第百二十七話
「あとは、回復できる人が入ってくれれば言うこと無しなんだけどなぁ」
「そうですね。誰か伝手のある人がいたらいいですね」
組合を出てタニアとガルトと別れて今は、ニーナと二人で防具屋に盾を買いに行く途中だ。
「タニアはあまり期待できなさそうだしな。ガルト、だれか知らないかな?」
タニアはこの街出身だけど、スラムの出だから神殿に聖職者の知り合いはいるが、冒険者にはいないらしい。もともと冒険者をやる聖職者がほとんどいないって話だ。回復術が使える人は冒険には出ないで神殿や街中で仕事をする。そりゃ、危険なところにわざわざ行かないわな。
「どっかに奇特な人はいないだろうか」
「あ、つきましたよ、リュウジさん。防具屋さんです」
「ん?あ、ほんとだ」
ラディッツ防具店と書かれた看板を掲げたこの世界では普通の防具屋だ。
扉を開けて店内に入ると所狭しと鎧や盾、籠手や兜が陳列されている。
「いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、ずんぐりした僕の肩くらいまでの身長で顔中髭だらけの人だった。
「おお、ドワーフの人か?」
「ん?ドワーフを見るのは初めてか?坊主もこの店に来るのは初めてだな。ワシはゴバルトと言う。しがない防具屋だ。よろしくな」
坊主って久々に言われたなぁ。精神年齢はもうすぐ五十なんだけどな。
「あ、ご丁寧にどうもありがとうございます。僕はリュウジといいます。こっちはニーナです」
「ニーナです。よろしくお願いします」
「おお、おお、かわいらしい嬢ちゃんだな。んで、今日はどうした?」
ゴバルトさんはニーナを見て小さい子をあやすように頭を撫でて相貌を崩している。
「あの、盾を見に来ました。金属製のものは何がありますか?」
「ほう!金属製の盾か!こっちだ」
ゴバルトさんは、店に入って左側のほうに誘導してくれる。
「予算はどのくらいだ?」
「えーと、金貨一枚までなら出せます。軽くて頑丈なのがいいですね」
ゴバルトさんは、ほう!と一声挙げて壁に掛けてある盾を一つ手渡してくれる。
「その予算ならこれだ。ミスリル製じゃあないが、魔鋼製だ。鉄製より軽いが丈夫さは保証してやるぞ」
手渡された盾は、厚さが三センチくらいあるのに思ったよりも軽くて取り回しは問題なさそう。
形は円じゃなくて八角形だ。持ち手はしっかりしていて持ちやすく、とてもしっくりくるな。
「これなら金貨一枚でいいぞ。本当はもう少しするんだが、まけといてやる」
この世界の人は、すぐ値引きしてくれるけど大丈夫なんだろうか。
「いいんですか?ありがとうございます。じゃあこれください」
「その盾を見るに、大蟻に食い千切られたんだろ?そいつなら頑丈だし曲がることもないぞ」
そいつは引き取ろうといって半分になってボロボロの革の盾を引き取ってくれる。
「ほう、こいつは中に金属片が張ってあったのか。いい仕事してるな。使いやすかっただろう?」
受け取った盾を見ながら感心している。
「ええ、今まで何度も救われました」
本当に何度も助けられたなぁ。これ革の盾がなかったら冒険者続けられていなかったかもしれない。
「気を付けて頑張るんだぞ。死なんようにな」
「ありがとうございます」
僕とニーナはお礼を言って店を出る。
「優しいドワーフさんでしたね」
「そうだね。次、何か買う時もここにしよう」
ドワーフってもっと偏屈な人かと思ってたけど、いい人で良かった。
「さ、じゃあ帰ろうか。疲れてるのに付き合ってくれてありがとね」
「いえいえ、リュウジさんのほうがお疲れでしょう?私はあまり動かなかったですから平気ですよ?」
ニーナも体力ついたなぁ。僕も前世の時とは別人なくらい体力もついたし筋力もついた。
「どこかでご飯食べてから帰りますか?それとも宿にします?」
「んー、その辺歩いてみて美味しそうなところがあったら入ろうか」
「はい!」
武装したままだからおしゃれな店は入るのを躊躇うけど(入れないわけじゃないけど周りの視線が刺さる)普通のお店なら大丈夫だ。
「リュウジさん、こっちに行ってみましょう」
ニーナと腕を組みながら引きずられていく。力もついたんだなぁ。とても嬉しそうだからこのままにしよう。
翌朝、一階の食堂スペースに行くとタニアとニーナが朝食を食べていた。
「おはよ、早いね、二人とも」
「おはようございます」
「おはよ。ねえ、リュウジ、鉄級試験の時手に入れた地図覚えてる?」
鉄級試験の時に盗賊の拠点から手に入れた地図か。あれがあったからこの街に来たんだよな。
「覚えてるよ。記されてた場所は、確かこの街の南東方向にある半島だったよね?」
ニーナの隣に座ると朝食が出てきた。パンとスープの簡単なものだけどとても美味しい朝食だ。
「そうです!その場所の近くに迷宮があるみたいなんです」
「昨日、情報収集してたらそんな話を聞いてね。詳しく聞いてみたらちょっと前に見つかった迷宮がその場所と一致してたんだよ」
「え?あの地図ってそんなに新しかったっけ?」
地図を見つけたとき、この世界の地理は全然知らなかったし、羊皮紙の古さなんて全く分からないから
気にしてなかった。
「そんなに新しくないよ。なんなら結構古いもんだったからね」
「そうなると、あの盗賊たちも偶然手に入れたのかもしれないね。で、行きたいんだよね?」
そんな話するってことは、そういうことなんだろう。
「もちろん!いいでしょ?ニーナも賛成だって」
隣でニーナも大きく頷いている。嬉しそうだな。
「僕も異論はないよ。ガルトにも聞いて賛成だったら行くことにしようか」
「やった!」
「ガルトが賛成して、買い出しとかの準備ができたら出発することにしようか」
「早く組合に行きましょう。もうガルトさん来てるかもしれないですよ!」
勢いよく立ち上がるニーナ。
「待って。まだ食べ終わってないから」
まだ半分しか食べ終えてないよ。
「あ、ごめんなさい」
「ニーナ焦りすぎ。楽しみなのはわかるけどね」
恥ずかしそうに頬を染めるニーナ。照れ笑いを浮かべてゆっくりと席についていた。
「いいぞ」
組合につくとガルトがロビーで待っていた。朝のことを話すとあっさりそう言った。
「いいの?聞いといてなんだけど、何も収穫がないかもしれないんだぞ」
「ああ、気にするな」
冒険者なんてそんなもんだろとでも言いたげなガルト。
「よし!そうと決まれば、今日は休みにして買い出しに行こうかと思うんだけど、どうかな?」
「さんせー」
「いいと思います」
「わかった」
「地図の迷宮に行くには何日かかるかわかる?」
買い出しに出たのはいいけど、道程がわからなかったからタニアに聞いてみる。きっと知ってるはず。
「んーと、確か…歩いて七日だったかな?」
「馬車とかないの?」
「うん。まだないって。借りる?馬車なら二日か三日だと思うよ。でも途中から道がないみたいだから駄目か」
「道が無くてなんで見つけれたんだろうね」
「なんでも、依頼で近くの森に入っていって迷った末にって聞いたね」
「偶然なんだ…」
偶然でも見つけられたら凄いもんだ……ん?
「じゃあ、この町に来てすぐ探してたら、僕たちが最初に見つけてたかもしれないってこと?」
「そうなるかな」
「うわぁ。それは残念だったなぁ」
僕が悔しがっているとタニアに慰められる。
「まあ、そんなもんだよ。まだガルトが入ってなかったし、見つけても攻略できなかったからどっちみち無理だったって」
「そうですよ、無理したら駄目ですよリュウジさん」
ニーナにまで…
「ま、気にしてもしょうがないか。さあ、買い出ししよ!」




