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目の見えない少年は混沌とした異世界で  作者: 久我尚
第三章 『劔の魔人と喰らう者』
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第7話 『出立の時』

 2日後。

 城塞都市ノンバラ、北門の外。

 通常の馬車よりも明らかに巨大な馬車がそこにはあった。


 「これですか…。確かに大きいですね」


 エレナの素直な感想である。

 そう、この二頭立ての常用馬車こそゼノスの用意した移動手段である。エレナがここに来るまでに乗ってきたものよりも巨大だ。

 ゼノスが豪華すぎないように部下に作らせたものなのだが、色が主に黒だとしてもこだわりようは見て取れる。他の馬車と比べれば相当な異彩を放っていた。認識疎外の魔術を使わなかったら監視の兵に気付かれて面倒なことにないっていたことだろう。


 「まあ乗る部分には問題なさそうだけど……八人ってこの子達」


 二頭の馬をロザリエは指さした。

 現在ここにいるのは、アヤト、エレナ、レイ、ロザリエ、ゼノス、エスメラルダ、アナ、そしてゼノスの側近であるという美しいメイド姿の女性――ヴァイオレットの八人である。ヴァイオレットが手綱を握り、残りの七人は何もせず馬車に揺られるわけだが、流石に人数が多すぎて二頭では無理があるのではロザリエが危惧したのだ。


 「それは心配ない。この馬は普通の馬ではないからな。馬力は通常の三倍ほどだ」


 ふふんと鼻を鳴らして、ゼノスは自慢げに言った。


 (なんか聞いたことあるなぁ…)


 通常の三倍というフレーズを陸は元の世界のどこかで聞いた覚えがあったが、ついには思い出すことはできなかった。


 「まあ、その代り色々問題があってな。街中では出すことができなかった」


 「ノンバラの外周を回らせたんですか?」


 この馬車はエレナたちが北門を出た時には既にあった。こんな巨大な馬車が都市内にあれば認識疎外の魔術をかけていようが、流石に住民が騒いでいるはずだ。


 「いや? 私の部下に空間転移の魔術を使える魔術師がいてな。それに今朝転送させた」


 空間転移。線での移動ではなく、点と点の移動を可能にする魔術である。


 (メイアさんが使ってたやつか…)


 ガルノと共にいた女性、メイアが撤退時に使用していたのもそれだ。


 「なるほど。では昨日お急ぎのようでしたので聞けなかったことを聞いておきたいのですが、この馬車でどこへ向かうのでしょうか」


 「安心してくれ王都までの遠回りにはならない。目的地は王都から二つ手前の都市アクールだ。我々はその周辺に用がある」


 「二つ手前…」


 二つ手前と言われはしたものの、ロザリエはバミラ王国はおろか、エルフの国から出たことがなかったので都市間の距離など想像もできなかった。


 「安心してもらって構わない。21日以内に到着すればいいのだろう? 我々の用が終わっても王都の一つ手前の都市まで君たちを送るつもりではあるから、それまでには間に合うはずだ」


 「――いいの?」


 「構わないとも。だが流石に協力…いや、この場合は交換条件だな。君たちに交換条件がある」


 「交換条件…?」


 エレナが目を細めた。

 ここにきて初めてゼノスが取引らしい取引を持ち込もうとしているのだ。警戒はする。


 「ああ。だが…」


 内容を口にする前に、ゼノスはエレナの後ろに控える白銀の鎧を身にまとった騎士へと視線を向けた。


 「敵意を少々収めるように言ってくれないか?」


 自分の頭髪と剣とは正反対の白色の武装をするレイは、ゼノスを睨みつけて敵意丸出しだった。そんな彼女にアナが反応しないわけがなく、彼女もまたレイを睨みつけていた。


 「このように私の部下も落ち着きがなくなってしまうのでな」


 「はぁ……、すみません。レイ、ちょっとは落ち着いてください」


 「――――はい」


 彼女の性格的に反対するかとアヤトたちは思ったが、以外にもレイはすんなりとエレナの言葉を聞き入れた。が、彼女の瞳からはまだ警戒の念は消えていなかった。


 「…感謝する。それで交換条件なのだが、私たちの用を手伝ってもらいたいというものだ」


 「また唐突ですね」


 等価交換。

 目的地まで運んでくれるというのだ。なんの対価も支払わないなんてうまい話はない。

 それにもうこの段階に来てしまっている時点で、ゼノスの話は断りづらかった。だが、内容次第では拒否する必要もあるだろう。

 メリットよりデメリットが勝る行動をエレナはしたくない。


 「というかそれって協力じゃない? なんで言い直したのよ」


 「確かにそうなのだが、交換条件と言った方が交渉っぽいだろう?」


 「まあそうね」


 変なところを気にするゼノスであった。


 「…それで、私が手伝う用というのは?」


 「内容に関して向こうについてから伝える。だが戦闘の可能性があるとだけは言っておこう」


 「戦闘…ですか」


 明らかに面倒ごとであることをエレナは直感的に把握した。


 「ああ、なるべくそうならないようにはしたいが、君たちに手を貸してもらった方が効率的な可能性が高いからな」


 「――バミラ王国に対する攻撃…ではないのですよね」


 「当然だとも。私は戦争が嫌いだからな。むしろ今回の件は王国にとって益になり得る」


 「わかりました。あなた方の用というものの手伝いをします」


 バミラ王国に益があろうが、なかろうが、エレナはどうでもいい。問題は王国に敵だと認識されてしまわないかである。

 ロザリエの件が終わればアヤトとレイと共にこの国から出るつもりのエレナではあるが、その前に国を敵に回すというのは避けたい。他国と比べ現在は武力の少ないバミラ王国だが、国は国だ。敵にすればどう考えてもろくなことにならないのは明白である。

 そのような厄介なことにならないのならばと、エレナは承諾した。用というのを手伝えば、徒歩よりも速い馬車で王都付近まで連れて行ってくれるというのだから、21日…今日から数えて19日以内で王都に到着しなければならないロザリエのことを考えれば妥当な判断だろう。


 「ありがたい。では行こうか。おそらく今出立すれば明日の今頃には到着するだろう」


 夕暮れ時、一行は都市ノンバラを後にした。

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