警告は始まり
今回は夜中呼び出されて……。
ガースラーは何かを知っている……?
楽しんでいただけたら幸いです。
夜中外を出ると、ガースラーが地と地、雲と雲の間から顔をだす月を眺め待っていた。 外は夏夜のように暑く感じるくらいだ。 室内は快適なのに。 クーラーみたいなのがあるのだろうか。
「おう来たか。 今の時間帯は奴らは寝てる時間だ。最低あと2時間くれぇは起きやしねぇ。 あぁそうだ、エルト。 ちょいと後ろ向いてくんねぇか」
来てそうそう何をされるのか、ほんの少し警戒しながら言われた通りにする。
「そんなに警戒せんでも何もしない、わいっ」
バキッ
「ゴフッ!」
背後をガースラーに見せた瞬間、思いっきり背中に正拳突きを叩き込むガースラー。 嘘つきじゃねぇか! めっちゃ痛い。
「な、なにすんだ! バキって聞こえたぞオイ」
「ハッハッハ、すまんな。 エルトの背中に盗聴の小型チップが貼られていてな。 今壊したから安心せい」
「は? 盗聴って……んなもん誰が」
カチャ……
すると俺の背から小さい砕けたチップが落ちる。 待て、感覚的に服の内側からだったんだが。 どういうことだ。 俺が驚きよ困惑の表情を浮かべると
「きっと博士がやったんじゃろ。 あやつはいろいろ考えておるからのう」
「博士が? なんでだ」
思わぬ人物の名前が、ガースラーの口から出て驚く。 まだ博士は俺のことをスパイとでも疑っているのか……?
「……今夜呼び出したのは、その話なんじゃ。 どれ、少し歩きながら話そう。 少しでも遠けりゃいいってもんじゃないが、ここは近すぎる」
と言って歩き始めるガースラーの後を、理解があまり追いつけない中、彼の後について行った。 いったい何を知っているんだ、ガースラーは。
■■■
俺は今まで起きたことをガースラーに話した。 まぁまだこの世界に来て日は浅いが。
「エルトはこの2日間でいろんなことを経験したんじゃな。 とてもたった2日間の出来事とは思えない濃い時間だったな。 すごいのぉ、お主の話を聞いてると昔を思い出すわい。 あの時の日々はとても長く感じたからのぉ」
思い出に浸るガースラー。 俺はそんなガースラーにいくつか質問をしてみる。
「そういや、この世界は今どうなってるだ? 機械ばかりで普通の人間が少ないと感じるんだが、まさか機械との割合で人間の数と同じとかじゃないよな? それに今日会った機械の子犬が数週間で容姿が豹変していたんだがありえるのか? それに最期には光が放って」
「おいおい、いきなりそんなに質問攻めしないでくれ。 一気に言われても答えられんわい」
おっと、いつの間にか口が止まらなくなっていた。 遠くを見つめていたガースラーが慌てて俺の質問の波を止める。
「まず最初の問いの答えじゃが、そこらへんはわしは、あまり把握をしておらん。 そういうのは博士とかに聞いてくれ。 比率の方や機械の子犬、ドイフーじゃったか、その件同様じゃ。 じゃが、最後に言ったことが、あまり聞き取れんかった。 もう一度言うてみぃ」
そりゃあ、あなたが止めたからだがな。 まぁ俺が暴走したのが悪いんだが。 それなのに、半分以上も質問の内容を覚えてんじゃん。
「ドイフーが最期に、光を放った後、光でできた大きな犬がそこにいて、おばさんの首をしめて、犬を軸に光が収束されたかと思ったら小さい爆発を起こして煙が辺りを覆ったんだ。 だけど、煙はすぐに消えて、そこには死体すら何も残されていないただの地しか無かった。 これはどういうことなんだ? 」
説明を受け、ガースラーは黙り込む。 なにか考えているようだ。
「光を放つ現象、そりゃ『オーバーフラッシュ』と言うやつじゃな。 機械のある一定の限界とそれを超える擬似的自我の働きが組み合わさり起こる謎めいた現象のひとつじゃ。 その次のは稀に起こると言われる『フラッシュファントム』 じゃな。 だが普通なら、その機体の一部等が変化して薄い光でできたものが一般的なフラッシュファントムじゃが、お主が言っていることが本当なら、相当完成度の高い奇跡的なファントムじゃったんだろう。 だが、そこまで光で姿を維持し、挙げ句の果てに人を巻き付け苦しめるほどの触覚があるという例は、少なくともわしは初めて聞く現象じゃ。 そして最後の小さな爆発と完全なる消失……それは事例のない初の現象じゃ」
ってことは、俺とシエルは奇跡的な現象をこの目で見てしまったって訳か。 シエルは半機械人間だから、もしかしたらあの時の瞬間を記録データとして残っているかもしれないな。 あとで聞いてみるか。
「……ん? お主そういえば今日はシエルとフリクエに行ったと言ったな?」
「あぁそうだけど。 それがどうかしたのか?」
ガースラーの目が見開き顔を上げる。 その後すぐに焦った表情で、下を向く。 いったいどうしたのだろうか。
「あぁまずい事態じゃな。 あやつの研究がまた1歩近づくかもしれぬ」
「研究?」
聞いても、彼は反応を見せず頭を抱え何かを必死に考えていた。
「……あぁ、そうじゃった。 本題に入ろう。 なに、すぐ終わる。 警告じゃエルト、どんな時でも、近くに博士がいたら、しっかりと気を持ち細心の注意を払え。 何かが起きてからは手遅れじゃ、 分かったな! わしは別件を思い出したからもう行く。 お主も早く帰るんじゃぞ」
と慌ててその場から走り去る。 俺を横切る時、また小声で何か聞こえた。
「カインの亡霊も、まさか……」
今回は俺に言っている訳ではなく独り言のようだった。 カインとはいったい誰なのか。 そして何より、唐突の警告。 呼び出されたと思ったら、博士に気をつけろか。 肝心の理由を聞かなきゃなんとも言えない。 ガースラー、あんたは何を知っているんだ?
俺は暗い帰り道を歩いて行った。 なにかがなにかをする……漠然とした馬鹿げた予感が、謎のもどかしさと共に俺の頭から離れなかった。
■■■
朝、目を覚ます。
「……あれ?」
日の高さからして、もう朝という時間はとうに過ぎてしまったらしい。 昼だ。 機械音は聞こえるものの、昨日の朝よりは気にならないほどの音が響いていた。 久しぶりにぐっすり眠れた気がする。 昨日は疲れたからなぁ。 おまけに夜はガースラーと話していたし……
「起きてますかーエルトー!」
扉を蹴破るごとく乱暴に開けて入ってくるシエル。 その姿に俺はラブコメでよく見るような、朝起こしに来る妹のシーンを想像した。 まさか現実でこんなシーンを拝めるとは。 これは寝て待ってた方が、次の展開も味わえたんじゃ……とタイミング悪く体を起こした俺を殴る。
「なにやってんの……」
呆れた目線を向けられ、俺はなんでもないとベッドから出る。 あー惜しいことをした。
「博士から伝言で、今日はデートでも行ってこいってさ。 デートってなんだろうね?」
惚けた顔を浮かべる。 博士……出会って3日目でそれは俺の精神にはまだ早すぎますよ。 確かに、年齢的には相応しいけど俺には彼女いない歴年齢と言う立派な経歴を持っているというのに、それはあんまりだぜ。 そして俺は、あるひとつの解釈に辿り着いた。
「そうか、お出掛けだな。 じゃあ街を案内してくれよ。 まだ全然見たこともないから案内のためのお出掛けだろう。 俺ここに来て日が浅いし、何かと知っといた方がいろいろ便利だしな!」
「なるほど!」
思い浮かんだことを、ほぼそのまま言ってデートという言葉を揉み消し、お出掛けという言葉に変換。 そして博士の汚き意図を俺の都合の良いように切り替える。 さぁ、これで堂々と、なんの緊張もせずに出掛けられるぞ!
■■■
浅はかな考えをしても、結局やることは変わらない訳で、俺は緊張しまくって歩く足は小刻みに震える。 お出掛けというていで行っているので隣のシエルは緊張など少しもしていない様子でただただ楽しんで案内をしてくれている。
「そ、それにしてもでかっ、でかいなぁ。 この建物……」
緊張よ止まれーーーー
俺達が今来ているのは機械街のショッピングモール的な建物『クンデーモールス』と言う場所だ。 とても巨大な円柱型の建物で機械街の地から1番上の地上まで柱のように建つ。 真ん中にはホースのように伸びるエレベーターのような機械がある。 上下運動するある機械を用いて地上とここを行き来できるみたいだが、その仕組みはシエルでも知らないらしい。 ほとんどが都市部の人間が作ったものだから。 だが、そのエレベーターみたいなのには都市部の人間しか使ってはいけないようで、俺達機械街の住人は巨大な円柱の周りについている階段を昇り降りしなくてはならない。 階段のイメージは地球の非常用階段とほぼ同じ。 外側に作られているため頑丈ではあるが、やはり危険なことには変わらない。 だがそれでも、中に入れば多くの店が並んでいる。 何階まであるんだろう。 ちなみに地下もあるらしい。
俺はシエルと店内を歩く。 今日もいろんな意味で疲れそうだ。
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次回は、デート!?
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