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異世界に出荷よー

らんらんだよ

「出荷よー」「そんなー」

 記憶に残る限り、最後に聞いて最後に言った言葉はそんなものだったように思う。

 言った? らんらんは豚だから喋れないよ?

 まあそんなことは気にしないし、どうでもいいの、気が付いたららんらんはただっ広い草原にいたの。

「おほー!」

 草! これは草! 野生の草だ!

 主食は草なので、草原は願ったりかなったりなのだ。

 ただまあ、らんらんの身体はそこまで大きくないのに比べ、背の高い草が多いのが気になる。

 視界があまり良くないのよね。 ちらりと高い木々が見え、近くに森もありそうだけれども。

 大きな草があるってことは、水辺が近くにあるかもしれない。

 そういえば喉が渇いたわね。

 日も出ていてぽかぽか陽気だ、早急に水浴びをしたいところである。

「水が……水が欲しいの……」

 と考えて探索を始めるも、なかなか辿り着けない。

 視界が悪いからってのもあるけど、鼻の利きが悪いというのが大きい。

 この背が高い草、何とも独特な匂いがして、水の匂いを辿り難くさせているのよね。

「ぐぬぬ……もしゃもしゃ」

 しかし味はまあまあ、さすが野生の草うめえ。

 地面の土は掘れそうな軟らかさだけど、これだけ草があればしばらくは大丈夫そうね。

 とはいえ草から取れる水分にも限界はある。

「み……みずぅ……」

その声に反応してかなのか、らんらんの身体は影に包まれた。

 あらん、ちょっとだけ涼しいわね、お優しい御仁が日傘でも……?

 と振り返ると、それはもう大きなミミズが。

「ええ……」

 いやまあそれっぽいことは言いましたわよええ。

 でもその、実際ミミズが出てくるってどうなの?

 確かにらんらんは豚なのでミミズを食べたりはするけれど、限度ってものがあるわよ?

 つまりその、大きさ的な意味で?

 らんらんの身体全体に影を作るほどの大きさのミミズって、もう完全にモンスターじゃない?

 頭の部分と思われる部分がぐにゃりと揺れ、らんらんの方を向き、目があった。

 あれちょっと待って? ミミズって目があったかしら? なんて考えていると口が大きくグパアと開いてぬらぬらと唾液を滴らせた歯を見せ付けられた。

 これはダメなやつでは?

 被捕食者をしてのカンがビンビンとらんらんに警告を告げる。

「ぬおーーーー!」

 当然逃げるんだよおーー!

 不意に影が濃くなり、それを察して横っ飛びするとデカミミズが地面に突っ込んだ。

 えぐれて穴が開いてる……

 そのままあそこにいたらと思うと急に怖くなった。

「はあ……なにこのクソゲ」

 悪態をついてみるも、恐怖で身体が震える。

 らんらんは所詮家畜だもの、ここで食べられて終わりかしらね。

「はあ……まじはあ……」

 諦めもありつつ、何故か不思議な気持ちが沸きあがる。

 今までこんな事考えた事もなかったに。

 ……生きたい!

 らんらんは生きたい。だってほら一度は出荷されたのに、何の因果か自由な草原に放り出されているのよ?

 何かに期待するなって方が無理じゃない?

 戦う? 逃げる? どちらにしろ、震えはまだ治まらない。

 んもう! いったいどうしたらいいの! ぷんすこ!

「豚さん! 目を閉じて!」

 え? え? ヒトの声?

 目を閉じてってどういうことなの。

火遁かとん閃光華火せんこうはなび!」

 台詞と共に飛び出したのは火花を散らしながら向かってくる丸い玉。

 それがデカミミズの目前まで来て大きな破裂音と共に爆発する。

 これ、らんらんが知ってる線香花火と違う。

 そんな様子を眺めていたらんらんは突然目の前が真っ白になった。

 あーこれあれだわ。 暇だからって牧場で横になって空を眺めてて、太陽を見過ぎた時と同じだわ。

 しばらく何も見えなくなるやつ。

「こっちよ」

 抱きかかえられて方向を示される。

 細い腕。 多分、女のヒトかな。

 あ、いつのまにか震えも治まってるわね。

 視力と引き換えに身体の自由を取り戻したらんらんは、女のヒトに身を委ねることにした。


 木の幹に身体を落ち着かせると、女のヒトが話かけてきた。

「怪我は無さそうだけれど……もう目を開けていいのよ? ほら……」

 と、らんらんの瞼を持ち上げる。

 ぼんやりしてなーんも見えない。

「あ、もしかして見てしまったのね、じゃあ耳は?」

 あー、実はそっちもキーンってしてるの。 でも何とか聞こえる。

 聞こえるというかさ。

「ねえねえ」

 らんらんが話しかけると「えっ?」と驚いたような声。

 意を決して問いかけてみる。

「らんらん今までヒトの話はほとんど理解できなかったのよね、でも何か、あんたの言ってる事はちゃんと分かる気がする」

「え……な……なぜ……人間の言葉を……」

 たっぷり時間を持たせて答えるヒト。

「あーうん、やっぱり分かるわ。 でも何でだろう、らんらん豚だから難しいことは分からないよ」

 とても不思議な気分。

 以前はヒトの言葉なんて難しくて全然分からなかった。 でも今なら分かる。

 表情や仕草、決められた時間に何をするかを知らなくても分かる。

 ふっしぎー。

「高位モンスターではないのよね」

「やんやん?そんなの知らないわよ」

 失礼な。 こんな可愛らしい豚を捕まえてモンスターだと。

「ごっごめんなさい疑ったりして、その、喋れる豚さんは初めてだったものだから」

 こちとら初めてじゃい! 何なら初めて尽くしじゃい!

 実際らんらんだって普通に鳴いてるつもりでヒトの言葉が出て来てるの違和感がすごい。

「まあいいけど……目もちょっと見えるようになってきたし」

 ヒトは予想通り女のヒトのようだ。

 多分若い。 家畜時代、新しいヒトが来る時は大体このくらいの若さだったと思う。

 服装はらんらんがよく見るような作業服ではない。 オシャレな飾りがついていたりする。

 草原には少し似つかわしくないように感じたが、らんらんも別にヒトの生態に詳しいわけじゃない。

「良かった、目も耳も問題無いのね、どこか痛い所はない?」

「なんだこのヒト、べたべた触らないで!」

 らんらんがいやいやして暴れると「ごめんなさい」とまた謝って「本当に良かった」と続けた。

 家畜時代の事を思い出す。

 出荷される運命だったとしても、らんらんは大事に育てられてた。

 それと同じものをこのヒトから感じる気がする。

「とにかく、まずは安全を確保しましょう」

「そうだった、デカミミズはどうなったの」

「デカミミズ?……あれはジャイアントワーム。 モンスターよ」

 もんすたー? え、らんらんあんなのと一緒だと疑われたってこと? でも高位ってことは喜んでいいのか? でもデカミミズ……

「ふんすー」

「ど、どうかした?」

「ううん、なんでもないわ。 なんとかわーむ、まだ全然元気そうにうねうねしてるわね。 とにかく逃げなきゃだけど」

「わたしが、何とか倒せると思う」

「え?ヒトってそんな能力あったの?」

「閃光華火が効果あったし大丈夫だと思う。 でも、念のために豚さんは逃げて」

「ふぁ? ?あーうん、そお? 任せて良いっていうなら嬉しいけど……」

 線香花火……それがどういうものか聞いてはいたが、見たのは初めてだ。

 想像とは違って本当はこういうものだったのだろう。

 らんらんが見た事がないだけで、他にも色々出来るなら心配するだけ無駄かも。

「じゃあ、お願いね?」

 らんらんが首を傾げて言うと、ヒトは瞬間震え、固まった。

「え、なに、どうしたの」

「ううん、何でもないわ。 私の名前、フレイアっていうの、よろしくね」

 なぜ今名乗った?

「あ、うん、らんらんはらんらんっていうの、よろしくね?」

「ふふふ、やっぱりらんらんって名前なんだね」

「なによ!らんらんの名前に文句あるっての?」

 らんらんは少し怒ってみせた。

「いいえ、素敵な名前。 らんらん、きっとまた会いましょうね」

 そう言ってヒトはデカミミズの方へ向かって行った。

 何だかせっかく怒ったのに拍子抜けした気分。

 っていうかフレイアさん? なにその死亡フラグみたいなの、やめて?

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