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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
77/197

涙と踊るは罪の産物

楽しんで頂けると幸いです。

双剣を握り俺は、近づいてくるネーウとの距離を詰める。 そんな俺の頭の中は、焦りからの自問と他の打開策を探していた。

どうすればいい。 このままネーウと戦って、もし勝ったところでザークにとっては悲しい結末になるだけだ。 俺も後味の悪いまま戦場を後にするのはどうにか避けたい。 だが、時間も無いし助ける手段も思い浮かばない。 どうすりゃいいんだ……!

思考を巡らせながらも、俺はネーウを止めるため腕を振る。 片足軸に回転しながら一回転双剣を振り回す。 が、ネーウはすぐに体制を低くして攻撃を躱す。 俺はその動きを予測し、ネーウの顔辺りに蹴りを横からいれる。 だがネーウは俺の足首をを両手で上手く掴み取り、立ち上がる動作をしながら半回転し、勢いをつけ俺を湖の方へ投げ飛ばす。

そして湖に着水する直前、

「転移!」

俺はネーウの頭上近くに転移する。 そして両腕を思いっきり振り、真下にいるネーウへ投擲した。 それを容易く躱され、地に双剣が突き刺さる。 そしてネーウは俺に向かって足を大回りにぶん回し、顔面から落ちる俺目掛けて回し蹴りを喰らわせにくる。 俺は足が自分に当たる直前に身体を少し傾けた。 そして蹴りを受け止め、相手の足をガッシリ掴む。 直後、身体を横に一回転させながら向きを変え、地にネーウを叩きつける。

「お返しだ!」

「……っ」

そして俺もそのまま着地し、地に突き刺さったままの双剣を抜き取り構えた。 直後、顎辺りに蹴りが迫る。 どうやら、瞬時に体制を整えたらしい。 俊敏な動きは、それは人の動きを超えたものだった。

顎を蹴られ、軽く宙に浮いた俺の腹に素早く拳の3連打が入る。 止めるパンチであり、後方に吹き飛ぶことはなかったものの、俺は上手く反撃をできずにネーウの蹴りを脇に喰らう。 そのまま蹴られた方向へ飛ばされ木に激突。 その後、余裕そうな足取りでネーウは俺に近づいてくる。

「ぐはっ……はぁ、はぁ…………魔法は、使わないんだ、な………」

荒い呼吸のままそう聞くと、未だに涙を静かに零しながらネーウは何故かとても複雑そうな表情を浮かべた。 その後、鬱憤を晴らすように歩みを早めて、ゆっくり立ち上がる俺の前で肘を曲げ手刀の構えをとる。

こんなに追い詰められている状況なのに、呑気に俺は相手のことを考えてしまう。 随分と俺はお人好しみたいだ。

おいおい、止まらないでくれよ。 その顔見ちゃうと、戦いづらくなるだろーが。

その涙の理由は、やはりザークだろうか。

そんな一瞬の長考も束の間、ネーウは手刀で俺の首目掛けて一閃。 俺は頭を下げてそれを避けるが、背後の木々はスパッと簡単に斬れた。 俺達側に倒れだす木に、更に手刀で斬撃をいれるネーウ。 その隙に俺は転移を使い相手の数メートル後ろに移動。 双剣を片手直剣に変えて近づきながら一回転、剣もペン回しのように回しながら勢いをつけ、こちらに背を向けているネーウへ横から剣を振る。

キンッ……

その攻撃を振り返らず手刀で受け止めた。 剣を手で受け止めたのだ。

「マジか……!」

そのまま流れるようにネーウは俺へ後ろ蹴りを仕掛けてくる。 俺は腕を戻しながら体の向きを変え回避。 そして肩あたり目掛けて剣を横に再度振る。 が、ネーウは蹴りを突き出したまま、腰を90度曲げてTの字になるみたいに俺の剣を避ける。 足一本で体を支えている状態になったネーウのその足に、剣の動きの次に流れる動作で体制を低くして蹴りを入れようとする。 だが、その蹴りをネーウは片足をバネのように使いその場でジャンプし俺の攻撃をまたしても回避。 そして先程突き出した足を宙で大回りに回して体制を変え、俺の頭へ踵落としをしてくる。

て、転移!

体への負荷を気にせず転移を再度使用し、宙を舞う相手の横に移動する。

だが、それすら見破られていたのか、踵落としをしていない方の片足で真横に蹴りを入れてくるネーウ。

動きが器用すぎんだよ!

そんな内心ツッコミと同時に俺の腹にネーウの蹴りが突っ込み、今度こそ湖へ勢いよく着水する。

ゴボゴボゴボ………

ゆっくり湖の底へ沈んでいく俺の体は、水の冷たさと空気が水面上へ上っていく音以外何も感じずにいた。

転移の使いすぎか……? 体が言うことを聞かなくなってきやがった……!

水中、目を開くと自分の口から微かに血が出ていることに気づいた。 俺の真上の水面ではネーウらしき人物が立ってこちらを見下ろしている。 その人物が立っているすぐそばには波紋がふたつ何度もできていることに気づいた。

あれは……ネーウの、涙………?

冷たさと静寂に覆われた世界の中だからだろうか、思考が加速する。

そういや、ルーダ博士の話にも出ていた。 やはりネーウは、改造を受けた被害者……? もし11546と同じだとするなら、今のネーウの中には機械の意思がいるってことになる。 だから今のネーウの戦いはそいつの意志となるのか? いや、服従紋なんてもんが付いてるらしいし、その服従者の意志か? ならば、何故彼女は泣いている……?

それはやはり、中にいるのだろうか。 ネーウ本人が。 本人の意思がーーーーーーーー

なら、戦うしかないのか…………っ!

俺は水中で体制を整える。 言うことを聞かない体に鞭を入れるように、主導権を奪い取る。 まだやれると自分に言い聞かせ、俺は水面へ上昇する。 いつの間にか無意識下にあった呼吸器官が空気を吸いたいと訴える。 そして、そんな訴えは限界を超えるように俺の意志を動かした。

ーーーーーーーー転移っ!!

「ぷはっっ!!」

湖近くの草原に俺は移動した。 荒い呼吸など構わず俺は片手直剣を構える。

俺はまだやれる、ぞっ!!?

俺が地上に戻ると同時にネーウは水を蹴り涙を宙に置きながら、俺の眼前まで迫る。 そして胸辺りに飛び蹴りを喰らわせる。

「がはっ……!!」

荒い呼吸の状態もあってか、数秒間上手く呼吸ができないまま後方へ勢いよく吹き飛ばされる。 木に激突するも勢いが強すぎて木が折れて更に勢いは弱まるも飛んでいく。 5、6本くらい木々を倒して俺の体はようやく止まった。 が、そこに追い討ちをかけるように地を蹴り飛び俺の目の前へ着地するネーウ。 俺も反射的に着地した瞬間の隙をつくように地を蹴り距離を詰めた。

こんな時なのに、俺はその一瞬を駆けるネーウに見惚れてしまう。

機械じみた無表情の彼女は、地に足を着きその反動で宙を舞う土や小石、抉れる大地。 そこに降り立った彼女の目からは、無表情な虚ろの顔には似合わない綺麗な雫を天に零していた。 そんな彼女を包み込むような勢いでフワリと舞い上がり揺れる髪、俺の激突で倒れた木々が道のように見え、なんというか、上手い具合に倒れていない木々がざわつきながらも彼女の背景に寄り添っていた。

あぁ。 ザーク、お前の妹は、今も尚綺麗だぞ。

別に欲情しているわけじゃない。 ただたんに、絵になるなぁなんて、思っただけで。

そんな一瞬を迎えた後、ネーウの口が微かに開いた。 同時に、不自然に動きがその場で止まる。 まるで、いきなり時間を止められたかのように震えを帯びて急停止する。 それでも何かに抗ってるみたいで。

そして発せられた声は、弱々しい声は言葉を紡いだ。

「わた、し……を。 殺、して………」

その声は、まさに産声のように聞こえて。 とても震えていた。 とても悲しそうだった。

救わなきゃ。

本能が訴える。 ザークのためにも、この子のためにも。

倒さなきゃ。

本能が叫び吠える。 もう悲劇を繰り返さないために。

体は限界。 だが、どうか。 俺の中に魔力があるのなら、答えてくれ俺の思いに。

「ザーク! すまん!」

俺は無抵抗のネーウを抱きしめた。

そして、ルーダ博士に操られたあの日を思い出して、なんとか魔力というものを感じようとする。 その後、息を吸い込み唱えた。

「敵はどこにいる!? 逆探知っ!!!」

目を強く瞑り、想像力でこの世界を頭の中に描く。 もしかしたら俺がまだ見ぬ世界はこんな風ではないのかもしれないが、そんなこと言ってる場合か!

その時だった。 直感が引き出されたような感覚、ここだと何故か自然に確信がつく。 同時に目眩や吐き気、やる気や戦意が一気に何故か削がれ、体中の力が激減するような感覚に突如襲われる。 痙攣し頭痛が起こり関節など様々な部位が痛みだす。 それでも思考は、とある場所を思い浮かべていた。 まだ行ったことのない場所のはずなのに。

「て………てん、転移ぃ……っ!!」

苦しみに掻き回されながらも、なんとか転移石を起動。 俺は見知らぬ場所に移動した。 ネーウを抱きしめながら。

そして目を開くと目の前には巨大な球体の機械や、その球体に繋がれたチューブなど見知らぬ機械が何台もある場所だった。 球体の機械にはなにやら謎の紋章が刻まれていた。

「これを……壊せば、いいのか……」

「データに無い侵入者を発見。 直ちに始末します」

背後から聞こえた機械じみた声に振り返ってみると、自分の身長より3倍程大きい機械の兵士みたいなロボットがそこに立っていた。

ネーウは未だに硬直状態、時間はあまりないし、この機械ぶっ壊せば解決するだろうし、一気に片づけてやる。

「こっちはあんまり時間ねぇんだ。 一発で終わらせてやる」

無理やり先程の魔法による副作用かなにかを奥へ閉じ込めて、体を動かす。 ネーウの目の前に移動し背を向け構える。

俺は片手直剣の剣身に手を添えた。 腰を少し低くして、呼吸を整え、先程の魔力を感じる。 懐かしい記憶に一瞬浸り俺は力を込めた。

妖術が使いこなせなきゃできない技……だが今魔法を魔力を感じられる俺ならそれを成せる技。 さっきのもできたんだ。 失敗は、しない!

剣身に手を滑らせて魔力を纏わせ刃先を増やす。

そして振りかぶる。 すぐに両手で握り腕に力を更に込める。 同時に機械兵士もこちらにバズーカ砲みたいな砲口をこちらに向けエネルギーを溜め始めた。 俺の膨大な魔力を感知して、それを相殺しようとエネルギーをわざわざ時間をかけながら溜め込んでいるのか。 馬鹿な機械だぜ……!

腕を振る。 剣を振る。 球体の機械も機械兵士もネーウ以外全てを斬る勢いで。

「瞬刻式一等、千の瞬き」

本来は妖術で刃先を千に増やし斬る技。 俺はそれを魔法で魔力で補う。 その刃は、千の斬撃は千の剣筋を刻んだ。 その一筋一筋の間がとても狭く、離れて見ると少し太めの一筋に見えなくもない。 そして球体の機械も機械兵士も、その建物自体もその攻撃を喰らって無事では済まず、崩れていく。

「一等で終わりか」

俺はそんな事を呟き、すぐに片手直剣を双剣に変え鞘に戻し振り返った。

その場に座り込んでいる女の子がいた。 目からは今までよりもさらに勢いよく流れる涙が頬を濡らしていた。 彼女は両手で顔を覆い、謝罪を繰り返している。

「お兄ちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい…………」

そこにいたのは、淡い光に包まれたネーウだった。 少しづつ溶けるように消えていく彼女は、やっと俺の方を向いて、

「痛くして、ごめんね………ありがとう……」

そう微笑んだのを最後に消えてしまった。

………良かった。 救えたんだな。 俺。

安堵のあまり、俺はその場で座り込んでしまった。 残った床の上に腰を下ろし、そこで気づく。

地下への扉が、建物が半壊したことで現れたのである。

床の下、いや建物の下敷き? みたいな場所にあったのか? この扉。 なんのために? いや、まぁ隠したいものがあるからだろうけど。 まぁでも、

「敵がどこから来るか分からないし、ここどこだか分からないし、俺今疲れて転移できんし、こん中で休むかぁ」

なんて独り言を呟いて、扉を開いて中に入っていった。 鍵はかかっておらず、簡単に扉が開いた。 いつ頃からあるのだろうか。


そんな俺がいる場所が中心深部核都市エヴェン・トリディースだということをまだ知らない。

そして、その頃ザークはカインと共に奇跡を見ていた。

読んでくれてありがとうございます。

次回、兄妹はやっと本当の再会を果たす……

次も読んでくれると嬉しいです。

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