たとえ相手が誰だろうと
楽しんでいただけたら幸いです。
もしも、なんていう話が無駄であることは。
あの日から、今の私であっても揺るがぬ事実のままである。
(クロートが遺した記録より)
■■■
ディアside……
朝目が覚めると、いつもメイドかクロートがいるはずの私の部屋には誰もいなかった。
まぁクロートはいいとして、メイド達が自分の仕事を忘れるようなことはほぼありえない。 昨日の疲れがまだとれていないのかな。 寝坊とは、珍しいこともあるんだな。
「よっこいしょっ」
ならば、クロートでも起こしにいこうか。 この主様が直々に起こしに行ってやるのだ。 どんな顔をするだろうか。 きっと真面目なあいつなら挨拶よりも先に謝罪から言い出すだろうか。 まぁとにかく楽しみだ。 絵本の感想も聞きたいところだし、行こうか。
ベッドから出て、身支度を整え扉を開けようとする。 直後ドアノブに弾かれ後方へ怯む。
「っ!?」
えーとこれは、たしか結界だっけ? でもなんで……? このままじゃ部屋から出られない!
もう一度ドアノブに手をかける。 がすぐに先程と同様弾かれてしまう。
「くっ……メイドの仕業か? 昨日のホールの片付けが終わってないからまだ出るなってこと? うーん、分からないわ……」
そう独り言を言い窓を見る。
「それならっ!」
窓を開けようと手をかけると扉と同様弾かれてしまった。
「えー!? なんでよ! なんで結界なんて張ってあるの!? 昨日の夜はなかったのに……!」
窓から外を眺める。 いつもの景色がそこにはあった。
「どういうこと……?」
まさか、今度は私にサプライズでもあるのかな。 でも今日は特にそんなイベントの予定は無いはずだし、私の誕生日はもっと先だし。 うーん……まぁ待ってればいつか来るかな。
「何しようかなぁ……」
私はそのままメイドかクロートが来るのを待つことにした。
■■■
クロートside……
ディアが目覚める数時間前。
何者かが城内に侵入! 戦闘準備をし警戒して侵入者を捕らえよ!
「っ!!?」
いきなり大声の魔法通信が頭を駆け巡る。 すぐに意識は覚醒し、ボヤける視界に目を擦る。
瞬時に身支度を済ませ、頬を叩く。 顔を洗わず、そのまま廊下へと出た。 城内は昨日とは違う緊張感に包まれている。 メイド達や執事達など多くの従業員が警戒態勢に入っていた。 特にディア様、我が主様の部屋の周りにはメイド長と執事長がいる。 どうやら、部屋の出入口となる扉に結界を張っているようだった。 この調子だと窓にも張られていることだろう。
俺はすぐさま2人の元へ駆けつけ状況を聞いた。
「いったい何があったんですか」
「あぁクロート君だね。 今は魔法通信があった通りの状況だよ。 何者かがこの城内に侵入した。 もちろん夜中ということもあり王城全体は結界で覆っていたんだが、どうやらそれを破られたらしい。 トラップもいくつか仕掛けていたんだが全て無力化されてしまったよ。 相当の手練が攻めて来たと見て今こんな状況になっているんだ。 私とメイド長はディア様を死守するよう言われている。 他の者達は侵入者探しをしている最中だ」
そう説明してくれる執事長。 その後、結界を張り終えたメイド長が俺に言う。
「クロート、貴方にも指示が出ています。 ですが、貴方の役割は他の者達と侵入者探索かここで私達とディア様を死守するかです。 貴方はどちらを選びますか?」
それを聞かれて俺はすぐ即答しそうになる。
「それはもちろん……」
そこで言葉を切り、少し考えて俺は決断する。
「いえ、私ではお二人の足を引っ張ってしまいますので、私も侵入者探索に参加します」
「そうか。 君がそれでいいならいいんだ。 必ず死守するから安心してくれ」
「まぁ、妥当な判断ですね。 ここは私達に任せてください。 必ず侵入者を見つけ出すようお願いします。 見つけ次第魔法通信で全員へ連絡を忘れず行ってくださいね」
そう心強い言葉を2人から貰う。
「はい! 主様をよろしくお願いします!」
そう言って俺は廊下を走りだした。
「変わったなぁ」
「そうですね。 ですがまだまだ新人の身、これからさらに強くなってもらわなければ」
「いや違う違う。 いつもお堅いメイド長のことですよ」
「?」
「クロート君も確かに変わったけど、なにも変わったのはクロート君だけじゃない。 いや、変わったって言うのは正しくないかな。 戻ってきた、かな。 やっと……」
「ーーーーーーあぁ、なるほど。 それは確かに…………そうですね」
もう2人、それを知る者はクロートの走るその背を見て懐かしんでいた。
■■■
「だけど、こんな時間帯に侵入なんて……いったい何が目的だ?」
確かに夜間なら、対応が僅かに遅れるのはそうだが。 それでも王城を敵に回す覚悟があるんなら、相当厄介な相手だと考えるのが普通だろうか。
ディア様はあのお二人に任せて大丈夫だろう。 探索がてら、陛下の様子も確認しに行くか。
その時だった。
ドガシャーン!!
何かが爆発する音。 窓が割れる音。 そんな音がした方向を見る。
「まさか……王室!?」
その爆発音が合図のように、謎の集団が溢れるように城へなだれ込むのが見えた。 同時に騎士隊の軍が城に到着した。 外では、すぐに戦闘が開始される。 その戦闘から数名抜け出して城内に入る騎士がいた。
「あれは、騎士隊の隊長か! ということは、城内には既に敵が侵入してるってことか」
騎士隊は騎士隊でなにか指示を受けてるはず。 王城にも戦える奴はいるが、それでも太刀打ちできないと国王陛下が判断したってことだろうか?
基本的に陛下などの許可が無いと、騎士であっても王城内に入ることはできない。 騎士を入れるほどの状況ということは、少なくともいい状況ではないらしい。
「くそっ! 早く王室に行か……ちっ!」
いつの間にか俺の前には行く手を阻むように、魔法を封じ込めた石を取り付けた仮面をつけた謎の集団がいた。 数はそれほど多くはないが、外にいる奴と外見が酷似してることからあの集団の者とみていいだろう。
そんな考えを巡らせていると、目の前の集団からひとりが前に出てくる。
「ディア・シュミーヌの側近、クロートとは貴様か」
「おいおい、俺の主様を呼び捨てなんていい度胸してるな。 あぁ、そうだ俺がクロートだ!」
そう言って、俺は廊下を蹴る。 前に一人出てきた敵との距離を詰めていく。
まずはこいつから仕留めてや…………っ!?
拳を素早く突き出すと、俺の腕は簡単に掴まれる。
くっ! 相手を侮りすぎたか!?
そう思いもう片方の腕を動かし始めると、瞬間的に他の奴に腕を掴まれる。
「いつの間に!」
そう言い目線を動かすと、いつの間にか俺は囲まれていた。 それに気づいた直後、敵はどんどん俺にくっつき始める。 抗おうするもすぐに敵の体重に押し負け床に胴体を着けられる。
こいつら、俺を足止めするのが目的か?
なんとか振りほどこうとすると、一瞬俺の腕を掴む奴らの腕が見えた。
っ!!?
「機械の、腕!? 何者だお前らぁ!!」
すると、一番近くにあった敵の顔から声がした。
「自爆実験。 開始」
は?
直後、俺に乗る全ての敵に力が収束する。
「っ!!!」
ドカァァン!!
爆発。 機械の部品や人の内蔵、血やオイル、焼けた服や砕け散る仮面、人の部位と機械の部位が弾け飛び散るグロテスクな光景に俺は息を飲んだ。 爆発による一瞬の光とその後にその辺一帯に舞う爆煙。 割れる窓、破壊される壁、崩れる床。
俺は瞬時に防御魔法を展開し、床を人ひとり通れるほどに壊して下の階に移動し回避したが。 目の前に起こった光景が、とても現実味を帯びていなかった。 まるで悪夢を見ているような感覚。
話に聞いたことはぐらいはある。 だがこれは……人のするべきことではない。 非人道的すぎる。
「ははっ………マジかよ。 まさか、半機械人間だとは……」
歯を噛み締め、俺はすぐに魔法通信を全開にした。
「全員聞け! 今俺達が戦ってる敵は、石を取り付けた仮面をつけてる奴は……半機械人間だ! 自爆を仕掛けてくる可能性がある! 充分注意してくれ!」
『なに! 半機械人間!? クロート君は無事なのか!』
「はい、なんとか。 数体に取り押さえられ自爆をやられましたが床を破壊してどうにか回避しました。 それよりディ……主様は無事でしょうか!」
『ディア様は無事です。 こちらにはまだ敵は攻めてきていません。 クロートは王室へ向かってください。 先程の爆発音、どうやら王室からしたようなので』
「分かりました。 お二人もお気をつけて!」
俺は王室へ向かった。 外では騎士と半機械人間と思われる集団との激しい戦いが続いていた。
数分後。
扉を開ける。
「国王陛下! 女王陛下!」
そこには、ベッドに眠っているように見える2人と、めちゃくちゃに壊れた部屋、そして謎の男が立っていた。
「何者だ!」
すると男は人差し指を口元に添えて、静かにするように促す。
「しーっ。 お二人は大丈夫です。 気を失っているだけですよ。 あぁ、私は最近配属されたばかりの新人の側近でございます。 私がここに来た時には気絶してしまった2人を敵が襲う瞬間でした。 ですから、そこに私が割って入り敵を蹴散らした、と言うのが今までの状況でございます」
俺は警戒を解かず、その言葉を聞いていた。
新人側近? 俺と同じように陛下にも? だがそんな話初耳だ。
「そうですか。 それでは名前と簡単に自己紹介をお聞きしても? こんな状況ですので、一応お願いしたいのですが」
「ええ、構いませんよ。 ですが、名を名乗れと言うのなら、まずは自分から、ではありませんか?」
ほぉ、その言葉は俺を新人と知ってのことか?
「俺はクロートと言います。 数週間前にディア様の側近として働いています。 過去の経歴は国王陛下に拾われ今までこの王城でお世話になりました。 国王陛下などにお聞きすれば真実であると証明できます」
「そうですか。 クロート、いいお名前ですね」
不気味な雰囲気を醸し出すその男は、次に自分の自己紹介を始める。
「私の名は、エレイバクス・ガメストードル」
「っ! その名は、聞いたことがありますね……」
たしか、相当な権力を握る上級中の上級貴族。 今の貴族界のトップと言ってもいいほどの実力者であり、人柄も良く数年前までは誰もが知る有名人だったはずだ。 だが最近は、静かに余生を過ごしたいという理由に平凡に生きているということだったが。 それにしてもこの人は何歳だ? 若い容姿で、おまけに顔つきもいいときた。
「その反応から察するに、経歴についてはお話しなくてもいいでしょう。 側近に就いた理由は簡単ですよ。 王政に興味が湧いた、それだけのことです。 何分このような立場なのですぐに王城からは了承が得られました。 いやはや、努力せず手に入れたものはやはり実感が湧きませんね」
なんだそれは。 どんなに上級貴族だとしても、すんなり王城に人を入れるなんてこと本当にあるのか? 考えられるのは、裏で誰かが手引きしたとかか。
「疑いの表情ですね。 ですがご安心ください。 目覚めた国王陛下に聞けば、真実だと理解できるでしょう」
そこまで言うのなら警戒するだけ無意味か。 それより今は半機械人間の集団を片づけなくては。
だが、そこまで頭で考えるも、エレイバクスから放たれる不穏な雰囲気に無意識に警戒してしまう。 なにか裏がある、騙されてはいけないと本能が訴えるが、根拠も何もなく今はそんなことをしている場合ではないため、すぐにその訴えは理性にかき消された。
「では、今は貴方を信じてここは任せます。 俺は外の集団を片してきますので」
「ええ、分かりました。 ご武運を」
奴の口元が歪む。 それは送り出してくれる時の笑みなのか、なにかを企んでいる笑みなのか分からなかった。 が、どちらにしろ、やはり不気味で気味が悪い顔だった。
そして、俺が王室から外の戦いに参加して数分後。
「お前か、エレイバクス・ガメストードル!」
「おぉ、騎士隊隊長様じゃありませんかぁ」
「お前の悪事の疑惑は数え切れないほど挙がっている。 お前には罪の疑惑が数多くかけられているのだ。 本部まで同行願おうか!」
「そうですかそうですか。 ですがぁ……もう手遅れだなぁ」
エレイバクスが口角を上げると同時に、気絶していた国王陛下がムクリと起き上がる。
「我、国王が断言しよう。 この者、エレイバクス・ガメストードルはわしの側近故そのような悪事には手を染めておらん。 安心して下がってくれ」
「で、ですが民からは数々の証言が……」
「国王に逆らうか?」
「っ! いえ、そのつもりは!」
「ならば下がれ。 二度も言わせるでない」
「っ…………承知しました」
そう言って騎士隊隊長は王室から出ようとすると。
「あぁ、やはり待て」
「な、なんでしょう。 陛下」
「死んでくれ」
「っ!?」
「だそうですよ」
「なっ!?」
エレイバクスが放った魔法で騎士隊隊長は倒れる。
「貴様ぁ……国王陛下に、なにをしたぁ!」
「なんにもしていませんよ。 それに貴方はそれを知る術ももう、ない」
その日、騎士隊隊長は絶命した。 だが、死体はどこにも残らなかった。
■■■
ディアside……
ガチャ。
「!」
結界が張られていた扉が開く。 そこには、メイド長と執事長がいた。
「あーっ! もう、やっと開けてくれた! 私超暇だったんだからね! 絵本何冊読んだか……」
と、指で数える。
いーち、にぃ、さーん…………。
「どうやらディア様は平常運転そうだね。 いやぁ良かった良かった」
「私が張った結界のおかげですね。 無傷で当たり前です」
メイド長と執事長が話している。
「ねぇ、それよりクロートどこ? 絵本の感想とか聞きたいんだけど」
「クロート君かい? んー、まだ戻ってきてはいないみたいだな」
戻ってきてない? 何かあったのかな。
直後、メイド長が目に見えぬ速さで執事長を肘打ちする。
ドスッ!
「ふっ!」
「侵入者の件については秘密ですよ」
「すいません……」
「クロートは今日は仕事でお忙しいですので、本日は我々と遊びましょうか」
「え」
ドスッ!
「ぐふっ! …………そうだな、遊ぼう遊ぼう……」
「えーでもクロートの方が……」
まぁでも、昨日のパーティーの片付けとかあるのかな。 それじゃ仕方ないか。 でもでも、メイド長と執事長とで遊ぶのは初めてな気もするし、そっちも楽しそうだなぁ。
「分かった! 今日はふたりと遊ぶー!」
はっ! 言葉が幼児化してるぅ!?
頭の中で母の言葉が反響する。 そして私は台詞を言い直した。
「いいわ! 今日はあなた達で遊んであげりゅ!」
……噛んでしまった……恥ずかしいぃ……。
顔が火照る。 夏ではないのにとても熱い。
「あ、ディア様噛ん」
ドスッ!
「空気を読みましょう」
「はい……すみません……」
何故か執事長はずっと脇の下を抑えている。 なにかの決めポーズかな。
その時だった。
「楽しそうでなによりなにより」
「こ、国王陛下!」
「あ、どうもでーす」
国王陛下がにこやかな表情で歩いてきた。
「あっ! 父上! えっと、今日ね。 この2人と遊ぶん」
パンッ……。
え……。 ……?
「「っ!!!?」」
私は、今なにをされたのだろうか。
頬が痛い。 とても熱くてヒリヒリする。 いつの間にか、首だけが横を向いていた。
「ぇ……」
私は目の前に立つ国王陛下を見た。 私が視線を父上に向けた時には。 父は手を振りかざしていた。
また来る。
そう本能的直感がした時にはもう遅かった。
パパは、私を殴っていた。 後方へ軽い私の体は吹き飛ぶ。 とてもかたい拳だった。
痛かった。
「陛下!」
メイド長が叫ぶ。 だが、国王陛下はその倍の声量で叫んだ。
「遊ぶだと!? よくもまぁそんな事を言えるな我が娘よ! 侵入者が忍び込み、死人出る戦いが起こっていたというのに貴様は何をしていたぁ!? 何の功績もあげず安全な場所にいたんだろう!? ふざけるな! ここまで使えぬ臆病者とは思わなかったぞ! 貴様など、貴様など生まれぬが良かっ」
「うおおおおおおおおおおああああああああああ!!!!」
国王陛下の頬に拳がめり込まれる。
その拳は、全力で駆けてきたクロートの怒りの拳だった。
国王陛下はそのまま廊下の壁に激突する。
「クソジジイィ!! それ以上口を開くんじゃねぇ!!!」
その間に、吹き飛ばされた私の元へメイド長と執事長が駆け寄る。
頬がまだ痛む。 クロートの怒鳴り声が、私の耳に届く。
「あんたは国王陛下の前に、ひとりの父親だろーが! しかも、安全な場所に居させたのはあんたの指示だろ!! この上なく理不尽な怒りを、実の娘に向けてんじゃねぇよ!! ……しかも、しかもあんたは、俺の主様に手をあげた。 あんたが相手だろーが、今回はそれなりの報いは受けてもらうぞ!」
「報いだと?」
私を睨みつけた時の鬼の形相をずっと保ったまま、クロートを見上げ殴られた頬を擦る国王陛下はゆっくり立ち上がった。
「それは、この国の王に言っているのだな?」
「国の王の前にあんたは父親だろって言ってんだよ。 その父親であるあんたに言ってんだ」
「分からぬ。 分からぬな。 どちらも同じ我だろう」
そんな言い争う二人を見て、視界がぼやけ始めた。 まだ痛む頬になにかが伝う。 流星のように幾度となく頬を伝う。 そんな私を見てメイド長と執事長は頷き合った。
「陛下! 何を言うと貴方様は幼き子どもを殴ったのです。 このようなお姿を民が知ったら、善良な民は黙っていませんよ」
「そうだぜ陛下様。 いくらなんでも可愛い女の子に手を出してその発言なんて、さすがに男じゃねぇってもんですよ」
メイド長と執事長が私の前に出て言う。 ダメな私を庇ってくれているのだ。
だがそれでも、国王陛下は謝りもしなかった。
「そうか、なら貴様らも反逆罪として捉えよう。 今だけでも平穏を楽しむがいい。 すぐにその手に錠をかけてやる」
そう言って振り向き、歩き始めた。
も?
私が些細な疑問を抱いていると、それをクロートは口にした。
「も、ってどういうことだ」
「っ! まさか、女王陛下様になにかしたのですか!?」
メイド長の声が荒くなる。 その2つの質問に国王陛下はこちらに横顔を見せ口元を歪めた。
「あぁ、あれか。 あまりにも口答えして鬱陶しいもんだから、地下牢にぶち込んでやったよ」
「っ!!!」
ギリッとメイド長の口元から歯を噛み締める音が聞こえる。 執事長やクロートも、豹変した国王陛下を睨みつけた。
そんな皆が、怖く感じた。 どんどん、大切ななにかが変わっていく感じがした。 昨日までの日々が、もう来ないのだと幼き私は悟ったのだった。
■■■
クロートside……
国王陛下の豹変から数十分後。
メイド長と執事長は部下を全員呼んだ。 だが、集まったのはメイドも執事も数人程度。 来なかった人達も国王陛下のように豹変しているらしい。
その後、襲撃に襲われてもいいよう、空間魔法など複数の魔法を駆使して俺とディア様、執事長とメイド長の4つの部屋を繋げた。 内側となる壁は取り払い、異様な大きなひとつの部屋が出来上がる。 それを異空間に隠し、出入口は王城内の適当な場所へ繋げた。
ディア様はショックのあまり寝込んでしまっている。 そりゃそうだ。 大好きな親にビンタされて殴られて、理不尽な怒りをぶつけられたのだから。
「これからどうしますか、と言う前に俺から提案させてください。 と言うより、最優先事項にしてもらいます。 女王陛下救出を今は何よりすべきだと思います」
「あぁ、俺も同感だ」
「異議無し!!!」
執事長も怒るメイド長も同意してくれた。 メイド長は国王陛下よりも女王陛下をいつも尊敬していた。 たまに「国王陛下はゴミ。 女王陛下は女神。 そうですよね?」と威圧を放ち問いただしてくる時があるほどだ。 その意見に何の意味があるのだろうといつも思う。
その後話し合いの結果、囮作戦で女王陛下を救うこととなった。 見張りを囮側が引きつけて、そのうちに救い出すというシンプルな作戦である。 そしてまさかのその囮役をメイド長自らが引き受けてくれた。 と言うより、メイド全員が志願した。 メイドはどうやら女王陛下推しらしく、やる気が燃え盛っている。 ちなみに執事側はそういう推しとかは無いらしい。 執事長曰く「上司を推しても彼女できないでしょ?」らしい。 執事達は全員彼女いない歴が年齢なのだ。
「よし、では会議はこれにて終了です! 明日女神救出のため体を休め明日に備えるのです! 各自速やかに就寝してください!」
そのメイド長の叫びを最後に一日は幕を閉じた。
読んでくれてありがとうございます。
次回、結成!
次も読んでくれたら嬉しいです。




