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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
72/197

先生、本気出す

楽しんでいただけると幸いです。

『先生! あいつが虐めてきたんだ! やり返す術を俺にも教えてくれよ!』

『先生ぇ……私やっぱりできないよぉ…………だから、あのね? 先生と……』

『先生、ここが分からなのですが、この状態からどうすればいいのでしょうか?』

『先生先生! また手合わせしようよ! 今度は絶対勝てるやつ覚えたからさ!』

『先生……また怪我しちまったから、さ。 あの、保健室まで連れてってくんねぇか』

『先生! 聞きましたわよっ! お金なら私がお小遣いから出してあげますわ、ですから! さぁ私と結婚を! を!』

『今日こそあの技教えてくれよ先生。 俺ぁ早く強くなってあいつらに復讐してやるんだ……』

『先生、これ廊下に落ちてたよー?』

『先生、この資料についてなんですが……』

『先生、どうですか! このポーズ! ふんっ、ふんっ! どう? かっこいいでしょ!?』

『先生ぇぇ、また机壊しちゃったぁぁ、どうしようぅぅ!!』

『ひぐっ……ぐす……先生、またフラれた……』

先生! 先生! 先生! 先生!

無数に等しい生徒達の声は、走馬灯の中思い出される。 懐かしい日々が、思い出したくもない日々が、濁流のように頭の中を駆け巡り、目頭は静かに熱くなる。 そしてそれは、一瞬の息苦しさと一回の瞬き、愛おしい皆の顔を思い出し、心の中で一粒だけ涙を零す。

その後にやって来るのは、過去のとある記憶が映像のように脳内で再生される。


自分の手を見下ろして、汚れた手を見つめて、嘆いた。 視界は歪み、雨がより一層俺に強く当たるような感覚に襲われる。 喉がおかしくなるほどに叫び、目はこれでもかと見開いて、全力で瞑ったりした。 地を叩く手、次に額を地に何度も叩きつける。 それでも完全には壊れぬ身体に対して苛立ち、立ち上がり全力で走った。 目的地なんてあるわけもなく、足が動くがままに呼吸荒く脳内はめちゃくちゃになりながらも走った。


今となっては、全てが過去であり。 変えられない、変えてはいけない時間。

そんな思考を黒刀に変わった刀を握り直すと同時に巡らした。 この刀を再び振る覚悟を決めるために。

この場にいる誰もが関係ないことだけど、俺はそれでもその想いを抱えて敵に刀を向ける。

『この罪、お前らに受け止め切れるか?」

「は? お前何を言って」

転移。

視界が切り替わる。 眼前には3人の情報屋の守護者。

即座に謎の商人レバニー・バンムッチへ、斜め下から刀を振る。

ギィィン……

「おいおい、何故これを狙う? 剣士ならば剣士を狙えよ、罪ありし悪よ」

刀と聖剣がしのぎを削る。 そんな中、クレイの背後でレバニーは呑気に口を開く。

「いや、これなんて言うなよ。 俺生き物よ? 物扱いですか? クレイは俺が物に見えるのかぁ?」

「はっはっはっ! 逆に聞くが物じゃなかったのかい!」

そう言って俺を押しのける。 一瞬後ずさるが、俺はすぐにその場で一回転しながらクレイに近づき、真横に首めがけて刀を振る。 だがそれも聖剣に阻まれる。 だが、聖剣と刀がしのぎを削った瞬間、俺は柄から手を離す。

「んっ!?」

『重力操作」

唱えた瞬間、手を離して落ちるはずの刀が落ちずにその場に留まった。 さらに重力を上げ、少しづつ聖剣を押していく。

その間に、こっちに向かって来るディアに向かおうとするレバニーとサチェゼンに飛び蹴りをする。 が、すぐに避けられてしまう。

「レバニー、こいつは俺が殺る。 クレイもあの状態だしな。 お前はあっちの王女様を相手しろ」

「はいはい、了解ですよ」

そう言ってレバニーはディアの元へ転移する。 こいつらでもこの距離を転移できるとなると、やはりディアはあの化身を出している状態だと転移距離が限られてしまうようだな。 まだこっちに着いていないのを見るあたり、俺はそう予測することにした。

『まぁ狙い通りだな」

「二対一で笑みを零すか」

サチェゼンはそう台詞を言い終えると同時に、俺の顔面目掛けて蹴りを突くように放つ。 盲目でも気配で狙いを定めるのか。 やはり、強いな。 だが……

俺はそれを頭を低く、体制を下げて避ける。 そしてすぐに蹴りが引っ込めるよりも早くに相手の膝と足首をがっしりと持ち、全知全能で両手に吸着力を発生させる。 その瞬間、サチェゼンの表情が一瞬曇る。

『ふんっ!!」

そのまま俺は相手のすねに膝蹴りを食らわせる。 直後、全知能力で相手の脚を透視、打撃の衝撃を操り一点に集中させ骨を砕く。

「ぐあぁ!!」

そして地に足を着けたと同時に、相手の脚を離さずにハンマー投げのように空へ投げ飛ばす。 その時、

グサッ……

俺の足元に刀が突き刺さる。

「ぜぇ、ぜぇ………重ぇなぁ、それぇ!」

そう言って、クレイが転移で俺の眼前に現れる。 同時に俺は刀の柄を握り、現れたクレイに斜め下から斬りあげた。 だがその攻撃をクレイは片足で受け止め、俺の顎辺りに聖剣を突き出す。 俺は間一髪、腰を反らせ回避。 そして刀を真逆へ振りその場で一回転し、後方へ移動。 相手へ正面を向けた瞬間に地を蹴り、刀を頭上に掲げながら相手との距離を詰める。 斜めに刀を振るが、身体の向きを変えそれを避けられる。 だが、俺は振り切らず、燕返しのイメージで相手の腹辺りの高さで勢いを殺し、回避した相手目掛けて真横に刀を振る。

「っ!?」

慌てながらもクレイは聖剣で間一髪防ぐが、勢いには逆らえず後方へ軽く吹き飛んだ。 俺は即座に真逆に刀を振りその場で一回転し、刀身に魔力を宿らせる。 そのまま振って、相手に斬撃の弾を放った。

『斬撃弾」

「くっ……こんなもん俺には」

すぐに体制を整えて構えるクレイに俺は得意気に聞いた。

『効かねぇってか? でもそれは、ただの斬撃弾じゃねぇぞ」

クレイが俺の放った斬撃弾を聖剣で防ごうとするが、斬撃弾は聖剣をすり抜けた。

「んなぁ!?」

『それは身体に着弾するまでなんでも通す性能付きだ」

そして斬撃弾はクレイの肌に触れ爆発を起こす。

「ぐぁぁ……」

『爆破はおまけだ」

その時、背後に何かが着地する。

ボゴォ……

「次は私とやりましょう」

そこにはサチェゼンがいた。 折れたはずの骨は完治している。

引力操作で軽く宇宙まで飛ばしたと思ったんだが、案外飛ばなかったらしいな。

「いいや、俺だ。 俺がやる」

爆煙からは少し光が灯ったような聖剣を担ぐクレイが笑いながら出てくる。

「小手調べはもういいだろ。 今宵の裁き斬る者は決まった」

「そうか。 ならば私は最後まで敵と戦おう」

最後?

バッ……

『っ!」

眼前にサチェゼンが現れる。 その瞬間、サチェゼンは俺を真上へ蹴り上げる。 俺は蹴りを刀で防ぐが、相当高い高さまで飛ばされた。 そして空中、俺は頭上に気配を感じ咄嗟に身体をひねって刀を真上に振る。 すると予想通り頭上にいたサチェゼンの姿は透けて消えてしまった。

「ほぉ、それに気づくとはなかなか……だがそれは、残像だ」

いつの間にか目の前にいた本物らしきサチェゼンに腹に正拳突きを受け、斜め下へ落下し地に受け身が上手くとれず着地する。 地が削れ転がる俺の体を止めようと、なんとか刀を地に指し勢いを殺した。

なんて威力だ。 受け身がとれねぇほど速い拳……

そんな思考を巡らせた直後、斜め上にサチェゼンが現れる。 足の振り上げを見る限り額に蹴りを入れるつもりらしい。 だが、次は防いで……

『っ!? やられた!」

刀に何重も重力操作を既にかけられてしまい、刀が抜けない。

『とでも思ったかぁ!!」

「……っ!」

ボコォッ……!

刀の型をした土の塊を引っこ抜く。 刀が抜けないのなら、地面の一分ごと魔力で一塊にして抜けばいい。

それに……この程度じゃあこれは抑えられない。

驚きと焦りに空中で体制を崩したサチェゼンの一瞬の隙を見て俺は唱え放つ。

『全知全能、風神よ雷神よ、我を纏い我に従え。 疾風迅雷の(まい)

様々な方向からサチェゼンを斬りつける。 同時に圧縮された空気が風となり斬撃となりてサチェゼンを切り裂いていく。 同時に、高電圧の雷が走り抜けサチェゼンのいたる場所を貫通していく。 それらはまるで嵐のように舞いサチェゼンに襲い掛かった。

「ぐっ……」

そして嵐が止んだその瞬間。

俺はサチェゼンとの距離を詰めて、胸の真ん中、溝に目掛けて。 柄頭を思いっきり、だけど静かに強く、打撃する。 そして突き飛ばすのではなく、打撃を、衝撃を与え、止める。

撃砕(げきすい)胸陣(きょうじん)骨寂(こつじゃく)。 散り粉となれ、風と共に。 行き先は万里の地」

それは静寂の中、骨の鳴く声。 崩れ砕け散る音。 それをサチェゼンは心地よく聞いていた。

胸骨が砕かれ、衝撃が渡り肋軟骨が砕かれ、最後に肋骨に広がって砕かれていく。 最終的には全体の骨が砕かれるだろう。 だが、これでいい。

『サチェゼン、お前。 もう死んでるだろ」

すると、サチェゼンからなにかが消えた。

「………………ありがとうございます。 ずっとお礼が言いたかった。 貴方達のおかげなんだ」

『なんのことだ」

「私は核都市で不治の病にかかっていた者です。 貴方達のお仲間のおかげで私は今日まで生き延びれた。 先程残像と言いましたが、私こそ残像のようなものです。 執念で生きている霊のようなもの。 だが、もう身体は限界。 私はこれでやっと向こうに行けます。 お時間が無いがために一方的で申し訳ありません」

『ま、待て! 核都市……あの戦いは十数年前のことだぞ!? ならそれから今までは」

「あぁそうだ。 ディア様をよろしくお願いします」

『え、いや人の話を」

「私はあの人の仲間です。 私達が最後の生き残り」

『おい、あの人って……」

そしてサチェゼンは俺に教えてくれた。 その名を。

きっと知っていたんだろう。 だから、俺に教えてくれたんだろう。

「それから、ディア様にどうかお伝えください。 戻れなくてすまないと。 あの御方も悔やんでいたと。 あと、どうか……どうか幸せに」

そこでサチェゼンは死んだ。 風に吹かれて消えた。 消えてしまった。

大きな、大きな手掛かりを残して。

『そうか……そうか……そうだった、のか…………!!!」

堪えろ。 今は目の前の戦いに集中しろ。 堪えろ! 今は、まだ……!

そう強く自分に言い聞かせながらも、俺の視線は向こうで戦っているひとりの少女に向けられた。

その時だった。

強い強い光が背後で鳴り響く。 一瞬全てを照らしたその光は、一本の聖剣から放たれていた。

「おい」

振り返ると、そこには。 鬼の形相をしたクレイ・オーエントがいた。 そしてクレイは勢いよく息を吸い込み、

「よくもぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! サチェゼンをぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

唸る。 空気も大地も、クレイと共に唸っているように聞こえた。

仲間を殺された怒りは頂点を遥かに凌駕し、殺意が爆発していた。

だが、それは。 お前だけじゃ、ないんだよ。

だんだん繋がってきた。

俺はこのダーク・サイドで調査対象の内、その中で特に重要なものがあった。 闇の雪、核都市について、改造のことなどいくつかある。 その中に、不可解なとある出来事についての真相も追っていた。

今、ようやく一番手掛かりが無かったそれへの糸口を見つけた。 見つけた、が。 随分と、悲しいじゃねぇか。 俺の悪い癖なんだ。 ある程度分かれば全知全能をフルで使えば大抵は予想の上だけど理解がつく。 その予想はほぼ百パーセントと言っていいほどの確率で当たる。 現にそうだ。 だから、悲しい。 悲しいんだ。

『おい……」

「ぁあ?」

『用が増えちまったよ……」

「なにがだよ、罪人っ!!」

『情報、寄越せよ。 悲劇の連鎖、断ち切りたいんだ。 もう泣かないでほしいんだよ。 もう苦しまないでほしいんだ」

そう言うと、クレイは激昴する。

「なんだと!? ふざんけなぁ! 人様の大切な仲間殺しといて、どの口が言うんだ!!」

その激昴を見て、俺も叫びたくなる。 衝動に駆られ、俺は魔法通信全開で全情報屋に向け叫ぶ。

『ごちゃごちゃうるせぇよ。 いいから黙って寄越せよ! 理想的な平和ってやつへの手掛かりをよぉ!! 寄越さねぇってんなら、てめぇら全員叩き潰してでも奪い取ってやる!! 情報奪ってハッピーエンドに近づくんなら、俺は全力でいくぞ。 覚悟しろよ?」

これから神が降臨するんだからな。 先生という名の。

何故俺がここまで激昴しているのかって? 簡単な話だ。 見ちまったんだよ。 見てしまったんだ。 そこにいたからだ。 非道的改造を行うクズを。 あの名前を聞いて、全知全能をフルに使って見えたのは、とある過去。 分からなかった部分が繋がった。 これが点と点が繋がったってやつか。

『うちの生徒をよくもやってくれたなぁ。 誰に喧嘩を売ったのか、てめぇら………後悔するぞ」

そして解き放つ。 今出せる本当の全力の全知全能。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォ………………

俺のすぐ背後に魔法陣を展開させる。 巨大な魔法陣。 下手すれば、天界都市に届くくらいの大きさの。 その魔法陣は無数の魔法陣を大小分けて歯車のように組み合わさっている。 そして中心から紅色の秒針が二本。 それは巨大な時計、神の時計。 黒刀の峰からは黒い暗黒の炎が靡く。 髪が紅色と黒より黒い漆黒が混ざり合い、頭からドス黒い色をした角が二本生える。 斜め後頭部にも頭より少し大きめの歯車状の魔法陣が展開される。 そして、左背から紅色から紫色へのグラデーションがかった片翼が姿を現す。 そして左脚にはいつの間にか錆びた紅色と銀色が混じった鎖が巻きついていた。 その後、両肩から両拳までが真っ黒に染まる。 最後に左目が、結膜が紅色に染まり瞳が白色と黒色の混濁した色へと変わる。

『全知全能、神ノ解放。 能力限界突破、人界進化、黒刀極獄炎、全発動」

なんでこんなにブチ切れてるかって? なぁに簡単な話だ。

生徒の件も勿論そうだが、『今』に目を向ければ理由なんてそこにある単純なこと。

ディアが、ひとりの女の子が泣いているから。

あぁ。

知らなきゃ良かった、なんて。 こんな能力なけりゃあ良かった、なんて。

思わない。

『さぁ、またまた、先生。 頑張っちゃうぞぉ」

ボソリと呟き、俺は地を蹴った。

読んでくれてありがとうございます。

あの日の彼が帰ってきた。

次回、時遡り。 ディア対レバニー。

次も読んでくれると嬉しいです。

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