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第4話 離れる時間と、穏やかな日々

今回、時間が一気に飛びます。

記憶を取り戻して、世界征服と不死の体を目標に動き始めてから、2年が経った。

あたしは今、1つの街を丸ごと手に入れた。

不死の体の方の研究はあまり進みが良くなかったのだけれど…街を手に入れる過程で、中々優秀な研究者も複数確保出来た事だし、これから加速していってくれればいいな、と思う。


クローバーもバニラも、実に順調に計画は進んでいる。

特にバニラ。記憶喪失なだけあり、素直にあたしの教えを飲み込んでいく。細かい事は気にしない大らかさもあるようで、あたしとしては大助かりだ。

クローバーも…順調にあたしへの気持ちを深めているようなので、最近は研究に力を入れるついでに次のステップに進もうか、と画策する日々だ。


「…リカ、今いいか?」

噂をすれば影、クローバーだ。

「はい、…クローバー?」

自室のドアを開けると、クローバーは緊張して面持ちで佇んでいて。

…告白は、まだダメだよ?


「リカ…」

「もしかして、研究の素材を集めて欲しいっていうお願いの事?」

クローバーの言葉を遮って、彼がまだ聞いていないだろう決定事項を話題に出す。


「え?なんだそれ」

案の定、彼は訊き返してきた。

「ええと、まだ伝わってない?あたしがしてる「不死の体」の研究に必要な素材とか資金とかを、クローバーに遠征に出て貰って集めてもらう、っていう話」


……補足しておくと、この1年ぐらいでクローバーとバニラには素に近い口調で接するようになっている。

敬語が基本な救世主口調は嫌だとクローバーが言って、バニラもそれに乗っかってきたからだ。…まあ、あの口調は素ではないと暗に匂わせたりもしていたので、計画の範疇内ではあるのだけど。


「き、聞いてない…」

呆然とするクローバーに、「だよね」と思いながらもそれは綺麗に覆い隠して、少し申し訳なさそうな顔を作る。


「みんなの中で一番強いクローバーが一番早いだろう、って研究者の人たちで意見が一致してて…」

「それは…リカも?」

「あたしは…反対したの。クローバーが一番強くて早いのはわかってる。それはあたしがよく知ってる。…でも、ずっと一緒に居たクローバーと離れるのは、いやだな…って思って」


俯いて、いかにもか弱そうに震えて、そう呟く。こう言えば、彼はきっと――

「…でも、もう決まってるんだよな?」

「う、うん…」

おずおずと、申し訳なさそうに頷く。

「じゃあ、出来る限り急ぐから」

「…え?」

彼の言葉が咄嗟に理解出来なかった、というように、呆然としてみせる。

細かい反応を返しながら…にやり、と表には出さずに笑う。

「早く終わらせるから、終わったら…リカとゆっくり、2人で過ごしたい」

――そう言うと、思ってた。

「っ…うん!」

ぱあ、と満面の笑顔で、憂いが晴れた、という顔で頷くと、クローバーはぼっ!と顔を赤くして。

「じゃ、じゃあな!」

上擦った声でそう挨拶して、そのまま走り去った。


ふふ。

告白は、まださせない。

まだ――クローバーというあたしの手駒は、完成していないのだから。



 ■ ■ ■



「遠征」について、リカから詳しく教えてもらった、その数日後。

俺は、珍しく自室でぼーっとしていた。


いつもは空き時間が出来ると鍛錬に出るなりリカの所に行ったりして時間を潰すのだけれど…今は鍛錬が出来るような気分ではなかったし、リカは悲願でもあった研究が存分に出来る環境に忙しなく働いているため、邪魔をしてしまうのは俺が嫌なので側には居られないし。


リカは…俺を救ってくれた救世主で、無防備に俺なんかに笑顔を向けてくる、綺麗な女性で。

俺に「クローバー」という名前を与えてくれた時から、俺の心を占領し続ける…大好きな、ひとで。

だから、俺は――


「クロ…」

するり、と、物思いに耽っていた俺の意識の隙をついて入ってきたものに、反射的に格闘の構えを取りかけ…

「…なんだ、バニラか」

髪も服も黒ずくめの格好をした見知った少女の姿に、ほっとして構えを解いた。


「リカが…呼んでる…」

リカが、俺を?

「今行く」

反射で答えを返し、手早く身支度を整える。


「どっちに行けばいいんだ?」

「…こっち…」

ゆっくりとした口調とは裏腹に素早く動くバニラに着いていく。


俺やバニラの部屋がある居住区画を出て、中庭の広場を横切って…遠回りしてるからちょっと分かりずらいが、こっちは研究棟の方か?

研究棟は正方形だし真っ白だし窓も無いし分かりずらいけど…こっちはいつもリカや他の研究者が出入りしている入り口とは逆の方向だよな。

バニラはどこに向かってるんだろう…?



「…ついた」


「クローバー!こっちこっちー!」

色とりどりの花が咲き乱れる花畑の中心部で、笑顔で手を振るリカの姿があった。


嬉しくなって駆け寄ると、リカは「綺麗でしょ?」と笑う。

「ああ、綺麗だな」

花畑もだけど…なによりも、笑顔のリカが、一番綺麗だった。





「一緒にお昼ご飯食べよう?クローバーが遠征に出ちゃう前に、ゆっくりしたかったんだ」

…ダメ? と上目遣いで言われてしまうと、俺には「ダメじゃない」としか言えなくなってしまう。


「クローバー、あーん」

「あ、あーん…」

口に押し込まれたサンドイッチは、俺の好きな卵のサンドイッチだった。


「ね、クローバーも」

あーん、と口を開いて待つリカに、俺はやけくそでフルーツサンドイッチを手にした。

「あー…んむ。んー、おいしい!」

ああもう、くっそ可愛いなあ…!

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