私のやるべきこと
楽しんでいただけると幸いです。
止めれば良かったのだろうか。
いつか聞いた伝説。 それは良き正義ばかりが描かれている。 だが、誰しもが傭兵伝説みたいに上手くいくわけではない。 だからと言ってその意志を否定する勇気も私には無く。
2度目だ。
でも、もう大丈夫。 3度目は無いとここに断言してやる。
(クロートの遺した記録より)
メイド長は言った。
「私にはもう時間がありません」
「え?」
時間がない? なんだよ、その別れ際みたいな台詞。 いつも冷静なメイド長からは想像できない言葉だ。 もう寿命ってことか? なら今メイド長は何さ……
ドスッ!
「別に年齢とかそのような話をしているわけではございませんよ?」
「は、はい……」
腹を擦りながら弱々しく返事を返し、俺は何故時間がないのか聞いた。 すると、誰が見ても分かるような悲しげな表情を浮かべて口を開く。
「死の呪い。 私にはそのような名前の魔法がかかっているのです。 名前から察しがつくと思いますが、必ず死に至る呪いです。 一定の時間が経過した後に必ず死を迎えます。 私はその時間を幾度となくどうにか伸ばしてきましたが、ここらでどうやら限界のようです。 本当はあなたの誕生会のあと、ディア様との仲が良好になった頃、ひっそりと姿を消そうと思っていたのですが、今はこんな状況です。 この4つの部屋を合わせた部屋は、実は私のこの呪いを抑制する陣も組まれているのです。 ですが、どうやらもう長く持ちそうにありません。 死んでも死にきれない状況ですが、呪いはそれを許してはくれないようです」
俺は驚いていた。 メイド長、ユイナ・レミーシェンリル、魔法に長けた王城内の最高戦力のひとりであり、レミーシェンリル家が後ろ盾にいる都市内でもトップクラスの人だ。 そんなメイド長が呪いを受ける!?
「だから司令をしてたんですか。 ならさっきの細かい役割分担も自分から意識をそらすため? それに呪いなんて……いったいなにがあったんですか!?」
「…………はぁ、そのうち分かりますよ。 それよりも、あなたには重要な任を与えます。 心して聞いてください」
いきなり真面目な表情に変えて、俺を見るメイド長。 不思議と緊張してくる。 これがメイド長の本気の威圧か……!
そうしてメイド長が放つ威圧感に気づいた瞬間、今までに感じたことのない重力が全身を襲う。
「っ!? メイド長……これは!」
「私はまだ、あなたがディア様の側近だと認めておりません。 ですので、最後ですしあなたに最終試験でも受けてもらおうと思います。 ディア様の側近なのでしょう? これぐらい耐えてみせなさい」
さらに重力が増す。 伸しかかる重さに抗いながらも俺は何とか堪える。 手は膝に着いてしまったが、まだ倒れてはいない。 そこに追い討ちをかけるように、膝辺りにも重さがかかる。 そして、数分後には全身にかけられる。
「ぐっ…………!!」
「ここから、本気でいきますよ」
本気だと!? まだ本気じゃなかったのかよ。 限界なんてとうに超えているのに。
そしてさらに数分後。 汗が止まらない中、なんとか立ち続けた。 もう骨も筋肉も謎の音を響かせている。 精神が軋んでいき、倒れたら楽になれる逃げたい気持ちが湧き起こる。
「さて、ではこのまま私と戦いましょうか」
「っ!?」
この状況で!?
重さが俺を襲いかかり、それを全力で堪えている中、メイド長と戦闘など結果は見えている。 一歩踏み出すのも辛い状況下で、この人に勝てる確率などゼロに等しい。
「お忘れなきようお願いしますよ? 全ては、ディア様のためです。 私がこの場でもし死んだとして、残された女王陛下とディア様をお守りするのはあなたの役目。 このような試験ぐらい達成できなくては、敵からあの御方々を守るなど言語道断です。 今回の敵は、それほど厄介なのです」
「で、ですが………俺は、まだっ………新人でっ……!!」
思わず弱音がこぼれてしまう。 メイド長の言っていることはご最もだ。 メイド長が今いなくなったら俺ひとりで守らなくてはいけない。 だが、そこまでの力は俺にないことぐらい分かっている。
死と引き換えに、なら話は別だが。
「ならば、その腐った根性を一瞬で覚醒させる魔法の言葉をお教えします」
「そ、そんなもん……あるわけ………」
やばい、もう限界だ。 そうだよ、俺は頑張った。 これはあくまで試験。 不合格だからと言ってディア様の側近を辞める気は毛頭ないし、俺はこれからもっと自分のペースで強くなってやる。 いつかメイド長なんて超えてやる。 だが、それは今じゃないだけであって………。
「それならこちらにも考えがあります。 心して聞いてくださいね。 ……今回の件に、あの事件に関係ある者が深く関わっていることが分かりました」
ブチッ……
俺は素早く床を蹴ってメイド長の背後に回り、軽くジャンプしてメイド長の後頭部目掛けて拳を構えた。
「あなたに勝てばよろしいのですね?」
なんて単純なんだろうと思った。 その言葉が嘘か本当かだとしても俺は本能的に怒りを爆発させた。 その抑えきれない感情が俺のリミッターを軽く解除したのだ。 ただ同時に俺は酷い奴だなとも思った。 たった今溢れ出る行き場のない感情を、試験であれ戦おうと提案してきたメイド長に向けて放とうとしているからだ。 これでは、ただの八つ当たりである。
拳を突き出すと、メイド長は一切振り向かず首を少しだけ傾けてそれを回避した。 俺はすぐに宙で回転し、メイド長の顔目掛けて横から回し蹴りを仕掛ける。 だが、それも体制を低くして避けられる。
「っ! ならばっ!」
床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、素早く部屋中を駆け巡る。 俺が今までの鍛錬の中で覚えた特に難しい技だ。 そして数秒後、素早く相手へ拳を叩き込ん、
「はい合格〜」
「ぐふっ!」
いきなり気配のない所から踵落としを頭上に喰らう。 そのまま床に着地。 見上げると、そこには執事長が立っていた。
「よっ! クロート、お前合格! はい、ディア様に仕えてよし! ……んなことよりも、ユイナ! お前なんで呪いのこと言っちゃうんだよ〜、俺とお前の二人だけの秘密だったろ〜? まさか、あれを本当にこんな冴えねぇ野郎に使う気か?」
そう言いながら俺を指さす執事長。
冴えねぇってどういうことですかねぇ……。
「呪いについては陛下も知っていますよ? それにクロートにはディア様を、そして女王陛下を守っていただく任があるのです。 不本意ではありますが、仕方のないことなのです」
「えー! じゃあさ、俺にやって、そんで俺がこいつにやるってのはできないのか?」
「なるほど……そのような気色悪い発想は思い浮かびませんでしたね。 見る価値は無くともやってみる価値はあるでしょう」
「おいおい、余計なことは言うんじゃねーよ。 やる気削がれちゃうじゃん。 まぁそれでもやるけど」
ずっと俺の存在を無視して話を進めるふたり。 そしていきなり俺を見るふたり。 俺は全く話についていけてないんだが……。
「あの、なんですか?」
俺が台詞を言い終えた瞬間、メイド長がいきなり距離を詰めてくる。 俺は反応できず後ろに怯む。 直後、
グサッ!
「がっ! あぁぁ!! 目がぁぁぁぁ!!!」
いきなり目潰しをされる。 両目が熱い。 なにも見えない。 痛くて瞼が開けられない。 すぐに両手で両目を抑えて悶え苦しむ。
「ちょっ! え? なにすんですか! 痛い! 超痛いんですけど!? ぐぁぁ!!」
返事がない。 何故か何も聞こえない。
え?
「ちょっと! どこいるんですか? ねぇ!」
ガンッ!
「痛ぁ! え、なにこれ壁? あ、壁か」
その時だった。 痛みと暗闇に包まれた俺の両目に構わず、どちらかが俺の両肩を鷲掴みしていきなり体の向きを変えた。
「え、なにすんすか! え、怖っ! えっ、むぐっ!」
……………。
ーーーーーーーーーーっっっ!!!?
初めては唐突に奪われた。 感触からして、あれは…………髭。
もう何も考えたくない。 俺は、意識と全神経と五感を手放した。
■■■
これは、夢?
『私達がこの地に赴いた理由を、忘れなさい! 今この時は、お嬢様のために生きるのです!』
これはメイド長の声? 困惑気味の表情を浮かべる目の前の男は執事長か?
視界に写っている誰かの視界が切り替わる。
腕に抱く赤子を見つめている。 周囲は火に囲まれていた。
この子は、ここは、まさか……!
『大丈夫です。 必ず私も無事に戻ります。 この子を連れて。 だから、あなたはその子を連れて離れなさい!』
近くにいた他の少年を抱える執事長らしき男を突き飛ばした。 男は少年を抱え、そのまま火の海から出ていった。
その時、腕の中の赤子が泣き始める。
『大丈夫ですよ。 使命は違えど、必ず貴女様を無事に帰しますからね』
そう言って魔法陣を展開すると、赤子はメイド長らしき女性の服を強く掴んだ。
『ーーーーーーーーあらあら、どうやらお嬢様は私に死んでほしくないようですね。 分かりました。 それが貴女様のお望みならば致し方ありませんね』
そうだったのか。 ふたりもあの事件の時にいたのか…………。
俺はそこで目を覚ます。
「クロート!」
「あ、ディア様……じゃなくて殿下! すいません、どうやら眠ってしまったようですね」
「お前のことなんていいから、メイド長はどこ!?」
え、ひどっ! って、え? メイド長?
俺はディア様に起こされ、周りを見回した。 さっきまでいたメイド長と執事長の姿はどこにもなく、俯く女王陛下と慌てる我が主様のふたりしかいなかった。
その時、酷い頭痛が俺を襲う。 まるで無理やり頭の中に情報が入ってくるような感覚。
「どうしたの? クロート、大丈夫?」
心配そうに声をかけてくれるディア様。 俺は頭を抱えその光景を見た。
「うっ……こ、これは…………!?」
そこに写るのは、さっきまで見ていた夢の中のような光景。
きっとこれはメイド長の視界だ。 目の前にいるのは苛立ちを含んだ表情で俯く執事長。 そして執事長は懸命になにかを訴えた。 口は動いているが、声は聞き取れない。 それに対しメイド長は言う。
『仕方がないのです。 私達は多くの違反的な行動をしてきたのですから、この報いは当然でしょう。 あなたは運が良かったのですよ。 大丈夫、私は先にあちらへ帰るだけですから』
そう静かに言うと、さらに激しく執事長は訴える。 身振り手振りで、なにかをメイド長に伝えていた。
『諦めてくださいロウェル。 死の呪いを受けた日から、いずれこのようなことになると覚悟してきたのです。 決められた運命を覆す気は、私にはありませんよ。 そのうちこの話もクロートに知られることになるでしょうし、この無意味な話はここまでにしましょう』
すると執事長は叫ぶ仕草をした。 だが、すぐにメイド長はそれを片手で制す。
『あなたがなんと言うと、速攻を仕掛けます。 私の死に場所は、明日決まるのです』
そこで俺は、無理やりその光景から抜け出した。 やることは決まった。 今すぐ、メイド長を見つけ出し救わなければ。
だが、その前に許可を。
「ディア様!」
「は、はい……クロート、大丈夫か? もう頭は……」
いきなり呼ばれて、目の前にいるディア様は驚き、すぐに心配そうな目をする。
「ディア様は、メイド長が好きですか!」
「な、なにを当たり前なことを言う。 私をずっと面倒してきてくれた大切な人のひとりだ。 家族と言っても過言ではない!」
元気よく、我が主様ははっきりと言ってくれた。
「ですよね。 我が主様、どうか女王陛下とお二人で待っていてくれませんか。 貴女様の大切な人を、救いに行きたいのです」
今思えば胸がつまる思いだ。 まさか、あの時あそこにいたとは。 それならもう、メイド長も執事長も俺達の恩人となる。
「どうか、私にご命令を」
そう言い頭を垂れると、ディア様は即答した。
「行ってこい! なんとしてでも、メイド長を救うのだ!」
「ありがとうございます!」
一瞬女王陛下の方へ目をやると、笑顔で頷いてくれた。 俺は床を蹴り扉を勢いよく開け廊下を走りだした。
そうして数分後。
奥から、騒がしい音が響き渡っている。 廊下の曲がり角から顔を覗かせ様子を伺うと、そこにはメイド長と敵側の騎士や執事、メイド達と戦っていた。
「道を開き、エレイバクスに会わせなさい!」
「メイド長と言えど、今の貴女は敵。 その言葉に従うとお思いですか」
相手の攻撃は全て躱せてはいるが、なかなか前に進めない状況だ。 メイド長は相手に一切攻撃せず、受け流したりして戦っている。 なら、俺が入れば!
俺はすぐに決断し、メイド長の元へ向かおうとした。 直後。
「むぐっ!?」
背後から伸びた手が、俺の口元を鷲掴みする。 そのまま為す術もなく、窓側へ思いっきり誰かに投げ飛ばされる。 王城のガラスが簡単に破れ、俺は外へ投げ飛ばされてしまう。
「お前は……」
エレイバクス!?
メイド長がすぐにこちらに気づいて俺の名を叫ぶ。
やばい……このままじゃメイド長が!
「転移!」
苦手な魔法を使い、メイド長の元へ飛ぶ。 そしてエレイバクスを睨み戦闘態勢に入る。
「メイド長は殺させない」
「クロート……」
そんな俺を見てエレイバクスは口角を上げた。
「ほぉ……それでは、ここいらで邪魔な虫けら達には退場してもらいましょうか。 あぁ……なんていい位置なんだ」
そう言って俺達に手を翳す。 すると、俺達がいる廊下の床や壁、天井にびっしりと魔法陣が浮き出た。
「っ!?」
「くっ……皆さん、今すぐここを離れてください!」
「もう遅い。 全方位から串刺しになるといい」
そう言って翳していた手を握った。 直後、全ての魔法陣から光線が突き出る。 その光線は敵味方関係なく廊下にいた全ての者に襲いかかった。 飛び交う悲鳴、吹き出す血飛沫、避けてもどこからともなく光線が襲いかかる。
そんな俺達にエレイバクスは指をさす。
「っ! 今度は何をする気だ!」
叫ぶに俺を見てエレイバクスは笑った。 直後、指先が謎の黒い光を帯びる。
「まさか……」
メイド長が呟く。 直後、
「伝い放て。 我が権能、ここに在れ」
ドスドスドスッ……!
その指先から黒い光線が一本放たれた。 そして次々に人を貫いていく。 だが、それはおかしい現象だった。 指先からは確かに一本しか伸びていない。 なのに振り返ると、全ての者に貫いているのだ。 光線が通った場所にいない所にいる者にも何故か貫いている不思議な現象。 そして、俺は……。
「っ!」
「無事ですか、クロート」
俺の前に手を伸ばし、手のひらに展開した分厚い魔法陣で光線を抑えていた。 もう片方の手で自分の身を守っている。 俺はメイド長に助けられていた。
なら、今俺が奴を倒せば!
そう意を決して行こうとするとメイド長に声をかけられる。
「止めなさい。 あなたでは分が悪い相手です。 私のことなど放って今すぐ部屋へ戻りなさい」
「そ、そんなことこの状況でできるわけがないでしょ! ディア様に頼まれたんです。 大切な人を救えと!」
「お優しいですねディア様は。 ですが、心配無用です。 後ろのかつては仲間だった敵方はもう全滅しています。 あとはラスボスであるこいつを倒せば終わりです。 ですので、クロートは」
「行きませんよ。 メイド長と共に帰るのなら話は別ですが」
その時だった。 話している最中だというのに、一瞬の出来事は起こった。
エレイバクスが光線を放つを止め、こちらに向かい始めた瞬間、メイド長は目にも留まらぬ速さでエレイバクスとの距離を詰め、胸ぐらを掴み真上へ上昇した。 天井にエレイバクスを叩きつけ突き抜けて空に出る。
俺が気づいた時には天井に穴が空いていた。 空を見ると、メイド長が真上へエレイバクスを投げ飛ばし、メイド長は虚空を掴み、一見何も持っていない様子だがエレイバクスに向かって弓を引く動作をしていた。
目に見えない弓矢でも持っているのだろうか?
「貴様、何故その技を成せる」
空中に舞うエレイバクスにメイド長が聞いた。
「愚問だな。 お前らの敵だからだろ」
「…………そうか。 貴様も、あの御方のお力を狙う無礼者か」
そう呟いたと同時に、矢があるであろう位置の空間が歪みだす。
「なんだ……あの技は……」
俺は初めて見るメイド長の魔法に不思議な違和感を覚えていた。
「我が敵を討ち滅ぼせ。 穿て、 歪みの一矢〔ディストーションアロー〕」
矢が放たれる。 放たれた矢は空間ごと引き連れて敵へ昇っていく。 空間が歪ませ、謎のエネルギーを帯びてエレイバクスに襲いかかる。
「ぐうっ……!!」
矢は空間を引き連れてエレイバクスの胸を貫き消えた。 そして歪んだ空間が元に戻ろうと辿った矢の道を無理に引き返し、エレイバクスを背後から襲い始める。 大量の歪んだ空間がエレイバクスの胸の穴を無理に通ろうとして、エレイバクスを引き裂いた。 そして何事もなかったかのように空間は戻る。
そしてエレイバクスの死体が落ちてくる。 その後メイド長もふわりと天井の穴を通って俺の前まで来た。 その直後、エレイバクスの無惨な死体が笑いだす。
「はははは、残念だったな! これは分身体だ! 本物はまだ生きている!」
そう言い、魔力となって空間に溶けていった。 俺は焦りながらメイド長を見る。 するとメイド長はその場で倒れてしまった。
「メイド長!」
「だから……言ったのです。 早く戻れと。 だがしかし、私の弱さがあなたを押し切れませんでした。 あなたの姿が……いつかのあの人に見えてしまって。 クロート、よく聞いてください。 私は違反者の立場上、この力を行使したことにより強制送還されます」
「は? どういうことですか!? そんなことよりもまずは俺と早く戻りましょう! ディア様が待っているんです!」
「落ち着いてください。 私はもうここにはいられない。 二度と戻ってこられないのかもしれない。 ですが死ぬわけではありません。 もうあなただけなのです。 今すぐ私を置いてディア様の元へ行ってください」
「っ! けれど俺は……!」
そう話しているうちに、メイド長の体が透け始める。 本当に消えてしまうのだと本能的に理解した。
「あとは頼みましたよ。 クロート。 その力は、その血は、ディア様のためにお使いなさい。 それでは、またお会いしたらよろしくお願いしますね」
そう最後に笑顔で言い残し、メイド長は消えてしまった。 死ぬのではないと彼女は言った。 だが、もし本当にそうなのだとしても、俺からしたら。 ディア様からしたら、それは。 死と同義であると、何故言わせてくれないのですか。
その頃、その光景を別な場所から見ていた執事長は。
「全くよぉ、いつも真面目過ぎんぜユイナは。 そのせいで、俺ぁいつも残業ばっかりだ」
煙を吹いて、煙草を地に落とす。 それを静かに重く足で踏み、自分の役目を果たすため歩きだした。
「本職すらままならないってのに」
読んでくれてありがとうございます。
次回、そしてクロートは。
次も読んでくれると嬉しいです。




