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45歳元おっさんの異世界冒険記  作者: はちたろう
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第百十六話

 朝食をしっかり食べて、組合にやってきた。今は依頼が張り付けてあるボードの前だ。


「うーん、どの依頼も迷宮関連ばっかりだな。薬草採取とかならあるけど…」


 フルテームの周りには迷宮が三か所ある。だからなのか冒険者組合の依頼板には迷宮から出る素材の納品依頼が多い。でも基本的には持ち帰った素材はすべて買い取ってもらえるようだ。持ち帰った素材にあった依頼が達成される仕組みになっている。


 気になるのは薬草採取の依頼料がセトルの町より高いこと。葉三枚一束で銅貨三枚とセトルの三倍だ。


「薬草採取の依頼料が高いんだ。みんな迷宮で怪我することが多いからか?」


「そうそう。あたしもセトルの町に行ったとき安くてびっくりしたんだ」


「それで、どうしますか?一度迷宮に入ってみますか?」


 異世界で冒険と言えば迷宮探索!行ってみたい。


「そうだなぁ…僕は一回行ってみたいと思う」


 ニーナと二人でタニアを見る。


「あたしもいいと思うよ。行くならどこがいいかってことなんだけどさ、この周辺にある迷宮は、海岸にある海底迷宮と東の森にある深い森の迷宮、通称深森(ふかもり)迷宮、西の半島の山の中にある山岳迷宮の三つなんだ。それでね…」


 タニアの説明によると、 


 海岸迷宮は、水系統の魔物が多く存在していて、現在は二十階層まで踏破されているみたいだ。下に行くほど強い魔物がいるし、水没してるところが多いみたい。全階層数はわからない。


 深森迷宮は、東の森の中に出入り口があり、迷宮の中も森の中になってるらしい。魔物もいるが動物もいるみたいで、毛皮や肉、牙や骨なんかも持って帰れる。稼ぐならここがいいみたい。ここは階層が無くてひたすらに広いらしい。空もあって夜もあるんだって。迷宮の中に住んでる人もいて、小さな集落を作ってるらしい。もう一つの世界じゃないかって言われてるそうだ。でも出入り口は一つしかなくて、あまり奥に行くと迷って出られなくなることもあるんだって。


 最後の山岳迷宮は、西にある半島の山脈の中腹に入口があるそうだ。ここは入り口から暫くは自然の洞窟だけど、進んでいくと何かの遺跡に繋がってるらしい。ここもまだ全部調査されてなくて、どれだけの広さがあるかもわからないそうだ。


「三か所ともまだ全部攻略されてないんだけど、どこでもそれなりには稼げるよ。山岳迷宮はちょっと遠いし、海岸迷宮は他の二つに比べると難易度が少し高い。だから森の迷宮が一番いいと思う」


 迷宮が三か所もあるのか。どこに行くのがいいんだろう?タニアの言う通り深森迷宮がいいのかな?


「でも、山岳迷宮ってあの地図の近くじゃない?」


 あの地図には、この周辺の地形が書かれていた。この辺りの地形は静岡県の伊豆半島周辺に似ていて、その付け根の所にフルテームの街がある。富士山はないけどね。その半島の中央にあるのが結構高い山々が連なる山脈で印があるのは半島の先の方だ。山岳迷宮は真ん中あたりにある。


「私たちはこの街には来たばかりですし、遠出はもう少し慣れてからにした方がいいと思います」


「そうだよ。あたしもそこには行きたいけど、二人がこの辺りに慣れてからの方がいいと思う。特に迷宮の中の魔物は今までのと違うからさ」


 今までの魔物というと、ゴブリン、角ウサギの魔物化した個体にホブゴブリン…そんなもんか?あ、オークもいたな。いたよね?


「よし、じゃあ深森迷宮に行ってみようか。今から行っても大丈夫?」


 まだ早い時間だから行けるか。


「今ならきっと深森行きの乗合馬車があるよ。でもちょっと急がないと間に合わないかも」


「急ぎましょう、リュウジさん。受付してきてください」


「わかった。行ってくるよ」


 ニーナに急かされて空いてる窓口で急いで受付を済ませる。昨日と同じミレナさんだった。


「あら、おはようございます。今日はどうされました?」


「あ、おはようございます、ミレナさん。今日はこれから深森迷宮に行ってきます」


「はい承りました。行ってらっしゃい、気を付けて行ってきてくださいね」


 ミレナさんが笑うと滅茶苦茶可愛い!顎の下を撫でたくなっちゃうじゃないか!


「ぐっ、い、行ってきます…」


 撫でたい衝動を何とか我慢して二人の所に戻る。あ、危なかった…よく我慢できたな、僕。


「なんですか!あの可愛い生き物は!あんなの反則じゃないですか!」


 戻ってきたらなんだか怒っているニーナがいた。そう言えばこっちにも可愛い生き物がいたね。こっちは撫でても大丈夫だから撫でておこう。


「あ、なんですか!?なんでっ、撫でるんですかっ!リュウジさん!」


 ニーナの頭を撫でくり撫でくりしてたら怒ってたニーナの顔がだんだん耳まで真っ赤になって大人しくなった。


「ずるいです…」


 ニーナは、笑顔で撫でる僕を上目遣いで見てから抱き着いてきた。


「あはは!乳繰り合うのはそれぐらいにして、急ごうか二人とも。いまなら間に合うと思うよ」


 乳繰り合うって…随分と古い言い回しだなぁ。






 街の東側にある門まで来た。ここからなら深森迷宮は乗合馬車で一刻、つまり鐘一つ分で着く。


「お?兄ちゃんたち乗るのかい?まだ空いてるぜ」


 僕たちに声をかけてきたのは、見た目はおじさんだが筋肉が凄い若々しい御者だった。


「三人お願いします」


「片道銅貨六枚だ。…毎度!乗ってくれ、もう出るからよ」


 馬車に乗り込むと中には五人の冒険者が座っていた。馬車は十人乗りで僕たちが座るとあと二席だからもう出発するみたいだ。


 先に乗っていた冒険者に会釈しながら席に着くと御者台に男が座る。


「じゃ、出しますぜ」


 馬車が動き出してすぐに目の前にいた冒険者のうち戦士の格好をした男が話しかけてきた。


「君たちはあまり見かけないけどこの街は初めてかい?」


 年の頃は二十歳くらいか。今の僕よりも少し年上に見える。でもこの世界の人はちょっと老けて見えるから実際は同じくらいかな?


「はい、昨日街に着きました。早速迷宮に行こうと思って」


「で、選んだのが深森迷宮か。いい選択だな。死なないようにな。深森迷宮は、他と比べれば比較的優しい迷宮だから大丈夫だと思うが、気を付けるに越したことはないからな」


 見た目は、いかつい系の人だけど、内容はこちらを心配してくれているとても優しい人だ。


「ありがとうございます。深森迷宮には中に町があるって聞いたんですけどほんとですか?」


「おう、あるぞ。でも物の値段が滅茶苦茶高いから持って行けるならフルテームで買っていったほうがいいな。宿もあるが泊まらんほうが無難だと思う。あそこを使うのはもっと慣れてからにした方がいい」


「そうなんですか。親切にありがとうございます。あ、僕、リュウジって言います。鉄級になったばかりです」


 今更だけど名乗ってないことに気が付いた。ニーナとタニアもそれぞれ名乗る。


「そうか。俺たちは『草原の狼』だ。俺はニランジャン、鉄級の戦士だ。で、こいつが…」


 ニランジャンが率いる『草原の狼』は、男五人組で構成は戦士のニランジャン、剣士のアレクス、盗賊のニヤットに魔法使いのカストロと薬師のオマルだ。この街で育った幼馴染の五人らしい。多いな、幼馴染の人たち。ライルとノルエラさんもそうだったもんな。


「薬師?」


 薬師って街中でポーションを作ってる人たちだよな。冒険者にもいるんだなぁ。


「ああ、オマルか。珍しいだろ。こいつは変わり者でな、剣も魔法もからっきしだったんだが、どうしても冒険者になりたいからって言って薬師になんてなったんだ。そもそも冒険者には回復術師が少ないからな。戦闘ではあまり活躍できないが、そこらへんで採れる薬草からポーションを作れるから補充が出来ない遠征なんかでは凄く重宝するぞ」


 オマルの方を見てみるとひとりだけ荷物が多い。薬瓶とか薬研とか持ってるんだろう。そりゃあ荷物も多くなるか。


「あはは、みんな冒険者になるって聞いたときに、僕もどうにかしてついていきたかったんだ。で、考えた結果、薬師になったんだ。腕っぷしには自信はないけど、自衛するだけの力はあるからね」


 こう見えて鍛えてるからさって言いながら嬉しそうに笑う笑顔は輝いて見えたよ。凄い覚悟だ。


「君たちの組名パーティ名はなんていうんだ?」


 ニランジャンに聞かれてしまった。まだ考えてる最中なんだよな。


「まだ決めてないんだ。中々いい案が浮かばなくて」


「そうか。でも組名はあった方がいいぞ。それが有名になれば仲間に誘いやすくなるし、いろんなところで話が通しやすくなるからな」


 タニアが、だから早く決めればいいのにって目で訴えてくる。分かったからその目はやめて。常々考えてはいるんだけど、センスの無さは生まれつきなんだよ…


「まあ、もうちょっと仲間が増えたらしっかり考えてみるよ」


「ほんとだな?リュウジ。絶対考えてよ」


「わかってるよ。タニアとニーナもいい名前が思いついたら教えてね」


 自己紹介が終わって雑談していたら深森迷宮に着いた。草原の狼の皆とはここで別れる。彼らは迷宮の奥へ行くそうだ。奥の方には手強い魔物が多くいるし、森の中には宝箱なんかもあったりするらしい。


「じゃあな。三人とも頑張れよ」


「ああ、ありがとう。そちらも気を付けて」


 目の前には地面に開いた穴があって、下に降りる階段がある。発見された当初は、ただの縦穴で梯子を使って降りていたらしいが、いつの間にか階段になってたということだ。


「初めての迷宮だね。楽しみだ」


「そうですね!早く行きましょう!」


「二人とも楽しみなのはわかるけど、これは迷宮だからね。気を引き締めていくよ」


 ワクワクが止まらない僕とニーナを諫めるタニア。そうだった、これは危険が一杯の迷宮だった。


 んー、だけどさ。この胸の高鳴りは押さえられないよ!

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