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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百二十九話

「早く使ってみましょう!リュウジさんの部屋でいいですか?」


 ニーナがグイグイ来るな。


「タニアとガルトも呼んでみよう。どうせならみんなで見ないか?」


「わかりました!私、呼んできます!」


「あ…」


 ニーナは、止める暇もなく扉から出て行ってしまう。二人がどこにいるか知ってるのかな?


「ガルトさんはいませんでしたが、タニアさんはいました」


 隣の部屋の扉が閉まる音が聞こえたと思ったら、ニーナがタニアを連れてきた。


「何よもー、せっかく休んでたのにぃ」


 タニアは髪がボサボサで寝てたことが伺える。服もパジャマだしな。珍しく部屋にいたんだ。


「これから魔力付与器を使うんです。見たくないですか?」


「え~、あたしはいいや。んじゃ、部屋に戻るね」


 全く興味がなさそうなタニアは、欠伸をして後ろ頭を掻きながら部屋に帰っていった。疲れてるのかな?


「タニアさんは興味なしですか。ガルトさんはどうします?」


「ガルトは部屋にいなかったんだよね?じゃあ、二人だけでやってみようか」


「はい!」


 今からなら夕食の時間までまだ大分あるから一度やってみることに。


 ニーナは、備え付けの机にもう一つ椅子を持ってきて並べて置き、その座面をポンポンと叩く。隣に座れってことか。隣に座って、リュックからさっき買った魔力付与器とゴブリンの魔石を十個取り出す。


「とりあえず魔石を五個入れて炎の属性魔力を込めてみて」


 魔石一つでどのくらいの時間保つかわからないから複数個でやってみよう。


 箱の蓋を開けると中は赤いフェルトみたいな布が貼ってある。触ってみると柔らかくてすべすべしてる不思議な素材だった。


「ええと、魔石を入れたら蓋を閉めて、箱の両側を手で挟む、と」


 ニーナが手順を呟きながら手で箱を挟み込む。ニーナが目を閉じて集中すると魔力が手から魔力付与器へ流れるのが見えた。


「お?宝石が光ったよ」


 魔力を流し始めてすぐに蓋についている青い宝石が光を出し始める。キラキラ光って綺麗なもんだな。


 魔力を流し始めて五分くらい。


「光が消えたね」


「ほんとですね」


 途中から目を開けて魔力を流してたニーナは、光が消えたのを見て箱から手を放して蓋を開ける。


「わぁ」


「おお」


 箱の中の五個の魔石は綺麗な赤色に輝いていた。炎の属性魔力だから赤色なんだろうか。


「他の属性も試してみたいんですが、私は今のところ炎属性しか適応がないので出来ないですね。残念です」


「今回は五個の魔石だったけど、消費魔力はどのくらいだったの?」


「ええと、ほとんど減ってないと思います。強いて言えば普通の炎矢ファイヤアロー一回分くらいでしょうか」


 魔石五個で普通の炎矢一回分か…僕には使えないからよくわからないなぁ。魔石一個なら僕でも付与できるかな?


「僕もやってみていいかな?」


「リュウジさんが、ですか?」


「うん。生活魔法が使えるから出来なくはないと思うんだけど…」


 ニーナはうーんと言いながら悩んでいる。


「そう、ですね。やってみましょうか」


「よし!やってみよう。魔石は一個にして水を出す感じでやってみようと思うんだ」


 さっき出した余りから一個を箱の中に入れ蓋を閉じる。ついでに目も閉じる。


「で、両手で挟んで…魔力を流す、と」


 水を出す、水を出すと心の中で呟きながら魔力を練って掌から流すイメージで。


「あ、光りましたよ!リュウジさん頑張ってください」


「ううう…」


 結構な勢いで魔力が流れていく感じがする。背中が温かく感じる。なんだろう?


 あ…限界かも…


「消えました!大丈夫ですか?」


 ニーナの声が聞こえ、箱から手を放して息をつく。背中が温かったのはニーナの手だった。


「はぁー。もうちょっとやってたら確実に魔力が底をついてたなぁ」


 魔力がなくなると物凄く体がだるくなって、気を失う。そこからさらに絞り出そうとすると死ぬこともあるらしい。今は体が重だるく、もうちょっとやってたら気を失ってたかな。


「開けてみますね」


 ニーナが蓋を開けて魔石を取り出すと、透明感のある水色になっていた。


「きれい…」


 確かに綺麗な色だ。風属性なら緑色、土属性なら黄土色になるのかなぁ。


 僕でも魔石一つなら魔力を込められることが分かった。だるくなるからあんまりやりたくはないけど、暇なときにコツコツとやっておこう。


「私も生活魔法使えますから私がやりますよ。リュウジさんは無理しないでください」


「そう?ありがとう。でもたまには僕にもやらしてね」


「その時は私と一緒にやりましょうね。倒れちゃうといけませんからね」


 ニーナの頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。


「じゃあその時はお願いするとして、今から炎の魔石を試してみない?」


 一回は試運転をしておかないとぶっつけ本番じゃ危険だからな。


「わかりました。中庭に行きますか?」


「うん、宿の人に許可とってからにしよう」


 女将さんに許可を取り蒼のショートソードと炎の魔石を持って中庭に降りる。


「真ん中辺でやろう。ええと、ここを開けて…」


 剣の鍔部分にある丸い装飾をぱかっと開けてその中に魔石を収める。


「あとは蓋を閉めて、魔力を少し流すと…」


「うわぁ!刀身が赤くなりましたよ!なんだか熱いですね」


 透き通るような蒼色だった刀身が、真っ赤になって熱を放っている。普通に持っていても顔に熱を感じるくらいだ。


「あ!リュウジさん、刀身から魔力が出てますよ」


 ニーナに言われて魔力を見るようにすると、確かに刀身から魔力が立ち昇っている。


「一時的に魔法剣になったってことか?」


「そうみたいですね。私も魔法剣の実物は見たことありませんが、これなら実体のない幽霊も斬れそうですね」


「あとは、どれくらいの時間保てるか、だな」


 あの小さい魔石一個で何分この状態のままでいるか。あー時間計っとけばよかったなぁ。


「今からでいいなら数を数えましょうか?」


「僕も数えるからニーナも数えて」


「はい」


 この世界、懐中時計はあるけどものすごくお高い。一個白金貨ウン枚とするらしい。砂時計なんてものもまだない。ガラスの加工技術がそこまで発達してないからだ。だから大きな板ガラスなんてものもないよ。ガラスの破片を継ぎ合わせたステンドラスも高級品だ。あるのはポーションが入ってる無骨な瓶くらいだ。ワインだって瓶詰はほとんどない。樽に詰まってるな。


 暫く数えていたら百八十数えたところで刀身の色が元に戻った。


「魔石一個で三分ちょいくらいか。まあ、一回の戦闘の間は大丈夫か」


「そうですね。途中で切れちゃうと魔石を入れ替えないと駄目ですからね」


 魔石が収まっていた蓋を開けると中には何もなかった。


「あれ?何もないよ。魔石が消えた?」


「使い終わると無くなっちゃうんですね。どうなってるんでしょう?普通の魔道具なら魔石自体は消えることはないはずですが…」


「欠片も何もないね。ということは、この剣の魔石は使い捨てってことか。そうなるとゴブリンの魔石をもっと集めておく必要があるね」


 一回の戦闘で一個消費するとなると、迷宮にはすぐには行けないことになるか。でも、使わなきゃいけないときは幽霊系統が出た時だけって考えれば、そんなに沢山はいらない、かな?


「そうですねぇ、今何個あるんですか?」


「今あるのはさっき充填したのも含めて二十五個だね。ちょっと心許ないかな?」


 リュックに手を入れると中身が表になって頭の中に現れる。十五個あるな。さっき十個出したから全部で二十五個だ。


「とりあえず、残りも全部付与してしまいましょう。炎でいいですよね?」


「うん、よろしくニーナ。魔力は大丈夫?」


「ええ、まだ全然減ってないですよ」


 リュックから残りの魔石を取り出して十個ほど箱に入れる。


「十個入れると一杯か。これ以上入れると蓋が閉まらなくなるね」


「十個が限界ですね。さっきの倍の量だから倍の時間かかりますかね?」


「そうかもしれないね。そうすると十分くらいか」


「じゃあ、始めますね」


 蓋を閉じて魔力を流し始めるニーナ。すぐに宝石が光を発する。もう慣れたのかニーナは何も言わずに魔力を流している。


「あ、消えましたね。さっきより長かった気がしますね」


「確かに。でも倍もかかってないような気がするな」


 体感では十分弱、七、八分ってところだと思う。


「数が多いと時間が長くなるような気がするけど、反対なんだね」


「不思議ですね」


 蓋を開けると初めと同じように赤くなった魔石が輝いている。時間が短くてもちゃんと出来てれば問題ない。


「これは仕舞っとくね」


 出来た魔石をリュックに入れて、さて次は何をしようかと考え、ニーナを見る。ニーナは僕の横で嬉しそうに微笑んでいる。なぜか昔飼ってた犬を思い出した。


「可愛いねぇ、ニーナは」


「ふぇ!?あ、ありがとうございます」


 僕を見たままニーナの顔が真っ赤になる。僕を見つめるその瞳には何か決意が浮かんでいるように見えた。


「可愛いって、久しぶりに言われた気がします。リュウジさんに言われると物凄く嬉しいですね」


 真っ赤な顔のまま俯いてしまうニーナ。膝にあった手がきゅっと握りこまれるとばっと顔を上げて目を瞑って少し上を向く。


 まるでお願いしますって言われてるみたいだ。あー、女の子がここまでお膳立てしてくれたんだ、期待に応えないとな。どうにも僕は、この間までニーナのことを娘を見るような感じで見てしまっていた。




 まあ、僕の精神年齢は五十手前ってことになるんだけど、この体は十八歳くらいなので精神もそっちのほうに引っ張られるみたいだ。元々精神年齢は若いほう(成長してないともいう)だったと思うのであまり違和感はないんだけどね。告白されて承諾したときにニーナのことを確りと見ようとおもったんだ。ロリコンだとかそんなことも頭を過ったが、自分は十八って思いこませるようにしたからね。今はもう大丈夫だ。ニーナは可愛い!




 両手でニーナの頬を軽く持つ。ぴくっと緊張する様子を見せるニーナにキスをする。唇と唇だけのキスだ。音もなく離れるとニーナは潤んだ目で見つめてきたと思ったら僕の首の後ろに手を回してもう一回、今度は自分からキスをしてきた。


 それから何回かキスをしてたら目がトロンとなってきたニーナ。あ、これ以上は歯止めが利かなくなりそうだと思い、一度ニーナを僕から離し、抱きしめて背中をポンポンと叩くと落ち着いたのかいつものニーナが戻ってきた。


 この世界の女の人は積極的な人が多いと思うんだけど、なんでだろ?自分の気持ちをあまり隠さないことが多いように感じる。


「可愛いよ、ニーナ。ニーナの唇は柔らかいなぁ」


「えへへ、リュウジさんのも柔らかかったです。またキスしてくださいね。大好きです、リュウジさん」


 初めてなんですよと言いながら最後にもう一回キスをして嬉しそうに唇を触り、にへっと笑うニーナ。いや、もう、ほんと可愛いな!

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