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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
93/197

開始

楽しんでいただけると幸いです。

「なにか始まるみたいだね、おじいちゃん」

隣にいるヘイオが、空に浮く戦艦を見て不安そうに呟いた。

「あぁ、そうじゃな。 やっと来てくれたんじゃな」

そう答えながらヘイオの頭を優しく撫でる。

「皆を救う者が」

「救ってくれるの? 誰が?」

何も知らないヘイオは不安を拭えぬまま、わしに聞いた。

「さぁ……」

戦艦に乗っているであろうその者を捉え、息を吐く。

「誰じゃろうなぁ……」

■■■

エルトside……


俺はこの地に落ちた場所へ来ていた。 イング達と初めて出会った建物の中。

「よ、ようイング」

「あぁ、そろそろ来る頃だと思ってたわい。 何用じゃ?」

部屋でひとり戦艦を窓から眺めていたイングは、ゆっくりこちらに振り向いた。

イングはまだ何もしていない。 だが、圧が凄い。 見えぬ気迫が俺に襲いかかる。 まるで下手な小細工は無駄だと言われているような、今から話す内容がもう先読みされているような。 持つ武器全てが無力化されたような気分だ。

ならば。

「……単刀直入聞く」

この問い次第で俺とカインの行動が決まる。 嘘ならば、俺達はイングを信じる。 スパイは切り替わる。 だが不確定なままの今の状況では、戦艦の件もある故にアヴェイルの味方についているけれど。

「イングは、世界をどうするつもり……ですか」

「大きく出たのぉ。 世界をどうしたい、か」

イングの目的はこの下界ダーク・サイドに落ちた弱き人々を救うことのはずだ。 そして何より、孫であるヘイオを平和な日常へ戻したいと思っているはず。 なのに世界の破滅を望むのなら、その目的に矛盾してしまう。

どうか、嘘だと言ってくれ……。

そうして数十秒後。

「わしはヘイオを、ここにいる者達を救いたい。 それは紛れもない本心じゃよ。 だが……」

「だが?」

「そうじゃな、最終的なるわしの果たすべき目標は……この世界の終わりじゃ」

……あぁ、イングは。

『敵だ』

密かに期待していた思いは砕かれた。 K通信で瞬時に結果だけを伝える。 指示は仰がず、すぐに通信を切る。

「残念だよ、イング」

そう言って俺は左腰の鞘から剣を抜く。 その片方の剣には血がべっとりと付いていた。 そして右手をポケットに突っ込み小ビンを取り出す。 中には透明な液体が入っていた。 目を細め、イングを睨む。

「痛い目に合ってもらった。 カイン特製の毒付きだ。 これは解毒剤。 さぁイング、その目標は取り下げてくれないか?」

だが、イングは表情を一切変えず口を開く。

「その痛い目に合ったのは、誰のことじゃろうか」

そう言って近くのベッドを軽く捲る。 すると、そこには気持ちよく眠っているヘイオの姿があった。

「わしはな、千里眼を使えるんじゃよ。 お主がこの建物に入る前にその剣に自分の血を付け、そっちのビンに水を入れている様子を観察させてもらったのじゃ。 お主の策略は無駄に終わったんじゃよ」

「そうか……」

俺は驚きはしたが、動揺は見せないよう表情に気をつけ、なら、と付け足す。

「どうしてこんなにも血が乾くのが早いんだろうな?」

「っ!」

「その千里眼とやらでこの剣に付いてる血痕をよく見てみるといい」

そうしてイングは目を更に開き、俺の持つ剣を凝視した。

「なっ……!」

「建物の前をスタート地点としてここまで来るのに俺は数分もかからなかった。 血が乾くためには多かれ少なかれ10分くらいは必要なんじゃないか?」

「だ、だがわしは確かにこの目で血を付ける様子を……」

焦りを見せるイング。 俺は微かに口角を上げ、自分が優位に立っている雰囲気を出す。

「あぁ、確かに血を付ける仕草をしたよ」

「だが、何故そんな意味の分からないことを……? お主はわしが千里眼の持ち主だとは気づいておらんかったはずじゃ」

「あぁ、分からなかったよ」

あぁ、分からなかったからーーーーーーーーーーーーーーーー

「まぁいいじゃん。 その辺はさ」

そう言うと、イングは目を瞑りそして瞼を開き睨む。

「ならば、その血は誰の血じゃ。 見た限りお主は無傷、お主の血じゃないな?」

「……イング。 どうやら面白いことをしようとしていたようだな。 まさかディアの気持ちを分からなくてやってたわけじゃないんだろ?」

「質問を質問で返すな。 誰の血じゃと聞いておるのじゃ」

「ロバレッタ商会」

「………………」

まるで予想をしていたかのような表情。 それでも多少は驚いているように見える。

イングは歯を噛み締める。 視線が微かにヘイオの方へ動いたのを見ると、ヘイオはこのことについて知らないらしいな。

俺は戦艦に乗って核都市から下界へ上がっている最中に、下界情報屋が所持していた情報をカインから教えてもらっていた。 何故カインが知っているのかというと、またカインの能力が関係あるらしい。

「ロバレッタ商会、結束力なら無名軍を超え下界一番、天界都市レベルまではいかなくともガチガチのルールの上で活動している商会組織。 最初は核都市の掟に慣れるために開設された組織だったが、とある者の介入により商会として名を上げるようになったらしい。 それが、あんたの孫であるヘイオだ」

「………………」

イングは無言のまま何も反応はしなかった。

「ヘイオはまだ子どもだ。 商会側も未来の人材のため入れてんだろうな。 これによりロバレッタ商会とイングを繋ぐものができた。 あんたはヘイオを操りロバレッタ商会を操ることができるようになった。 商会の大人共は子ども相手だからか、賞賛の嵐ばかりが起こり商会はあんたの思い通りに改革されていった。 結果、ロバレッタ商会は、変わり果てた」

「……………っ」

「ひでぇことするじゃねぇかイング。 食人とは恐れ入った。 ロバレッタ商会を上手く使い、そうやって食料調達していたのか。 まぁ考えれば分かるか。 まず、女性だけじゃあの人数の分の食料の確保は困難だ。 だから大抵殺される戦場に行った者の死体を、ストッチ率いる洗脳済みの者達に回収させてロバレッタ商会に受け渡す。 ガチガチなルールと間接的にイングがやった改革で狂った商会の人間は死体を食材に変える。 それをまた洗脳済みの今度はアミー達が引き取り料理し振る舞う。 まぁたまにちゃんとした食材も手に入ることがあるらしいがな」

現に俺達の時は普通の食事だった。 まぁそれもそうか。 最初から変な食事出されて疑われでもしたら、食材は逃げてしまうしな。

「ロバレッタ商会に行ってみたら、取り引きは受け付けていないって言われてよ。 そんなんじゃ商会も食っていけないはずだよな。 だが、商会は特定の者とだけ取り引きしてるなんて言ってさ。 それじゃ商会名乗る必要はないだろ。 だから拷問して吐かせた、全部な」

「そうか……ならもうロバレッタ商会は……」

「全滅だ。 俺がやった。 なぁイング、お前……嘘をついたな。 もう一回言ってみろよ。 お前は、ヘイオと誰を救いたいんだ?」

怒りで微かに震える拳。 全部バレたこんな状況だというのに、イングは視線をヘイオに注ぐだけで他は平常運転だ。 罪意識はないのかと疑ってしまうほどに。

「……お主の話は、全部本当じゃよ。 わしが心から救いたいと思っておるのはヘイオだけ。 他は……強いて言うならストッチとアミーくらいじゃろうか。 じゃが、ここまでの事態はそれなりに予想がついていたわい。 最初の入る前のあの仕草も、わしを油断させるための一手、すぐに手を出させないためのわしが優勢だと思わせるための行動。 だが、もう一手足りんかったなぁ」

そう言い終わると背後の扉が開く。 そこには、ストッチとアミーの姿があった。

「足りないんじゃよ。 ここから抜け出すもう一手が」

「ーーーーーーーーーーーー抜け出す? なにを言ってるんだよイング。 抜け出す一手が必要なのは」

外から怒声の嵐が吹き荒れる。

「お前らだろう?」

そう言って手を前に突き出し指を鳴らすと、イングの傍にあった先程イングが眺めていた窓の景色が砕けた。 そして現れたのは、この建物を囲むように大勢の武器を持つ輩で溢れかえっていた。

「まず、俺は何故すぐにここに来なかった? 戦艦があそこに来て3日4日くらいは経つのに」

「っ!?」

「まさか……」

ストッチとアミーがそれぞれ反応を見せる。

「それじゃひとつずつ紐解いていこう。 まず、ストッチとアミーがよく頻繁にこの建物内を出入りしていることからどこかに隠れていることは容易に想像ついた。 きっと2人はイング側の本当の味方なのだろうと予想した」

「ほぉ……?」

少しづつ、イングの冷静を保っていた表情が崩れ始める。

「そして次に、窓の景色。 これはカインに作ってもらった魔法を封じ込めた石を使わせてもらったよ。 景色を変える魔法をね。 まぁ一回限りだけど。 いつ使ったか、それは昨夜戦場に行っていた者のひとりに頼んだ。 カインが作った洗脳ができる一回限りの魔法が入った石を使ってね」

全部カイン頼りなのが、自分の無力さを感じるが。

それでも構わず喋り続ける。

「そして最後に、またまたカイン特性の石。 これは、こっそり通信を全開にできるやつだ。 最初のディアの演説みたいなのでもやってたのとほぼ同じやつさ」

そう言って、3つの石を出して床にドカドカと大きな音を立てて落とす。

「そして、今の音でも一切反応を見せないそこのヘイオは偽物だってことだな。 突撃だ野郎共ぉぉ!!」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

その瞬間、壁が天井が破壊され武器を手に次々と突撃してくるのは。 戦場で死に明日の食材となる運命を知らず知らず背負っていた者達。 そこには、食料班の他の女性達の姿もあった。 用は、食料確保で死んだ者も皆食材と化していたというわけだ。 きっとその女性達も薄々勘づいていたのだろう。 そりゃあそうだ。 調理時に嫌でも気づくはずだから。

「「っ!!」」

驚くストッチとアミー。 だが、イングはと言うと……。

ドドドドドドッ!!!

イングはいつの間にか片手にあの時と同様の杖を持っていた。 そして背後から押し寄せる人の波はひとりひとり後方へ吹き飛ばされた。 目の前で起きた一瞬の光景、イングは瞬時に杖でひとりひとりの腹を思いっきり突いていた。

「エルト……このような数じゃ、わしは越えられんよ。 個の強さでしかわしに勝つ道はない。 小細工は、全て無意味じゃ」

無意味か……。 スパイと名目でアヴェイルの目から離れ、3日好き勝手に動いた結果がこの有り様じゃ、アヴェイルにスパイという作戦自体継続不可能になってしまうかもしれないな。

まぁ、これでいい。

『カイン今いいか』

『分かった、俺の後に続け!』

どうやら、今この瞬間はアヴェイルの目が俺達には向けられていないみたいだ。

俺は息を吸い込み叫ぶ。

「イング、なら俺のやり方を示してやるよ。 全員に告げる!! ここで連鎖を断ち切らなければ明日食われるのは俺達だ! 進め、足を緩めるな! 突撃だぁぁ!!!」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

止まりかけていた彼らの彼女らの足が再度動き始める。

「くっ……エルト!」

「いい加減にしなこのガキィ!!」

背後からストッチとアミーが襲いかかる。 この2人の戦闘に関する情報は皆無だ。 カイン曰く、情報屋内にも無かったらしい。 だが、今回はお前らを相手にする暇はない!

部屋になだれ込む人の波。 俺はそれに紛れながら体制を低くする。 だが、3人は次々周囲の人をどんどん倒していく。 まるで無双だ。

「だが……」

『カイン!』

『了解。 行くぞ』

カインが詠唱を始める。 俺もその声に重ねて叫ぶ。

『「全知全能、我は最強、叶えられぬものなどありはしない。 その仮面を剥がし正体現すは罪重ねし罪人、裁くは人々、繰り返される運命に抗う民衆。 決別の時、例え結果が残酷であれ、未来で幾多の民が笑っているのなら、新たな罪を被って進ぜよう」』

俺は詠唱しながら高く跳躍する。 すると跳躍は止まることしらず、ぐんぐん空へ昇っていく。 そして、数秒後勢いは止み、そしていきなり速度を上げて真下へ頭から落下し始める。 一見ただの高い跳躍だが、俺は翼が生えて飛んでいるような感覚に襲われていた。

まるで天使みたいだな。

そうして拳に謎のエネルギーが感じられた。

へぇ、これでやれってか!!

そして、詠唱が終わる頃目の前にイングの姿があった。 あと少しで地に頭から突っ込む勢いのまま、俺は最後の詠唱部分を叫ぶ。

『「正義の鉄槌今ここに、天飛(てんび)潰拳(ついけん)」』

拳を突き出す。 だが、ほんの僅かな差で間一髪にもイングに避けられ、拳は地に叩き込まれる。 そして建物が全壊するほどの大きなクレーターを生み出し、その場にいる全員が一瞬浮いた。

作戦通り!

『今だ、行け!』

「了解!」

俺は瞬時に体を起こす。 そして、息を気配を存在を全てを殺しイングの背後に移動。 イングの目線はまだ俺が居た目の前の場所に釘付けである。 その間に俺はイングの背に触れた。

「あげるよ」

『「魔法転送」』

そうして、無事やるべき作戦のひとつが達成された。

「転移」

そして視界が切り替わる。 目の前にはカインがいた。

「おつかれ」

「あぁ、マジで助かった」

パンッ!

カインとハイタッチをする。

「いきなりの戦線離脱で残った人達慌ててるだろうね」

「まぁそのうちまた行くしいいだろ。 それにしても、なんでイング本人に俺が触れなきゃならなかったんだ? 他の人の手に魔法陣とか展開させてできただろうに」

「それは俺も考えたよ。 でもここ最近イングは孫のヘイオ以外とは少しの接触も控えていたらしいんだ。 ヘイオは結局今回一度も本物は見ていないし、イングはヘイオに対してはガチだからリスクが大きかったんだよ」

「なるほど…………まぁ今回はカイン様様だったぜ。 そういやアヴェイルは?」

「朝食に腹痛くなるやつ混ぜたら、それに気づかず食べて腹壊して今トイレで戦闘中」

えー……。 まさかの腹痛。 まぁああいう奴こそ、そういう小さいことには気づかなかったりするのだろうか。

「そんな奴にカインは負けたのか……」

「いやエルトは戦ってねぇだろ」

そして2人笑い合う。 外では今戦闘が起きているというのに、我ながら呑気なものだ。

「まぁなんにせよ作戦通りだ」

「あぁ、これで自由に動ける。 それよりもカインの方はどうなんだよ」

そう聞くと、カインは口角を上げた。 まるで悪い奴の顔だ。

「無名軍の残党とロバレッタ商会の正気を保った者達は今あの湖近くにいるはずだよ。 あとはエルトの好きにやればいい」

「おぉ、そりゃありがたいね」

「まぁ今はサポートしかできないしな。 また使いたい魔法あったら教えてくれ。 また石を作るから」

今カインはアヴェイルが動くまで暇であるため、俺に全力でサポートできる状態だ。 いつこの万能カインが動き出すか分からない以上、サポートして欲しいことはとことん頼んでいる。

「そうだね。 じゃあーーーーーーーーーーーー」

次の日。

俺は今、かつてザックと戦ったあの湖に来ていた。

読んでくれてありがとうございます。

次回、エルトがとった行動は……。

次も読んでくれると嬉しいです。

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