表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
73/197

涙の理由

楽しんでいただけると幸いです。

時は遡り、ディア・シュミーヌ対レバニー・バンムッチ。


ディアside……


いきなり目の前に謎の男が現れる。 そしてその男はすぐさま跪き、挑発を込めた笑みで話しかけてきた。

「これはこれは、元とは言え王女様ではありませんかぁ。 お初にお目にかかります、我ら情報屋で守護者をしております、レバニー・バンムッチという者です。 以後お見知りおきを………と言っても、まぁ今日があんたの命日であり、知っていなくても構いませんがねぇ」

そう言い笑うレバニーという男。 私はすぐにカインの話を思い出し戦闘態勢に入る。

「おうおう、怖いねぇ。 まぁでもやる気があるのはいいことだな。 でもさぁ、俺不利だと思うんだよなぁ。 たぶんそっちに俺の情報少なからずいってんだろ? レバニー・バンムッチっていう名前の前になんて言葉が付いてたんだっけ? 謎の商人だぞ? ってことは、そう! 俺は戦闘向きじゃあないってこと。 そんな俺に王女様は本気で命を奪いに来るのかぃ? そこをどうかお慈悲をぉ」

そんなことを話す敵に、私は一瞬身構える力を緩めようとしてしまいそうになる。 元王女として民に対する態度に、私は葛藤を微かに起こしていた。 王女というほどのことをした記憶は無いけれど。

そんな私など構わずに、レバニーはさらに言葉を続ける。

「そうだそうだ。 交渉なんてどうだい? 戦闘なんて物騒なもん俺は好きじゃねぇから、ここは話し合いという一番平和的戦いをしようじゃないか。 自分のこれからや今後の利益のために言葉を巧みに使う駆け引き、あんたも元でも王女ならそういう場面くらい見たことはあるだろう? それやろう、それ。 だからなぁ、その後ろにいるどでけぇ騎士みてぇな化け物しまってくれよ」

「……………」

私は何も言えずにただただ身構え続けた。 もちろん背後の化身は消さないし、ずっと相手を警戒している。 こっちから攻撃を仕掛ける気はないが、いつでも反撃できるよう細心の注意を払って敵の言葉に耳を傾けた。

(だんま)りか。 まぁいいや、攻撃して来ないあたり話を聞く気は無いわけでもないらしいしな。 勝手に話は進めちゃいますよぉ?」

そう言って、さらに口元を歪ませ私を見るレバニー。 私はどこか聞いてはいけないような気がしていた。 それでも慎重に戦うことを口実に、なにかをしてくるまでは話を聞く姿勢を保った。

聞いちゃいけない気がするけど、聞きたい。 そんな複雑な気持ちを抱えながらレバニーを軽く睨み返す。

「おう怖い怖い。 じゃあまず、単刀直入に言います。 俺ら情報屋を狙うのはもうやめてくれませんかい。 なに、情報が欲しけりゃ渡しますよ。 まぁもちろん全部の要望を叶えるって言うわけじゃないですがね。 いくつかなら渡せるもんがあるかもしれません。 んで、提供できる情報っていうのは、まぁ押し付けみたいになるんですけど、もう言っちゃいますね? まず、天界都市の王家の女王殺害事件につい」

その時、私は無意識に化身の騎士の剣先を、奴の首あたりに突き出していた。

「………そういうの、なんて言うか分かる? 墓穴を掘るって言うのよ」

だが、奴は剣を向けられていても表情を一切変えずに喋り続ける。

「おっと、これはタブーでしたか。 でもさぁ王女様、知りたいでしょ? 俺達はなんでも知ってるぜ? 天界都市、ダーク・サイド、核都市、機械街、多量の情報を持つ俺らは過去の出来事も調べたりしているから、結構知ってんだぜ? だからもちろん、あんたのじ」

瞬時に私はレバニーの真横すれすれに剣を地へ突き立てる。 私が今どのような顔をしているのか、全く分からない。 それでも奴は表情を変えない。

「知っておるのだな? ならば話は早い」

そう言い、怒りを込めた声色と元王女の威厳を込めて、化身の騎士の顔をレバニーに近づかせて、これでもかと私は奴を見下し睨み、言う。

「骨すら残さず貴様ら全員、殺し滅ぼせばいいだけの話ではないか?」

「……やるかい?」

そう言ってレバニーは軽く後方へ飛び、しゃがみこんで人差し指でトンと地を叩く。 すると足下に魔力の気配を感じ、咄嗟に真上へ飛ぶ。 直後、私がいた場所の地が一定の範囲で真上に突き出た。

「くっ……」

「おぉ飛んだ飛んだぁ。 で、どうです? 取引成立にはなりませんかい」

「こんなものっ……」

私は腕を振り上げる。 同時に化身の騎士の剣も振り上げられる。

「破綻に決まってるだろう!」

腕を勢いよく下ろす。 直後騎士の剣が勢いよく振り下ろされる。 その迫る剣にレバニーは、

ピタッ……

人差し指を剣に突き立てて止めた。

「っ!!?」

「残念だなぁ。 まぁ確かに? どの情報も渡す気はないし、あぁいう相手個人が特に知りたがる情報の尻尾出して、先に手を出させるのが俺の目的だからな。 まぁ今それが達成されて俺は戦えるんだけど」

そう言って剣に指を弾かせると、軽く騎士が私の元まで吹き飛ぶ。

「まさか貴様……魔錠者(まじょうしゃ)か!?」

魔錠者、それは一切魔法が使えぬ者を指す。 原因がまだ解明されていないそれは、だがとある条件を満たせば内なる強力な本来の力を発揮することができるようになる。 条件は人それぞれであり、十数人しか世界にいないとされている。 しかも、決まって魔錠者は特殊な能力を持っていることが多く、国王直属組織や騎士部隊独断でも引き入れようと探すくらいだ。 そして捕まった魔錠者達は大体いい余生は過ごせず、実験体や無慈悲な殺し合いなどに利用される。

「…………ククク、あはははははは!! こりゃ傑作だ! さすがは元王女様だねぇ。 魔錠者、あぁ確かに俺は魔錠者だ。 まぁでもさ、分かったところで何の進歩も無いよね? 理解できたからと言ってさ、俺に勝てるわけないんだし」

驚愕に顔を染めた後、打って変わって笑いが溢れレバニーは上機嫌で言葉を続ける。

「ってか元王女様も馬鹿だよねぇ。 いやさぁ? 会ったら言いたかったんだよ。 お前の両親もほんっとにさ、愚かと言うか哀れというか。 まぁ可哀想だけどさぁ、玉座に近しいお前らがなにやってんだよって思ったよ。 そしてその命ふたつもなくした後もお前ときたら……愚かだよ。 お仲間さん大事にしなきゃいけないのにね。 また独りになりたいのかな王女様。 どうやったらそんな思考ができるんだよ。 教えてくれよ、いったいどう思ってんですかぃ?」

洪水のごとく敵の口から溢れ出す言葉に、私の頭の中では様々な感情が混濁し嵐のようにめちゃくちゃに駆け巡り回っていた。

「…………………」

「あれれ? また黙り? あはは、メンタル弱いなぁ。 んじゃあ死んじゃえよ」

そう言い終えると同時に転移で私の眼前に迫る。 だが、私は一切反応ができず頭ん中で回る感情にまだ心はパニクっていた。 真正面からレバニーの拳が腹に喰い込む。

「でももう死体みたいなもんかなっ!」

そのまま私は後方へ吹き飛ばされる。 それをつまらなそうに笑いながら、レバニーは私に手を翳し言った。

「じゃああっちに行く前に教えてやるよ。 俺のーーーーーーーーー」

その声は、ぐちゃぐちゃな頭の中に微かに届いた。

届いた瞬間。

全力でそれを脳で理解し、記憶力をフル稼働させて。 どんなに愚かな行為だとしても、王女に似合わぬ行為だとどこまでも理解しているとしても、私に巨大な目標が再び心に刻まれた。

今までもずっと似たようなことをしてきたんだ。 今更なんだってのよ。 畜生!

「おい………」

「ん?」

体制を整えて、腕を上げ手のひら天に向け掲げる。 そしてそこから黄緑色の光の光線が天に放たれる。

「させるかよ。 重力操作」

レバニーが唱えた直後、掲げていない方の片手を横に振り唱える。

「無効!」

即効でレバニーの発動した重力操作を無効化する。

「なに?!」

そして私は流れるように、掲げていた右手を胸辺りに持ってきて、勢いよく右斜め下へ振る。 するといつの間にかそこには光だけでできた剣が握られていた。

「それを知らずにいたら私は私の罪に押し潰され、今死ぬことを受け入れていたわ。 でも、知ってしまった。 止まれない理由ができた。 だから、貴様を……ぶっ、倒、して! 私は、生きる!! その真相を知るまで! この世界を、平和にするまで!」

涙が込み上げてきた。 それでも、構わず叫ぶ。 噛み締めるように、叫ぶ。

「だから、貴様にはここで消えてもらうぞ!!」

「おぉ?」

なにか試すような表情で笑うレバニー。 まだ自分が優位に立っていると思っているらしいな。

「なら、やってみなよ。 俺は消えないし死なない。 負けない、勝たせない。 さぁ、どっちが賢いか勝負といこうか」

そう言って両手を私に翳すレバニー。 私も黄緑色の光でできた剣を両手で持ち振りかざす。

「呪縛からの解放、半永久の檻から今解き放つは、重き荷を背負いし愚かな人形。 王の前でもがき苦しみ、地を這いつくばり吐いた血の色を未だに拭えず、汗と涙を吸って花を咲かせた後悔の花は今枯れ果てる。 今こそ雨と共に散れ、放解の導き」

相手の手のひらから放たれる高エネルギーの光線に、私は前を向いたまま後方斜め上に飛んで唱える。 王の血を引く者しか使えぬ、代々受け継がれてきた技のひとつを。

「刮目せよ。 平和に溺れた国であれ、崩壊に進む国であれ、滅びきった国であれ。 絶望を背負い立ち上がる我こそ王なり。 戦いの旗を振りかざせ、歩み進めること恐るるな、神が見捨てようとも我ここに在り。 民の慟哭、焼けた野原、戦士の墓。 迫るは無慈悲な支配。 全てをこの剣で斬る。 平和取り戻すまで。 王斬、世颯(せさつ)一閃」

転移してレバニーの目の前に移動する。 縦に振り上げた剣は、レバニー近づくと共にその場で一回転して真横に構える。 そして、斬る。

その瞬間、私の剣筋は光となり世界に一瞬よりも短い一瞬、一本の長く細い光の線を横に描いた。 またいつか世界に平和が、今の世界の飲み込むほどの勢いで巻き起こるような、平和が絶望の日々を飲み込む、なんて願いが込められた古き王の必殺技。

「ぐはぁ…………これでまた……」

そして斬られたレバニーの表情を見て私は恐怖を抱いた。

「お仲間ひとり殺しちゃったなぁ……?」

笑っていた。

地に落ちた奴の屍は口を開いた。

「サチェゼン……聞き覚えないのかぁ? あははははははは」

そう言って絶命するレバニー。 そして、その時私は。 まだ仮説に過ぎないが、レバニーの魔錠者特有の特殊能力を予想。 そして震え上がる。 恐怖と悲しみに、心も体も。

「まさか……」

その時、私は思った。

もう嫌だ。 と。

たった今、決意表明のようなことをしておきながら、こんなことを思ってしまう自分に苛立ちが湧く。 それでも、想いは止まらない。

どうか、夢であってくれ。 どうか早く、目よ覚めてくれ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!

「もう…………」

涙が止まることを知らないように、溢れ流れ落ちていく。

その時、カインの方から光が指す。

その戦いを見て思う。

もうやめてくれ。 もうやめないか。 どうして戦うんだ。

「死は……」

幸せなことじゃない。 悲しいことだから。


誰よりも誰かの死を恐れた元王女様は、少しづつ近づいている真相への道の中、ボロボロの傷で、何度目かの涙を流し、進むのを拒んでしまう。 それでも止まれぬ足は、それでもどこか諦めきれない心は、無慈悲にも無意識にゴールを目指し進む。 たとえ目指すゴールが、もうスタートした瞬間に過ぎていたとしても。

今一度、向き合わなきゃいけないのだと彼女の全てが彼女に訴えるのだ。

読んでくれてありがとうございます。

次回、カイン対クレイ。

次も読んでくれると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ