第百話
百話到達しました!拙い物語ですが読んでくださってありがとうございます!
あれからニーナの機嫌がすごくいい。ずっとにこにこしてるし、僕の傍からあまり離れない。
三日前のあれは、やっぱり告白だったんだな。プロポーズみたいだとは思った。あんなに顔を真っ赤にしてたし。
僕にはもったいないくらい良い娘だから、何とも思わないといえば噓になる。つまりは、もの凄く嬉しい。
「リュウジ、ニーナの機嫌がいいんだけど、なにかあったのか?」
タニアが不思議そうに僕に聞いてくる。今は朝食を食べ終えて部屋に戻る途中だ。
あれ?タニアに相談してないの?僕が言ってもいいんだろうか?
「あー、まあ、ニーナに聞いてくれ。そのほうがいい」
僕の受け答えでピンと来たのか、「あ、なるほど」って顔をして「じゃあ、聞いてくるわ」って言いながら前にいるニーナのほうへ行ってしまった。
タニアがニーナの肩に手を回して肩を組み、耳元で何かを囁く。すると、後ろからでもわかるくらいニーナの首筋から耳まで真っ赤になるのが見えた。
あ、タニアがこっち向いていい笑顔で、親指を立てたグーサインをしたまま部屋に入っていった。僕も部屋に入って準備をしよう。今日はこれから組合に行って依頼を受けるつもりだ。まだ何を受けるか決めてないけど行って依頼板を見てから考えよう。
「いやー、とうとうニーナとリュウジがねぇ!」
組合に行く途中でタニアが僕の背中を叩きながら嬉しそうだ。
ニーナはまた、顔を真っ赤にして下を向いているが、横から覗く口元は嬉しそうにしている。そんな仕草を見せられるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
「さ、さあ、早く組合に行こうか。いい依頼がなくなるよ」
このままでいるとタニアに揶揄われることはわかってるから、話題を変えようとしたんだけど駄目だったなぁ。
「リュウジは下手だなぁ。行こ、ニーナ」
「あ…はい、行きましょう、リュウジさん」
顔を赤くしたニーナが手を繋いで引っ張ってくれる。
組合につくまでタニアに揶揄われっぱなしだったよ。きっとしばらく続くなぁ。
「おはようございます。ケイトさん」
まだ朝早いと思ったのに組合の中は人で混雑していた。みんな依頼板のところに集まっているから受け付けは空いている。僕たちはちょっと相談したいことがあったのでちょうどいい。
「おはようございます。リュウジさんたち。あら?ニーナさんいいことでもありましたか?」
ケイトさん鋭い!
「はい!」
ニーナも元気いっぱいいい返事をして胸の前で手を組んでいる。僕はまたタニアにお尻を叩かれた。鎧越しだから痛くないんだけどね。
「ケイトさん、僕たち港町に行こうと思ってるんです。護衛依頼って良いのありますか?」
「港町…フルテームですか?ちょっと待ってくださいね、確かあったと思います。ええと、すぐ受けれるものがいいですか?」
そんなに急いでるわけじゃないし、準備もあるからな。一月以内でいいかな?
「長くても一月以内でいいです。いいよね?」
タニアとニーナに聞くと頷いてくれた。
「それでは、これなんかいいと思います。少し大きめの商隊で冒険者三組で募集が入っています。今のところ決まっているのは一組だけです。出発は十五日後の予定ですね」
どうだろう?
「どこの商隊だろう?名前はわかる?」
タニアが聞く。
「はい、フルテームから来た、ランドウズ商会だそうです。」
「ランドウズか!リュウジ受けよう!」
タニアは商隊の名前を聞いた途端、そう言った。何かあるんだろうか。
「あそこは条件がいいからね。受けないと損だよ」
「そうなんですか?」
ニーナがケイトさんに聞いている。タニアがこれだけ言うんだから相当いいんだろうな。
「はい、依頼料は一日で一組当たり銀貨三枚で、食事つきだそうです。食事つきは珍しいですね。依頼料も普通の依頼の二倍ほどです」
フルテームまで片道七日位だっけ?結構遠いんだなぁ。
「フルテームまで七日だっていってたよね?銀貨二十一枚か、結構な額になるね」
とは言ったものの僕には相場がよくわからない。
「一般的な護衛依頼だと一日銀貨一枚から二枚で食事は出ないですね。その分も商品を積むことができますからね」
ああ、そうか。護衛の食料も積んだらそれだけ商品が載せられないからな。
「じゃあ、馬車の台数が多いってことか」
「いや、あそこの商会は魔法鞄マジックバックを持ってたはずだからそれでだと思うよ」
おお、マジックバック持ってるんだ。商会には必需品だろうなぁ。マーリさんも欲しいっていってたけど高くて買えないって嘆いてた。ランドウズ商会ってよっぽど大きい商会なんだな。
「タニアのお墨付きがあるし、条件も破格みたいだから受けようか。ケイトさんよろしくお願いします」
「わかりました。でも、リュウジさんたちもとうとうこの町を出ていくんですね。寂しくなります。向こうでも頑張ってください。ニーナさん、本当によかったですね」
ケイトさんはニーナを見つめながら微笑む。そうか、この中で一番付き合いが長いのはニーナだ。
「はい。この組合の人たちにはいろいろお世話になりました。私はここが大好きです」
ケイトさんの目尻に涙が盛り上がってきた。僕やタニアにはわからない、いろいろなことがあったんだろうなぁ。
「なんだか湿っぽくなってるけど、まだ十日以上あるから。まだまだお世話になるからね」
ケイトさんの涙を見て、ニーナももらい泣きしそうになってたからポンポンと頭を撫でて慰める。
「そうでした。これからもよろしくお願いしますね、ケイトさん」
撫でている僕の手に自分の手を重ねて顔を真っ赤にするニーナ。ニーナはあれから僕が何かするとすぐに顔が真っ赤になってしまうようになった。まだ恥ずかしいみたいだ。初々しくてとても可愛い。
「はい、こちらこそ」
僕?僕は、向こうで結婚してたからね。ことあるごとに真っ赤になる様を微笑ましいと思いながらニーナを愛でてるよ。ほんと可愛い娘だなぁ。
「よし!これでフルテームに行くのは決まったね。リュウジ、今日は何か受ける?」
「うん、何か受けよう。お金はあった方がいいからね。ケイトさん何かおすすめありますか?」
「それでしたら、これなんかどうでしょう」
それから十日くらいは今まで通り依頼を受けて過ごした。
「そういえば、ゴブリンの魔石を集めなくてよかったんですか?」
今日も依頼を熟して宿に帰ってきたら突然ニーナが顎に指を当ててそんなことをぽつりと言った。
「ん?魔石を集める?なんで?」
魔石を?何かあったっけ?
「何かあったっけ?…うーん…あ!リュウジの剣だ!」
タニアがポンと手を打つ。僕の剣?……あ!
「魔石に魔力を込めて魔法剣にするってやつか!すっかり忘れてた」
そういえばそんな話もあったなぁ。剣の柄部分に丸い飾りがあるんだけどそこを開いて中に魔石を入れて魔力を通すと剣身部分が魔石に込められた属性の魔力を纏う魔法剣になる、だったかな。
「でも、魔力を込める用の魔法陣がいるんじゃなかったっけ?」
「そうだ。確か高かったから諦めたんじゃなかったっけ」
金貨十何枚って言ってたような気がする。
「それなんですが、この町じゃあ高いんですけどフルテームに行けばもっと安くなってたりしませんか?」
ニーナ、よく覚えてたな。
「うーん、フルテームでかぁ。全然興味なかったから知らないなぁ」
「この町より大きいんですからきっと安く売ってますよね?」
いい笑顔で僕の方をみて聞いてくるニーナ。
「まあ、今のところ剣で困ってはいないし、明日ゴブリン討伐の依頼を受けて確保しておくことにしようか」
使いすぎると剣が溶けるとか言ってた気がするからよっぽどのことが無いと使う機会はないだろうが、準備はしておくに越したことはないか。
「思い出してくれてありがとう、ニーナ」
つい頭を撫でたら吃驚してか顔が真っ赤になった。
撫でられた頭に手をやって幸せそうに微笑んだニーナを見てたら絶対に守らないといけないなって思ったよ。




