第百十八話
やっぱり新しくできた道のほうには魔物がいる確率が高いってことが分かった。右の道は、ゴブリンと戦ったちょっと先で消えてたんで戻って左の道を行くことにした。
「結構たまったね。そろそろ帰る?」
「そうだね。そろそろ帰ろうか。ちょうど予定してた時間くらいだし」
もう時刻は昼を過ぎた頃だろか。あれからゴブリンと三回、森狼と二回となんとオークを二匹狩ることができた。背嚢は膨らんでないけど森狼八頭とオークが二匹リュックサックに入ってる。
「オークが出てきたのには吃驚したけど、前よりもすんなり倒せた気がするなぁ」
ゴブリンと戦ってたら横からオークが二匹襲ってきたんだよね。ゴブリンがあと一匹ってところだったからよかったけど、連戦だったから疲れたよ。
「あの時は私が襲われてたんですよね。リュウジさんが来てくれた時は、物凄く嬉しかったですよ。だって、もう駄目だって思いましたからね」
あの時はもうニーナが危ないって気持ちばっかりが焦ってた覚えしかないけど、オークと初めて戦ってよく勝てたなぁって思う。
「あの時のリュウジもすごかったけど、今は安定して戦えてるし安心して見てられるよね」
「それだけ強くなったってことかな?装備も良いものにしたし、体力もついてきたと思う」
こういう時に自分が強くなったって感じれるんだな。毎日の訓練やっててよかった。
「よーし、帰ろうか。あたしについてきて」
「え!あれ?」
来た道を戻ろうとして振り返ったら、その道が消えていた。道があったところにも木が生えていつの間にか森になってる。
「あー、道が消えちゃったかぁ。ま、大丈夫でしょ。二人ともしっかりあたしについてきてよ」
タニアは落ち着いている。僕とニーナは、頭の上にはてなマークが浮かんでるような顔をしてるんだろうなぁ。
「こんなすぐに消えちゃうんだね。タニアがいなかったら帰れないぞ」
「普通に森になってますね。これは…私、ここで一晩明かす自信ないです」
寝て起きたら全然違う景色に変わってるってこともあるのか。それはちょっと怖いなぁ。
「あはは、そん時は町に泊まればいいんだ。あたしたちは結構お金もあるし、馬鹿なことしなきゃ大丈夫だよ。それにみんながよく通る道は消えないって言ったよね?その道には野営地だってあるからさ、もし間に合わなくなったら町に向かう道まで戻ればいいんだ」
「そうなんですね。それなら大丈夫かもしれません」
ニーナはタニアの言葉にほっとしたようで嬉しそうに微笑んでいる。しかし、迷宮ってどこもこんな風なんだろうか。
それだとちょっと認識を改めなくちゃならないぞ。帰ったら三人で話をするか。
それからすぐに元の道まで出ることができた。
「さあ、ここまで来れれば出口はもうすぐそこだよ。あたしがいて良かったろ?」
「はい!もうタニアさんがいないと、ここでは冒険者やっていけませんね!」
本当にそう思う。僕たちも慣れる日が来るんだろうけど、暫くはタニアに頼りきりになりそうだ。
深森迷宮を出て、歩いてフルテームまで戻る。空を見上げると茜色に染まっていた。馬車なら早いんだけど、この時間にはもう馬車もう走ってないんだよなぁ。ほかのパーティも歩いて帰る姿が見える。
「この時間なら日暮れまでには帰れそうだね。リュウジのおかげで荷物を持たなくてもいいからかなり楽ができるね」
それだけは本当に有難い。普通だったら森狼八頭とオークを二匹なんて荷車でもないと持って帰れない。それだけじゃなく、冒険に必要な物品をパーティ分全部を持ち運べるから疲労感が全然違う。
「リュウジさんのりゅっくさっくのおかげで私でも疲れることなく依頼を熟せますからね」
「冒険の途中でも美味いもん食えるし、いいことずくめだよね」
「お前はほんとに役立たずだな!」
「ほんとだぜ!もう明日から来なくていいかんな!」
「組合に新しい盾役募集かけとこうぜ」
ちょっと前のほうにいた四人組のパーティから罵声が聞こえたと思ったら、三人ですごく背の高い大きな盾を持った男を詰なじっていた。
背の高い男は、何もしゃべらずただ黙って三人を見下ろしているだけだった。
罵声を浴びせていた三人は、男を置いて先に行ってしまった。
「なにあれ?酷いこと言ってた!何やったかわかんないけどあんなに言わなくてもよくない?」
タニアが一方的に言われていたことに腹を立てている。
「話、聞いてみるか?」
「そうしましょう」
三人でその場に立ちすくしている男に近づくとこちらに気が付いたのか軽く頭を下げてくる。
「ごめんね突然。なんだか酷い言われようだったから気になって」
僕が声をかけると、その男は一つ頷く。
「僕はリュウジ。こっちはニーナとタニア。君は?」
「俺は、ガルトだ」
ガルトによると、さっきの三人とは最近組むようになったそうだ。彼は、重戦士、所謂盾役だ。どおりで大きな盾を持ってると思った。
「なんであんなこと言われてたんだ?」
「よく…わからん」
ガルトは少し考えた後、ぽつりと一言だけ話す。コミュニケーションが苦手なのかな?寡黙な人なんだろうか?ま、意思疎通が出来るならいいか。
「ガルトさんは、盾役なんですよね?それが関係してませんか?戦闘で何かあったとか」
ガルトはニーナに問いかけられると暫し黙って考える。
「…ああ、そういえば、もっと喋れって言われたな」
「そうなんですか……どういうことですか?」
ニーナの最後の言葉は僕に向けたものだ。
「きっと、もっと意思疎通を図ってほしかったんだと思うよ。戦闘中は中々難しいけど自分が動くときとかに声を出せば、ほかの仲間も動きやすくなるんじゃないかな?」
僕たちは自然と声が出てるから気にしたことはなかったけど、何も言わずに動かれたらびっくりするなぁ、きっと。
「そうか………わかった。ありがとう」
ガルトは決してコミュニケーションが苦手ってわけじゃないけど、あんまり喋らないから誤解されやすいんだろうな。
「まあ、今度から気を付ければいいことだしな」
「そうだな」
「リュウジ、ちょっと急ごう。門がしまっちゃうかも」
タニアに急かされて歩く速度を上げる。ガルトも一緒に付いてくる。
急ぐといっても少し早く歩いただけで走ったりしない。門の前で大行列ができていたら、門の周辺で野宿でもしよう。
「良かった。間に合いましたね」
「僕たちは組合に行くけど、ガルトはどうする?」
「行く」
一緒に行くってことだろう。
「じゃあ行こうか」
組合に着いたところでガルトとは別れた。これからどうするのか聞いてみたら、またどこかのパーティに入ると言ってたけど…大丈夫だろうか。
組合の受付はまたミレナさんだった。
「ミレナさん、深森迷宮に行ってきました。買い取りをお願いします」
「はい、承りました。ところで、先ほどガルトさんと一緒にいましたが、彼大丈夫でしたか?」
「? 大丈夫とは?」
「あ、いえ、また彼が一人で帰ってきたので何かあったのかと思いまして…」
また一人でって…ガルトっていつもああなのか?
「ああ、僕達が迷宮から帰ってくる途中で仲間から、もういらないって言われてたんで話を聞いたんです」
「…そうですか………」
ミレナさんはそう言ったっきり俯いてしまう。と、思ったら急に顔を上げて僕を見つめてくる。
「あの!………もしよかったら、彼のこと気にかけてあげて貰えませんか?」
そこからミレナさんがガルトの話を始める。




