第8話 動揺、安堵、そしてざまぁ
「クロー、あそぼー」
「リ…じゃない、主!? げほっごほっ」
いきなり俺の自室に入ってきたかと思ったらそんな事を言い放ったリカ…主に、俺は飲もうとしていたココアを喉に詰まらせた。
「うーん、動揺してるクロを見るとなんか安心するね!」
「言い方!っていうか呼び方!」
咳き込む俺を見ての第一声がそれかよ!っていうかなんで呼び方が変わってるんだよ!
「え、ダメ?」
「いえダメじゃないです、はい」
こてん、と首を傾げる想い人があざと可愛くてつらい。逆らえない。
「よっしゃ!」
くっそ可愛いなちくしょう!
やったね!と満面の笑顔を見せる主に、俺は顔を覆った。
「なんか…クロの顔見たら…眠く…」
ふみゅう…と猫のような声をあげて、主はそのままベッドに腰掛けていた俺の膝に倒れ掛かって来た。
止める間もなく寝入ってしまった主に、俺は静かに天井を仰いだ。
なんでこの人はこんなに無防備なんだ…!
「……わたし…ユイの様子…見てくる…」
「えっ、この状況で俺を置いていくのか…!?」
いまだに俺の膝には主の頭が乗っている。
助けを求めてバニラに視線を向けたものの、彼女はふっ…と笑って、魔道具でも使ったのかそのまま消えてしまった。
…………どうすれば。
というか、なんでユイット?
■
固まっていたら、20分ぐらい経っていたらしい。時計を見たら予想以上に針が進んでいて驚いている。
主は…笑いも泣きもせず、無表情のまま静かに膝の上で眠っている。
…ええと。
そーっと、起こさないように気を付けながら、主の薄紫色の髪を撫でてみる。
「んぅ…」
途端、ふにゃ、と緩んだ笑顔を見せてくる主に轟沈した。
なんだその…なんだその…。
さっきまでは普通に無表情で寝てただろ…!?なんで俺が触った途端笑うんだよ…!無意識かよ…!!
なんか、ちょっと足が痺れてきたんだが…。
流石に…起きてもらうべき、だよな…?
「主、起きてくれ」
声を掛けながら、ゆさゆさ、と遠慮がちに肩を揺さぶる。
「んー…」
「可愛い…じゃなくて、起きてくれないか」
いい加減足の痺れが強くなってきたし、今まで意識しないようにしてたけどなんかいい匂いがするし…出来れば早く離れて欲しい。
「にゅう…クロ…」
「…っ!」
一瞬、足の痺れとか理性が限界を迎えそうになってる状況とか、全部吹っ飛んだ。
名前を呼ばれただけ、単に寝言が零れただけなのに……なんか…嬉しすぎて爆発しそうだ…。
「クロ…」
「おわっ!?」
「わあ!?」
バニラが突然出現して驚いたら主も起きた。
…思ったより早く終わったな…。
「……えと…ごめん…?」
「いや、いい。なんかあるんだろ? 俺は居ない方がいいなら廊下に出てるが…」
…寂しいのは確かだが、俺にもバニラにも、向き不向きがあるしな。…仲間外れにされてるみたいで寂しいのは確かだが。
そう言って、自主的に部屋を出ようとする前に、つい、と服を引っ張られた。
「主?」
「クロも居て。――あたしは…クロにも居て欲しい」
初めて見る、不安そうな顔だった。
「…わかった」
■
『集団…正式な組織名は「聖アリア教団」だと判明した50名程度の集団は、髪色が濃いほど魔力が多いという俗説を信じ、薄い色彩のものを魔力の無い悪魔と罵る意味不明な集団であった。』
『彼らの目的は、薄紫色の髪と淡い緑色の瞳を持つ、現在20歳になる女性だったようだ。ディスがリカの写真を彼らに提示すると、口々に「彼女を探して居るんだ!」と話し出した。』
『目的の彼女の、兄と両親が壊れたため、いつの間にか行方不明になっていた彼女の捜索を始めた、と彼らは供述した。』
『一通り喋った後、ディスと館長が連携して激しく厳しい拷問を行い、これらの話が真実である事を確認している。』
いつものように淡々としているけれど、端々から苛立ち・憎しみが透けて見える口調。
それだけでも、なんというか微笑ましくて、不安が薄らいでいったけれど。
『――と言う訳で、あの集団はディスと館長の手によって完膚なきまでに叩きのめされて再起不能になっていた。
……だから、もう大丈夫』
その最後に、いつもとは違う、励ましの言葉が添えてあって。
…あたしは、やっと安心して息を吐けたのだった。
「っていうか…ディスと館長のコラボとか、なんていうか…あれだな」
一緒に報告書を読んでいたクローバー…クロが遠い目をしている。
まあ、うん。あたしも同じ事思ってる。
「再起不能かあ…」
あたしを地獄に叩き込んだやつらが、再起不能。
「ふふ、ざまぁ」
呟きと共に、自然に素の笑みが零れ出た。
「「……わあ」」
……え、なんで2人揃って驚かれてるの?
「なにその反応…」
「いや、良い笑顔ですごい事言うから。……惚れ直した」
「…おなじく」
「納得…って、惚れ直すの?」
笑顔でざまぁって言ったからの反応なのは分かったけど、クロは今ので惚れ直したの?
惚れ直したそうです。
クローバーはリカなら無条件に可愛いと思うレベルで彼女に惚れ込んでいるので、らしくない事を笑顔で言うぐらいなら惚れ直すだけなようです。
リカ「計画通りなんだけど計画通りに行き過ぎてて引く」
クロ「Σ酷い言い草だ!?」