プロローグ 『なんて…』
新章突入
――また…
また水中に浮かんでいるような感覚を味わう。
その最中、唐突に昔の記憶が湧き上がってきた。
アヤトの父親は毎日のように「お前の目は必ず見えるようになる」と言ってくれていた。
十年以上もそう言って励まし続けてくれた。
本人が諦めていても父親は諦めることなく、アヤトを励ましていた。
それと同様にこんなことも言っていた。「お前や父さんが住んでいる世界とは別の世界がある」と。子供が夢で見た光景を楽しい出来事を話すかのようにアヤトとアヤトの妹たちに聞かせていた。それを聞いた母親はよく「三人に変な嘘を教えないで」と父親を叱っていた。
――変な嘘…か
変ではあったが父親の話は嘘ではなかった。
――お母さんが聞いたらどう思うんだろう
嘘だと笑われるのだろうか。はたまた信じて聞いてくれるのだろうか。
どちらにせよそんなことは叶わない。二度と会うことはできないのだから。
――お父さん、お母さん…、ゆみ…、かな……
顔は知らない。だが彼らは彼にとって紛れもない家族だ。
――顔…見てみたいな…
叶わぬ夢だ。
いや、そもそもそれ以前に、
――――なんて、おこがましいんだろう




