第1話 目標
全てを思い出して、今までの扱いを思い返して。
あたしは、世界を憎んだ。
まず、家族が惨たらしく殺された。
「地獄」が始まるまでは、どこにでもいるような幸せな家だったのに。
…ただ、あたしたち一家の色彩が薄いから、と、人ではないと、悪魔であると、人であったらいけないと言われ、甚振られた。
一生分の痛みを味わって、なおも続く拷問に泣き叫んだのは、一度や二度ではない。
あたしや兄が涙を零すたび、ゲラゲラと笑って火を近づけてきたあいつらの方が、ただ薄い色合いをしているだけのあたしたちよりも、ずっとずっと悪魔に見えた。
そして、記憶を失いつつもいつのまにやらあの地獄を抜け出したと思ったら、今度は悪徳貴族の奴隷になっていた。
素性が分からないからと、隙間風が多い、古い納屋で毛布の1つもなく寝泊りさせられた。
1人娘に似ているからと、勝手に影武者にさせられた。暗殺者に襲われて、1人娘に向けられるはずだった殺意を向けられた事も何度もあった。
トイレ掃除も、寒い中の買い出しも、全部全部押し付けられた。
侍女として娘に仕えながら、同僚にいじめられ娘に癇癪を起されながら、しかしそれを普通だと思って黙々と日々を過ごしていた。違和感を感じながらも、仕方ないと自分に言い聞かせて。
あたしはただ静かに暮らしたいだけなのに、世界は笑いながらあたしから全てを奪っていく。
――なら、あたしは強くなろう。
奪われないように。
理不尽な目に遭わないように。
自分と、自分が大事なものを、守れるように。
手段は選ばず、身を護る方法を。
ただ、ひたすらに。
■
全てを思い出して決意したあの日から、半年が経った。
あれから、あたしはまず体力を付けた。逃げるにしろ戦うにしろ、スタミナは大事だ。
そうして付けた体力で、とりあえず隣の国に逃げた。
この国が中々都合が良い国で、騙しやすい国民と、ある程度開放された図書館があった。
体力をつける傍ら、独学で辛うじてものにした洗脳魔法を使い、図書館に通い詰める。
そこで魔法をきちんと学び、補助として洗脳などに頼らない人心掌握術も覚え。
サバイバル技術を覚え、ついでに無駄に体力を使わない戦い方と、小回りが利くものを中心に多様な武器の扱い方にざっと目を通した。
実践…戦闘もだけど、サバイバル技術とかも磨いた。……あのマッド野郎、同意も取らずに森の奥に転移させるとか何考えてるんだ。なにが「リカなら大丈夫だと思った」だ、いつかグチャグチャに叩きのめしてからあたしと同じ目に遭わせてやる。
…おっと失礼。つい恨みが。
他にも魔法に頼らず崇拝者にする方法とか、敵の攻撃を避け続ける反射神経と集中力を育てたりとか、色々とやって…。
そうやって実力を付けながら、ずっと考えていた。
あたしが、絶対に害されなくなる方法とは、なんだろうか、と。
あたしの望みは、もう奪われない事。あたしや、あたしが大事なものを、無くさないようにする事。
根本的には、それに尽きるのだ。
そのためにどうするべきか、という事を考えていたのだけれど…。
不死の体を得て、世界を征服してしまえばいいのだ。
死なない体と、害されない、奪われない環境を手に入れる事。
それが、あたしの目標だ。