立ったね。いつ行く?」


 タニアは行きたいばっかりだな。


「ちょっと待てタニア。試してみたら魔石一個で約三分くらいしか保たないんだ。しかも使い捨て」


「ん?使い捨てって、どういうこと?」


「使い終わると無くなっちゃうんです。魔石が」


「へ?」


「残るんじゃないのか?」


 そう、普通の魔道具なら魔石は残って魔力が空になる。空になったらまた充填して使うことができる。


「この剣が普通じゃないってことなんだろうなぁ」


 腰に吊り下げていた剣の鞘を叩く。打ってくれたガイダークさん、元気かなぁ。


「魔石って二十四個だったっけ。その魔石の数だけしか戦闘できないってこと?」


「いや、骸骨とか腐肉人なら普通に斬れるはずだから幽霊系の時だけだね」


 実体があるなら剣で斬れる。実体がないと普通の剣ではダメージを与えられない。


「それでももう少しないと心許ないね。明日からは深森迷宮じゃなくて普通の討伐依頼を受けようか?」


 タニアも足りないって考えか。


「どれぐらいあればいいと思う?」


 問うと難しい顔で考えるタニア。ガルトはいつもと同じだな。表情は変わらない。


「五十だな」


「そうだよね。それくらいはいるかぁ」


 ガルトがそう言うとタニアも同意した。


「あと二十六個、まあキリがいいところで三十個か」


「ゴブリン三十匹ですか。まだ結構な数、倒さないといけませんね」


「どっかにゴブリンの巣があれば一度にたくさん集められるんだけどなぁ」


 僕がそう呟いたら、タニアが何か思いついたらしい。


「やっぱり深森迷宮に行こう!あそこならきっと巣がたくさんあるはず」


「大蟻の巣のほうが沢山あるんじゃない?」


 大蟻の巣に入って行くのは自殺行為だぞ。いくらガルトが入っても無理なものは無理だ。蟻の数が多すぎる。


「その辺は大丈夫。あたしに任せといてよ」


「わかった、タニアを信じるよ。また明日から深森迷宮だね」


「うん、がんばろー」




 深森迷宮に入って森の中を進むこと三十分くらいかな?僕たちは崖にあるゴブリンの巣のちょっと離れた所で隠れて様子を窺っている。


「ほらあったでしょ」


「さすがタニア」


 洞穴の前には見張りのゴブリンが三匹いる。各々錆び錆びのショートソードや短剣などの武器を持って立っている。


「中には何匹くらいいると思う?」


「少なくとも十はいると思うよ。じゃないと見張りに三匹もいない。だよね?ガルト」


「そうだな」


 十匹以上いるのか。


「狭い洞窟内じゃ剣が振れないよね?」


 洞穴を見た感じ僕の身長(百七十五センチ)より少し大きい程度だろうか。中が広ければいいけどそうじゃないとガルトは中腰で進まないと駄目だろう。そんな状態じゃあ戦闘なんて出来ないな。


「うん、だからあの見張りを倒したらニーナに弱めの火球(ファイヤボール)を放り込んで貰おうかなって思ってる」


「火球ですか?いいですけど、熱くて中に入れなくなっちゃうと思いますよ?」


「魔力少な目のやつでいいんだ。倒せなくてもいいからさ。中から出てきてもらおう」


 あ、なるほど。


「で、入り口に陣取って出てきたところを倒しちゃおうってことか」


「そうそう。あたしとリュウジとガルトで出てきたところをやっつける、と」


 さすがタニア。ガルトが入ったから出来る作戦だな。


「でも中に捕まってる人がいたらどうしましょうか」


「それは大丈夫。ここは迷宮の中だから一般の人はいないし、もしいても冒険者だから自分で何とか出来るでしょ?」


 冒険者なら救護しなくてもいいんだろうか?いや、出来れば助け出さないと駄目じゃないだろうか。


「んー…わかりました。私はそれでいいです」


 え!?ニーナまで?それでいいの?


「いや、ちょっと待って。助けることができる人がいるなら助けた方が良くないか?」


 僕がそう言うとタニアが何言ってんだこいつ?っていう目で見てきた。


「あたしも普通の村人とかだったら助けるよ?でもここは迷宮だからね、普通の人はいないよ。ゴブリンに捕まる冒険者なんてやめた方がその人の為だと思うよ?それにね、あたしだって見殺しにするつもりもないからさ。だから弱めの火球だよ?」


 そうなのか…厳しいな。だけど、確かに冒険者ならこれくらいのことは自分でどうにか出来ないと駄目か。


「そんなもんか…わかった。じゃあ出来れば助けるって方向でいい?」


「いいと思います」


「ああ」


「リュウジは優しいなぁ」


 普通だと思うけどなぁ……そうか、こっちの常識と僕の常識の違いか。そういう物だと覚えておけばいいか。


「じゃ、ニーナとあたしで一匹ずつやるからもう一匹はリュウジに任せた。ガルトは入り口で通せんぼで」


「おう、任された」


「わかった」


 ニーナが詠唱を始める。これは炎矢だな。タニアも背負っていた弓を構えて狙いをつけている。僕も剣を抜いて走り出すとガルトも一緒についてくる。


「…を撃て!炎矢(ファイヤアロー)!」


 僕たちが走り出すとゴブリンがこちらに気が付いた。


 走る僕たちの横をニーナの炎矢とタニアの射た矢が追い越していく。


「急ごう、ガルト!」


「ああ!」


 ガルトは金属鎧を着てるし戦斧を持ってるのに僕と走る速度がそんなに変わらない。あれか?足の長さか?くそぅ、女神様に足は長くしてくれって言っとけば良かったなぁ。


「グギャギャギャ!?」


 炎矢と弓矢で二匹は動かなくなった。相変わらず凄い。残った一匹が騒ぎ出すが、僕の攻撃範囲に入った!


「しっ」


 頭を狙おうと思ったけど、避けられるのが嫌だったので心臓を狙って突きを繰り出す。


 少し遠い間合いから左足で地面を蹴り、前方へ飛び込むと同時に右手を突き出す。


 コ、コンという手応えとともに剣先が貫通した。


「はっ!」


 ガルトがまだ意識があるゴブリンの首を戦斧で切り飛ばし止めを刺す。


「サンキュ」


「さ、さん?きゅ?」


 つい出てしまった言葉に戸惑うガルト。


「いや、ごめん、ありがとうって意味だよ」


「そうか…」


 後ろを見るとタニアとニーナが走ってこっちに向かっている。


「じゃ、ニーナよろしく~」


「はい!」


 ニーナが火球(ファイヤボール)の詠唱を終えて洞穴の中に火球を飛ばす。


 ボムッと火球が破裂する音がして入り口が明るくなり、少し経って奥からゴブリンの五月蠅い鳴き声が複数聞こえてきた。


「うまく釣れたね。ガルト、リュウジ、準備は良い?足音と鳴き声からすると十弱くらい、来るよ!」


 ガルトは穴の正面で盾を構えて待ち受けている。僕は穴の左側、タニアが右側だ。洞穴から出てきたゴブリンをガルトが抑えて、僕とタニアで倒していく作戦だ。ニーナはガルトとタニアの間くらいにいて、炎矢を使って攻撃することになっている。


 剣と盾を構えて待っていると洞穴からゴブリンが出てきた。


「さあ!こっちだ!こっちにこい!」


 ガルトが大声で叫ぶと出てきたゴブリンたちはガルトに向かっていく。


「ふん!」


 ガルトが先頭で出てきたゴブリンを盾で弾き飛ばし戦斧で叩き切る。後ろから出てきた二匹がそれに巻き込まれる。後から出てきたのはぶつかるのを避けて左右に散らばる。


 予想通りだ。僕とタニアは向かってきたゴブリンを一撃で倒していく。


 面白いように倒していく三人。ニーナは今のところ見てるだけでよさそうだけど、いつでも援護できるように杖を構えて炎矢を待機している。


「やっ!はっ!」


 タニアもショートソードと短剣の二刀流で難無く倒していく。


「ふんっ!」


 ガルトは言わずもがなだ。二人とも凄いなぁ。と、そんなことを考えながら目の前に来た敵を倒していく。


 ゴブリンたちは最初、何が起こったのか分からなかったみたいだが仲間がどんどん倒れていく姿を見て洞穴から出てこなくなった。というか、二匹くらいが引き返していく。


「あ、逃げてくぞ」


「ニーナ!炎矢!二連!」


 二連!?タニアが叫ぶとニーナの杖の先から二本の炎矢が続けて飛んでいく。


「そんなことできるようになったの!?」


 僕がそう言うとニーナは微笑む。炎矢は狙った通りにゴブリンたちを貫き霧散する。


「最近できるようになりました!吃驚しましたか?」


「ああ、驚いた。凄いね」


 タニアと暇を見つけて練習してたみたい。どうやら魔法の発動を待機できるなら、維持したまま別の魔法を詠唱出来ないかと思ってやってみたらしい。


 やってみた結果、別の魔法は発動出来なかったけど、同じ魔法なら三つまでは続けて撃てるようになったとのことだ。二つは待機できるらしい。ニーナがどんどん凄いことになってるなぁ。


「それって相当凄いことなんじゃないの?」


「はい!私もできるとは思いませんでしたが、練習したら出来るようになっちゃいました!」


「なっちゃいました!って……誘導もできるようになったし、連続で魔法が撃ててそんなことができれば大抵の事ならニーナ一人で片が付きそうだなぁ」


 移動砲台ってこういうことなんだろうか?ニーナの魔力回路ってどうなってるんだろ?今度女神様に会ったら聞いてみよう。


「ニーナのことは一旦置いといて、中を改めに行くよ。貯めこんだお宝があるといいけど…」


 そう言いながらタニアは洞穴に入っていく。


「ほら、リュウジたちも早く」


 ニーナと顔を見合わせてから二人で入っていく。ガルトは屈まないといけないので表で見張りと魔石を集めておいてくれるそうだ。


「捕まってる人がいないといいですね。あとは、何かあるといいですね」


「そうだね。行こうか」


 火球の熱は少し感じる程度でそんなに熱くない。どこかに出口があるんだろう、風を感じる。


「あ、灯りをつけます」


 生活魔法の灯り(ライト)を唱えて杖の先に光を灯してくれた。洞穴の中は、入り口付近は自然な感じだったが、奥に行くとゴブリンたちが掘ったのか少し広くなっていて手が入ってる感じがあった。

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