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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
96/197

揺るがぬ想いを胸に

楽しんでいただけると幸いです。

瞬間移動レベルでイングはアヴェイルの頭上に空気を蹴り移動。 素早い踵落としがアヴェイルを襲う。 それをアヴェイルは後方へ飛び回避。 湖の底の地に更なるクレーターが生まれる。 地が弾け飛び、風が起こる。

「ふっ!!」

イングは拳を構え、着地したアヴェイルへ拳を突き出した。 するとイングの拳の方向の地が抉れ、見えぬ力がアヴェイルを襲う。 アヴェイルは腕をクロスしてそれを防ぐ。

ズガガガガ……

アヴェイルは無傷だが、アヴェイルの背後は地が抉れ、湖を中心に一本の線が地に刻まれた。

「馬鹿げた強さだ……」

俺はただ溜め息が出た。 無反応な輩共は、攻撃した途端に土へと還り。 俺はアヴェイルの加勢にいつ入ろうか見定めていたが。 目の前で起こっているこんな次元が違い過ぎる戦いに、俺はただ見ていることしかできずにいた。

特に驚いたのは、あんな老人であるイングが化け物じみていることだ。 どこからあんなパワーが出せているのか見当もつかない。

「アヴェイルよ。 防御ばかりじゃわしを倒すなど不可能じゃよ。 それとも何か? またあの時のように、一発逆転なる必殺技でも練っておるのか?」

「あぁ、言ってましたね。 たしか、貴方がマシンガンなら私はスナイパーライフルだと。 どうでしょうね。 そのうち分かりますよ」

その台詞を聞いてイングは一度目を瞑り、軽く跳躍して拳を固めた。

「ふっ、変わらぬな。 弱き若造が」

そう言い、拳の連撃の雨を降らす。

「それに比べ、貴方は弱くなられた」

その拳の雨を極力短く小さな動作で起動を変え、自分に当たらぬようにするアヴェイル。

「ほお? ならば、本当に弱くなったかどうかその身で味わうといい」

そう言うとイングは空気を蹴り、物凄い速さでアヴェイルに全方向から拳を叩きつける。 まるでイングが分身したように見えるそれを、アヴェイルは見事に捌いていた。

「完全なる同時攻撃がない以上、僅かな差があればそのような攻撃などいくらでも捌けますよ」

「ならば同時攻撃なら防げぬのじゃな?」

「「っ!?」」

俺とアヴェイルは息を飲んだ。 アヴェイルの前方数メートル先にもうひとりイングがいたからだ。 幻覚の可能性も考えられるが、俺の能力ではそれはないと判断している。

たしかに分身魔法はある。 種類もいくつかあるし、ある程度の魔法使いなら使えないことはないだろう。 だが驚いているのはそこではない。 分身は多かれ少なかれ魔力や様々なエネルギーが複雑に組み合わさっていなければ成立しない。 もうひとり自分をこの世に生み出すのだ。 人ひとりの再現に膨大な種類の力を使う。

だが……。

「イングさん……まさかそれを使えるようになっておられたとは……」

目の前にいるイングは完全なるイング。 どこからどう見てもイング。 魔力も何も感じない、純粋な生き物、人である。 完全一致の遺伝子、肉体や内蔵、一本一本の毛も全てが一緒。 細胞ひとつも違わない、完全分身。 いや、分身ではない。

最早、自身創造。

「アヴェイルよ。 世界を壊すには。 …………否。 奴を殺すには、これしか思い浮かばぬのだ。 この世界は犠牲。 これからの永久なる平和のための犠牲なのじゃ。 ここを戦場とし、奴をこの拳で穿つ。 それとも、お主は。 この、こんなわしを倒せるのか?」

そしてアヴェイルに攻撃をしていたイングは止まり、少しアヴェイルから離れた。 するとそのイングは揺らぎ、もうひとりのイングと重なる。 まさかの、イングはひとりに戻ったのだ。

それ見てアヴェイルは何かに気づいたかのようにハッとする。

「なるほど、そうですか。 何人おられるかは知りませんが、分身体を重ねて貴方は動いているのですね。 自我思考意思などは集合させ、本来のイングさん本体の精神内に収めている。 司令塔となった最初のイングさんの意思がその身体を動かし、幾人ものイングさんを出し入れできると。 貴方のような御方がそんな複雑なことをしているとは。 だから先程の拳も、ただの老人の殴りなのにあれほどまでの威力が出たわけですか」

それを聞いて俺は、イングが普段戦場に出ない理由に気づいた。

人並みにまで制御は難しい力を持つが故に、意味の無い被害を出さないようにするため戦闘をさけていたのか。 なら俺らが今まで接してきたイングは、戦闘用の分身イングのひとりと考えてもよさそうだ。

「そうじゃ。 だからアヴェイルよ。 わしに勝つことなど不可能」

「だと決めつけるのは、まだお早いと私アヴェイルは申し上げます」

「この下界を消す気か?」

「そんな気は毛頭ないですが、もしかしたらそうなるかも知れませんね」

それを聞いて、イングは表情を微かに歪める。

「それは、この地のどこかにいるヘイオを殺すと言っていると同義じゃが。 本気でわしに喧嘩を売っておるのか?」

「………………ヘイオ、ですか。 あぁそうです。 この地とヘイオと、アミーやストッチも道ずれに、貴方を倒しましょう」

それを聞いて、イングは俯いた。 顔に影がかかる。

「ーーーーーーーーほぉ。 ならば」

ズズズズズズズズズズズズッッッ………………!!!

「…………」

「なっ………!!?」

開いた口が塞がらない。 目の前の光景に現実味がなかった。

ここら一帯の、全ての木が引っこ抜かれて宙に浮いていた。

それをアヴェイルは黙ったまま見上げる。

「お主が一撃を出す前に、ちと本気で叩き潰そうかのぉ。 じゃが、そうなるとここらの木は邪魔じゃ。 よって」

ガッガッガッガッガッガッガッガッ……!!

浮いている木々達が俺達を囲むように一定の距離で壁を作っていく。

「わし特製の壁じゃ。 そう簡単には、ここはまだ消させんよ」

「まだ……なんですね」

「あぁ、まだ。 じゃ」

その台詞を言い終えたと同時に、一瞬でイングがアヴェイルとの距離を詰める。

「安心せい。 もちろん、地も強化済みじゃ」

「聞いてませんよ。 そんなこと」

イングが右拳と右膝で同時にアヴェイルに攻撃を仕掛ける。 アヴェイルはただ肘と膝を折り曲げて防御体制に入った。 めり込むイングの右拳と右膝に、アヴェイルは痛みに表情を少し歪ませる。 そのままイングはアヴェイルを吹き飛ばす。

「ぐっ……」

そのままアヴェイルは壁に強打。 すかさずイングは地を蹴り、一直線に蹴りをアヴェイルを突き出す。 すぐにアヴェイルはそれを横に動き回避するが、頭をイングの左手に鷲掴みにされる。 そして流れるような動作でイングはアヴェイルを自分の方へ引き込み、顎辺りに右膝で蹴りを喰らわせる。 そのままアヴェイルは再度、湖のあった地へ吹き飛ばされた。 すぐにイングはまたアヴェイルの方へ動く。

俺は慌ててそれを止めようと、イングの前に立ちはだかる。

「待て、イング!」

「邪魔じゃよ、カイン」

イングは俺の目の前まで迫ると、左斜め前へ行き、瞬間的に俺の真横で回転して俺の項辺りへ回し蹴りをした。 俺はギリギリでその速度に反応し、振り返り防御体制に入るも簡単に吹き飛ばされ壁に激突する。

威力も速さも尋常ではない。 俺も変身をして戦わなければまともに戦えない。 が……。

「くそっ、どうしてだ! 何故俺はこんなにも躊躇っている!?」

俺は何故か思うように力が発揮できずにいた。

イングは立ち上がったばかりのアヴェイルの腹に蹴りをめり込ませ足を抜き、胸ぐらを掴んで頭上高くに投げ飛ばした。 そしてどこからともなく杖を取り出して地をコンコンと叩く。 すると湖跡よりも数倍の広さの地が円柱状に猛スピードで真上に突き出された。

「ば、馬鹿げてる…………」

地がそのまま円柱状に昇っていき、途中から外側から地の触手のようなものが何本も伸びて絡まり合い巨大な手の形となった。 それが円柱状の地の外側から十字方向に4本。 そして昇り伸び続ける地が投げ飛ばされたアヴェイルに近づくと、巨大な地の手のうち2本がアヴェイルを握り掴んで、もう2本の地の手はその掴んだ地の手の上を覆い被さるような形で指を合わせた。 そんなアヴェイルに突っ込むように昇り続ける地は杭のように突き刺さる。 アヴェイルを掴んでいた地の手ごと突き刺し、上に覆い被さるように合わせていた地の手の天井に勢いよく当たり、止まる。 その直前にイングは地の手よりも高い位置に転移していた。 そして、アヴェイルがいるであろう地の手に向かって落下し始める。

「勝ち鬨は鳴り響く。 絶対的強者の前に、他の勝利など許されない。 敗北の味を知れ、いついかなる時も我の敗者になるといい。 単純故に、最強、勝者の拳(ビクトリーパンチ)

イングの拳が歪み、揺れる。 距離はどんどん近づいていき、そして。 直後。

「新技、連拳(れんけん)

最初の一瞬、地の手から円柱状の地を通り、木々で囲まれた地へ一筋の亀裂が走った。 直後。 そのような亀裂が大雨のように、地の手から幾つも走る。 全ての亀裂が様々な方向へ地に走る。 最強の一発が何度も繰り出されている証だった。 それはひとつひとつ一点に集中されているため、亀裂の細さも深さも尋常ではない。

俺はそんな光景を自分の能力で見ていることしかできなかった。

アヴェイルは完全に敗北を喫した。 かに思えたが。

亀裂の雨が止む頃、イングのすぐ隣にアヴェイルが転移した。 もう既にアヴェイルはボロボロである。

「ほぉ、まだ動けるか……」

「はぁ……はぁ………イング、さん。 言いたいことは、山ほどある。 あるが……」

ドスッ!

それに構わずイングはアヴェイルの腹に拳をめり込ませる。

「っ!」

だがその拳がめり込んだ後に抜かれることはなかった。 固く、イングの手首をアヴェイルが握っていたからである。

「私は……まだ。 これからも、ずっと……」

「離せ、アヴェイルよ。 負けを認めろ、アヴェイルよ!!」

まるで逃げるかのように叫び、イングはもう片方の手でアヴェイルの顔を鷲掴みにした。

「どんな貴方だとしても……」

「黙れ、やめろ……!!」

アヴェイルはもう片方の手で指を鳴らした。 すると、アヴェイルの髪が伸びたりと身体が変化していく。 同時にイングは少しづつ力が抜け始めていた。 イングは目を細める。 俺は目を見開いた。

「貴方への憧れを、捨てはしません」

そう言い、拳を構える。 そしてイングの顔面に突き出し。

「単純故に、最強、師を超えるこの拳の名は。 勝利への拳(ビクトリーパンチ)

吹き飛ばされたイングは地の柱の上から落とされる。 同時に地の柱も手も崩れていく。 アヴェイルは瞬時に魔法を使い、カインの元へ転移した。

俺の目の前に転移した時には、いつものアヴェイルに戻っていた。

その近くに落下したイングは、ヒビが入り割れた顔を擦りながら言う。

「誇っていいぞアヴェイルよ。 お前は、この俺の仮面を剥がしたのだからな」

イングの顔がとれる。 身体も変化し、髭も短くなっていく。 そこにいたのは、勇敢なる戦士のような顔をしたイングだった。 老人の頃よりも若さが滲み出ていて、まるで若返ったような感じだ。

「やはり変身なされていましたか」

「あぁ、おかげで本領発揮もしやすくなった。 これでは、一発もらった程度じゃまだ負けはしない。 アヴェイル、この俺を倒せるか?」

「…………まだこの世界を犠牲にするおつもりなのですね」

「変身が解けたからと言って、考えが変わることはない」

「残念です」

「あぁ、本当に残念だ」

2人を纏う空気が再度悲鳴を上げる。

「できればお前を殺してくはないんだがな。 現実逃避はこれまでか」

「私も憧れた人を敵にしたくはなかったのですが、もう手遅れですね。 カインは離れていてください。 次はどれほどの被害が出るか分かりませんので」

「そうか。 ならそんな悪い奴らには少し罰が必要みたいだな」

「その通りだね」

「ならば俺にひとつ提案があるんだが胸を穿つのはどうでしょう」

「却下」

「えー」

そんな呑気な声が聞こえる。 その方向を見ると。

「「「!?」」」

3人が息を飲む。 いつの間にか、木々の壁のすぐ外側まで闇の雪が迫ってきていたのである。 闇の雪降る壁と言っても過言ではない。

まさか闇の雪降る大地がもうここまで広大化したというのか!?

すると木々の壁の一部が吹き飛ばされた。 すぐ横を壊された木が吹き飛んでいく。

そこにいたのは……。

闇の雪を背に子どもが真ん中に。 その横には、たしか天砲団団長の男が。 その反対側には見知った顔が、エルトがそこにいた。 その後ろには天砲団をはじめとする様々な組織の残党らしき者共もいた。

その時、K通信でエルトの声が聞こえた。

『全解除』

その瞬間。 全てが元通りになる。 戻ってきた全てを一通り確認して。

俺は笑った。

イングとアヴェイルに向かって言う。

「作戦は成功。 無事に完了した」

「なんのことでしょう」

「これから知ることになりますよ」

そう言い残してエルトの元に転移する。 そして、エルトとハイタッチ。

「よくやった、エルト」

「あぁ」

イングとアヴェイルはそんな俺達を睨んだ。

「随分と若々しくなったじゃねぇか。 言われた通り、あんたを超えに来たぜ。 イング・ヴァニラ」

そう言うエルトの横で、ヘイオは緊張しているのか震えながらも体を強ばらせていた。 俺はそんなヘイオの頭に手をやる。

「よく頑張ったな。 あとは最後の仕上げだけだ。 皆ついてる。 大丈夫だ。 だから、自分のやりたいことを全力でやればいい。 頑張ろうぜ」

「……うんっ!」

そんな様子を見て、イングは。 アヴェイルは、怒りを露わにしていた。 全ての元凶であろう者を睨み……。

「「エルト…………!!」」

下界は今日、変わろうとしている。

闇の雪が降る下界全域で、その変化を。 下界の民は静かに待ち望んでいる。

心のどこかで燻っていた、反撃の意志を。 その引き金が引かれるのを。

今か今かと。 無意識的な期待を胸に。

読んでくれてありがとうございます。

次回、師弟決着。

次も読んでくれると嬉しいです。

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