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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
79/197

謎の地下室にて

楽しんでいただけると幸いです。

「ここ……いったい何の部屋だ?」

俺はネーウとの戦いの後、とにかく休める場所を求めすぐ近くにあった地下へと続く扉を開き中へ入っていった。 建物の下敷きになっていたらしい地下への出入口は、様々な疑問が浮かんだが、とにかくここがどこだか分からない以上、身を潜めて体を休ませることを選んだ。

外の周囲の景色はあまり見ずに戦っていたからあまり覚えてはいないが、この地下室はとても年季の入った物ばかりが置いてあった。木製の机や椅子、魔力でつくランタンや、紙束の山や壁に重ねて貼り付けられている何かの記録用紙。 奥に進むと木箱が多くあり、中には多くの謎の資料が巻かれて入れられている。 壁や床などには見たことのある工具や、見たことのない工具まで様々な物が散乱していた。 隅の方には機械のガラクタが散乱していたり、その近くの壁には錆びた武器がいくつか掛けられていた。

「なんだこれ……」

特に目についたのは、ヘルメットがついてる鉄製らしき椅子だ。 ヘルメットや椅子の肘掛け、背などにチューブなどが細かく取り付けられていた。 電気椅子を連想させるそれに付いているチューブなどは全て、奥の部屋に入った時の前方の壁に埋め込まれているいくつかの謎の装置に繋がっていた。 本当に謎の部屋である。

他も探索して見ると、紙束で半分以上埋まっている部屋や、床や壁や天井にまで文字が殴り書きされている不気味な部屋、テーブルに椅子、台所やベッドなど生活感漂う普通の部屋まであった。 そんな生活感ある部屋には、とある貴族が着るような服が綺麗なままで掛けられてあったり、その服を着ていたであろう貴族と予想する人物が使っていたであろう物まで綺麗なまま飾られていた。

「そういや、ここだけ紙の山とかないな。 ホコリだけ積もってるあたり、ここは綺麗に使われてたんだな」

というか、地下にこんなに部屋があるなんてな。 あの椅子見て拷問部屋かと思ったが、ここを見るとそう断言するのは難しいし、さっきの資料の山といい、ここはなんかの研究室とかか?

頭を抱えていると、この地下室内に気配を感じた。

「っ、誰だ」

そう言い振り返ると、ちょうど扉を開けて入ってくるカインの姿があった。 背にはディアを抱えている。

「な、なんだカインか。 驚かすなよ」

「ははは、ごめん。 転移してやって来たんだ。 でも、それにしてもよくここまで来れたねエルト」

いや、その台詞言うなら俺でしょ。

と、内心思いつつ俺はここはどこかと尋ねた。

「知らないでここまで来たのか……ここは中心深部核都市エヴェン・トリディースだよ」

「えっ! ここが!?」

ということはなにか、俺は敵地かもしれない場所で派手にやってしまったってわけか。

だが待てよ、と外にいた時のことを思い出す。 確かに俺は周囲の景色など見ずこの地下室に入ったが、視界の中で空を見たのを覚えている。

「ここ、空あったぞ。 本当に地下なのか?」

「あぁ、地下だよ」

その言葉に俺は特になんの疑問も持たなかった。 ここは異世界、それだけで全て納得してしまったからである。

「まぁ話はあとで、まずディアを寝かせたいんだ。 手伝ってくれないか」

「あぁ、分かった」

そう言うとカインは俺にディアを預け、部屋の隅に置いてあるベッドの近くまで行き、見えざる力でベッドを綺麗にした。 つくづく魔法って凄いと思った。

それにしても……本人は寝ているし俺も内心だから言うけど。 重いなぁ、ディア。 いやだって、確かに俺よりは身長小さいし、きっと年齢もあまり俺と変わらないと思うんだが、やっぱり人ひとり抱えるのって結構疲れるな。 俺が非力すぎなだけだと思うけど、今は戦いの疲労で体やばいからな。 だがしかしだ。 今俺は少女をお姫様抱っこしているという夢のような体験をしているわけで、どんなに重かろうと彼女を地に着かせるわけには、

「誰が重いだこの野郎!」

「ぶへっ!」

いきなりディアが体を捻り、俺の頬に膝蹴りをしてきた。 そのダメージのせいで腕から力が一瞬抜けるが、俺はディアを落とさないよう踏ん張る。

「痛いし重い! だが落とさぬ、この夢心地!」

「なんだとコラー!」

俺の顔面にディアの膝が襲う。 膝蹴りの連撃に耐えながらも俺はディアを抱え続けた。 そんな中、俺の手は謎の感触を味わった。 同時にディアの連撃の勢いがガタ落ちする。

ん? なんだこの感触は。 なんだろうこの感動は。 なんでだろうか、自然と涙がポロリ。

本能は既に気づいているが、理性は理解を拒み、ただその一時の瞬間を疑問と共に脳へ刻んだ。

そんな中、俺の腕の中から聞こえる声。

「転移」

「へ?」

直後、背中に蹴りを喰らった。 そのまま蹴られた方向へ吹き飛び壁に激突。 幸い壁も部屋も無傷、俺だけダメージを受け背から床へ倒れた。 俺はこの蹴りを膝蹴りを許せると思った。 それに対等する対価を受け取ったと心から思うからである。

「やっぱ意外と小さいんですね。 殿下の」

グサッ!

俺のすぐ横の床に魔力で形作られた剣が刺さる。 ディアが絶望と怒りが混濁した恐ろしい表情で俺を見下ろしていた。

「殿下の……なんだって?」

「………………なんでもございませんっ」

その言葉を聞いてもなお、殿下様のお怒りはどうやら沈んでいないご様子で。 殿下様は俺を見下しながら、口を開いた。 同時に床から剣を抜き、剣先を俺の鼻あたりへ向ける。

「お前……さっき、やっぱ、とか言ってなかったか? やっぱってなんだ? あ?」

ゆっくりはっきり言葉を言い、殺意が篭った剣が少しずつ迫りだす。

「……………………申し訳ございませんでしたっ」

「は? こっちは謝罪ではなく、質問に対する答えを求めてんだ。 ねぇ……答えてよ、エルト」

ひぃぃぃっ!! ヘルプ! ヘルプミー、カインー!

目線をカインを向けると、親指を立てて笑っていた。

あの野郎……! まぁ悪いのは俺だけど、助けてくれてもいいじゃないか! どうする……ここは馬鹿正直に言うか? うん、そうしよう!

即決して俺は口を開いた。

「あのですね、見た感じのままだったって言うか、まぁつまりディア殿下様のお」

その瞬間、すぐさま剣を持ち変えたディアは、剣の柄頭で俺の額に打撃を与えた。 こうして俺はお決まりを達成したのであった。

■■■

「さて、ではこれからどうするか話し合おうか」

「そうね」

生活感漂う部屋で俺達3人は今後について話合っていた。

「まず今の状況から話そうか」

「寝てたので分からないわ」

「まだ額が痛む……」

先程やられた額をさすりながら俺は答える。 直後、そういうことじゃないでしょとディア殿下様から腹パンを喰らう。 俺は今、先の件のせいでディアには一切逆らえなくなっている。 あれは事故だと今でも思っているが。

「ははは……まぁ今はネーウの件も無名軍の件も全部終わらせたって感じだよ。 ザークは天界都市で生きてるから大丈夫。 イングとは連絡もつかないけど、あの人強いから大丈夫だと思うよ」

まぁ確かにイングからはただならぬ気配を感じたことがあるし大丈夫だろう。 ザークは、まぁ妹が亡くなったんだ。 天界都市で静かにしてたら問題ないと思うし、カインが言うんだ。 きっと大丈夫だろう。

「それで提案なんだが、俺の目的のためにここからは少しだけ動いていいかな」

「俺はいいよ」

特に断る理由もないしな。

「私も構わないわ。 けれど、それって改造関連のこと? あと少しだけってどういうこと?」

「確かに改造関連だね。 少しって言うのは、まぁなんというか。 ここで少しだけ過ごすってことかな。 やっと、ラスボスが知れるかもしれないんだ。 倒すべき敵が。 そして……」

そこでカインは言葉を切った。 そしてカインはディアを見つめ言う。

「殿下にも関係のある事柄でもある。 むしろ貴女様の許可なくしてここで行動は起こせない」

「それってどういう……」

「数年前に起きた、王家の殺害事件」

「っ!!」

その言葉を聞いて、ディアの顔色が変わった。 ディアを取り巻く空気が変わった。 ディアの全てが震えだした。 そんな表現が合う程、彼女は小刻みに震え、悲しみと怒りに染まる顔。

「その事に、ついて。 お主は、知りたいと、申すのか……」

ディアの口調が変わる。 ここで王家の威厳を見せるのは、それほど事が重大である証だろう。

「この地下室には様々な情報が眠っている。 その中に、その事件の事も書かれていることだろう。 その無数の情報の中には、殿下が何よりも一番に知りたかった情報も、きっと含まれている」

「そんな確証、どこにも……」

「とある男について。 きっとその男についての情報がこの地下室にあるはず。 俺はずっと不可解だったあいつの死を、ここでやっと紐解けるような気がする。 何故なら、ここに」

そう言いながら、テーブルの上に一冊の古い本と、伊達眼鏡を置いた。

「このふたつがあるということは、つまりあいつが最期に訪れた場所となるからだ。 忘れるはずもない。 俺達が突き止めた情報、何度も観察した。 あぁ覚えている、忘れるわけがない」

そのような言葉を聞いて、ディアは。

大粒の涙を目に浮かばせて、震える唇で言う。

「申せ……知っているんだろう……? 答えよ……その男の名を。 カイン・アヴィエール」

「その男の名は、クロート。 俺達を裏切り、謎の失踪を遂げ死んだ、忘却の迷い人です」

その名には俺も聞き覚えがあった。 ルーダ博士の話に出てきた名前だ。 ルーダ博士やカインの改造のチーム員のひとりの名だった。

ディアは、泣いていた。

■■■

ディアは綺麗になったベッドに潜り込んだ。

ディアが休んでいる間、俺とカインで地下室内で情報収集することになった。

それから何時間経っただろうか。

地下室のありとあらゆる場所を探して資料などを引っ張ってはカインの力を借りて読んで、これは関係ない、これは重要そうだと選別していった。

途中でカインに話しかけられる。

「そう言えばエルト。 君はどのくらい過去のことを知ってるんだい?」

「んー? どのくらいって、ルーダ博士と11546が出会ってから今までだけど。 あ! いやいや、今のなし!」

「あー、なるほど。 なら、君も聞いといた方が良さそうだね」

そう言って作業に戻る。

こんな感じで時は過ぎていった。

そうして…………。

「なるほど」

カインが呟く。 そして、まだ浮かない顔をしているディアに向き直り聞いた。

「ここにも全て書かれてあるが、できればぜひ殿下の口から聞きたい。 酷な話ではあるし、どうするかは貴女様に委ねよう。 どうか、聞かせてはくれないか。 永遠の側近の話を」

「…………」

「無理強いはしない。 嫌なら嫌と言ってくれていい。 資料等でも全部が全部知れるわけではないが、それでも多少は知れる。 だが、万が一にも偽りかもしれない。 できれば貴女様の見たものを聞いたものを、教えてはくれませんか」

「………………エルトも、聞きたいのか?」

押し黙っていたディアは、一見全く関係のない俺に話を振った。 そりゃあそうだ。 カインは元仲間という接点があるが、俺には何も無い。 強いて言うなら、ルーダ博士から話を聞いたくらいだ。

「出てけと言うなら外に出るよ。 話したくなければ話さなくていい」

そう言うと、ディアは微かに頬を膨らませた。

「そういうことを聞いてるんじゃない! エルトは聞きたいのか聞きたくないのか聞いてるの!」

え、なにそれ可愛い。

なんて場違いな気持ちを隠しながら、俺は本音を言う。

「そりゃあもちろん知りたいよ。 それでディアの悲しみが軽くなるだなんて思わないけど、ディアはもう仲間だから。 知って一緒に向き合いたい」

そう言い終えた後、羞恥心が俺を全力で襲いかかる。

何言ってんの、俺! 恥ずいよキモイよ、綺麗事ばかり並べやがって。 一緒に向き合いたいってなんだよ馬鹿野郎! なんで平気で言えたんだこの口は! この顔は!

後悔している俺の横でカインも一瞬ニヤけた。

あぁ、俺もディアが使ったベッドの中に潜り込んで半永久的眠りにつきたい気分だ。 やましい気持ちはないですよ。 本当ですよ。 とにかく恥ずかしいよ畜生!

そんな俺を知らずにディアは俯いたままである。

そうして、僅かな静寂の時が流れ。 ディアは口を開いた。

「……あれは、まだ私がーーーーーーーーーーーー」




話しているディアを見ているのが、辛かった。

時には笑って、時には憤慨し、時には懐かしんで、時には泣いて、泣いて、泣いて。

それは悲しい話だった。 でも、もしかしたら。 見方を変えれば、楽しかった思い出になれたのかもしれないけれど。

その話を終えて、テーブルに散乱している資料等を広げ、見ていく。

また泣いてしまうディア。 悔やむカイン。

俺は、この話を聞いて。 なにができるのだろうか。

頑張って話してくれたディアへ、なにを返し与えることができるのだろうか……。

読んでくれてありがとうございます。

次回から。 ディアとクロートの過去が明かされる。

ディア・シュミーヌの涙の理由。 クロートの謎の死。

次も読んでくれると嬉しいです。

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