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目の見えない少年は混沌とした異世界で  作者: 久我尚
第四章 『この異世界で』
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第13話 『解き放たれる者』

 大地が揺れる。

 地鳴りが響き、人々を困惑させ、混乱させた。


 「――何をしたんですか」


 最強の騎士は問う。

 すると黒の騎士は黒器をとある方向へ向けた。彼が指した方向にあったのは、中庭からかろうじて見える、城壁内に建てられた塔のうちの一本、その先端である。

 ルシウスが目を向けた瞬間、塔は崩れ落ちた。


 「な……」


 さらに嫌な予感がしたルシウスはこの場から見える別の塔も見たが、その塔もちょうど崩れている最中だった。


 「王の命はどうでもいい。私たちはあの塔を破壊したかったからここに来た」


 「十三の塔を…?」


 十三の塔。

 バミラ王国建国時から存在するとされている建造物だ。いつだれが作ったかも知られていないそれは、少なくとも五百年近くは存在しているというのに老朽化が一切ないのだという。

 その塔を、黒騎士は破壊した。


 「そうだ。これでお前と遊ぶ理由がなくなった」


 最初から彼の目的は宮殿への侵攻などではない。


 「……だから敵意がなかったのか」


 何かあるとは思っていた。しかし、まさか十三の塔を破壊するのが目的だなんて予想もつくはずがなかった。何せあの塔はなぜ存在するのか、国王のルハドですら知らないのだから。


 「さっさと王の間に戻れ、英雄」


 「待ってください! あなたは一体何を…」


 「…やるべきことをするだけだ」


 黒騎士はルシウスに背を向けて、噴水を破壊した。

 すると噴水のちょうど真下に隠されていた階段が姿を現した。


 「隠し階段…」


 そんなものがあるなんて、頻繁に宮殿の出入りをしているルシウスも知らなかった。逆にそのことを知っていた黒騎士は、撒き散らされた水を意に介さずに階段へと進んでいった。


 「それはどこへ続いているんですか…?」


 「世界から外れた世界というのが言い得ているだろうが、お前には関係ない話だ。…それよりこれからどうなるかは私にもわからない。早く王の間に戻って戦闘態勢をとらせるなりなんなりしろ。下手をすれば王都がなくなるぞ」


 「あなたは…」


 「――――」


 黒騎士は暗く長い螺旋階段を下っていった。

 

*****

 

 長い階段だった。実に長く感じる階段だった。

 それを下りきってたどり着いたのは牢屋。正面に立つとその空間に僅かな光が灯った。その光によって檻の中には人の形をしたものが鎖に繋がれているのが視認で来た。


 「お前が、世界の異物か…」


 黒騎士は闇の中にいる男を見つめる。

 今回の目的である『敵』をその目で捉えた。


 「――ハハッ! 人と話すのは何百年ぶりだろうな。眠っていたせいでいまいち時間経過がわからない」


 牢の中から返ってきたのは思いの外元気のある声だった。


 「でもオマエじゃないな。オレ様が会いたかったのはオマエじゃない。世界の不要物という点では似てるが別物だ」


 「どうでもいい。私はお前を殺しに来ただけだ」


 「殺す? 殺すか…そうか、それは面白い。やれるならやれ。オレ様を殺してみろ」


 「――――」


 腕につけられた手枷の鎖を男は無理やり引きちぎった。続いて足のものも破壊する。


 「動くのも久々だな。封印を破ったのは感謝してやる。人間もどき」


 黒騎士は鉄格子を切り裂いた。

 これでもうお互いを阻むものはない。


 「さて、オマエはやる気のようだがオレ様は外を見たい。あれからどれだけ変わったのかこの目で見る。オマエの相手は…そのあと気が向いたらしてやろう。人間以外の相手をするのはあまり気が乗らないからな」


 男が牢の奥から前へと出てきたことによって黒騎士は相手の顔を視認できた。

 髪の短い男だった。その髪の長さに疑問を持ちつつ、黒騎士が一番おかしく思ったのは男の右目だった。


 「なぜそれが刻まれている…」


 ここにきて始めて黒騎士が動揺した声を出した。謎の男の右目には『ⅩⅤ』と刻まれていたのだ。黒騎士からするとそれはおかしなものでしかなかった。


 「なんだ、人間らしい反応するじゃないか」


 「黙れ…」


 黒騎士は手に持つ黒器を振るう。

 が、男は難なくそれを掴んでみせた。


 「動揺が隠せていないな。とてもオレ様と戦える状態じゃない。そそりはするが、やはり優先順位は下だ」


 そう言った男の背からは黒い翼が生えた。


 「…行くとしよう」


 黒騎士の黒器から手を離した男は飛んだ。天井を貫いて地上へと向かった。

 黒騎士は動くことができずに、その様子を見ているだけだった。

 

*****

 

 「ほぉん。これが今のこの世界か。思いの外文明は進んでないのか? いや、魔法あたりが発達したらこんなんになるか」


 久しぶりの外だ。

 人々が築いたものが広がっている嘔吐を彼は空中から眺める。


 「やっぱり世界は変わるな。本当に面白い。変わらないのは人間だけだ」


 つまらないものはやはり変わらない。昔から決まっている。


 「まあ奴らにも楽しみ方というのがあるのが唯一の救い――」


 男がそこで時が泊まったかのように停止した。


 「なんだ、あの光は…」


 男の目に止まったのは、遥か遠くにそびえ立つ光の塔だった。


 「…まあいい、それより会いに行かなければ。セフィラに関しても急ぐことはない」

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