第百七話
「さあ、出発しましょう!」
朝からとても元気なリッツモルさんが号令をかける。
朝食も終わり、これから村を出て危険地帯を通過する。ここから先、二、三日の間は盗賊がよく出没する地域だ。
「リュウジ、ノルエラ、こっからは気合入れてくぞ。警戒を怠るなよ」
ライルも気合が入ってるなぁ。
「わかってるよ!バックス!しっかりやりなよ!」
「おう!わかってるよ」
ノルエラさんもバックスさんも気合十分だ。
「僕たちも頑張ろうか」
「はい!」
「任せてよ!」
ニーナもタニアも元気いっぱいだ。昨日はよく眠れたみたいだからな。
馬車の列が村の出口に向かってゆっくり進んでいく。村から見える向かう先の景色は、まだまだ森が広がっている。
「タニア、この森はあとどのくらい続くんだ?」
「ん?ああ、確か一日くらい歩くと草原が見えてくるよ。その向こうはね、山の間を通るんだ」
「あの山か?」
はるか向こうの方に二つの頂のある山が見える。あれの間を通るのか。あんなところによく馬車が通れる街道を通したなぁ。
「そう。山の間の街道で盗賊がよく出るんだ。あそこは逃げるところがないから襲うのに適してるんだろうね」
なぜそんなところに街道を通したんだ?いや、街道が出来たから盗賊が住み着いたのか。迂回とかできなかったのかな?
「迂回する道もあるんだけど、五日くらい余分にかかっちゃうからあんまり使われなくなったらしいよ。使うのは個人でやってる行商人くらいかな?護衛が雇えないようなね」
「五日も余分にかかるのか…」
それは使わなくなるのもわかるが、安全を担保にしてるんだから何とかならなかったんだろうか。
「まあ、その分あたしたちに仕事が回ってくるんだけどさ」
「あ、その道ね、この間崖が崩れて、いま通れないんだって。村の酒場で話題になってたわよ」
タニアと話してたら、シアさんがこっちに来て話に入ってきた。
「あー、そんな話もしてたなぁ。どっちみち通れないんじゃしょうがないよね」
崖崩れか。こっちには重機なんかないから、復旧させるにも人力だよな。規模が分からないけどかなり時間がかかりそうだ。
「おーい、シアー。戻って来てよー。ライルが作戦会議しよってー」
この声はルータニアさんだな。
「はーい、今行くわー。ごめんなさい、戻りますね」
「はい、ありがとうございました。護衛頑張りましょうね」
シアさんは手を振りながら戻っていく。作戦会議って何するんだろう?ライルのことだ、あとで教えてくれるだろう。
「僕達も気を抜かずに行こう」
「はい!」
「あたしは前の方へ行ってくるよ。何かあったらすぐ知らせるから」
「行ってらっしゃい」
「頼んだぞ、タニア」
反対側を見るとスレインさんがタニアと同じように別行動を取るみたいだ。赤の牙は最後尾をついてきている。
「もうすぐ森を抜けるんだよね。この辺りって森林地帯なの?」
セトルの町がある辺りは、結構な森が広がっていた。さらにこれだけ歩いてもまだ森の中にいるってことはこの辺りは大森林地帯何だろうか?ニーナに聞いてみると、こう答えが返ってきた。
「私もこんなに広がっているとは思いませんでした。でもこの森のお陰で薬草採取で生きてこれたんですから感謝しないといけませんね」
「そうか…そうだね。ニーナもセトルの町から出たことないんだっけ」
「はい、リュウジさんと出会うまではあまり遠出は出来なかったですからね」
そんなことを話しながら歩くこと体感で一時間くらい。
「あ、リュウジさん向こうの方が明るくなってきましたよ」
「タニアが言ってた草原が見えるとこまで来たのかな?でも一日後くらいだって言ってたよな」
そのまま進んで行くと明るくなっているところに着いた。そこにはなぜか小屋が一軒建っていて切り開かれた場所だった。
「こんなところに家?」
「なんででしょうか?」
日本なら道沿いに家が建っているのは分かる。でもここは魔物もいる異世界だ。人が住める場所は限られていることが多い。
「あ、リュウジさん、あっちにも家がありますよ。でもずいぶんボロボロですね」
ニーナが見てる方を見てみるとかろうじて家だったんだろうなぁっていうものが見えた。
「よく見ると、この家も結構朽ちてるな。人は住んでなさそうか」
「ここは、あの村が前にあった場所らしいよ。この家はちょっと前まで人が住んでたらしいんだけど村に引っ越したんだって」
タニアが前から戻ってきて教えてくれた。商隊の人に聞いたらしい。
「それで開けてたのか。で、タニアは戻ってきて良かったの?」
「うん、シアに交代してもらった。また交代時間になったら行ってくるね」
「シアさんも哨戒出来るんだ。剣士なのに意外だな」
「そうですね、私たちはタニアさんに任せきりなので申し訳ないです」
「いいって、いいって。あたしの仕事だしね」
「いつもありがとうな、タニア。タニアのお陰で助かってる」
タニアがいなかったらこんなに危なげなく冒険者出来てないだろうなぁ。
「なんだかこそばゆいな。どうしたんだ、リュウジ、そんに褒めても何も出ないぞ」
「僕の素直な気持ちだよ。伝えれるときに伝えとかないと後悔するからね」
「そうですよ。私もいつも凄いなぁって、思ってます」
この世界は命の重さがあっちよりかなり軽い。危険な生物も多いし、旅なんて危険に飛び込んでいくのと同意義だ。思ったことは伝えておかないと後悔することになりそうだ。
タニアは、ニーナの頭をめちゃくちゃに撫でながらいい笑顔だ。ニーナも髪がぐしゃぐしゃになりますからーって言いながらこれまたいい笑顔だ。二人の笑顔を見てるとこっちまで笑顔になるなぁ。よし、この笑顔を守っていけるように一生懸命やりますか。
「リュウジ…その顔、まるであの二人の父親みたいだぞ」
「うわぁ!吃驚した!」
右側からライルに声を掛けられた。全然気が付かなかったな。
「もうちょっと警戒しといてくれよ、リュウジ」
「あたしは、気が付いてたよ」
「私もです」
「面目ない。気を付けるよ。で、話があるんだよな」
ライルが来たってことは、さっきの話し合い関連だろう。
「ああ、山間の道に入ってからの警戒態勢なんだが、道が結構狭いらしいんだ。だからといって側面を守らないのはあり得ないだろ?」
「そうか、馬車の間を空けてそこに護衛が入ればいいんだ」
僕がそう言うとライルはぽかんとした顔をしてすぐに破顔した。
「なんだ、わかってるじゃないか。んで、誰が真ん中に入るのがいいと思うか休憩までに考えといてくれ」
ライルは話はそれだけだ、次はノルエラだなって呟きながら後方へ行ってしまった。
「リュウジさんは誰がいいと思いますか?」
「僕達じゃないことは確かだなぁ。僕は赤の牙がいいと思うんだ」
「え、ライルさんたちじゃなくてですか?」
「うん」
ライル達暁の風は、先頭がいいと思う。
「あたしもそう思う。魔法使いが三人いるからだよね」
「そうそう。実力はまだよくわかんないけど、戦闘力は僕達よりかなり上だと思う。それに遠距離に高火力で攻撃できるから援護も出来るしね」
「じゃあ、私たちは後ろですね」
「そうだね、それが一番いいと思う。先頭は人数の多いライル達が抑えて後方は高火力のニーナと遠距離攻撃手段があるタニアがいるからね。僕はこの布陣が一番いいと思うよ」
二人から了承を貰い、仕事を再開する。これだけ大所帯だから狼とかは襲ってこない。襲ってくるなら人だろうなぁ。
「休憩までしっかり仕事しようか」
「はい!頑張りましょう」
「あたしはそろそろ交代してくるよ」
忙しくなるのは明日以降か。襲われないといいけど絶対無理だろうなぁ。




