第百九話
「死ねや!!」
「ぐっ!」
盗賊の男がショートソードを叩きつけてきた。それを盾で受け止めると木の部分に食い込んだ。
今だ!
盾に剣を食い込ませたまま上に持ち上げて右手に持った剣を突き出す。プツッという感触と共に男の腹に剣が埋まっていく。
「がはぁ」
左手の盾をそのままの位置で固定して体を右に捻りながら剣を引き抜く。
男は膝から崩れ落ちそのまま動かなくなった。
「次!」
現在の商隊の位置は、山間の街道に入って三十分くらい経ったところだ。街道は馬車がすれ違えるくらいの広さがある。両側は十メートルくらいで斜面になっていく。なぜか木は疎らでしかも背の低いものばかりで、大きめの石が多い結構険しい山の間を通る街道だ。こんなところを根城にする盗賊がいるのか。
山に入ってすぐっていうくらい早速だが前の方が騒々しいな。上から岩とか落とされたらやばいなぁ。
「リュウジ!盗賊が出た!すぐにこっちにもくるよ!」
馬車の脇から前を窺っていたタニアの警告と同時に馬車が止まる。
「ニーナ、馬車の方へ!」
「はい!そこから援護ですね」
タニアもニーナと一緒に馬車のほうへ下がっていく。タニアは馬車の荷台に登って弓を構えながら後方を見ている。
僕は、背負っていた盾を左腕に装備して兜の顎紐をしっかり締めて抜剣する。
「リュウジ!右前方からくるよ!数は五!ニーナ!魔法!」
「はい!」
「わかった!」
タニアが言った方を見ると確かに斜面を走って下りてくる人影が五つ見える。まずは、ニーナとタニアの攻撃だ。僕はそれが放たれたすぐあとに走り出す。
タニアの弓でまず一人が転ぶ。そして、ニーナの魔法でまた一人倒れた。残り三人だ
「二人やられた!」
「相手は三人だ!しかも二人は女だぞ!かまうこたぁねぇ!やっちまえ!」
リーダー格の男が剣を振り回して叫んでいる。
「うひょお!女だ!殺すなよ!」
「わかってるぜ!動けなくすりゃあいいんだろぉ!」
あー、実に盗賊らしい盗賊だなぁ。でも、やらせないよ?
「まずは!お前が邪魔だなあ!死ねや!」
盗賊の男は剣を振りかぶって思いっきり叩きつけてきた。これは、受けなくても行けそうだ。
「はっ!」
走りながら体重を右側にずらしてよけた後、相手の腹に向かって剣を振る。少し重い手ごたえがあってすぐに軽くなった。
後ろで男が倒れた音を聞いた時には次の敵から攻撃されていた。
「死ねや!!」
「ぐっ!」
ここで冒頭につながる。盗賊の男たちは、なんで上段から振りかぶって攻撃してくるんだろうか。
腹に刺した剣を引き抜き、次!と思い回りを見たらもう敵はいなかった。タニアとニーナがもう一人を倒してくれていたんだ。ほんと、頼りになる。
「タニア、まだいる?」
剣についた血を払って襤褸布で拭い剣を収める。ちらっと見た感じだけど蒼くきらめく剣身には刃こぼれもなく綺麗だ。ほんとにいい剣だなぁ。
「いや、見当たらないな。こっちにいたのはさっきの五人だけだったみたいだよ」
「前の方はどう?」
戦闘の音は聞こえてこないからもう終わってるかもしれないけど、応援に行ければ。
「前の方も終わってるみたいだよ。静かになってる」
前の状況が落ち着いているなら、金目の物を持っていこう。
「んじゃ、剝ぎ取りますか」
タニアが嬉々として馬車から飛び降りて走っていく。ニーナと顔を見合わせてどちらともなく笑いあってタニアの後を追う。
「リュウジー、これ入れといてー」
「おー、今行くよ」
盗賊が使っていた剣や持っていた銅貨や銀貨を剥ぎ取り、ちょっと離れて穴を掘って焼く。
そう言えば、欧州に近い世界なのに火葬なんだ。火球ファイヤボールが大活躍だ。
「これでいいですか。穴を埋めましょう」
「はいよ。リュウジ、手伝って」
「おう」
商隊の前の方を見ると二か所で煙が上がっている。あっちも終わったみたいだ。
「それでは出発します」
それから馬車に刺さった矢とかを抜いて修理箇所がないか確認した後、出発になった。
再度出発してからは盗賊に襲われることもなく休憩場所まで来ることができた。
もうそろそろ夕方になる頃だ。手早く設営と夕飯の準備をしようかね。
馬車を真ん中で纏めておいてその内側で商隊の人たちが体を休め、僕達は外側で護衛だ。
「リュウジ、天幕はなしだぞ。今晩は、各一人から二人出して警戒するからな」
「そうそう。今晩が一番危ないから気ぃ張ってなよ」
ライルとノルエラさんからアドバイスを貰いながら打ち合わせをやっている。
「異変を感じたら全員起こす、でいいんだね」
「そうだ。まあ、まず間違いなく襲われるからみんな起きててもいいんだが、それだと疲れるだろ?」
「ほぼ襲われるんだ…わかった、気を付けとくよ」
「特に明け方が危ないからな。んじゃ、そう言うことで」
じゃあねと言いながらそれぞれの持ち場に帰っていく。僕も自分たちの所へ帰ろう。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。どうでした?」
鍋をかき混ぜながらニーナが迎えてくれる。
「まあ、いつもの野営と同じだろ。特に明け方に気を付けろって言われなかった?」
「タニア凄い。その通りだよ」
タニアは味見と言いながら鍋からシェラカップに一杯注いでニーナに怒られている。
「順番はどうする?」
「ニーナかあたしが最初か最後、リュウジは真ん中でどう?」
「そうだな…ニーナが最後でタニアが最初。僕が真ん中でいいか」
ニーナは魔法を結構使ったし、タニアも良く動いてくれたから疲れてるだろう。一番体力がある僕が真ん中がいいのか。
「よし、それで行こう。じゃあご飯ご飯。リュウジ、パン出して」
「パンなら貰えたのがあるじゃないか。そっちは食べないの?」
この依頼中は、朝と夜にパンと干し肉が人数分貰える。でもパンは固い黒パンだ。カビもちょっとは生えるんだけどそこは削り落して、焚火で炙ってからスープに浸して食べるのが一般的らしい。
僕たちはリュックサックがあるからセトルの町で買ったもうちょっと柔らかいパンが沢山入ってるし、野菜なんかの日持ちしないものも持っている。僕のため込むのが好きな性格も合わさってたくさん買い込んであるから一月ぐらいは持つ量があるかもしれない。いやぁ、時間停止の機能は素晴らしいね。
「だってあんな硬いパン美味しくないんだもん。いつもの出してよ」
「私もそっちの方がいいです。出してくださいリュウジさん」
二人しておねだりされると出さない訳にはいかないなぁ。あれはあれで美味しいと思うんだけどなぁ。
「黒パンもいつかは食べないといけないからね」
晩御飯も食べ終えて、辺りは暗くなってきた。焚火の周りで横になる。
「じゃあ、よろしくね、タニア」
「おやすみなさい、タニアさん」
「何かあったら起こすからすぐに起きてよね、お休み」
地面に大きい布を敷いてその上にマットを二枚並べて寝る。布団は無いから外套に包まって夜露を凌ぐんだ。時間で言ったらまだ七時くらいだろうけど、昼間の疲労と気疲れですぐに睡魔がやってくる。
「リュウジ、起きろ、リュウジ」
「もう交代の時間か…ありがとう、お疲れタニア」
「異常なしだったよ。お休み」
欠伸を噛み殺しながら引継ぎを済ますタニア。焚火の傍に椅子を出して座る。深く腰掛けると寝ちゃいそうだから浅く座って薪をくべる。
暁の風や赤の牙の方に目をやると仄かに明るい焚火の明りが見える。今日が正念場か。気を引き締めとこう。
今の季節はどれくらいなんだろうか。来た時に比べると若干寒くなっているような気がするが、四季がある感じには思えない。
「僕たちは今、南に向かって移動してるんだよな?それで気温が下がってる。ってことはここは南半球か?」
いや、いくら南半球だったとしてもこの距離の移動で気温が下がるってことはないか。じゃあ、季節が進んだってことか。こっちに来てどれくらい経った?半年は過ぎたよな。もうすぐ一年経つ?
「どんだけ寒くなるか分からないけど、着るもののことも考えとかないといけないのか」
港町に着いたらいろいろ買わないといけないかな。生きていくってお金がかかるなぁ。依頼で山に行くかもしれないとか暑いところに行くかもしれないとか、考えただけでも冒険者ってお金がかかるもんだ。よくスローライフでなんとかっていう本を読んだけどあんなに上手くは行かないわな。あっち日本でもこっち異世界でもお金が要るのは同じか。世知辛いねぇ。ま、パーティの仲間の生活もあるからね、一生懸命働きましょうかね、比喩じゃなくて文字通り命懸けでだ。




