第百十三話
「あ、リュウジさん!街が見えましたよ!」
小高くなっている丘を登り切ったときキラキラと煌めいている海とそこに浮かんでいる帆船、オレンジ色の屋根と家々の白い壁が陽の光を反射して眩しい街が見えた。
「はー、綺麗な街だなぁ。海もキラキラしてて綺麗だし、写真で見た地中海の街みたいだ」
海にはあまりいい思い出がなくてそんなに好きじゃないんだけど、こうして見る分にはとても綺麗だと思う。
「あたしもそう思うよ。この街はすごい綺麗なんだ。遠くから見てればね」
タニアの言葉になんだか棘があるなぁ。
「遠くからって、街に入ると綺麗じゃないんですか?」
「そうさ。ここからは見えないんだけど、海岸沿いにスラム街ができててね。あたしもそこにいたんだ」
タニアってスラム出身だったのか。
「そうなんですか!?そんな風には見えないですね」
ニーナも吃驚してる。ほんとにそんな風には見えないよ。
「戦争孤児だったからね、でもいい師匠にも出会えたし、そのおかげで仕事が出来てお金も稼げるようになったしね。しかもニーナたちと組んでからさ、この稼業でもすごい安心できるようになったんだよ」
冒険者なんて職業は命がいくつあっても足りないからなぁ。僕も何度か死にかけたし。
「いい出会いがあってよかったなぁ。僕たちもタニアと出会えてよかったよ。今じゃ、タニアがいないことなんて考えられないよ」
「そうです!タニアさんがいないと冒険者を続けていける気がしません!」
タニアの索敵能力と遠距離攻撃がなければ、今までの戦いを生き残れなかったと思う。これからもお世話になることは間違いない。
「ありがと。そう言ってもらえるとあたしも嬉しいよ。これからもよろしく」
そういって笑うタニアの頬は照れて赤く染まってたよ。
「でね、あたしが言いたかったことは、スラムには近寄らないほうがいいから気を付けるんだぞ、特にリュウジ。絶対財布掏られるからな。街中でも気を付けるんだぞ」
「あー、僕もそう思う。財布、しまっておくか」
財布って言ってるけど、要は小さめの麻の袋だ。口を縛ってそれをベルトに挟んで持ち歩くのがこの世界の常識なんだよなぁ。セトルの町にはスラムなんてなかったし、掏りを行う人もいなかった。いなかったよね?出会わなかっただけかも…
「セトルの町は平和だったんだなぁ」
「ああ、あたしも行ってから驚いたよ。信じられないくらい平和な街だったな」
「私もずっと町から出たことが無かったのであれが普通だと思ってました。気を付けないといけませんね」
そうかぁ、セトルの町はこの世界からすると変わった町だったのかもしれない。
「各護衛の代表の人はこちらに来てください」
商隊の人から呼び出しだ。なんだろ?
「ちょっと行ってくるよ」
「はい、行ってらっしゃい」
二人に声をかけて先頭付近まで走っていくと、暁の風と赤の牙の二人とリッツモルさんがいた。
「皆さん集まりましたね。あと三刻程度で街に着きますが中に入るまで護衛をお願いします。町に入った所で依頼完了証を渡しますの忘れずに受け取ってください。それでは街に入るまでよろしくお願いします」
「はい!」
ここまで無事に依頼を遂行出来てライルもノルエラさんも笑顔だ。でも、もうちょっとで終わりだからって気は抜かないよ?この辺りは大した獣や魔物、盗賊もいないみたいなんだけど何が起こるか分からないからね。
「やっと終わるな。ノルエラ、我儘いうんじゃないぞ?リュウジも気を抜くなよ。街に入るまでが任務だからな」
「わかってるわよ。私だって成長してるんだからね!」
ノルエラさんの癇癪が出なくてよかったなぁ。ちょっと垣間見えたけどライルが酷くなる前に納めてくれたからな。
「うん、わかった。長かったなぁ」
「そうだな。でもよ、みんな無事で良かったな」
「ほんとに。初めての護衛依頼を無事終われるのもライルのお陰だ。ありがとう」
「なぁに言ってんだよ!リュウジのお陰でいい旅だったぜ。また一緒にやろうぜ。そんでよ、物は相談なんだがよ……あのまっとれすっていうの譲ってくれないか?」
「うーん、申し訳ないけどうちの人数分しかないから無理だと思うぞ。僕もないと宿で寝られないからさ」
タニアもニーナも絶対嫌だって言うに決まってるからなぁ。マーリさんが売り出すのを待ってもらうしかないな。
「そうか………いや、無理言ったな。いつか売られるんだよな?」
「ああ、それは間違いないけど、いつかは分からないよ?」
ライルは、「あいつらがっかりするなぁ」って溜息つきながら戻っていった。
「リュウジ君、私たちも世話になったね。ニーナ君にもとても世話になったしね。あの魔法は素晴らしいよ!あとでニーナ君にも直接言うけど、これからも私たちと仲良くしてほしい」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いしますね。ノルエラさんたちは暫く街にいるんですか?」
「そうね。私たちは迷宮に行くために来たから、暫くはいるわよ。一緒に潜る?」
赤の牙と一緒に迷宮探索か、いいかもしれないな。
「その時はよろしくお願いします。僕達も迷宮探索は目的の一つですから」
「んふふ、言質はとったわよ。よろしくね、リュウジ君」
ノルエラさんも「楽しみだわー」と言いながら戻っていった。僕も皆の所に戻ろう。
「うわー、すごい行列だねぇ。入るのにどれくらいかかるんだろ」
「セトルの町とは違いますね。こんなに人が多いなんて…」
やっとフルテームに着いた。着いたけど街に入る人たちで長蛇の列ができていた。
「この街だとこれくらいは普通だよ。こっちの門はいつもこんなもんさ」
タニア曰くここは正門らしい。フルテームの街は南側が海に面してるから北側の正門のほかに西側と東側に門があるみたいだ。商隊の馬車や初めてこの街に来た人たちは正門を通らないといけないらしい。
西門と東門は冒険者や街を出ていく商隊は通れるようになっているんだって。なんでだろ?タニアに聞いてみよ。
「タニア、なんで街に入れる門が一か所なの?」
「それなんだけど、正門が一番大きくて馬車が三台くらいすれ違えるんだ。あとの二つは馬車一台分の大きさしかないんだよね。だから正門は出入り口に使って、西門と東門は街を出ていく人たちが使ってる。でもね、ほんとの所は詳しく知ってる人がいなくて分からないんだって。あたしもそう聞いてるんだ。あ、初めて街に来た人はここでしか入街登録してもらえないからここからしか入れないよ」
「西門か東門に行ってもこっちに行けって言われるってこと?」
「そうそう。それが分かるようにここの門は豪華な造りになってるんだって。衛兵もたくさんいるよ。あ、初めて入る人は銀貨一枚の税金とられるから準備しといてね」
「初めて街に来た人が分かるのか?」
住民台帳とか無さそうだし、すぐにわかるもんなんだろうか。
「身分証明書があるだろ?そう、それ。冒険者証だよ。それを入り口で魔道具に入れるとわかるようになってるんだよ」
「へぇ、この金属の板冒険者証にそんな機能が?」
改めてじっくり見ても何の変哲もない金属板なんだけどな。
「違う違う。凄いのはここにある魔道具なんだって。詳しいことは分かんないけど魔道具自体が記憶するって言ってたよ」
っていうか、ここしか入れないようにしてるのってそれ魔道具の為だな。
「なるほど。データベースと照合用の魔道具ってことか。凄いもんがあるんだなぁ」
「でーた…なんだって?ま、いいか。でもね、登録できるのが一つしかないから凄い時間がかかるんだ。西門と東門にあるのは登録できないんだって」
「一度登録すればどこからでも出入りできるってことですか?」
「入れるのはここだけだね。だから、あっち見て。あっちにも列があるだろ?あっちは入ったことある人たちの列だよ」
確かにこの列とは違う列ができている。なるほど再入場はあっちか。
「ん?商隊は再入場じゃないのか?」
「商隊は検閲があるから必ず初入場列なんだ。護衛についてる冒険者たちもいるからね」
ああ、荷物を検あらためられるのか。それはしょうがないか。
「緊急事態があったときでも並ばないと入れないの?」
怪我で瀕死とかだったらどうするんだろう?並ばないといけなんだろうか。
「そういう時は優先で入れてくれるみたいだよ。あたしも見たことがあるし。入ってすぐの所に救護所があって街にある神殿から派遣されてる神官がいるからすぐに処置してくれるよ」
それは安心できる情報だ。
「でも、結構な額の寄付を要求されるみたい。聞いた話だと、一回大銀貨一枚だったかな」
「え?かなり高くないですか?神殿に行けば大銅貨五枚程度だったと思うんですが…」
そんなにするんだ。神殿に行けば五千円程度で救護所だと、えっと、十万!?ぼったくりにもほどがある。足元見てんなぁ。
「うん、だから行ける人はちょっと頑張って神殿まで行くみたいだよ。そっちは待たなきゃいけないけど安いからね」
「でも待てるならそっちの方がいいですね。怪我しないようにしましょうね、リュウジさん」
「うん、そうしよう。ポーション多めに買っておこうか」
救護所は、いざというときには使うことも頭に入れておこう。ポーションで治しきれないことも多いからね。
「あ、もうすぐ順番ですね。意外と早かったですね」
あと二組くらいか?結構早いな。やっと街に入れるな。
「次!」
「はい、よろしくお願いします」
やっと僕達の番が来た。商隊の代表者のリッツモルさんが対応している。
「おお、ランドウズ商会か。では、身分証と荷物の検査を行う。初めてくる人はこの間に入街登録を済ませてくれ」
「はい、わかりました。暁の風とリュウジさんたちは初めてでしたね。こっちへ来てください」
リッツモルさんに促されて暁の風と付いていくと街の周りを囲っている壁の中にある部屋へ案内された。
部屋の中にはカウンターがあって、真ん中が窪んでいてそこに大きな箱が置かれていた。箱は三十から四十センチくらいの大きさで何も書かれていないつるっとした綺麗な箱だ。材質はなんだろ?見た感じ石か?石の箱か。何で箱という表現になったかというと上部分が蓋みたいになってるからだ。
「初めて街に入るものは、順番に身分証を出してこの箱の上に置いてくれ。箱が光ったら終わりだ。では、あなたから」
衛兵の人も箱って言ってるし、やっぱり箱なんだな。
右端にいた僕が指名される。準備していた冒険者証を箱に上に置くと一瞬箱が青緑色に光る。
「いいぞ、次だ」
次はニーナだ。冒険者証を置くと同じように青緑色に光った。
「凄いですね」
「面白いね。こんなに一瞬なんだ」
タニアはこの街出身だからやらなくていいしリッツモルさんもやってない。魔道具の隣にあるカウンターで手続きするみたいだ。あれ?結局手続きがいるんだな。
ライル達も済んだみたいで自分の冒険者証をしげしげと眺めている。赤の牙も初めてじゃないみたいでリッツモルさんたちと同じカウンターで手続きしていた。
「お待たせ。これであたしは終わりだけど、リュウジたちはもう少しかかるからあっちで待ってるよ」
タニアは、そう言って部屋を出て行ってしまう。まだやることがあるんだろうか?
「今登録したものはこっちに来てくれ」
衛兵さんに呼ばれたのでそっちのカウンターの方へ行ってみる。
「今登録してもらった内容を確認してもらう。呼ばれたものは内容を確認してここに入れてくれ。では、リュウジロウ・ゴトウ」
「…あ、はい」
あれ?本名で呼ばれたぞ。なんでだろ。別にいいけど、久しぶりだったから一瞬自分のことだと思わなかったよ。
「お前には名字があるのか。名前も珍しいな、ま、いい。ほら確認してくれ」
渡された羊皮紙には、名前や冒険者の階級、身分証を登録した場所などが焼き付けられていた。どおりで部屋が匂うと思ったんだ。これのせいか。
「凄いなこれ。今作ったんだよな?パソコンもプリンターもないのに…魔道具凄いな」
「リュウジさん、見てください。私のことが書いてありますよ。うふふ、鉄級冒険者って書いてあります」
ニーナが嬉しそうに見せてくれたそれは、僕と同じ内容だった。ニーナには名字は無いんだな。
「間違いがなったらこの箱に入れてくれ。それで登録は終了だ。フルテームの街を楽しんでくれ」
渡された皆は一通り確認した後次々と箱に入れていく。冒険者や商人は字が読める人が多い。字が読めないと依頼が受けれないからだ。村から出てきてすぐに冒険者になったような字の読めない人は最低限の文字を読めるように教育までしてもらえるらしい。
「じゃ、行こうかニーナ」
「はい、タニアさんが待ってますからね」
やっとフルテームに着いたなぁ。暫くはどんな街なのか見て回ることにしよう。まずは組合に行って依頼料を受け取ってから宿探しかな?楽しみだ。




