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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
74/197

騎士の帰還

楽しんでいただけると幸いです。

俺はこのあとに来るであろう通信を自動にさせメッセージを乗せた。

そして地を蹴り、目の前に迫る聖騎士に俺も迫る。

『うおおおおおぉぉぉ!!!」

「うああああああああ!!!」

ギィィィン…………

黒炎滾る黒刀と光燃える聖剣が激しくしのぎを削る。 空気が震え、大地が削れ、風が吹き荒れる。

俺はその後、片足で地を思いっきり踏み相手がいる地を直角に立てた。 だがすぐにクレイは地を蹴って俺の背後数メートルに着地し、俺の背後に向かって跳躍し襲いかかる。 真横に振られたその聖剣を、体制を低くして避ける。 そして相手の足を狙って回し蹴りをする。 それを軽く飛んで避けるクレイに向かって俺は流れるような動作で、回し蹴りの一回転をした後すぐに刀を握る。 真下から真上へ刀を素早く振り上げる。 立ち上がると同時に。

『貫け。 黒昇一線」

空高くまで伸びる俺の刀筋による一本の黒い線は天界都市まで辿り着く。 だがそれもクレイは器用に脚を使い空気を蹴って回避していた。 そして俺よりも高い位置から、剣を振り上げ俺に向かって落ちてくる。 俺が刀を振り切ったのを確認して。

「裁きの印! 聖罰の刻印!!」

そう言い罰点を描くように剣を振り俺の元へ着地。 その前に俺は避けるために後方へ飛んだ。 地には深いバツ印の穴が空いていた。

たしかロッカスの技ではこれを十字と呼び振るっていたな。

「避けるな! 罪人よ!」

『お前だって、避けてんだろーが!」

俺は台詞を言い終えると同時に地を蹴って相手との距離を詰める。 相手もやる気らしく後方にもどこにも飛ばず構えてきた。

「馬鹿だな! 正面で殺り合うと言うか! ならば見せてやる、俺の本気を!」

そう本気宣言をして聖剣を真横に構える。 右肩から横にまっすぐ伸びた腕の先の拳に握られる聖剣が少し薄く見えた。 そして……

「刻むは光による斬撃、光の連撃による幾線、千光の斬」

瞬間。 クレイの気配は俺を通り過ぎた。 目にも見えぬ速さで。 否、この姿で全力を持ってしてやっと目で追いつける程度の速さで。

『っ!?」

斬られた自覚はある。 目でそれを見ていたのだから。 だがしかし、肉体は何も感じていない。 斬られたと意識が理解していても体は疑問符を浮かべるばかりである。 そして俺は斬られた瞬間すぐに振り返る。

だが、そこにクレイの姿は捉えることができず、

サッ……

『なっ!!?」

また斬られた。 肉体に反応はない。 正常であると言っているようだ。

そしてまた、

サッ……

『くっ……!」

これを幾度となくされていき、十回目くらいでようやく俺は奴を捉えた。

どうやら奴は俺が普通の状態では捉えられぬ距離を円状に走り抜け、様々な方角、四方八方から光の速さで斬りつけているらしい。

『確かにこりゃ、攻撃も当たりづらいか。 なら」

俺はしゃがみこみ手を地につけて叫ぶ。

『黒箱」

唱えた直後、俺のいる地の一定の大きさの黒い四角形が浮かび上がり、次に四方の黒い壁、そして最後に黒い蓋を閉じ完成する。 視界はもちろん何も見えない真っ黒な状態だ。

「そんな箱に隠れようとも無駄だぞ罪人!!」

クレイはすぐに光の速さのまま箱内に転移し、箱内の壁を様々な角度で飛び回り俺に何度も攻撃を仕掛けてくる。

『見えればこっちのもんだ」

そのまま箱を貫き戦い続ければいいものを。 やはり感情任せにもなっているからか、いい判断がなかなかできないみたいだな。

まぁいい。 そっちが千の光の斬撃なら、俺は斬撃を喰らいながら黒い箱に手を着き唱える。

『まぁ逃げられちゃ困るしな。 千重黒箱」

そう唱えると箱外から何かが組み立てられる音がする。 今外では黒い箱が幾つも重なっているはずだ。

「なにをしたぁ! 貴様!」

さらに速さを上げて、さっきの倍の速さで俺を何度も何度も斬りつけ始めるクレイ。 俺はそんなクレイに溜息ひとつ、タイミングを合わせて片足に魔力を集中させ、一見誰もいないように見える目の前の空間に蹴りを入れた。 直後、タイミングが合ってクレイが黒箱の壁に激突する。

「ごはぁ!!」

激突した瞬間、すぐにクレイとの距離を詰めて相手の腹に拳をめり込ませる。 そしてすぐにその拳を抜きクレイの顔面を鷲掴みにして跳躍。 そのまま下へ放り投げる。 クレイは下の面に強く着地、その瞬間に飛び蹴りを再度腹に叩き込む。

「ぐっ……ふ……」

そして少し距離を置き着地。

『クレイ、お前は俺に勝てない。 さっきの攻撃なんてほとんどダメージを受けていない。 どれもが軽すぎるし弱すぎる。 諦めて降参しろ」

そう言うと、クレイは痛みに苦しみながら立ち上がり怒鳴った。

「降参しろだとっ!? ふざけんじゃねぇよ! 仲間が殺されてんのに諦めきれるか! 俺は……正義の味方なんだ。 聖なる騎士なのだ。 光たる私が、俺がっ!! ここで負けるわけにはいかねーんだよ!」

まるでヒーローのような台詞を吐きながら、足を震わせるクレイ。 まるで俺が悪役、でもそれが正しいのかもしれないな。

そう思い、俺は全知全能でとあることを確認した。

『………………」

「なにか言ったらどうだ! 罪人!!」

『……無知なる正義こそ、純粋な正義なのかもしれないな。 汚れを知らぬ故に、真っ直ぐな素直な気持ちを強く抱けるのかもしれない。 なぁ、クレイ・オーエント。 お前、俺達と共に戦わないか?」

その言葉を聞いてさらに激しく激昴する。

「っっ!!!? ……貴様は、ふざけているのか、いや。 ふざけているんだろうな。 じゃなきゃ、そんなありえねぇ言葉は出ねぇ! 仲間を殺した敵の仲間に入れだと!? ふざけるな!!! サチェゼンは、俺の仲間だ! 殺したのは、お前だ! そんなお前が、何も知らぬお前が、そんなふざけた言葉を吐くな! 殺してやる…………俺の命尽きようとも、必ず殺してやる!!!」

そう言って、より一層聖剣を輝かせて構えるクレイ。 まさに無知なるヒーロー。

『知らぬが仏、か」

そしてクレイ・オーエントは、きっと最後になるであろう攻撃の詠唱を始めた。

俺はそれを、待った。

クレイは目を瞑り、身体の力を抜く。 それでも刻一刻と表情だけは軋み歪んでいく。

「光、照らすは全て。 影、それは哀れな存在。 慟哭が谺響する中、聖なる騎士は吠えた。 光る手は弱き者を守り、黒き手は赤子を抱き殺す。 光と影の間で笑う少年、それを行き来する少女。 傲慢を演じる覚悟を持ち、嫌悪と隣り合わせで嘲笑え。 迷える子羊、残虐の羊飼いと共に眠る夢を見て、泣く子どもは守るべきもの。 罪は喰らい、正義は讃え、共に断頭台で朽ち果てるが運命(さだめ)ならば、この剣に意味がきっと成す。 我、クレイ・オーエント、生命を持ってこの世に留めるものを断つ。 聖光撃、断罪」

これでもかと言うほど眩しく光り輝く聖剣。 否、あれは聖光剣まで至るほどの(つるぎ)だ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」

目を見開き、高く飛び剣を振り上げる。 そのクレイの攻撃はーーーーーーーーーー

俺の片手で受け止められた。

「っ!!?」

相手の腹に蹴りを入れる。 後方斜め上に吹き飛ぶクレイに手を翳し、

『集い従え、四属ノ穿烈(せんれつ)

どこからともなく、火の水の風の土の鎖のような異形な何かが、空中に飛ばされたクレイの両肩や両膝、両足首や両手首などを貫き動きを封じ込めた。

「ぐぁぁぁぁ!!!! ………クソが! クソ野郎!! 罪人が、罪人ごときがぁぁぁ!!!」

もう立っていられない状態だと言うのに、全身震わせて持ち堪えて立っている。 聖剣を頑張って俺に向けようとしているみたいだ。 俺は刀を片手に歩いて近づく。

「来るな! く、来るんじゃねぇ! 罪人!!」

痛みで頭おかしくなるくらいのはずなのに、叫び怒鳴るクレイ。

あぁ、哀れな子羊に解放の時を。 そろそろ休む時間だよ。

刀を斜め下に持ち歩き近づく。 そして、右手を左肩前に持ってきて、刀身は左肩のすぐ横から背後へ伸びるように構える。

そして軽くでも素早く重く踏み込んで地を蹴り、静かにクレイ・オーエントを一閃。 相手の背後に流れる動作で行く。

「ぐはっ……」

そうして少量の血を吐いた瞬間、クレイは目を見開いた。

「雪………?」

きっと今、クレイの視界には雪が多く降っているのだろう。 地面は降り始めたばかりか、浅い雪の地。 それ以外の景色は、ぼやけた雪景色。

静寂の剣筋が招いたのは、白き幻想の世界。 忘却に誘われるそうになる一時の休息の瞬間。 何もかもが(まぼろし)だったなら、これ程心休むことはないだろう。 冷たさが寂しさまでもが、今のクレイにとっては安らぎに感じるのだろう。

連閃(れんせん)緤雪(せつゆき)

そして、俺は黒炎燃え盛る黒刀を鞘に収めた。

キン……

その途端、クレイの見る雪達は互いを一本の線で繋ぎ合った。 全ての雪が全ての雪と手を繋ぐみたいに、幾千もの線が繋がれていく。 それはクレイからすれば、ただの芸術作品のような美しさを持ち、現実ではその線全てが斬撃となりクレイの身体を傷つける。 斬り、貫通し、裂いて、痛ませる。 けれど、夢の中にいるクレイはそれに気づかない。 雪降る地にいるクレイは、現実に気づかない。

「あれ……寒いな……足に力が、入らないや…………」

足から崩れてその場に座り込むクレイ。 血溜まりが広がる。 傷口からはとめどなく血が溢れ出る。 口からも血が流れ出ていて、涙を流している。 声はだんだん掠れてきて、呼吸は少しづつ荒くなる一方だ。

「何故こんなにも……悲しかったのだろう。 何故こんなにも、今が気持ちいいのだろう。 俺は、疲れていたのだろうか……何かを背負って生きてきたはずなのに、何故かなにも思い出せない………」

死ぬ間際、独り言を始めるクレイ。 俺は彼の背後、背を向け立ったままそれを聞いていた。

「俺は、たしか………そう、たしかかっこいい人間に、なりたかった。 守りたいものが守れる最高のなにかに。 いつからだったかな……あんな熱い想いを、持ったのは。 たしか、母さんと父さんが遠い場所に行って、帰ってこなくて、虐められて………それで、それで……」

クレイの涙が勢いを強め、流れ出る血と混じり合う。 クレイの掠れた声だけが、黒い箱の中響き渡る。

そして、なにかが消えた。

「それで……ディア、お嬢様……のために………戦っ、て………」

『っ……!?」

息を飲んだ。 まさか、ここでディアの名前を聞くことになるとは……

「あれ? 思い出せない………サチェゼンは、仲間……大切な、仲間…………それは全て、お嬢の、ため…………なのに、なんで、お嬢が………敵?」

震えるクレイは、なにもない空間へ手を伸ばす。

「雪よ、教えてくれ………俺は、間違っているのだろうか? お嬢様が何故敵に? ………答えてくれ。 あんな目に合った……お嬢様に敵対、していた、なんて………………」

そこでクレイは我に帰った。 常人ならば幻想の中で息を引きとるはずなのに。 出血の量から、死んでいるはずなのに。 クレイはついに、やっと我に帰り嘆いた。

「私は、私はっ…………なんてことおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

掠れていた声に熱が篭もる。 叫び声は箱の中、谺響する。

「あぁ! ああ!! なんてことをしてしまったのだ! よもや、あの御方に剣を向けるなど、敵対するなど!! 馬鹿者だ私は! この愚か者! なにが正義か! なにが聖騎士か! ふざけるなクレイ・オーエント! 守るべき主に、剣を向けるなど言語道断であるぞ! あぁあぁあぁあぁぁぁぁぁ!!!! ディア様が、まだあんなにも、頑張って生きて、生きて………生きておるのだぞぉぉぉぉ!!! それなのに、騎士である私は、私の口はなにをほざいたぁ!? この口は、この口はぁ!」

自分の血溜まりを叩き、涙を零し嘆くクレイ。 俺はその言葉ひとつひとつを背で聞いた。

「…………………そこの男よ」

俺は振り返る。 傷と涙と血でぐちゃぐちゃなクレイが俺を見ていた。 俺を男呼ばわりとは……まだクレイは幻想の中なのかもしれない。

「ディア様にもし会ったら伝えてくれ。 申し訳ございません、と。 それと、どうか短い時間でもいいから殿下を守ってほしい」

『……あぁ、分かった」

そう言うとクレイは満足気だけど、どこか寂しそうな感情と後悔の念を宿した複雑な表情をして、笑った。 そして上を見上げ、

「あ、雪が止んだ…………私は、もういくよ」

俺を見てそう言い、目をゆっくり閉じる。

「すまなかったな。 さらばだ、カイン・アヴィエール」

……なんだ、幻想と現実の狭間にいたってわけか。

そして静かに、かつて王女に仕えたであろう聖なる騎士クレイ・オーエントはその生涯に幕閉じた。

あんたは、どんな時でも自分の正義を信じて貫き通したんだな。 たとえ違う自分でも、もちろん昔の自分でも、正義ってものを自分の中に燃えたぎらせていた。 とても素晴らしい人だな。

そして、それらを犯した情報屋は……

『ありがとうクレイ。 お前のおかげで、やっと分かった。 情報屋の、レバニーのことが。 そして………やはり、サチェゼンも………」

サチェゼンもクレイ・オーエントも、レバニー・バンムッチに殺された。 ならば、元から今回の目的は2人の処分? いや、それなら総出で見守る必要はないだろうし。 と、なると………

『まぁ、本人達に聞けば分かるか……」

そう呟き、指を鳴らす。 すると黒箱は溶けるように消えた。 そして視界が開けたそこにいたのは、見守っていた残りの情報屋11人と、気絶させられ倒れているディアの姿。

いや、もうひとり。

「やぁ、どうも」

レバニー・バンムッチがいた。

一度死んで蘇った男。 俺の全知全能でディアに倒され死んだことは確認済み、だがしかし……

『情報屋、決着つけようか。 俺対お前ら全員で。 あ、いや間違えた。 5人だっけか?」

目の前にいる情報屋、否、とある奴を俺の目は捉えていた。

全知全能で見たから、知ったからこそ断言できる、敵を。

読んでくれてありがとうございます。

次回、守護者との戦いは決着へ……

次も読んでくれたら嬉しいです。

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