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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
71/197

今一度、染まれ

楽しんでいただけると幸いです。

カインside……


『さぁ、作戦開始だ!』

通信内でエルトがそう叫ぶ。

俺はそんな台詞に懐かしさを感じていた。 目頭が熱くなる。

あの時が思い浮かぶ。 あの戦いが……

「よし、私らも行くぞ! カイン」

「あぁ、そうだな」

もう、繰り返さないためにも俺はまだ戦い続けなければいけない。 あの戦いはまだ終わってはいない。 改造はまだ続いている。

目の前にそびえ立つ無名軍(仮名)のアジトらしき建物。 ガラクタで作られた不格好な城のような建物からは人気が感じられない。

留守かな? まぁいいや。

「ディアはちょっとここで待っていてくれ」

「え、カイン。 何か思いついたことでも」

「転移」

俺はディアが話し終えるのを待たずにその城のような建物の頭上に移動する。 視界の端ではプンスカと怒るディアの姿が見える。

「あぁ懐かしいなぁ」

右手を天に掲げ、俺は唱え始める。 あの時のように。

「全知よ、最強は我なり」

あの時と違うのは、テンションがとても静かなことだ。 あの時の俺はさながらヒーローのような気分だった。 止まることを知らない戦士のような。

「世界は思うままにそこに在る。 今こそ力を示す時」

右手に収束し始める得体の知れない見えぬ力。

「地上に建つ愚かな箱、我はただ平地へと戻すのみ。 崩れ去れ、罪を重ねし下界の山」

唱え終えると同時に右手を真下へ振る。 城に向けて。

瞬間。

右手から何かが発射されたかのように空間がねじ曲がり城に落ちた。 城は軋み壊れ崩れていく。 それらを中心に周囲の敵のアジトらしき建物も軋み壊れていく。 土埃は起きず、壊したいものだけを軋ませ壊す。

「なーっ!? なんだこれぇ!?」

ディアが叫ぶ声が聞こえる。 俺はそんなディアの元へすぐに転移し、人差し指を口の前に立てて「しーっ」と静かにするよう促す。

「自分達の城が崩れたと知ったら敵は必ず攻めてくるだろうから、ここで全部撃つ。 まず敵側は俺達を逃がさないように周りを囲うはずだ。 近接型だし徐々に距離を詰めるか、一斉に襲いかかるか」

そう話すとディアが慌てた様子で口を開く。

「ちょちょちょ、ちょっと待て! 囲まれる!? 全部倒す!? はぁ!? なにしちゃったのカイン! 策でもあるのかと思ってたのに、絶対絶命じゃん!」

「でもこれが一番いいんだよ。 勢力広げてる無名軍を叩くとなると一箇所に集めて、一気に叩いた方が何かと楽なんだよ」

「へーそうなんだー。 納得できないんだけどっ! 多勢に無勢! 四方八方敵だらけ! 背を預けられるのはひとりだけ! 相手は本部壊され大激怒! しかも逃げられない、時間ない、もうヤケクソだぁぁぁ!!!」

ひとりで絶望し吹っ切れるディア。 まぁ全部仰る通りですが。

十数人の敵兵を下敷きに崩れた城。 悲鳴も許さぬ破壊の跡の前でふたり話していると、大勢の気配を感じ取った。

来たか。

「え! 早くない!?」

「それだけ団結力が凄いのか、統率者が優秀なのか……それとも俺の伝え方が良かったのか……」

「え? 呼んだってこと?」

「まぁ簡単に言うとそういうことだね。 この場に全員呼んだってこと」

「…………」

「……無言で睨まないでほしいかな」

そう言いながら俺は手元に魔法陣を展開させ、手を突っ込み刀を抜く。

多少苛立ちながらディアは刀に興味を示す。

「珍しい武器ね。 古代の武器に似てるわ」

まるで苛立ちを忘れようとするみたいに、顔を顰めながら刀をまじまじと見る。

「あのぉ、そろそろ敵さん来ますよ?」

ゴゴゴゴゴゴォ…………

空気が、揺れる。 大地から音が沸くように、足音は近づいてくる。 その上には巨大な圧、続いて怒号のような雄叫び。 どこを見渡しても、敵が徐々に押し寄せている。

こんなにも人がいたとは。 どれだけ勢力を伸ばしているんだ。

「こんなにいるの……? カイン、こんな人数よく呼べたわね」

「……この日のために先週からずっと駆け回ってたからね。 誘導大変だったなぁ」

先週から俺は城付近に全員集結させるために、ダーク・サイド中を駆け回っていた。 まぁほとんど全知を使いまくったんだけど……

「まぁとりあえず。 全知よ、敵を示せ」

俺は敵を見据えて戦力を知る。

「そうか……」

「そうかって、なにがよ」

無名軍に所属している人数より倍ダーク・サイドに人がいるとして、その倍の人数の方に多く冤罪人がいるとするのならば、天界都市は随分と掟に囚われているようだな。

「なにか分かったような顔ね」

少しづつ迫る敵を前に、普通に喋りかけるディア。 どうやら落ち着いてはいるようだ。

「あぁ分かったよ。 敵の数、総数約4万人。 全員近接系の武器を所持している。 剣をはじめ棍棒、短剣、斧、鎚、槍。 盾や銃はいなさそうだ。 大体皆ガタイが良い。 女性はひとりも見られないあたり、男だけで構成されているみたいだ。 きっと女性を下に見ているんだろうな、きっと」

そして俺の最近の偵察によると、こいつらは鍛錬して攻めて食料奪って食ってを繰り返している奴らだ。 そのせいか勢力はぐんぐん伸びている。 仲間も戦力重視で引き入れる感じだろう。

こういう組織は団結力が固い。 中から潰しにかかると必ずどこかで失敗してしまうし、成功したらしたで復讐は今この状況のような感じになるだろう。

「まぁ今そんなこと考えたって遅いけどね」

構える。

「殿下、俺が一発でかいの撃ち込むんで、そしたら好きに暴れてください」

「うむ」

ディアはそう短く返事して、右手のひらを上に向け軽く前に出す。 まるでなにかを片手で受け取るように、自分の腹の前に手を出しディアは呟いた。

「お母様……」

っ!?

その一瞬前まで闘志を宿していた表情が。 その一瞬だけ悲しみに染まる。 そして次の一瞬で嘆きに似たなにかを宿し、強固な戦意を秘めた眼光が敵を見据える。

直後。

ブワッと黄緑色の粒子がディアの手のひらから溢れ出す。 それをグッと握った瞬間、朱色の小さな粒子の爆発が手の上で起きて。 手を開きながら上へ翳す。

「我、ディア・シュミーヌが命ずる。 顕現せよ。 我の戦いのための矛となり盾となれ」

そう言うと、ディアの頭上に紅色と朱色が混ざった球が浮かび上がり、それを核として騎士のような大きな人が現れる。 剣を持ち立派な鎧を装備し、姫を守る騎士がそこに顕現した。

「驚いたでしょ? 王家しか使えない技よ」

そうか。 ディアは最後の王家の血筋だから……

「でも使うのはこれで3回目なのよ。 失敗したらごめんね?」

「分かったよ。 なら、あまりディアの手を煩わせないよう俺が頑張るだけさ」

そう言って俺は内なる奴に話しかける。

なぁ、

『全知よ」

久しいなこの感覚。 同調するのはあれ以来か。

『んじゃあ先に一発やってくるよ」

「うむ。 行けカイン」

『転移!」

なにも聞かないんだな。 明らかに常人ではない姿なのに。 身体に紋章浮かばせた俺を、ディアは変わらず送り出してくれた。 俺は空に移動した。 地上では、ディアがいる方向へ軍が動いている。 そして数秒後、俺に気づいたのか雄叫びが空にまで響きだした。

3万は吹き飛ばそうか。 あぁ。

『全知全能、我がこの地を統べる一時、誰にも邪魔はさせぬ」

エネルギーが収束していく刀を前に突き出し、刃を下に向け柄を持ちかえる。

『全知全能。 空は地、地は敵、潰えた明日、今日は死。 線は円へ、風を纏え、一瞬だけ頂点へ。 血は空を舞え、骨は土と共に、肉は裂かれ、熱は冷え、涙よ溢れ、声は出ぬ」

見えた。

俺はそのまま後頭部から地に落下し始める。 柄を持ちかえしっかり握る。

そして地が近づいた時、体制を整え、抜刀する構えをとり、鞘から抜き始め……

ダンッ! と着地したと同時に、斬る。

『死線円斬」

エネルギーの斬撃が細く薄くなり、その人の目では捉えずらい一線の斬撃が約3万の敵の首をはねた。 各地からは生き残った敵兵達の悲鳴が鳴り響く。

そして俺は迫り来る敵より、まず先にディアの方を見る。

「こっちに来るんじゃないっ、わよ!」

ズバン! 騎士の一振りで数人の敵兵が横に両断される。 なんて威力……さすがは王家といったところか。

その時、

「うおおおお! 貴様よくもぉ!」

まずは一人目の男が俺に向かって突進してくる。 剣を両手で持ち振り上げ迫り来る。

俺は体制を低くして足を素早く斜め上に突き出す。

「ぐへぇ!」

相手の喉元に俺の足が上手く入る。 後ずさる相手だが、喉元に片手を当てすぐに襲いかかる。

「その足ぶった斬ってやる!」

突き出したままの俺の足目掛けて剣を横に振る。 俺はすぐに足を引っ込めて、相手に近寄りながら体制を整え起き上がり、一回転して勢いをつけ空振った相手のこめかみ目掛けて、刀の柄頭をぶち当てる。 そしてそのまま流れるように刀を握る右腕を伸ばしながら、身体を少し動かし相手の顔面へ左拳をめり込ませた。 そのまま軽く後方へ後ずさる。

瞬間に、右手の刀に別方向から近づいていた相手の斧が当たる。 俺はそれを左に受け流し、俺の目の前で左へ前のめりになる相手の腹に膝蹴りをいれて、軽く宙に浮いた相手の顔面を左手で鷲掴みにし、身体強化を自分に瞬時にかけて、右へ体をひねり背後から迫っていた数人の敵兵にぶん投げる。

それでも押し寄せる敵の数に刃を向けたまま地に刺し、

『全知全能。 空気を纏い海となれ、波となりて敵を飲み込め。 土波!」

そう唱え、大地を斬るように敵に向け刀を振る。 同時に地面に波が生まれ、地の大きな波ができ、次々と敵兵を飲み込んでいく。

その時、

「一網打尽にしてあげるわ!」

ディアの声が聞こえる。

「母から受け継がれしは愛と優しさ、父から受け継がれしは希望と強さ! 私は王、我は王、誰に何て呼ばれようとも、この血は我を王とする! まだ熱き熱が我を包み続けるまで、この歩み止まれぬと知れ! 化身(けしん)具現化魔法、一対(いっつい)一斬(いちざん)!!」

その時、ディアの持つ剣と騎士の持つ剣が同時に振られる。 そして巨大な斬撃弾を放ち、ディアの前に立ちはだかる敵全てを斬っていく。

「さすが、王女様だ……」

ズバババババッ!!!

どうやら殿下はこの戦いに決着をつけたいらしい。 俺も残りの敵兵に手を翳して唱える。

その時だった。

敵兵達の後方よりその声は響いた。

「闇を照らせ」

光の斬撃が残りの敵兵を喰いちぎるかのごとく襲いかかる。 悲鳴が鳴るもすぐに止み、そこに彼らは現れた。

来たか……

「聖騎士クレイ・オーエント、ただいま見参! 聖なる刃、今宵は誰を裁き斬る?」

そう言ってキンッと音を鳴らし鞘に剣を収める。 そんな聖騎士の後ろから別の男が姿を現す。

「おいおい、先に行くんじゃねぇよ。 いっつも名を名乗りやがって。 そのせいで俺達の名がそこら中にバレてんだぞ」

「いいじゃないか、レバニー・バンムッチ。 なぁいいよなぁ? サチェゼン」

目を瞑ったままの男がいつの間にか聖騎士の隣にいた。

「時は既に手遅れ。 今更どうこう言ったところで無意味」

「お前もクレイの味方かぁ? 俺ひとりかよ寂しいなぁおい。 ってかフルネームで言わんでもいいだろ。 なんか恥ずかしいわ」

そう言いながら出てきた男3人組。 魔法通信でディアが聞いてくる。

『おいカイン。 こいつらが情報屋の』

『あぁ。 情報屋の守護者だ。 こんな奴らがゴロゴロいるなんて想像したくもないけどね」

こいつらは、ここ最近会った中ではトップクラスに強い。 かと言って負ける気はさらさらないが。 言ってしまえば、俺はこいつらよりも強いと自負している。 だがそれでも……

『厄介だな……」

なんとか話し合いで手を結ぶことができればいいんだが。 そうさせるには、示すしかない。 自らの力を。

そのためには、

『本気で殺り合うしかない、か」

そう呟き、刀を握り直す。 俺は全知全能の能力を使い千里眼で奴らを捉えていた。 距離は相当あるが、魔法を使えばすぐにこの場に着く距離だ。 人数は……11人。 全員フードを深くかぶっていて顔はよく見えない。 どうやら観戦しているみたいだ。

まさか、ダーク・サイドの情報屋勢揃いだとは。

笑みがこぼれる。 でもそれはすぐに消えて。

『全知全能、我は神に手が届きし者なり。 最強、それは我であり。 最弱、それは敵。 侵蝕の火、冷徹の水、無限の風、不屈の土。 見知らぬ安寧秩序の中、異域之鬼(いいきのおに)はここで泣くのか。 否、死屍累々の果てであっても立ち続ける。 愚か故の罪を抱き、この胸懐(きょうかい)に懺悔の陣を敷く。 百の先人、千の教え。 散った花、枯れた大地。 今夢の続きを再生するは、ここにある不動の正義宿す刀、(いまし)めの刀」

刀が黒刀に変わる。 またこれを使う日が来たのか……

はぁ。 溜息ひとつ。

『じゃあ、始めようか」

とある重き想いを引き摺って、この刀で。

読んでくれてありがとうございます。

次回、カイン対守護者。

次も読んでくれると嬉しいです。

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