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幼なじみの終わり

作者: RE:まったり

俺には幼なじみと言っていいのか、昔から連んでいる女の子がいる。

君は俺のことをどう思っているのか…そんなこと以前なら考えもしなかったが、最近は考えるようになった。




君は今何を考えてる…僕は変わることが怖い。君のことが分からなくなるのが怖い。






「ねえ、この前なんだけどさ…」


ふと彼女が発した言葉を俺はいつもの世間話と同様に聞き流そうとしていた。


「ん?」


高校生にもなると幼なじみとの付き合いは10年を超えてくる。

そんな相手の話を徹頭徹尾全て真面目に聞くほどの胆力を俺は持ち合わせていなかったし、何より彼女も遠慮なく好き勝手にできる関係を望んでいると思った。


「学校の先輩から告白されたんだよね〜。」


「え?」


こいつの容姿が世間的に美少女だとか、ちょっと抜けているところのある優等生みたいな気やすさが男子に人気とか…周囲の評価を聞く度に俺は何ともいえない感情が頭の中を駆け巡るのを感じた。


でも、今以上に同様はしなかったと思う…だって告白されたとしても俺に対して、そんなこと言ったこと一度もなかったから。


「そうか…。付き合うのか?」


俺の問いに対して彼女は


「どっちがいいのかな。私にもわかんないや。ーーーでも、付き合ってみるのもいいかも。」


俺は頭が真っ白になった。

そう、本当に大事なものは手遅れになってからしか大事なものだって気付くことができないんだ。






それから俺と彼女は距離を取ることが多くなった。

学校の通学、帰宅と言った毎日共にしていたことも、まるで最初からそうでなかったかのようにたった1週間ほどで馴染んでいた。

普段の景色も以前とはまるで違うように見えてきた。

何年も遊んだ公園の少し色あせた遊具とか、あたりが出るまで通い詰めた駄菓子屋とか…思い出なんかそこら中に溢れている。

今までは気にしなかったものが、途轍もなく遠く感じることで失ったことを実感させてくれた。


友人から聞いた話だと彼女はその先輩と付き合っているらしい。

俺は直接聞いたわけじゃ無い…だってあの時の会話から何となくそうなることが分かったから。


虚無感というべきか…そこに当たり前にあったものが失われた時人という生き物はこんなにも力を失うのか。

他の人はわからないけど、俺はたった1人の人が自分の近くから離れただけでこんな気分を味わうハメになった。

2度と会えないわけでもなければ、クラスだって同じなのに。

物理的距離より心理的距離は残酷だ…なぜなら変化をゆっくりと彼女と共に感じることになるのだから。








「そーいやお前ってあの話聞いた?」


友人から唐突に話しかけられた。

あれからもう、半年の月日が経っていた。

彼女に対する感情は希薄になり…当時何を考え、何を悲しんだのか…今となってはわからない。


「何のこと?」


「知らんのか。なら教えてやる、実はーーー」






簡単に言ってしまえば彼女は先輩と別れたらしい。

理由も何というかありきたりなものだ。

先輩は今月で卒業する、彼は上京するらしく遠距離の恋愛は厳しいということになったらしい。

俺にとっては名も知らぬ先輩ではあったものの、彼女と半年間それなりに上手くやっていたということはわかった。

不仲みたいな噂は一度だって流れてこなかったから。



「で、何の用?」


俺は校舎裏に呼び出され、彼女の言葉を待っている。

花は春への準備をだいぶ進めてきている。

来週の卒業式にはきれいな花を咲かすことだろう。

夕暮れの陽は今の俺の心情を表しているような気がした。

懐かしさと寂しさ…彼女から感じるものはそれ以外になかった。


「ごめん、呼び出して。」


「ううん、別に。用があればいつでもこれくらい付き合うよ。」


俺は少し苛立っていたのかもしれない。

あれから何の音沙汰もなかった彼女が先輩と別れた直後に話しかけてくるなんて…複雑で感情を処理できない。


「用があれば…か。ーーーうん、そうだよね。」


彼女は俺の言葉を受け止めている、それは俺にもわかる。

いや、半年前まではわからないことなんかないと思っていた。

今からすれば勘違いでしかないことは十分理解したけど、当時は本当にそう思っていた。

同じ時を積み重ねて限りないほどの思い出を共有した彼女はいわば自分の分身のようにすら思っていた。

そんな愚かさにも気付いていなかったあの頃の自分の滑稽さを恥ずかしいとすら今は思う。


「あのね、今日は…聞きたかったの。あなたはどうしたいのか、そして言いたかった私がどうしたいのか。」


彼女は言いづらそうに言葉を選び、話してくれる。

それは自分の中でもどう表現するのが正しいのかわからないということなのかもしれない。


「どうしたいって何を?」


なんて無粋なことは聞けなかった。

聞かなくてもわかってる。

この微妙な距離感…以前とは違い、居心地が悪い。


「俺はどうしたいとも思わないよ…以前のように振る舞うのは君にも難しいだろうし、俺も多分できない。」


「ーーーっ。」


彼女は表情をしかめる。

俺も彼女と同じような顔をしているだろうと自分でもわかった。


「俺は半年前から何も進んでいない…その感情を埋めるには時間が経ちすぎた。」


半年前、ある種の決別をしてから彼女とは必要最低限の会話以外はしていないし、そこに感情はなかった。

もう自分の中でも薄れつつある感情や思いに対して解を見つけることは難しい。

それは俺自身も望んでいることではないから。


「そっか…ごめんなさい。」


「いや、気にしていないよ。」


俺の口から出た言葉は何と醜くて、情けない…ハリボテなのだろう。

消化できずに喉の奥にこびりついたものを吐き出すこともできず、今はその苦しさからも逃げているというのに。


「私はっ!!」


彼女が声を張り上げる。

それは今までとは明らかに違うし、彼女がこんなに声を荒げることは未だあったのだろうか…。


「私は…後悔してるの。あの日からずっと。こうなるなんて思ってなかったから。」


彼女の瞳は強く光を反射させる。

感情の波が揺れるように瞳が彼女の想いを滴に変えようとしていた。


「君はあの時何も言わなかった…私は正しい道を選んだつもりだった。けど、私は間違えていたの。」


それがもし、あの時…いやあの後すぐに聞けていたのならば何かが変わっていたのだろうか。


「間違いに気付いて、何とかしようとしても…どうすればいいかなんてわからなかった。だって離れたことなんて一度もなかったんだもん。君が私のことをどれだけ考えてくれていたのかなんて、少し想像して見ればわかったことなのに。」


そう、後悔はいつも後からしか訪れない…自分が大事にしたいと思った時にはそれは手元から離れている。

彼女も俺のそれに近いモノを感じていたのか、いや俺らに限った話ではなくそれは当たり前のものなのかもしれない。

ただ、それに気付いたのが遅かっただけで…。


「私はもう一度、やり直したい。間違えたことを直したい。ーーーもう遅いのかな?私はもういらないのかな。」


彼女のその言葉はこの半年を否定することだ。

架空の世界のようにタイムスリップしたり、リセットボタンなんて存在しない。


「間違いなんてないよ。俺は君の選択を正しいと思ったから何も言わなかった。それは今も変わらない。」


俺と彼女は特殊な関係なのかもしれない。

距離が近い…それは肉親以上に。

だからこそ彼女が告白され、付き合うと決めたとき自分のことのように考えた。

離れることが怖いのではなく、相手のことがわからなくなるのが怖かったのだ。


「私は…」


「先輩と付き合ったことは正しかったよ。君は楽しかったんでしょ?」


「それは…うん。ーーーでも違うの。私が欲しかったのはそういうものじゃなかった。私が欲しかったのは…」


「あの時の俺らは少し焦りすぎていたのかもしれないね…。」


先輩という存在は俺らの関係を変えることになったファクターではあるものの、きっと先輩がいなくても同じようなことになった可能性はいくらでもある。

俺が交際することになったり、お互いに自分のこと以上に大事なものができた時点でそういうことは起きるはずだ。

だって、俺らは自分の分身だと思っていたのだから。


「私は…わからない。どうすればいいのか、あの時と同じようにはいかないってわかっててもそうしたい。」


「俺もできるならしたい。でもそれはきっと今よりも辛い思いをすることになるよ。」






「ーーーー俺らはもう、幼馴染を過去のものにしてしまったんだよ。」






その言葉だけが、すらりと喉からつっかえることなく出てきた。


「そっか、…そうだったんだね。」


どのような関係もいつかは終わりゆき変わっていく。

不変なものも存在するのかもしれない…けど不変なものはいつまで経っても前にも後ろにも行けない行き止まりだけ。


「終わっちゃったんだ…。寂しいな。」


「うん…俺も寂しいな。君と同じくらい。」


君と共有する最後の感情はとても苦く、辛いものではあるけど…それは今の俺たちを次へ進ませてくれる糧のようなものにも感じられた。




君は今何を考えてる…僕は変わることが楽しみだ。君のことを知れるのが嬉しい。






短編は初めてなのですが…難しい。

書きたいことは書けたかなと言った感じです。

お読み頂きありがとうございました。

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