第十話
「ただいまー。」
「あ、お帰りなさい。どうでした?合格しましたか?」
宿の食事スペースのテーブルでニーナが待っていた。期待に満ちた顔だ。
「うん、無事合格したよ。でも、もっと訓練しろって言われちゃったよ。今まで武器なんて扱ったことなかったからなぁ。」
「でも、あの時はすごかったですよ?」
「あの時は結構必死だったんだよ?ゴブリンの動きがよく見えたから対処できたけど、僕から攻撃し
たらきっと避けられてたんじゃないかなぁ。」
あの時は確かに動きがよく見えたし、自分の体も思った通りに動いてくれたから良かったんだろう。これからもあんな風に動ければいいけど攻撃がなぁ。自信がない。突き刺すとかならできるだろうけど斬り付けるのは難しそうだ。組合で訓練させてもらおう。
「ニーナ、明日から依頼を受けたいんだけど何がいいと思う?」
「うーん、先ずは採取系で行きましょうか。薬草とかの。見分けるのにコツがいりますが私と一緒なら大丈夫です。それに、採取系は常設依頼なのでいつでも受注できますし。ただ報酬は低いんですけどね。」
「まあ、仕事しないよりはいいよね。明日から頑張ろう。朝、依頼を受けて昼までぐらいに完了してそれから訓練したいんだ。早く慣れないと討伐依頼が受けれないからね。」
「あまり無理することはないと思うんですけど…。でも、討伐系の依頼は採取系に比べて報酬もいいですから、できれば受けたいところですが。私も自信がないので悩むところです。」
「そうか、討伐系依頼が受注できるかは僕にかかってるわけだ。頑張らないとな。あと、剣も買わないとなぁ。」
「剣ですか?ダガーがあるじゃないですか。」
「そうなんだけどね。ラルバさんに剣とか鈍器のほうが良いようなこと言われたから気になってね。
まあ、買っても練習しないと駄目だから当面はこいつでどうにかしないといけないな。」
剣鉈も研いだりしないと切れが悪くなるからメンテできるところを探さないとな。
「ニーナ、防具も買わなきゃいけないけどさ、盾ってあったほうが良いと思う?」
「そうですねぇ。ゴブリンの時、相手の動きがよく見えたって言ってましたよね?見えるということ
は避けることができるんですから取り敢えずは無くてもいいんじゃないかと思います。体を覆う革鎧なんかはないと駄目ですが結構高いんですよね。」
「そうか、そうだね。じゃあ革鎧は買う方向で、盾は余裕が出来たらってことでいいか。鎧っていくらぐらいするんだろう?」
「そうですね、今からなら少し時間もありますし見に行きますか?」
「まだ五の鐘は鳴ってないか。じゃ、出かけようか。」
僕たちは、歩いて十分くらいのところにある防具屋を訪れた。そこは男心を刺激しまくる空間だった。
「おお! 凄いな!本物だ。」
「いらっしゃい。何をお探しかな?」
「あ、こんにちは。新しく冒険者になったんで防具を見に来ました。でもお金がどれくらいかかるかわからないので今日は買うかどうかわかりませんが…。」
「そうかい。そいつは頑張らんとな。んで、何が見たいんだ。」
「革鎧がいいんですが、手頃なのってありますか。」
「革鎧か。いいのがある、ちょっと待っとれ。」
店主はそういって奥へ引っ込んでいく。待ってる間に色々見てみよう。
まず見えたのが、体を覆う鎧だった。革鎧から鉄製だろう金属製の鎧、虹色の光沢がある金属でできたのもある。なんだろう変わった材質だな。
金属製の鎧は厚さが三ミリくらいの胸を覆うタイプだった。ブレストプレートってやつだな。ちょっと持ち上げてみるとかなり重い。あ、背中側は革のベルトで脇で締めるのか。良くできてるけど着るのがめんどくさそう。
革鎧のほうは、あ、結構重量感がある。でもブレストプレートとは全然比べ物にならないから、動きも阻害されなさそうだ。胸の部分は革を何枚も貼り合わせて強度を出してるんだ。ちょっとやそっとでは大丈夫なくらいに頑丈に作ってある。結構固いんだ。じゃあ次はこの虹色の金属鎧を…と思ったら店主が戻ってきた。
「その鎧はミスリルで出来とるんだよ。虹色に光って見えるだろう?それが特徴だ。鉄よりも軽く強度も強い。魔法のダメージも軽減する優れものだ。」
「ミスリル!?凄いですねぇ!高そうだ。」
「そんなことよりも、こいつはどうだ?中古だが状態もそこそこいいぞ。」
店主から渡された革鎧は傷はついているが、店主が言うように状態が良さそうに見えた。
「鎧の良し悪しは判らないんですが、あそこの新品と比べても革が少し柔らかいように感じます。中古だからですか?」
「そうだな。こいつは四か月も前に修理に出されたんだが、出したやつが取りにこねぇんだ。どっかでくたばっちまったか、新しい鎧を手に入れたかはわからねぇが売りに出すわけにもなぁ。ってことでお前さんみたいな新人にお勧めしてんだけど売れなくてな。サイズもちょうどいいと思うし、安くしとくから買わねえか?」
「そんなの売っていいんですか? ちなみにいくらですか?」
「いいんだよ。修理や調整なら三日から一週間もありゃあ終わるんだ。普通ならもうとっくに取りに来てるはずだ。値段は安いぞ、大銅貨八枚だ。」
「どうしよう、ニーナ。僕はいいと思うんだけど。」
「そうですね。新品が銀貨三枚なので確かに安いです。中古だとしても銀貨一枚くらいだったと思うので。状態も良さそうですし、いいと思いますよ。」
「わかった。それ貰います。」
「毎度あり!あとは頭と手だな。どうする?」
「お金が無くなるんで今日はこれだけにします。稼いだらまた買いに来ます。」
「そうか。ま、死なないように気を付けろよ。また来てくれ。掘り出しもんを用意しといてやる。」
「ありがとうございました。金が貯まったらまた来ます。」
買った革鎧は、鳩尾までを覆う形のものだ。前面よりも薄いが背中側も覆ってある。着けるときはかぶって着るみたいだ。なるほど着てから両脇のベルトで締めるのか。何か暑そうだな。汗だくになりそう。あ!汗だくで思い出した。着替えの服が無いんだった。
「ニーナ、服とか下着とかってどこで売ってるの?」
「古着屋さんですね。ふふっ、安心してください、下着は新品が売ってますよ。」
古着屋って聞いて、嫌そうな顔をしたつもりはないけどニーナにはばれてしまった。着るものでもちょっと抵抗があるんだけど下着もなのかって思っちゃった。新品なら安心だな。そうだよな、古着の下着なんてだれも買わないよなぁ。
「すぐそこによく行くお店があるので行きましょう。それから夕ご飯を食べに行きませんか?」
下着はトランクスタイプでウェスト部分は紐で縛るようになっていた。ゴムなんてないもんなぁ。
服と下着を買って夕食を食べたら本当に財布の中身が心許なくなってきた。明日から依頼を頑張ろう。今日の晩御飯は鶏肉みたいな肉のソテーだった。美味しかったよ。鶏肉食ったら唐揚げ食べたくなっちゃった。唐揚げ粉ってどうやって作るんだろう。料理はあんまり得意じゃないからなぁ。




