第百十話
それは、そろそろ交代の時間が来た頃だった。
「おい!皆起きろ!来やがったぞ!」
ライルの緊迫した声が辺りに響く。やっぱり来たか。
「ニーナ!タニア!起きて!盗賊だ!」
僕が声をあげるとタニアがガバッと飛び起きて、ニーナももそもそと起き出した。
「どこだ!?盗賊は!」
タニアはまだ寝ぼけてるみたいで見当違いの方向を向いていた。
「そっちじゃなくて、こっちだよ!弓準備して。ニーナも早くしゃきっとして」
ニーナはニーナで杖を持っていない方の手で目を擦っている。
「はい、おはようございます」
「はいおはよう!タニア!何処から来るか分かる?」
周りはまだ真っ暗でよく見えない。タニアなら夜目が効く。
「ちょっと待って……いた!あっちだ。あっちの斜面からくるよ」
よく見えるなぁ。タニアの目ってどうなってるんだろう。
「ニーナ、杖の先に明りを灯すことって出来る?」
「できますよ。彼ものに光よ宿れ。明りライト」
杖の先に橙色の淡い光が灯る。蠟燭の炎を明るくしたみたいな光だ。これでニーナの周りは明るくなった。
野営地の周りにはニ、三個の篝火が灯してあるがとてもじゃないけど暗すぎて戦闘なんて出来ない。ニーナが唱えた明りの魔法は基礎魔法だそうで、呪文を教えて貰い自分でも明りの魔法を使ってみる。
「彼ものに光よ宿れ。明りライト」
石を四つほど拾って握り呪文を唱えると結構な光量で光ってくれた。想像したのは工事用のバルーンみたいな投光器だ。白っぽい光が握った石から放たれている。
「え?四つもいっぺんに掛けたんですか?それに凄く明るい、白い光?」
ニーナが不思議そうに僕を見ている。そんなに変なことしたかな?まあ、取り合えずこのことは後でいい。光らせた石を投げて周りを明るくしよう。じゃないと見えない!
「ニーナ!向こうに向けて火球ファイヤボール撃って!纏まってるから今ならいける!」
「はい!…万物の根源たる魔素マナよ 我の意に沿い顕現せしめ炎をまとう球となり 彼の敵を撃て 火球ファイヤボール!!」
敵のいる方を見つめながら集中して呪文を唱えるニーナ。どれだけの魔力を込めたのか、かなりの大きさの火球ができる。
「リュウジ!ニーナを守って!矢が飛んでくるよ!」
敵方にも弓使いがいるみたいで魔法使いを狙ってきた。あんな大きい火球があったら良い目印になるもんな。
「わかった!」
魔法で明るくなったとはいえ、何とか飛んでくる矢が見えるかどうか。盾を構えてニーナの前に立つ。
「ニーナ、撃って!」
タニアが指さした方向に火球を放つとそれに合わせて弓を射る。向こうから矢が飛んでくるのが見えた!
「リュウジ!」
「任せろ!」
ニーナを狙ったと思われる矢は、僕がかけた明かりの魔法の放つ光でかろうじて見える。剣で切り落とせると格好いいけどまだ無理なので止めておいて、素直に盾を構えて受け止める。ゴツッ、キンッと盾から手ごたえと音がした。
「二本も飛んできてたのか。ちょうど盾に当たってよかったな」
盾に当たった矢を取って捨てていた時、火球が飛んでいったほうを睨んでいたニーナが叫ぶ。
「爆裂!」
え?と思って向こうを見ると飛んでいた火球が破裂して無数の火の球となり、地面に向かって広範囲に降り注いでいた。向こうの方から「ぎゃあぁぁ」とか「なんで火球が爆発するんだ!」とか敵味方関係なくいろいろ聞こえてくる。
「やりました!できましたよ!リュウジさん」
「……お、おお。すごいな、ニーナ…出来ちゃったんだ…」
火球が無くなったから見えなくなったけど、きっと向こうでは盗賊が軒並み倒れているんだろうなぁ。
あの爆散する火球を見て、僕はニーナにこんなことできないかなぁと話したことを思い出していた。
いや、ファイヤーボールが術者のコントロールで爆発するって、漫画なんかでよくあるでしょ?
何気ない普通の雑談で話してたことを覚えていたニーナが、僕に内緒でこっそり練習していたらしい。
出来たことがよほど嬉しかったのかニーナはぴょこぴょこと飛び跳ねて嬉しそうだ。
「ただでさえ強力な火球が…あんなのクラスター爆弾みたいじゃないか…」
これは後からいろいろ追及されそうだ。けど、逃げるわけにもいかないしなぁ、どうしよう。ニーナに丸投げしようかな。魔法のことはよく分からないしね。
「すっごいな!ニーナ!盗賊ども皆倒れてるぞ!」
タニアもあれを見て興奮している。ライル達の方の盗賊はどうなったんだろう。
「タニア、ライルとかノルエラさんの方はどうなったか分かる?」
「んー、あっちももう片が付きそうだよ。援護はいらなさそうだね」
「じゃあ僕は、倒した盗賊を見てくるよ」
さっき自分で明りを付けた石を一つ拾って火球が炸裂した現場へ行ってみる。どんな惨状になってるんろうか。
「…うわぁ…」
ニーナの火球は相当な魔力を込めたのか、地面には小さいけどクレーターが出来ているところもあった。こんなのが当たったら人なんて跡形も残らなさそうだ。
「あれは封印するか使う場面を限らないと駄目だなぁ」
現場に着くとそこには、上半身がないものや体が半分になってるものなどおそらく五から七人くらいだろうと思われる遺体が転がっていた。
「南無…」
思わず手を合わせて冥福を祈る。襲われたから返り討ちにしたんだけど、やりすぎかなって思わなくもない。
「じゃあ、後始末しますか」
「手伝いますよー」
一度戻って折り畳みスコップを取り出して三人で作業してたら夜が明けてた。
「リュウジ、ちょっとさっきの戦闘のことについて聞きたいことがあるんだけどよ、主にルーが」
「私もちょっといいかしら。ねぇ、ニーナさん?」
あ、やっぱり来た。ニーナさん助けてー。
やっと山間の道を抜けた。目の前にはなだらかに広がる一面の草原だ。背の高い木もいくつか生えている。草原の草丈は膝下くらいできれいに揃って風に靡いている。
明け方に襲われてからは何にも遭遇なく、盗賊も出なかった。魔法使いの人たちがしつこかったんだけど、ニーナにお願いして、しばらくしたら大人しくなった。良かったぁ。
あれから魔法使いの人たちは火球で練習してるのか山に向けてよく火球を飛ばしている。
あ、それで襲われなかったのか!
「なんだか、ちょっと暖かくなった?」
吹き抜ける風の温度が少し上がってる様な気がする。
「セトルの町とそんなに気温は変わらないんだけど、山よりこっち側は湿気が多いからちょっとあったかく感じるんだよね」
「タニアは、こっちから来たんだったね」
「そうそう、フルテームのことだったら大抵わかるから何でも聞いてね」
ここから港町フルテームまで順調にいって三日ほどだそうだ。順調だとしてって言うことだけど、ここからはずっと平地が続くみたいで魔物や獣もほとんど出ないらしい。
「セトルの町の辺りって結構危険地帯だったの?」
あそこの依頼はゴブリンやら狼やら結構あったけど…
「そうだねー、フルテームに比べると多かったな。フルテームの組合には護衛依頼が多くて、次に迷宮の素材収集依頼が多いかな?」
「迷宮があるんですね!私、行ったことがないので楽しみです!」
迷宮…ダンジョンだな!どんなところがあるんだろう。異世界の醍醐味の一つだな!
「僕も行きたい!町に着いて色々落ち着いたら行ってみよう!」
「迷宮に行くのはいいけど、三人じゃちょっと辛いかもしれないなぁ。回復魔法が使える人ともう一人壁役がいるね。リュウジだけじゃ危ないよ」
タニアは、迷宮に入ったことがあるんだろう。やっぱり回復ができる人を加えないと駄目か。ポーション山盛り持っていくんじゃ駄目かな?
「そうだなぁ、あたし達ならポーション沢山持っていけるからそれでもいいけど、やっぱり回復魔法が使える人がいた方がいいな。あの背嚢はリュウジにしか使えないだろ?リュウジがいなかったらどうすんの?」
「そうですね、回復魔法が使える人は強化魔法も使えることが多いので、いてくれたらありがたいですね」
強化魔法か。筋力強化とか敏捷強化とかかな。確かにあればかなり有難いな。
「セトルの町じゃあ教会からの派遣みたいな感じだったでしょ?フルテームでもそうなのかな?」
「そういうのもあるけど、冒険者やってる人も普通にいるよ。セトルよりも住んでる人が多いからね」
「じゃあ、フリーの人もいるかもしれないか」
「ふりー?ふりーの人って何ですか?」
ニーナが首を傾げて不思議そうに聞いてくる。
「あ、フリーっていうのは自由ってことだよ。この場合は組んでない人ってことだね」
英語が、っていうかカタカナ語が通用しないってものすごく不便だなぁ。
「まあ、あと三日たてばフルテームに着くんだから、それから考えようよ。それまではしっかりお仕事しないとね」
珍しくタニアに纏められてしまった。でもタニアの言う通り、仕事はしっかりやろう。
セトルの町は森に囲まれて大きくなかったけど、フルテームは港町だから大きいよな。どんなところか楽しみだ。




