第十三話
また一時間かけて町に戻ってきて組合で依頼の報告をする。歩くのは苦じゃないけどそれなりに疲れるね。早く慣れないとな。
受付にはケイトさんがいた。
「こんにちは、ニーナさん。リュウジさん。今日はどうしました?」
「こんにちはケイトさん。薬草の納品です。あと角ウサギも一匹狩れました。」
「では、あちらの買い取りカウンターでお願いしますね。」
「はい、わかりました。」
「ケイトさん、今から訓練って受けることができますか。」
「今からですか?ちょっとお待ちくださいね。」
ケイトさんは、奥に行って誰かと話していたがすぐに戻ってきた。
「お待たせしましたリュウジさん。二の鐘が鳴ってからならできるそうです。それでいいですか?」
「ありがとう。二の鐘が鳴ってからですね。お願いします。」
僕はケイトさんとの話を終えニーナのところに行く。薬草は町に入る前に出しておいた。ここまで運んだけどやっぱり重かったなぁ、薬草。でもね、薬草の葉っぱは今採りましたってくらいに新鮮だったよ。ということは、リュックサックの中は時間が進まないか、進みが遅いのかどっちかだろう。今度、温かいものを入れて試してみよう。
「ニーナ、買い取りはどうだった?僕の訓練は二の鐘が鳴った後だって。」
「今査定してもらってるところです。薬草の状態がいいらしいのでちょっと増えるかもしれません。」
「そりゃあ良かった。ニーナは先帰ってる?」
「そうですねぇ。見学していってもいいですか?」
「いいんじゃないか。聞いてくるよ。」
ケイトさんに確認したら見学OKだった。訓練場の隅だったら見ていてもいいみたい。面白くないと思うんだけどなぁ。
「ニーナちゃん査定できたよ。」
「アッシュさん、ありがとうございます。」
「薬草は新鮮だったから銀貨三枚と大銅貨七枚で、角ウサギはな今需要があるんだ。だから角が大銅貨一枚と肉は大銅貨二枚でどうだね。全部で銀貨四枚だ。」
それを聞いたニーナは、めちゃくちゃいい笑顔だった。ニーナの周りがキラキラ輝いて見えたよ。
「嬉しい!ありがとうございます!また頑張ります!」
薬草は、大銅貨二枚分多くて、角ウサギは多いかどうか分からないけどニーナのあの笑顔を見るとよかったんだろう。
「良かったなニーナ。」
「やりましたリュウジさん!こんなに多いのは初めてです!とっても嬉しい! はいリュウジさんの分です。」
そう言って渡されたのは、銀貨が二枚だった。おお、初給料だ。これで生活できるぞ。良かった。
いつもはどうだったか聞くと、まあ薬草は一束銅貨一枚だったけど、角ウサギのほうはいつもは角が銅貨六枚から八枚、肉は大銅貨一枚と銅貨三枚くらいらしい。なんか滅茶苦茶高騰してるな角ウサギ。まだ装備を揃えないといけないから、暫く角ウサギ狙って狩ろうかな?ニーナと相談してみよう。
「一日でこんなに稼げるの?凄いね、冒険者って。」
「今日はすごかったですけど、いつもはもっと少ないですよ。薬草が沢山取れましたからね。やっぱり二人だと違いますね。角ウサギは何で高かったんでしょうね?」
「その角ウサギなんだけど、狙って狩らない?高いうちに一杯売れば僕の装備が整うんだけど……」
「いいですよ。でも薬草採取と並行してやりましょう。角ウサギが必ず狩れるとは限らないですから。」
「勿論そのつもり、生活費は大事だからね。」
組合の飲食スペースで僕だけ軽食を食べながらそんなことを話していると二の鐘が鳴った。もうそんな時間なんだ。よし、訓練だ。誰がやってくれるんだろう。ラルバさんだといいな。
そんなことを思いながらニーナと訓練場に行くとラルバさんがいた。
「ラルバさん、よろしくお願いします。」
「おう、来たか。早速やるか?嬢ちゃんは見学か?」
「はい、そうです。それで今日は何を?」
「今日は、ショートソードを使ってみるか。お前、ほとんど剣使ったことないだろう?試験の時にそう思ったんだが違うか?」
「そうです。使ったことありません。でも、そう思ったなら、僕はなぜ合格できたんですか?」
「まあ、あの時お前はダガーを選んだだろう?始めは突きだったな。あれはまあまあだったが次の右上からの攻撃な、あれはダガーではあまりやらんのだ。ダガーは攻撃範囲が狭いから、懐に入って急所を突くといった攻撃をすることが多い。振りかぶっての攻撃はもう少し間合いの遠い武器、ショートソードやロングソードなんかでやるんだ。」
「そうなんですね。」
「だが、お前は目がよさそうだ。突きの時、俺の動きをしっかり追ってただろ。あれで、こいつは鍛えればいい戦士になると思ってな。あとは、あんなに目がキラキラしたやつを落とせるかってもんだ。だから忠告して、訓練に来いって言ったんだよ。お前は真面目そうだったしな。」
「あはは、そんなにでした?結構真剣だったと思うんですが。」
「おう、ほかに二人もそうだったが、お前はとびきりだったな。」
そ、そんなにだったかなぁ。確かにワクワクしてたけど……でもまあそのおかげで冒険者になれたんだからいいか。これからできるようになっていけばいいんだもんな。ラルバさんにも褒められたし、もっとやる気出てきた。
「もういいか?始めるぞ。」
「はい、ありがとうございます。お願いします。」
「そこのショートソードをもって振ってみろ。」
言われたとおりにショートソードを振る。まあこんな感じかなって振ってみた。ショートソードは刃の長さが八十センチくらいで柄は十センチちょっとある。鍔もあるよ、日本刀みたいな丸い奴じゃなくて棒が二本出てる。全体を横から見たら十字の形をしている。これぞ剣って感じだね。重さは一キロあるかないかくらいかな。感じ的にはバットみたい。これを片手で振るのは大変だ。でも、重心がバットよりも近いから振り回されることはないかな?
「まずは握り方だな。結構重いだろ。握力鍛えないとすっぽ抜けるぞ。握るときは小指に力を入れて握るんだ。慣れないと大変だが、振りやすくなるぞ。やってみろ。」
小指に力を入れて握るのか。これは…短い間なら出来るけどこれをずっととなるとヤバいな、凄い疲れるぞ。しかも意識してないと小指の力が抜けちゃうし。よし、振ってみよう。あ、振りやすい。剣の先がブレなくなった?
「そうだ!いいぞ、出来てるじゃないか。次に大事なことは、刃を立てることだ。刃物ってな切れるが、刃をきちんと立ててやらないと鈍器と同じだ。しかも剣の軌道と刃が合ってないと当たった時に歪んだり折れてしまうことがあるからな。自分の手にもダメージが来るぞ。
剣の軌道と刃の角度を合わせることを刃を立てるというんだ。包丁も同じだぞ?あれも切りたいものに対して角度を合わせないとうまく切れないだろ。大事なことだからな、意識しなくても出来るようになるために毎日素振りをしろよ。何気なくやるんじゃなくてしっかり意識してやるんだぞ。」
「はい!わかりました!」
教えてもらったことを思い浮かべながら剣を振る。小指に力を入れて握る。刃を立てる。振る。振る。振る。振る………一心不乱に剣を振っていたらラルバさんから声がかかる。
「そうだ、剣を振るときは腰から振るんだぞ。腰からの捻りを腕を通して剣に伝える感じで行け。よしいいぞ。かなり様になってきたな。次は足運びだが、今の素振りを見てたらいい感じに出来てたぞ。素振りの時はあまり気にしなくてもいいが、魔物に相対したときには足からいくんじゃなくて剣を振ってから右足を踏み込む感じだな。突きでも切り下ろしでも一緒だ。それだけで威力が違ってくる。いきなりは難しいから追々やっていけ。ま、今日はこんなもんだな。」
「ありがとうございました。毎日素振りします。また訓練してください。」
「しっかり握って、刃を立てる。これをしっかり覚えて、あとはよく振り込むことで体に覚えさせろ。そうすれば意識しなくても出来るようになる。出来るようにならないといかんぞ。冒険者は命懸けだからな。それと、準備はやりすぎなくらいしておけよ。」
僕はお礼を言った後、ニーナのほうを向いた。すると瞳をキラキラさせながら見ていたニーナと目が合った。おお!疲れが吹き飛ぶな。
「リュウジさんお疲れ様でした!剣を振る姿が恰好よかったです!」
「あ、ありがとうニーナ。そんないいもんじゃないけどな。でも疲れたよ。今何時くらい?」
「三の鐘が鳴ってちょっと経ったところです。」
「意外と時間が経ってたな。腹が減ったからご飯食べに行こうか。」
「そうしましょう。私もお腹が空きました。」
僕のリクエストで最初に行った魔物肉のお店にいくことにした。森の恵亭だったかな。だって、オーク肉のステーキが食べたかったんだよねー。
やっぱり美味しかったよ。また食べに行こう。
ニーナが言うように安かったんだ。あの味で、パンとサラダがついて銅貨八枚だなんて。
風呂に入りたいなぁと思いながら体を拭いてベッドに入る。左腕の傷がちょっと痛かったけど今日は良かったな。お金は稼げたし、角ウサギとはいえ狩れたし。あとは剣の練習か。あ、ニーナに魔法教えてもらうの忘れてた!まぁいつでもいいか。先ずは剣を使えるようにならないと。討伐依頼を受けれるようにならないとな。