ならば今できることを
楽しんでいただけると幸いです。
私は、私の意思はなんのためにあるのだろうか。
彼の死した体を使って、いつまでこんな世の中にいるつもりか。
探さなくては。 見つけなくては。 存在する意味を。
じゃなきゃ、私はこの生を無駄にしそうでならないのだ。
どうせ生きているのなら、なにかを成し遂げたいではないか。
(クロートの遺した記録より)
■■■
クロート? side……
あの戦いから数ヶ月後。
ディアは新たな使用人とクレイ率いる騎士隊と共に新たな反組織を結成する。 その組織が裏でこそこそ何かをしているという話を小耳に挟んだ時、私の胸はなにかに呼応して鼓動というものを早くした。
「ディア……? それは、敵の名だろうか」
私はクロートという名を与えられた半機械人間である。 元の持ち主の名前をそのままつけられたらしい。 だが、半機械と言ってもほとんどの部位が灰と化していたため、半機械と言いきれるか分からないところだ。
そんな俺は今、俺を作ったイープスと言う男と結託しているエレイバクスという男の元で働いていた。 やる事は、メイドという者たちの仕事の手伝い。 だが、つい昨日エレイバクスから反組織討伐隊に加入するよう命令された。 別に断る理由もないので即決。 今日は体の扱い方の確認とメンテナンス、明日は朝から敵陣に向けて出発らしい。 そう言えば、ここ王城と呼ばれる建物は明日久しぶりに門を開けるという話を聞いた。
「なにかあったのだろうか」
別に知りたいとまでは思わないが、疑問に感じるのは確かだ。 だが、今の私にはそのような思考は必要ではない。 早くイープスの元へ向かわなくてはいけないな。
そうして数秒後、とある部屋の扉を開けた。
「来たかクロート。 では早速メンテから始めようか」
そうして、私の体に異常がないか全身を調べられた。
「うむ、大丈夫そうだな。 では少し庭園に出て今日のゴミを片しといてくれ」
「分かりました」
俺はすぐに庭園へ向かった。
するとそこにはいつものように目隠しに猿轡、錠をかけられた男女が数人いた。
「お疲れさまですクロート。 今日はこれで全員です。 即刻処分をお願いします」
ひとりの兵が報告をする。
「分かりました」
そう言い、声にならない悲鳴をこぼす男女をひとりひとり殺していく。 その時、私の攻撃により偶然に猿轡が外れてしまった男が、怒鳴り声で叫んだ。
「お前ら、いい加減気づけよ! 俺らは操られてんだよ! エレイバクスは敵だ! 正気に戻ってくれよ!! なぁ、お願いだからっ」
血飛沫が飛び散る。 声が出ないよう私が男の喉元を斬り裂いたからだ。
「今の私には何も分かりませんが。 エレイバクスはそのようなことを正気を失った狂人の戯言と言っていました」
そう言うと、喉元を斬られた男はなにかを言い返そうと口を動かすが、空気が通る音しか聞こえなかった。
「どちらにせよ処分対象には変わりません。 忠誠を失ってしまった者へ裁きを、クロート」
「分かりました」
兵に急かされ私は一方的な攻撃を続けた。 庭園とは呼べないような荒地に血が飛び散った。
そして数分後。
「完了しました」
服についた血を拭き取りながら、兵に報告する。
「お疲れさまです。 では、後片付けは私がしますのでクロートは自室に戻り血を拭き取った後就寝してください。 明日の朝は早い時間帯に出発する予定ですので」
「分かりました」
そして私は自室に戻った後、指示通り血を拭き取り体を一通り洗った後ベッドに横になった。
そう言えば、エレイバクスに一度ディアという名の者について聞いてみたことがあった。 その時エレイバクスはいずれ会えると言っていた。 会ったとしても私がなにかしたいとかそのようなことはないのだが。 命令に従い任務を遂行するだけ。 壊れ捨てられるまで、ずっとそのように生きていくのだ。 いや、生きるという言葉は私には合わないな。 動くの方が適しているだろうか。
「長考に入るとなかなか眠れないな」
機械であるはずなのに何故意思があるのか疑問だが、知ったところでどうということはない。 それより今は眠らなくては。 明日のために。
そこで思考を切り、眠りについた。
そして目が覚める。
外はまだ暗い。 身支度を瞬時に済ませ門前に急いだ。
そして数分後全員が揃った後、整列した私達の前に今回の指揮官らしき者が出てくる。
「えー、今日は反逆者ディア率いる反組織壊滅のため戦いに赴く。 エレイバクス様はできる限り早めに掃討したいというお考えであり、今日中に奴らを壊滅することを目的とする。 様々な貴族の協力の元、反組織の本部である元騎士隊本部へ一直線上の建物は破壊許可が降りている。 よって一直線で奴らの寝床へ襲いかかるというのが作戦だ。 だが油断はするな。 元騎士と言えど手練は多くいるはずだ。 それとエレイバクス様の命令により反逆者ディアは生け捕りにしろということだ。 その者だけは殺すことを厳禁とする。 以上だ。 それ以外の邪魔する者は、誰であろうと殺しても構わない。 分からないことはあるか?」
すると列の一番前にいたフードと仮面を被った青年が手を挙げた。
「はいはーい。 邪魔する者は誰だろうと、と言ってっけどさぁ。 それが民とかでも殺していいのか?」
「お前は……レバニー・バンムッチか。 あぁ、もちろんだ。 もう既に国王権限で注意喚起は行っている。 従わないのなら、それら全てが反逆者だ」
「了解〜」
「それではもういいな。 出発だ。 門を開け!!」
その声の後、重き巨大な門は開く。
「おい、ゴミを寄越せ」
「はい、ここに」
先程の青年がゴミ、狂人を要求した。 そして連れて来られた拘束された男にナイフを突き立てる。
「んーっ!!」
「ったくうるせぇな。 お前の命が主様の役に立つんだから静かにしてろっつーの」
そうしてレバニーと呼ばれた青年はナイフを、自分の胸に刺した。 そしてすぐに抜き、そのナイフで男の胸を突き刺す。
「っ!!」
そして男が絶命した直後、自殺したはずの青年が笑い始めた。
「あはははははははははっ!! いいねぇいいねぇ。 これだから殺しは止められねぇ! ここ最近やっと思えるようになったんだよ。 魔錠者も悪かねぇってなぁ!!」
そうテンションを上げてレバニーは目の前の景色に手を翳した。
「ってかいい位置にありすぎだろ騎士隊本部! 爆龍!!!」
そう唱えるとレバニーの手元に魔法陣が展開され、そこから火花でできたようなバチバチと音を立てる龍が出てくる。
「爆発しろ! 道を開け!」
興奮するレバニーの声に反応したかのように、大きな雄叫びを上げて本部へ直行する龍。 その途中の建物には構わず体当たりで壊していく。 体当たりするごとに爆発を巻き起こしているせいで、広範囲に被害が出ていた。 そして本部の目の前に迫ると、一度上昇して叩き潰すように本部へ龍が落下した。
「終わりだな」
勝ち誇ったレバニーの声が聞こえる。 その時、本部からなにかが龍へ飛んだ。 そして龍は真っ二つに斬り裂かれ消えてしまう。
「はぁ!?」
驚愕とも言うべき表情をするレバニー。
「どうやら、手練というのは本当らしいな。 突撃だ!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
「あのクソ野郎、俺の滅多にできねぇ魔法を真っ二つしやがって! 絶対に殺してやらぁ!」
討伐隊が、龍によってできた本部への道を辿り攻めていく。
俺もそれに続こうとした時、先程の指揮官に呼び止められる。
「エレイバクス様が呼んでいる。 直ちに向かってくれ」
「分かりました」
私はすぐにエレイバクスの元へ行った。
ガチャ……
扉を開くと、そこにはいつも通り玉座に座る国王陛下とその横に立つエレイバクスがいた。
「よく来たなクロート」
最初に口を開いたのは国王陛下だ。
「はい。 ですが討伐隊はよろしいのですか」
そう聞くとエレイバクスが口を開く。
「あぁ構わない。 お前には他にやってもらうことができたのだ」
「それはどういう……」
「お前は最近よからぬことをしていたのではないか? そうだな、例えば………偵察という口実で勝手な外出をしたりとかぁ、謎の研究とかぁ?」
「…………」
「分かってるんですよぉ? クロート、お前は確かに本来のクロートの人格や記憶なんてものは一切ない。 だが、改造された直後からの記憶は全部あるはず。 初めてディアの名前を聞いた時のこと覚えてますか?」
「……勿論です」
忘れもしない。 忘れるわけがない。 何より、微かな想いが私を襲うのだから忘れられやしないのだ。 初めて涙が止まらなかったあの瞬間を。
「確かに勝手な外出をしてました。 ディアという者を知るために。 研究もしています。 人格は無理でも、この体が味わってきた記憶を思い出すために日々精進しております」
それを聞いて笑うエレイバクス。
「へぇ、堂々と白状するんだね。 だから眼鏡とか持ってたのか」
「ええ、そろそろここを出る頃合いだと思っておりましたので、もう隠すこともありません」
「…………陛下、ご命令を」
「構わん。 殺せ」
「ありがたきお言葉」
そしていきなり私の目の前に転移する。
「今回も無様に死ね、クロート!!」
「ただで死ぬほど、私はこの生を見捨ててはいません」
すぐに剣を抜き、エレイバクスの長剣としのぎを削る。
「よく言いますねぇ、作り物風情が!」
「……違う」
「あ?」
私は奴を睨んだ。 今、目の前にいるエレイバクスを敵だと認めた。
「元ではあるが、私はあの御方の側近だ」
「っ!!? 面白い、やはり服従紋は……いれるべきだったなぁ!」
2度目の戦いが幕を開けた。
■■■
ディアside……
「お嬢様! やはりなにか変です! 数はこちらが圧倒しているというのに、まだ敵が減りません!」
「くっ……! サチェゼンの方はどうだ!」
「こちらもクレイと同様だ」
いったいどうなっている!? 王城と本部の間の地域がめちゃくちゃにされるのは予想がついた。 事前に民を避難させている。 戦力もできる限り増加させた。 まだほんの一部だが、下界の民も戦力として迎え入れている。 万全の体制なはずなのに、どこに隙が!? 何故押されているんだ!
「それは、私がここにいるからじゃありませんか?」
頭上、空から声がした。 上を見上げてみるとそこには。
「エレイバクス!?」
「何故ここに……!」
私がその名を叫ぶと、他の仲間達もその存在に気づいた。 クレイは一瞥し、サチェゼンも殺気を湧き立たせている。
そこには、私達と王城から来た奴らとの戦闘を眺めるように、空にエレイバクスが立っていた。
「あぁ、そうそう。 ほれ」
そう言って、思い出したかのようにエレイバクスは魔法陣からとあるものを取り出し、落とした。
それは。
「あっ……」
私は頭で理解した瞬間、その落ちてくるものの元へ走りだしていた。
「止まってください! お嬢様、それは敵の罠です!!」
「お嬢様……! くっ、卑怯な手を……!」
クレイとサチェゼンの声など耳に届かず、私は落とされたものキャッチした。
それは、クロートの生首ーーーーーーーーーー
「愚かですなぁ? こんな罠にかかるなんてぇ」
すぐ傍にエレイバクスが迫ってきていた。
あぁ確かに私は馬鹿だ。 愚かだ。 だが、それでも。 これを見捨てるなど、私には無理だ。
「眠れ、強制麻酔」
そう言ってエレイバクスは私に魔法をかけた。 私は深い眠りへ落とされてしまった。
「目的は果たされた。 あぁなに、殺すつもりはないさ。 …………数日経ったら下界に捨てる予定だ。 皆の者、もう終わりだ」
その声を合図に王城から来た奴らは引き返していった。
「待て! お嬢様攫われて、ただで行かせるものか!」
「同意!」
クレイとサチェゼンが追いかけようとするとエレイバクスは振り返り答えた。
「そんなに今ここでこいつを殺してほしいのか? 黙って引き下がれ。 こいつの命が惜しくばな」
「くっ……!!」
「あぁそれと、そこのお前。 潜入捜査ご苦労だったな。 後ろに続け」
「はっ!」
そう言うと、ディアの現使用人であるメイドもその帰っていく軍勢に続いた。
それを見送って、悔しさに拳を握るクレイは呟く。
「……お嬢様を頼んだぞ。 使用人さん」
「クレイ。 これからどうする」
「…………俺達は下界へ行く準備をする。 罠の可能性が大いにあるが、もしもそこにお嬢様だけ送られたら危険だ。 お前はどうだ、サチェゼン」
「……正直ここに残るのがいいと俺は思うが。 そうだな、下界に行こう。 それでも、クレイが厳選した少数精鋭は数人ここに残した方がいいだろう」
「あぁ、そのつもりだ」
その頃王城に帰還した討伐隊は。
エレイバクスの姿を解いた指揮官は、潜入捜査をしていた者を引き連れエレイバクスの元へ向かっていた。
「その者を本当に下界へ送るつもりですか?」
「いいや、それは罠だ。 残りの者はとある組織に下界で殺させる」
「とある組織? 下界でですか?」
「あぁ。 下界はイープス様が結成した情報屋が近々新たな勢力として下界に加わる。 その下界情報屋にはレバニーも入る予定だ。 だが、それは仮の姿であり下界情報屋は反逆者を狩るために結成されたような組織らしい」
「ではイープス様が結成した情報屋というものはエレイバクス様の組織でもあるのですか?」
「いいや違う。 下界情報屋はイープス様が協力してできたエレイバクス様側の組織。 イープス様が結成した情報屋は、まさかの核都市でやる組織だ。 前々からいろいろ機械関連に手を染めてきたイープス様だ。 なにかまた大きなことを企んでおられるのだろう」
「そうですか……」
……ならばこの情報。 どうにかしてクレイ達に流さなければ……! そして、お嬢様も。
■■■
クロート? side……
「ここは、どこだ……」
私はたしか、エレイバクスと戦って。 それで、負けて…………。
「おう、起きたか新入り」
「?」
「腑抜けた面だな。 それでも貴族様ですかい?」
「貴族? 私は貴族ではない」
「おいおい何言ってんだ。 お前は今日貴族として捕まったんじゃねぇか。 ちゃんと証明書もあったぞ。 ボコボコにされて頭でも打ったんじゃねぇの?」
そう言って笑うのは、小太りの看守。 私はどうやら捕まったらしい。 だが貴族の件は明らかに間違っている。 証明書なんてものも身に覚えがない。
ということは追い出されたということなのか? だが、この数ヶ月間の記憶を持つ私が外に出れば脅威になってしまう可能性があるはずだ。 捕らえるとしても、王城地下の牢屋に入れられるのが普通だろう。 ならば、何故私がこんな所にいるのだろうか? そもそもどうして生きている?
「本当に追い出されたのか? 何故?」
「おいおい、なに独り言言ってんだよ新入り。 俺の話し相手くらいなったって構わねぇだろう? どうせ暇なんだしよぉ」
「そうだ。 看守、私はいつ頃出られそうか?」
「ん? あぁそうだなぁ。 いや、たしか出られねぇと思うぞ。 俺の記憶が正しけりゃよ、お前はたしか第2改造所って所に強制的に働かせられるみてぇだぜ? なんでもそこはよぉ、半機械人間なんてもんを作ってるおっかねぇ場所らしくてよ。 非人道的なことが毎日行われているらしいぜ? お前ついてねぇなぁ。 俺なら発狂して一緒に改造されちまうぜ。 あぁおっかねぇ〜」
改造所……半機械人間。 なら、そこに行けば記憶を取り戻すこともできるかもしれない。 だが非人道的行為が毎日行われる場所ならば。 きっとそこで働く者も私のような罪人や、狂った人間達が少なからずいるだろう。 この静かめな人格ではやり切れそうもない。
「ならばそこに合った新たな人格形成、そして完全な定着。 悪役に徹する形が一番合っているだろうか。 いやだが、それだといつかディアという者に再会した時に支障はないだろうか。 怖がらせたくはない。 人格形成もいろいろ調整が必要だな」
「え? 人格? 悪役? 何言っちゃってんの。 あのー、頭大丈夫かい」
まだまだ疑問点は残る。 何故生かされているのか、改造所なんて場所に行ったら私の記憶が完全に戻る可能性があるというのに、何故わざわざそんな場所で働くことになっているのか。 しかし、考えたって分かりはしない。 ならば……。
「今は、相手の思惑などよりも自分がどうしたいかを優先すべきか」
よし、そうと決まれば早めに改造所の視察をしなければ。 いや、なら早めに行った方がいいな。 決心が鈍る。 立ち止まっている暇はないのだから。
私は立ち上がって、さっきからなにかボソボソ言ってる看守に言った。
「今すぐその第2改造所という場所に行きたいのだが、それはできるか?」
「…………本当に頭大丈夫かい? 自分から行きたがるなんて、もしかしてお前こう見えてそういう趣味とかあんのか?」
その言葉を聞いて私は首を傾げた。
「趣味? なにを言っているのだ?」
「いやっ、俺からしたらお前が何言ってんだって思うわ! 怖ぇよ! 分かった、上に掛け合って来るから、大人しくしててくれよ! あぁ怖いなぁもう。 看守辞めようかなぁ!」
そう言って逃げるように看守は姿を消した。
「ふむ……まぁ行けるのなら別にいいのだが」
そうして数日後。
「ここが、改造所ですか……」
改造所で働くことになった。
眼鏡をかけ、本型の箱を持ち。 新たな人格形成を果たして。
その中に入っていった。
その後。
ディアは不振な動きをしないようにと、鎖をかけられた。 王城内では、ディアが女王陛下を殺したなんて噂が流れ、それが民にまで広まってしまう。 そんな彼女の唯一の使用人であるメイスレッカ・アバデンは、毎日身の回りの世話をしていた。
「申し訳ございません……」
「あなたのせいではないわ。 自分を責めないで」
「…………申し訳ございません」
ディアはメイスレッカから下界の状況を知り、囚われた身でありながら下界を救うことを諦めてはいなかった。 時折、監視の目が緩む時には使用人の力を借りて外へ飛び出し、秘密の通路を抜けて下界へ降りては下界調査を幾度となく行っていた。 弱き人々に戦う術を与えたりして、できる限り様々な方法で手助けをしていた。 そんな彼女を殿下と呼んでくれるのは、今やメイスレッカしかいなかった。
ディアが攫われてすぐに、クレイ・オーエントとサチェゼンは仲間達を引き連れて下界へ降りた。 下界救出、そしてディアがいつ来ても助けられるようにと張り切っていた彼らの前には、下界の新たな勢力、下界情報屋が立ちはだかった。 レバニー・バンムッチの姿を捉え、すぐに王城から来た敵だと知り戦いが勃発。 結果、クレイ達の完敗。 その後、クレイとサチェゼンは洗脳され、新たな下界情報屋の仲間として引き入れられる。 その数日後、都市内の騎士隊がエレイバクスの手により壊滅させられ、ディアはメイスレッカの腕の中、涙を堪え戦意を燃やしていた。
一方その頃。
もうひとりのクロートは、改造所内で秘密裏に行っていた実験や、改造所破壊を阻止され拘束されていた。 他の仲間達が戦闘に行ってる間に、エレイバクスが寄越したであろう刺客に見つかり、どこかへ連れてかれてしまう。
目隠しをされ、連れてこられた場所は核都市だった。 目の前にいたのは自分を作り出したイープスの姿があった。
「殺すにはとても残念だが、とても喜ばしい貴重なデータだ。 だがその人格等は邪魔だな。 死んではくれないか、クロートよ」
イープスの手駒であるKD達から逃走する日々が始まる。 だが、そこは核都市。 右も左も分からない街中を走り回った。 何体かKDを殺して逃げ回った。 本当は殺したくなかった。 同じ機械、同じような運命を背負わされた子供たち。 改造所で知ったことが、その戦闘の足枷となってしまっていた。
それから数ヶ月後。
クロートは身を潜めるために都市開発が進められている土地に隠蔽魔法をなんとか駆使して地下室を作り、そこに身を置いた。 そのまま魔法を練習し、ある程度できるようになった後、どうにか記憶を復元できないかと試行錯誤の日々を送った。
それから自分の生が残り僅かだと、山のような資料や機械に囲まれた中でふと感じた。 そんな時から一変、少しづつ記憶が戻ってきたのだった。
「あぁ、あぁ…………都合が、良すぎじゃありませんかぁ………これが、クロートの………」
クロートはひとつの仮説的結論をつけた。 本当の終わりを、死を感じ始めた機械は、過去の記憶を、情景を思い出すことができる。 のかもしれない、と。 そして何故か、思い出す時は決まって淡い光が微かに見える。
記憶を思い出したクロートは、残りの時間を眠りに使った。
死ぬその時まで、夢の中にいたいと思った。
たとえそこに、私がいなくても。 このクロートという男が歩んできた人生を、眺めていたいと思った。
「クロートの記憶を見て、ふと思ったことがある。 もしかしたら、これが幸せと言うものなのかと疑問に思った。 機械である私には幸せが分からない。 だから、記憶の中に映る人生を幸せと呼びたい。 クロート、あなたの身体を奪った私が言うのもなんだが、その記憶の中の人生に私も交ざりたいと思ってしまったよ。 クロート、あなたは幸せだったのだろうか」
クロートの遺した記録の、最後のページ前の最後の文を、カインが読み上げた。
ディアは堪えきれず、両手で顔を隠していた。
エルトは、その話を聴き終わった後。 とある箇所を見つけ壁を触った。 そして本当に微かな凸凹があるところをいじり。
「それじゃ、会わなきゃな」
壁が動き出す。
「っ……!」
悔やむカインが顔を上げた。
「え……?」
流れる涙はそのままに、困惑した表情を浮かべるディア。
その先には、通路ができた。 隠し扉ってことだ。
「会いに行こうか」
エルトはその時。 とある日に、とある男から聞いた昔話を思い出していた。
最後の勇者がひとりの少年を救うために身をていして守り、記憶を消され幼くなってしまう呪いをかけられてしまったという、一部の人間しか真相を知らない事件。 その幼くなってしまった女勇者は、王女様は。 自分が守った少年を側近に、短かったけれど幸せな日々を過ごしたという昔話。
「クロートに」
エルトは笑顔で、泣くその子に言った。
読んでくれてありがとうございます。
知ったディアは、そして。
次回、その先にいたのは……。
次も読んでくれると嬉しいです。




