第百二話
先週は間違えて投稿してしまい、申し訳ありませんでした。
これからもよろしくお願いします。
あれから時間が経って日が傾いてきた。それまでは何事もなく、警戒しながら森の中に通っている街道を馬車と共に歩いた。今は、予定通り野営場所に着いて準備しているところだ。
「ライル、野営の時の順番はどうする?」
「そうだな、まずはうちのシアとニーナでどうだ?」
「二番目が俺とルータニアで三番目がガウラスとタニア、最後がスレインとリュウジでいいだろ。俺は明日でもいいか?」
「ライルのことはどうでもいいんだが、二番目にルータニアでいいのか?最後でもいいぞ」
魔法使いのルータニアが二番目でいいのかと思って聞いてみると、ルータニアが大丈夫というように頷いている。
「私、寝付きが良くて二番目くらいだったら苦にならないのよ。だから大丈夫よ。心配してくれて有り難う、リュウジ」
「そうなんだ。魔法使いの人は、睡眠時間が連続した方がいいかと思ったんだけど、いいの?」
「いいのいいの。慣れてるしね」
ルータニアは、笑顔でご心配なくと続けた。
「じゃ、他のみんなもそれでいいか?」
ライルが皆を見渡してまとめる。なかなかいいリーダーだな。みんなも異論はないみたいで、おうとかはいとか思い思いの返事をしていた。
「それじゃあ、僕たちは底そこに天幕張るよ。ここで火を焚くんだよな」
「おう、そうだぞ。天幕立てたら薪拾いしてきてくれるか?」
「ああ、わかった。行こうかニーナ、タニア」
「あいつらこっちの天幕見たら驚くぞ。なんだそれー!って」
「ふふ、そうですね。でももうあれなしじゃダメな体になってしまいましたからね」
設営場所でタニアとニーナが嬉しそうに話している横で、リュックサックに手を突っ込んでテントを引っ張り出してペグで固定していく。あたりにはキーン、キーンとペグを打ち込む音が響く。
「何やってんだ?おお!?立派な天幕だな!」
ライルが見に来て、テントを見て感心していた。褒められるとうれしいね。
「だろう?」
口を動かしながらも手は止めないよ。テントを固定し終わって、次に出したのはマットだ。これがないと僕が寝れない。
「なんだそれ?」
「これは、マットレスだな。これがあるのとないのじゃ雲泥の差だぞ」
「まっとれす?初めて聞くな。どうやって使うんだ?」
「これを膨らまして、その上に寝るんだよ。寝てみるか?」
ここでライルたちに宣伝しておけば、マーリさんが売り出したらきっと購入してくれるだろう。今出した二枚はテントの中に入れてニーナに膨らましてもらう。
試してもらうやつをリュックサックから出してちょっと離れた草の上に設置する。
「お待たせ。鎧脱いで寝てみて」
わかったといいながら鎧を脱ぎだすライル。ライルの鎧は胸と背中を覆う金属鎧だ。肩の部分は、革製で動きやすいようにできている。ちょっと手伝ってやるか。
「ありがとな。じゃあさっそく」
よいしょっとと言いながらマットレスの上に横になるライル。
「おお!こりゃいいなぁ!どこで売ってんだ?」
「まだ、売ってないんだ。けど、近いうちにマーリさんが売り出すはずだよ」
ライルが大きい声で言ったからか、ルータニアさんとシアさんがこっちにやってきた。
「どうしたのよ、ライル大きな声なんか出して」
「そうよ。何かいいことでもあったの?」
「ルーにシアか!これ!これに寝てみろ!凄いぞ!」
起き上がって鎧を装着しながらルータニアさんとシアさんにマットを勧めるライル。
「なによこれ。ん、柔らかいわね」
マットを手で押して感触を確かめるシアさん。ルータニアさんは、もうブーツを脱ぎだしている。
「私が先に体験してみますね」
ルータニアさんは魔法使いなので鎧を着ていないから、早速寝転んでいた。
「ああ~、いいですね、これ~」
「ルー!ずるい!私も!」
ルータニアさんはころころと左右に寝返りを繰り返している。そこに鎧を脱いだシアさんが入ってルータニアさんを押し出した。
「ちょっと、シア!まだ私が感触を確かめてるところでしょ!」
「ルーはもう十分堪能したでしょ。次は私の番」
どうしようこれ。止めたら怒られそうだなぁ。
シアさんは仰向けのまま目を瞑っている。小さな声で「これはいいわね……うん、これはいいわね」と繰り返していた。
「おい、二人ともそれぐらいにして準備を手伝ってくれ。あ、リュウジ後で俺も試させてくれよ」
良かった。スレインが仲裁してくれたよ。しっかり要望もあるのね。
「もうこれ貸すから交代で使ってくれ」
僕たちは二枚あればいいからな。一枚しかなくて申し訳ないがこれで我慢してもらおう。
「お、じゃあ俺が使うわ」
すぐにライルが使いたいと手をあげるが、女子二人に阻止される。
「ライルは寝相が悪いからダメです!」
「そうよ!私たちが使うわよ」
「いや、俺とガウラスにも試させてくれよ…」
マットはシアさんとルータニアさんが使うことになりそうだ。
「リュウジ、三人一緒に寝ないといけなくなりそうなんだけど、マットが二枚しかないよ?どうするの」
「あ、その時は二枚のマットを横にして並べれば三人寝れるよ。ちょっと窮屈だけどね」
僕が持っていたマットは一枚大体畳一畳くらいの大きさだから、縦百八十センチで横は約九十センチ。キャンプ用のマットにしたら大判で二枚あれば何とか三人並んで寝ることはできる。今あるものもそれくらいの大きさだ。
「それなら大丈夫ですね。私、真ん中がいいです」
「いいよ。じゃあたしはこっちね」
タニアはニーナの左側にするみたいだ。じゃあ僕は、ニーナの右側か。
「よし、準備できたな」
「護衛の皆さん、食事です。食器を持って取りに来てくださーい」
おお、食事の用意があるって聞いてたけどほんとにあるんだ。何が出てくるんだろう?タニアと取りに行くと一人パン三個とチーズ、スープと干し肉だった。量は多めだな。
「ありがとうございます」
「警戒の方よろしくお願いします」
商隊の人にお礼を言って、テントを張った場所まで戻る。
「さあ、食べよう」
「いただきます」
僕たちはいつもの机と椅子を出してあるのでそこで夕食だ。ニーナもタニアもいただきますを言うのが習慣になった。それから神様にお祈りしている。
「お前らは色々と変わってんなぁ。なんだその机と椅子は」
「ああ、これは僕がもともと持ってた野営の道具だよ。いいだろ?」
ライル達に持っているキャンプ道具を見せびらかしてみるとどこで買えるのかとか余ってたら一つ売ってくれないかとか質問攻めにされてしまった。
「しっかし、こんな道具があったら野営なんて苦にならんなぁ」
貰った夕食を食べ終え、陽が落ちて暗くなってきたので机の上にオイルランタンを付けて置いておく。マントルを使うランタンとは比べ物にならないくらい暗いんだけど、月明りと焚火だけに比べれば雲泥の差だ。
「そうか?まあ、僕はこれしか知らないから比べられないけどね」
こっちの野営がどんなものかはニーナたちから聞いてはいる。僕は最初にやった野営から持っていた道具を使ったからね。一度経験したらもう戻れないよ?
「これしか知らんって…幸せだな、お前は」
「そうなのか?」
「そりゃお前、普通はな、地面の上に外套を敷いてその上に座るだろ?で、飯食ってそのままその上で寝るだけだぞ」
やっぱりそうなんだなぁ。ニーナたちに聞いたのと同じだ。
「ニーナたちも同じこと言ってたなぁ。だからあのマットに寝た時めっちゃ驚いてたぞ」
「俺たちも同じだったんだな。あれは凄いぞ。絶対売れる。というか買う。いくらかかっても絶対買う」
「そうですね。あれは購入しないといけません。リュウジさん、一ついくらくらいになるか分かりますか?」
マーリさんいくらにするって言ってたかなぁ。銀貨だったことは覚えてるんだけど…
「あんまり覚えてないんだけど、銀貨五枚だったかな?三枚だったかな?それぐらいだったよ」
「銀貨五枚ですか…わかりました。準備しておきましょう」
ガウラスも乗り気なんだ。シアさんとルータニアさんは言わずもがな、スレインさんも深く頷いている。皆試したんだね。
「なんだか楽しそうですね。私も混ぜてください」
足音がしたと思ったらリッツモルさんがニコニコしながら話に交じってきた。
「ああ、リッツモルさん。何かありましたか?」
ガウラスさんがいち早く気が付いて対応してくれる。
「いえいえ、何も起きてないですよ。ただ皆さんが楽しそうにお話ししているので気になっただけです」
「リッツモルの旦那。これ見てくれ。こいつの話をしてたんだ」
ライルが焚火の向こうに置いてある貸したマットを指さしてリッツモルさんに言う。
「なんですかそれは?」
リッツモルさんは、マットの前まで行ってしげしげとマットをみている。
「リュウジが持ってるまっとれすっていう寝具らしいぞ。何が凄いのかは寝てみればわかる」
焚火の番をしているシアさんが靴脱いでとか注意事項を教えていた。
「では、失礼して……おお!これはいいですね!何処で購入したんですか!」
さっき話していたことをもう一度リッツモルさんに伝えた。
「そうですか…。もう登録しているんですね。残念です。ええ、とても残念です」
もう商業組合に登録してあると聞いたリッツモルさんは、もの凄く、それはそれは物凄く残念そうだった。
このマットってそんなに売れるって思われるんだなぁ。マーリさんが一生懸命だったのがよく分かったよ。




