第百十五話
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします。
組合を出て待ち合わせ場所の喫茶店に入ると、すぐに気が付いたのかニーナが笑顔で手を振っていた。
「あ、こっちですよー」
ニーナが僕達に気づいたら他の皆もこっちを見る。なんだかこれだけの人数に一斉にみられると視線に圧倒されるなぁ。
「おう、お前ら報酬だぞ」
ライルが暁の風の皆がいる席に行って報酬を取り出す。
「僕も貰ってきたよ。いま配ろうか?」
「いや、宿を決めてからにしよう。リュウジたちも何か頼む?」
タニアから渡されたのは、メニューが書かれた板。どんなのがあるんだろう?
「水…が、銅貨五枚って、こんなに高いの?あれ?葡萄酒ワインの方が安いんだ。なんでだろ?」
セトルの町だと同じくらいの値段だった。この世界の水はただじゃないんだよな。
「この辺りは井戸を掘っても海水が混じっちゃうからね。葡萄酒は葡萄が出来れば作れるし、街の近くに葡萄畑があるからそっちの方が安いんだよ」
さすがタニア、住んでただけのことはあるなぁ。
「じゃあ、葡萄酒を頼もうかな」
喫茶店で暫くお喋りして解散となり、それぞれ宿屋を決める。
僕たちは前にタニアが使っていた宿「海猫の憩い亭」にした。ここは、値段はお手頃だけど料理が美味しいんだって。もちろん部屋は別で、と言いたかったけどニーナとタニアの希望で三人部屋になった。
「明日から依頼受ける?」
「そうですねぇ、一度組合に行ってから決めませんか?」
「そうそう。あの地図のこともあるからさ、いい依頼があったら受ける、でなかったら地図の場所の情報を集めるでどう?」
タニアは鉄級昇格依頼の時に見つけた地図のことをしっかり覚えてたな。まあ、忘れるわけないか。僕も楽しみだからな。危険な場所じゃないといいけど。
「じゃあ、そういうことでご飯食べに行こう」
「はーい!」
海猫の憩い亭は、この世界では一般的な一階が食堂兼酒場になっている宿だ。一泊二食付きで大銅貨三枚と格安。しかも出てくる食事は美味しいらしい。
食堂に行くと結構な賑わいで空いてる席が…あ、宿泊客用って書いてある席がある。あそこ使えるのかな?
「すいません、宿泊してるんですが、あの席使えますか?」
近くにいた店員さんを捕まえて聞いてみる。忙しそうだなぁ。
「え?…はい、いいですよ!どうぞ!」
店員さんは僕たちを見て、すぐに快諾してくれた。宿泊客の顔覚えてるのかな?
「空いてる席使えてよかったですね。はいこれ、お品書きメニューです」
「ありがとう、ニーナ。一緒に見ようか」
メニューに書いてある料理は、ほとんどが魚料理で肉料理もあったけど品数が少ない。さすがは港町だなぁ。
煮魚、焼き魚、これはカルパッチョかな?一品料理とパンとスープのセットを頼む形式みたいだ。
「揚げ物はないんだ。アジフライとか食べたいなぁ」
鯵があるかわからないけど、似たような魚ならありそうなもんだけどな。油が高いんだろうか?ちょっと期待してたんだけどなぁ。
「アジフライって何ですか?」
「またリュウジの美味しいもんの話か?」
僕の独り言に二人が反応した。
「え?…ああ、魚を油で揚げた料理でね。小麦粉とパン粉と卵で衣を作って油で揚げるんだよ。揚げたてはサクサクして美味しいんだ」
「それ食べたい!作ってよリュウジ!」
「ええ?作ろうと思えば作れるけど、生卵がだめだよね?」
「卵のことなら大丈夫!生活魔法に浄化の魔法があるから!」
タニアが胸を張って得意気だ。浄化の魔法なんてあるんだ。でも、どうやったら使えるようになるんだろう?
「浄化の魔法って、誰か使える人知ってるの?ニーナは使えるの?」
「私は使えませんよ。セトルの町では使える人はいませんでした」
「そうなんだ。タニア?」
僕とニーナがタニアを見ると、タニアはまた得意気に胸を張ってこう言った。
「あたしの知り合いに使える人がいるからその人に教えてもらう」
「注文は決まりましたか?」
さっき聞いた店員さんが注文を取りに来てくれた。
「はい、僕は焼き魚でお願いします」
「あたしは煮魚で」
「私は焼き魚でお願いします」
「わかりました。お待ちくださいね」
それぞれお金を払う。この世界は先払いが基本になっている。後払いだとそのまま帰っちゃう人が多いんだって。
「お待たせしました。こちら本日の焼き魚と煮魚です」
頼んだ料理が来た。ニーナが待ってましたとばかりに目前に置かれた料理を覗き込む。
「うわぁ。美味しそうですね」
それぞれの前に置かれた皿の上には、塩が塗されてこんがり焼かれた一匹の魚が乗っている。
なんだか斑模様で美味しくなさそうなんだけど…模様の色が凄い。
「なんていう魚なんだろう?」
「ん?それは…ギルコっていうやつだな。白身の魚で美味いよ」
タニアは自分の頼んだ煮魚を食べながら教えてくれる。そっちもうまそうだ。今度頼もう。
前世を含めて今までに見たことがない外見だったんで大丈夫だろうかと思ったんだけど、タニアが美味いっていうなら食べてみるか。
「あ、これ美味しいですね!身に弾力があっていい歯ごたえです」
先にニーナが食べていた。ニーナも見たことがないだろうによく食べたな。
僕もフォークとナイフで何とか食べてみる。箸を出そうかな。
「うん、これは美味いな。確かに身がぷりぷりだ」
魚なのに海老の身みたいに弾力があって歯ごたえが美味しい。噛むとじゅわっと魚の旨味が出てくる。お世辞抜きで美味い。
「どう?フルテームで採れる魚は美味いだろ?」
「はい!とっても美味しいです!タニアさんの煮魚も美味しそうですね。明日頼んでみます」
ほんと料理がおいしくて良かった。いい宿だったな。
「ありがとう、タニア」
「なんだよいきなり」
「いや、いい宿だなって思ってさ。タニアのお勧めだったし」
久しぶりに落ち着いた環境で食べる美味い飯は、本当に有難いなぁ。その日は三人で楽しくおしゃべりしながら床に就いた。
目が醒めると目の前にニーナの顔があった。
「おはようニーナ」
「おはようございます。リュウジさん」
「なんで一緒に寝てるの?」
昨日寝るときはそれぞれのベッドで寝たはずなんだけどな。
「朝早くに目が醒めて、リュウジさんを見てたら、つい潜りこんでしまいました。駄目でしたか?」
この世界の女の人って皆積極的なんだろうか。それともニーナが特別?
「ダメじゃないけど…」
「じゃあ、いいですよね」
ニーナが抱き着いてくる。まあ、付き合ってるし、ニーナは可愛いからなぁ。怒ることでもないし、タニアに見つかると恥ずかしいくらいか?
そう思ってタニアの方を見るとばっちり目が合って。
「おはようタニア」
「おはよう、二人とも。ニーナ、頑張れ」
タニアはニーナの味方なのか。僕もニーナをぎゅっと抱きしめたら、ニーナは僕の胸に顔を埋めながら深呼吸を繰り返してた。臭くないかな?
「よし、三人とも起きたことだし、朝ごはん食べて組合に行こうか」
「ああ、もうちょっと…」
「これは…明日から部屋を分けるか?」
タニアがそんなことを言い出した。
「いや、別に分けなくてもいいんじゃない?宿代が高くなるよ?」
「だって、あたしが寝れなくなったら困るじゃん」
自分の心配か!まだそんなことはしないつもりなんだけど…ニーナが積極的だからなぁ。
「まあ、あたしは気にしないことにするよ。ニーナ、その時は教えてね、あたし出掛けるからさ」
「ふふ、ありがとうございます、タニアさん。でもその時はお願いします」
二人の会話が怖い。早く新しい仲間を探さなくては。




