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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
94/197

裏切り者

楽しんでいただけると幸いです。

「だ、誰だ!」

「おお、お前も俺らを殺しにきたのか!?」

「イングの所の使いか!!」

「ひぃぃ!」

俺が姿を現すとそんな台詞が飛び交う。 今俺はザックと戦ったあの湖に来ている。 そこにはカインの言う通り無名軍の残党とロバレッタ商会の正気を保った残りの者達がいた。

まぁまぁの人数だな。 これなら何とかなりそうだ。

「イング、そうイングだよ。 知ってんだろ? 俺もあいつが大嫌いなんだよ。 俺もお前らと同じ人間だよ」

そう言うと彼らは疑いの目を向ける。 特に武器を凝視されている。

「ま、まぁここだけの話よぉ、そのイングがどんだけ悪い奴かってこと聞いちまったんだよ。 知りたくねぇか、なぁ」

そう言うとひとりの男が返答する。

「そんなのたくさん知っとるわい! あれだろあれ、自分は安全な所にいて他人にばっか戦わせてんだろ?」

「そーだそーだ、しかも孫に仕事押し付けて商会で働かせてんだよ! 全く、それでも家族かってんだ」

「俺なんてあれ知ってるぞ。 落ちてきた野郎捕まえて自分の駒にしてんだろ? しかも捨て駒で」

「マジかよ最低だな」

「やっぱクズジジイだな」

「自分も戦いとかに行けってんだ」

そのような話を聞いて俺はあからさまに見下した。

「へぇ、お前らそんな低レベルのことしか知らねぇの? 俺の掴んだ情報はそれの比じゃないぞ」

そう言うと、彼らは興味を持ったような反応をした。

「ほぉ、どれ教えてみぃ」

「そこまで言うんなら証拠付きでな」

「あぁ分かったよ」

そして俺はつい先程まで起きたことも追加して話した。 ずっと彼らは怒りを露わしていた。

「なんって野郎だ!」

「マジか! マジかよ!」

「殺そう! 殺しに行こう!」

「ないわぁぁぁ!!!」

作戦通りとてつもなく怒りを爆発している一行。 文句があちこちで飛び交っている。

「そこで提案なんだがよ。 今見てきたらその戦いが終わっちまってんだよ。 今なら多少イング達も疲れてるはずだ。 だからよ、武器整えて明日にでも倒しに行かねぇか? ここにいる俺らで」

そう提案すると感情任せに彼らは提案に乗ってくれた。 そしてその日の夜まで武器調達などで共に行動し夜になった。

俺は魔法通信をしているような仕草を見せ、彼らに謝る。

「すまねぇ! 明日大切な用事ができちまったから行けなくなっちまった! だけど俺は信じてるぜ。 あのクソ野郎をぶちのめしてくるお前らの勇敢な姿がよぉ!」

そう言うと、彼らも元気よく許してくれた。

「あったりめぇよ! 任せな、必ずぶっ飛ばしてやる!」

「……転移」

視界が切り替わる。 部屋には誰もいなかった。

カインはどうやら別室で作戦会議らしい。 アヴェイルは随分と慎重だな。

それにしても焚き付けただけで、あんなに盛り上がるなんて……。 どんだけイング嫌われてんだよ。

「いや、だが待てよ?」

イングは周囲からの信頼は確かに厚かったはずだ。 だが、あんな噂俺は初めて聞いた。 イングの元にいる人間ならイングが実は嫌な奴だと思っている人もいるのは分かるが、何故直接的接点が少ないあいつらまでイングの評判を知っている? 戦場に行った奴らが言いふらした? だが、千里眼を使えるイングのことだ。 裏切らないように見張っているはずだろう。

「なら、誰がイングの悪評を広めた?」

俺はその日の夜、その疑問について考えてみたが答えは思い浮かばなかった。 悪評を広めた人間が分かれば、そいつを仲間にしようと思っていたが無理そうだ。

翌日の朝、アヴェイルに呼ばれ、カインと俺との3人で報告会をすることになった。

「エルト、スパイ活動は順調ですか?」

「あぁ順調だよ。 アヴェイルの方は、もう腹の具合は大丈夫なのか?」

「ええ、昨日ようやく収まりました。 私がトイレにこもってる間にカインがあなたの監視役をしていたんですが、なにか問題などございましたか?」

「いいや大丈夫だよ。 強いて言えばカインの魔法を少し借りたくらいかな」

それを聞いてようやくアヴェイルの疑いが含まれた目は緩む。

「そうですか。 どうやらカインの報告と同じようですね。 この後からは監視役は私になります。 カインもそれでいいですね?」

「はい、構いませんよ」

その後、ここ数日の出来事を簡単に報告した後、俺は今後のことについて話した。

「今日から数日ここには戻らずイングの元にいたいと思う。 できる限り報告をしながら行動していこうと思ってるが、なんせ敵陣の中だ。 あまり気負わず、できる限り俺の好きなように動かせてもらう。 いつどこで報告を盗み聞きされてるかも分からないからな」

「分かりました。 ではカイン、イング襲撃の際どのような配置と動きをするか話し合いたいので前と同じ部屋に行きましょうか。 エルトは準備が終わり次第行動を開始してください」

「了解」

俺はそう返事をし、カインはアヴェイルと共に部屋を出ていった。

完全にカインを警戒してるな……。 まるで気味が悪いほどにカインを傍に置いて、好き勝手に行動させないようにしてやがる。 カインが動けるのも昨日までだったってことか。 その代わりに、おかげで俺の監視は魔法頼りになっている状態だ。 まぁ魔法は探知くらいしか成功したことがないしな。

「あー、カインに石貰っといて正解だったな」

そう独り言を言い、カインに貰った収納魔法が展開されているポーチの中を確認した。 数を確認し、俺は扉を開く。

「行くか」

そして数十分後。

俺は今イング達の目の前で正座をしていた。

「先のお主はカインであって自分じゃないと言うのか? なぁエルトよ」

「あぁそうだ。 俺は魔法なんて使えない、と言うのは間違いで最近やっとひとつだけ魔法は使えたんだが……あれは俺じゃなくてカインだ。 詠唱なんてしたって俺は何もできないし、全知全能? とか言ってたんだろ? その力を持っているのはこの世でカインただひとりだけだ」

そう言うと、イングの隣に立つストッチとアミーが疑いのある目を向ける。

「本当かい?」

「嘘なんじゃないの?」

「う、疑いたくなるのは分かる! だって俺の姿でカインは暴れていたんだからな」

するとイングは心の奥底を見通すように、正座する俺との視線を合わせ口を開いた。

「なら、仮にお主の話が本当だとしてじゃ。 お主は何故我々の元に戻りたいと言うんじゃ? それでは仲間であるカインと敵対してしまうかもしれんじゃろ。 しかも、お主はカインからわしが世界を壊すということも知っているんじゃろ? 何故ここに来たんじゃ」

そりゃあそうだろう。 当たり前の反応に俺は俺の考えを言った。

「確かにカインとは敵対関係になる。 だが、勝手に俺の姿に変装してまで我が身を守り利用するやり方に俺は賛同できない。 それにイング達も仲間だ。 イングがもし本当に世界の終わりを望んでいたとしても、絶対そこには深い理由があると思うんだ。 イングは皆のために頑張っているし、何より自分の孫のために抗ってる。 なら、その理由を知ってからイング達と向き合うのも遅くはないと俺は思う。 だから、まずはイングの元からこのダーク・サイドを支配しようと思ったんだ。 だから、ここに来た」

長々と俺の考えをイング達に伝える。 ストッチは元から大人しい性格だからか表情を見るにもう許している様子だ。 アミーはまだ疑っている感じである。 イングは、考え込む様子を見せて、言う。

「ならまずは、行動で示してみよ。 新人エルト」

「あぁ分かった。 さっそくだが、ここに来る途中で武器を持った奴らが湖辺りからこっちに向かっているのが見えた。 その時思い出したんだが、カインは湖に用があるとも言っていた。 もしかしたら残党にもここを襲うよう指示したのかもしれない」

「ほぉ……そしてお主はどうするんじゃ?」

俺は立ち上がって、口角を上げ言う。

「あんたと共に、叩き潰そうかと思う」

「ひとりじゃねぇのかよ! お前だけでやりな」

アミーの怒号がすぐ横から入る。 だがそれをすぐにイングは手で制した。

「理由を聞こうかのぉ」

「これを自分で言うのもなんだが俺ひとりでやったとして、途中で彼らに俺が指示しないよう見ながらやってくれってことだ。 俺がいくらカインじゃないと主張したところで証明は難しい。 なら少しでも可能性を減らすために一緒に戦いながらなら、少しは分かってもらえるんじゃないか? カインか俺か判断材料が増えると思ってどうか呑んでくれないか?」

そこでストッチは、もういいんじゃないかなと零し、アミーの睨みは緩み始める。 イングも理解したような様子で言った。

「なるほどのぉ。 お主の考えは分かった。 だがお主がその輩共に気づいてからこの瞬間までで、時間はある程度経っているはずじゃ。 湖の辺りとなるとそろそろ到着する頃じゃろう。 となると戦場はまたここになるわけじゃ。 お主も知っての通り、襲撃にあったばかりでここらの建物はほぼ全壊なのじゃ。 だからそんな悠長に戦っている暇はなくてのぉ。 すまないが今は短期戦を望むわしらとしては、お主の手助けは不要なのじゃよ」

俺はその台詞を聞いて、あからさまに不安がり口を開く。

「えっ、え? それじゃあ俺は、やはり追い返されるのか? このままじゃ判断材料は少なすぎるだろうし、俺がエルトである証明は難しいし、じゃあどうすれば……」

「お主の先の長い考えを聞いて、今はお主をエルトだと信じよう。 ちょいと待っとってくれ……いや、エルト共に来い。 お主は戦わなくていい。 わしの戦闘を見て参考にでもするがいい」

そう言われ、俺は言われた通りイングについて行く。 ちょうど、全壊した建物辺りに湖から来た輩共が到着したところだった。

そして、俺の姿を見るなり混乱した様子を見せ怒りを露わにする。

「何故あんたがそっちにいるんだ!!」

「裏切ったのか!? なぁ、このクソ野郎!」

「だから言ったんだ、絶対怪しいってよぉ!」

「なぁ嘘だよな? 俺達の味方だよな? そうだよな? おい」

「そっち側にいるんならお前も敵だ! 皆、裏切り者ごとやっちまえ!」

うおおおおおおおおおおおおお!!!

「エルト、見ていなさい」

イングの鋭い眼光が俺を一瞥した後、ひとりその押し寄せる波に歩いていく。

そしてどこからともなく杖を取り出して、勢いよく真上へ投げ飛ばした。 回転しながら宙を舞うその杖にイングは一切目もくれず。 一瞬だけ、輩共の目線は杖に集中した。

その短い時間の中で。

めり込むイングの拳。 ひとりの男の腹に深く深く喰い込む。

そんな光景を見たと思ったら。 いつの間にかイングは別の男の脇腹に蹴りをめり込ませていた。 そしてまたいつの間にか、他の奴の顎元に掌底打ちを叩き込んで、またいつの間にか別の奴の胸の溝に肘打ちを、別の奴に目潰しを、別の奴にタックルを、別の奴に膝蹴りを…………。

そして最後に、一番体格のいい大男に飛び蹴りをして。 元の定位置に戻る。 そしてイングの手元に杖が戻る頃、輩共の数人は絶命、数人は姿を消し、数人は痛みにもがいていた。

「あがっ………!」

「痛い痛い痛い! 骨がぁぁ………」

「てめえ……なにしをしたぁ!」

そんな彼らにイングはとぼとぼ近づいて言った。

「お主らに指示を出したのは、どうやらあそこにいる少年に化けた別な人間らしくてのぉ。 どうかあの子を恨んでやってくれ」

そう言い、その男の顔面を踏み地にめり込ませた。

「エルト、参考になったか?」

そう言いこちらに歩いてくるイング。

やはり、これはただの自分の力を見せるためのデモンストレーション。 俺に裏切らせないようにするため、強さを見せ釘を打ったってわけか。 裏切ったら自分もこうなると思わせ、恐怖で心を支配するやり方。 こんなの、孫のヘイオが見たらどう思うだろうか。

「参考と言うよりイングの強さが少し見れた気がするよ」

「そうか」

イングは顎を引き、影がかった顔で疑いの目を向ける。 微かに動いた表情筋、イングは軽く俺を睨んでるように見えた。 だから、俺もそれに答えるように。

「あぁ、そうだよ。 イングってやっぱ強いね」

俺は笑った。 敵意のない、ただの感想を述べるだけの少年の顔で。

その日の夜。

俺は何とか信頼を得るため、情報提供ということでイング達を自分の部屋に呼んだ。

「あれ、そういや今日はまだヘイオを見てないけど、どうしたの?」

「あぁ、ヘイオは今は眠っとるよ。 疲れてるみたいなんじゃ」

そうか。

「じゃあ俺の持ってる情報を話すよ。 まずどこから話そうかーーーーーーーーーーーー」

そして、K通信や下界情報屋の持っていた情報などは省いて大まかに説明した。

「そうか。 やはりアヴェイルか……」

「知ってるのか? イング」

イングはすると、暗い表情を見せ呟くように言った。

「わしの、元弟子じゃよ」

「っ…………」

「………………」

ストッチとアミーもそれぞれ気まずそうな反応を見せる。 全員アヴェイルについて何か知っているみたいだな。

「なら、アヴェイルについて教えてくれないか?」

「……お主からしたら次元の違う話じゃろう。 話しても無駄じゃ。 それに、話したくもないわい……」

「そうか。 それなら仕方ないな。 それじゃあ次はそっちの持ってる情報を教えてくれないか? なんでもいいんだ、なにかないか?」

「そうじゃな…………」

そうしてイング達に教えてもらった情報は大きく分けて2つ。

まずロバレッタ商会、無名軍の組織の完全壊滅。 天砲団についてはまだ情報は無し。 ここ最近、ダーク・サイド内の小規模組織は戦艦が現れたことにより、戦意喪失して逃げ出す者、終わりを悟り狂人と化す者、他の組織と手を組み戦おうとする者、組織を抜けて戦艦に保護してもらおうと考える者などでどこの組織図もめちゃくちゃだという。 組織に入っていない人々はいつも通り怯えて暮らしているらしい。

しかも天界都市からの資源提供もここ最近途絶えているらしい。 いつ食料の奪い合いで全ての大地が戦場と化してもおかしくはないという。 そんな中、闇の雪が振り続けている危険区域が出現したという。 その区域は日が進むにつれて拡大化していっているらしい。 そんな最悪な状況の中、怯える民の間では天界都市から兵士が攻め込むなんて噂も流れている。

「もしかすると、近いうちに組織に入っていない多くの民が団結して革命のようなものを起こす可能性だってある最悪な状況なのじゃよ今の下界は。 戦艦によって生まれたトラブル、未だ何も分からない闇の雪が降り続ける地域拡大化、天界都市からの資源提供停止と軍隊突入の噂……ここまで最悪な状況に陥っているこの下界ダーク・サイドを、お主ならどう救い出せるかのぉエルト」

「逃げ場が上にしかないんだ。 やっぱり天界都市へ脱出だろ」

その答えを聞きイングは口角を上げる。

「お主は出会った時から何も変わらんな」

「当たり前だ。 俺には、帰る理由がある」

そのために、俺は……。



その頃、カインは。

『ーーーーーーーーーー理由がある』

俺は堪えきれず、そこで通信を強制終了した。

「どうしたんですか? カイン」

怒りに拳が震える。

「アヴェイル、悪い報せだ。 エルトが、イング側に寝返った……!」

何故ーーーーーーーーー

読んでいただきありがとうございます。

次回、新たなる一歩。

次も読んでくれると嬉しいです。

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