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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
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望んでいたはずの再会

楽しんでいただけると幸いです。

「ザック……お前、なんてことを………」

ザークは愕然としていた。 焦りと戸惑いに襲われた表情を浮かべていた。

「あれほど、人を殺すのはダメだって教えただろ……」

再会はザークの叱咤から始まる。

「ま、まぁいい。 後でしっかり俺が怒ってやる。 だからよ、帰ろうぜっ!?」

ザックに手を伸ばして近づき台詞を言い終えると同時に、ザークの腹にはザックの鋭い飛び蹴りがめり込まれていた。

「ぐふっ……」

ドゴォン……!!

背後の壁に激突し、そのまま後方へ吹き飛んでいく。 廊下に弾き飛ばされたザークに、ザックは微笑む。

「おま」

俺が声を出そうとした時、団長がザックへ銃口を向け突っ込んでいた。

「仲間の仇! 団長自らが手を下してやる!」

両手に、あの時使った拳銃を出して引き金を引く。 だがタイミングはザックの方が早かった。

上半身を低く頭を下げ、片足でタチ片足を突き出す。 そのまま横回転で踵蹴りで2丁の拳銃を団長の手から弾き飛ばした。 そして流れるように体の向きを団長に向け、即距離を詰め団長の胸あたりに正拳突き。 後方に怯む団長に追い討ちをかけようと、軽く跳躍して襲いかかろうとするザック。

だが。

「空破!」

距離が短くなった瞬間、団長は手元に空気を溜め魔力などで強化しそれをザックの腹に叩き込んだ。 俺の目ではこれくらいまでしかまだ見えないが、ルーダ博士の話の中に出てきた技と同じやつだろう。

後方に軽く吹き飛ぶが、先程のザークまでには及ばない。

「そこの敵! 早く仲間の元へ行け! 時間を稼ぐ! 今すぐ起こして、俺を、手伝え!!」

団長は俺にそう叫ぶと、ザックに挑発して拳銃を召喚し、また突っ込んでいく。 俺も返事はせず廊下に倒れているザークの元へ走った。 同時に魔法通信を起動させ、カインに指示を仰ぐ。

『カイン、緊急事態だ』

『分かってる。 だが多くは言わない。 ザックを無力化して完全に拘束。 もしできなければ、その後は自分達で考えて行動してくれ。 以上だ』

そう早口で言うとカインは魔法通信を切った。

「………了解」

疑問が残った。 何故そんなことを知っているのか、何故あのような助言なのか。 だが、そんなことを考えている余裕も時間もない。

「ザーク、起きろ!」

「……あぁ、起きてる」

「カインから指示を仰いだ。 無力化して拘束だ。 あっちで今天砲団団長が戦っている。 俺達も加勢するぞ!」

「……悪いが、俺は戦えねぇ」

は!? なにをこんな時に!

「どこか傷でも負ったのか!?」

「大した傷は負ってねぇよ」

「じゃあ行くぞ!」

「行けねぇ」

「なんでだ!?」

「戦えねぇんだ」

俺は苛立ち胸ぐらを掴む。

「ふざけんな! 朝までザックばかりを気にしていたお前がいざザックを前にしたら戦えませんってか! 仲間の、ましてや義理だが兄弟の、間違いを止めるのはお前の役目だろうが!」

さっきまでの興奮がまるで嘘のように、ザークの戦意は萎んでいた。

「くっ……それでも、てめぇはあいつの兄かよ!」

その一言で、やっとザークは戦意を見せる。 虚ろに落ちかけていた瞳にやる気の炎が微かに灯る。

「…………兄か」

いきなり立ち上がるザーク。 その横顔は、悲しみに染まっていた……

ザークはすぐさま両腕両足に魔法陣を展開させ通らせる。 そしてドカドカと全力疾走でザックの元へ駆けて行く。 俺もそれに続く。 双剣を鞘から抜いて。

部屋に入った瞬間、床にヒビが入る。

団長が後頭部に踵落としをくらい、床にめり込んでいる瞬間だった。 そのめり込みを中心にヒビが広がっていく。 そして床が抜け、団長が落下していくのと同時に俺達はザックに迫る。 一歩早く迫ったザークはザックに拳を突き出す。

だが、ザックはそれを簡単に片手で受け止め、ザークの拳を握ったまま廊下とは逆方向に投げ飛ばした。 窓に激突し外に放り出されるザーク。

「くっ……! やっぱり」

一瞬背を向けたザックに俺は双剣で斬りかかる。 が、

ガギィン……

どこからともなく取り出した大剣で俺の斬撃を受け止めるザック。 そして俺の目を見て口角をさらに上げた。

「俺が狙いかこの野郎! 転移!」

視界は切り替わり、再度空中。 俺達がいた建物の真上、あの時と同じくらいの高さにいた。

しのぎを削る俺とザック。 そして先に動きを見せたのはザック。

大剣を俺側に押しのけ、一旦距離を僅かに空け、その瞬間にザックは器用に腰をひねり体を回転させ勢いづけた大剣で俺に斬りかかる。

「まさか、空気を蹴って近づくとは、なっ!」

俺は視界横から迫る大剣に対し、下を向き体をひねりそのまま横回転で勢いづけた双剣で、迫る大剣の剣身に下から打撃を与え弾き、大剣の軌道を逸らす。 そしてさらに一回転して最初と同じ体制に戻り、空気を蹴った勢いで近づいてくるザックに、双剣を横からふたつ刃を迫らせる。

腹にふたつ剣筋を入れてやる。 防げるもんなら防いでみろ。 空中戦、人はそこまで器用じゃない。 ましてや大剣、細かい動作なら双剣の方が有利!

勝機を感じ俺は腕を思いっきり振る。

ガキィン……

「なっ!?」

マジかよ……どんな力してんだよ。

ザックは上に弾かれた大剣を一瞬持ち直して、自分に引き寄せ盾代わりにした。 しかも、俺が攻撃のため動いた直後だ。

空気を蹴るのはまだ分かる。 魔法だと言われれば納得だ。 だけどこれは違う。 身体強化をしたとしても使い手が上手く使いこなせなきゃ意味が無い。 当人の能力次第だ。 そしてここは空中で落下中。 もしも空気に妨げられないように魔法を展開していたとしても、大剣の重さの感じ方を変えていたとしても大きさは変わらない。

そんな思考を巡らせている間に、ザックは俺の攻撃を防いだ後に軽く空気を蹴り距離を置く。 そして片手で大剣を持ち、柄をまるでペン回しのごとく回転させ始めた。

「っ!?」

驚愕。 そして単純にすげぇなんて思ってしまうほどの動作。

多少扱いやすくなったとしても、異質すぎる動き。 もはやそれは、人間のなせる技を軽く凌駕している。 もしこの世に天才を超越した天才がいるのなら、俺の目の前にいる存在がそうなのだろう。

「そんなの……ふざけすぎだろーがよぉ!!」

転移! 俺はザックの頭上に移動する。 俺の頭の先にザックの頭がある。 俺は双剣を握る手を強めると、目の前に大剣が迫る。 ザックが腕を上に振り大剣で俺の顔面ごと一刀両断する気だろう。

「それを待っていた!」

こんなに手強い奴と長期戦なんてごめんだ。 短期戦で終わらせてやる。

ザックが腕を振り始めた瞬間に転移を使う。 そしてザックの眼前へ。

勢いづいた腕はある程度まで自然に振られるはず。 大剣という大きな物体、この状況からして力は相当込められているはず、遠心力により、振り切るまでの僅かな時間、そこで決着をつける。

双剣を片手直剣に変えて、柄頭に手を添え相手の胸へ力を込め刺し貫く。 直前。

ゴォォォ……

「っっ!!!」

世界がゆっくりに感じる感覚に襲われる。 俺の目線は真上に注がれていた。 そこには大剣が迫っていた。 まるでこれは、燕返し……

世界は元の速度を取り戻す。 俺は柄を持ち替え頭に剣身を置き、腕の力を軽く抜き。 横にした剣に大剣が当たる瞬間、これでもかと限界まで腕に力を込めた。

ギィィン……

火花が散る。 大剣の重さが増していく。 俺はなんとか剣身に大剣を滑らせて受け流そうとするも、どうやら中心に大剣があるせいか右にも左にも少しも動かない。

意図的にやってるのか!?

「くっ……」

ならばっ!!

転移!

俺はこの世に数少ない相棒を手放し相手の眼前へ再び移動する。 さすがに意表を突けたのか、驚いた表情が目の前に現れた。

この一瞬。 まだ大剣は動いていない。 重さが増えていたあたり、相当力を込めていたのだろう。 軽くなった防御に全力を注ぎ込んでいたからか、大剣は空振ったかのように空を切る。 俺の相棒は俺達より先に早く落ちていく。

拳に力を込めて、疲れきっている腕に鞭を入れるように全力で動かし、ザックの顔面に拳をぶち込む。

「やっと! いちダメージだっ!!」

今日初の手応えある攻撃。 だがすぐにザックは持ち直す。 無表情が張り付いた顔がすぐに俺を睨み、素早く頭突きを額にくらわしてきた。

か、硬ぇ……

そして頭突きをした勢いでザックは、縦回転して俺を両断しようと迫る。

「連続! 転移!」

視界が切り替わる。 俺は相棒を握りしめた。

視界が切り替わる。 一瞬息が苦しくなるが、構わず俺は腕を振り、回転し迫るザックに剣をわざと防御体制で近づいた。 そして当たった瞬間、重さが体全体を襲う。

今の一発で相当速い速度で叩き落とされたらしい。 あと数秒で地面だろう。

だがしかぁし!! 転移!!

口から血が一筋を描き流れ出る。 転移して移動した場所は、ザックと最初に転移した場所の高い位置だ。 随分と下にザックが落下しているのが見える。 いや、もうあと百メートルくらいだ。 どんだけ、速いんだよ。 この落下速度……

その時、ザックが俺の方を向く。 もう気づいたらしい。 ザックは戦闘態勢に入る。 直撃の瞬間に俺を再度両断しようとしているらしいな。 俺もすぐに片手直剣を双剣に戻す。

「面白ぇ……やれるもんなら」

ゴフッ……

俺の吐いた血が飛んでいく。 落下中でうつ伏せ状態だからか、俺の顔の一部分が吐血の血で染まった。

「やってみろよ……!!」

残り数十メートル。 タイミングが見計らうように、ザックが構える。 俺はそれをしっかり確認した後、さっきからずっと口に溜めていた込み上げる血を勢いよく吐き出した。 まるでもう死ぬんじゃねぇかと誰もが思うような状態を、ザックに見せつける。

そして………それにザックは反応した。

口角が自然と上がる。

転移!!!

「これは予想できたか? ザック」

視界が切り替わり、眼前にはザックの無表情が崩れ目を見開く顔がそこにはあった。 距離は数十センチといったところか。

そして、さっきまでの速度が乗った俺は、転移後もその速度で落下する。 よって相手側からしたら、物凄い速度で落ちてくるものがいきなり速度変えず目の前に現れた、みたいなことだ。

さすがにこの速さなら防げないだろう。 今さっきの反応が僅かな隙となる。 その一瞬さえあれば充分だ。

俺は速度に乗りながら、相手を斜めにふたつの剣筋を刻み込むように、双剣で斬る。 頭から足まで斜めのふたつの線を刻む。 それは一瞬の出来事。 実際はどこを斬ったかなんて俺にもよく分からない。 それでも斬った感覚を感じた俺は内心ガッツポーズし、さらに込み上げる血を吐き散らした。

「もう動か……ねぇ……っ!!」

あと少しで、地面に着地か……

俺は最後の気力で叫ぶ。

「ザァァァァクゥゥゥゥゥゥ!!!!」

まだ死ねない、まだ死ねない!

「オラァァァッッ!!!」

ザークの声が聞こえる。 直後柔らかい感触が俺を包み込む。 よく見ると何重にも重ねられた魔法陣だった。

「無事か! エルト!」

「あぁ、なんとかな……」

魔法陣万能かよ……

そして数秒後に数十メートルくらい先でザックも落下した。 小さなクレーターができ、砂埃の中からザックが姿を現す。 そして自分に手を翳し、剣筋に沿って手を走らせる。

「修復」

傷がみるみると治っていく。

「んっ!? 待て、今のは……」

剣筋の奥、ザックの体内が……

その時、ザークがザックに近づいた。

「お前……その傷……」

「傷?」

ザークの見ている方向に目線をやると、片目を隠していた長い前髪は斬られて無くなっていて、いつも隠れている片方の目が露わになっていた。 そこには、隠していた部分のほとんどが火傷の痕で覆われていた。 そして片方の目は何故か瞑っている。

その時だった。 ザークが怒鳴りに近い声色で叫んだ。

「どうしてこんな所にいるんだ! どうしてまだここにいる! お前は、お前は……もう………救われたんじゃなかったのかよ………」

膝から崩れ落ちて、泣き叫ぶ。

「どうして……いや、やはりというべきかよぉ………畜生ぉ畜生ぉ畜生ぉ畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

「どうした、ザーク。 いったい何が……」

「何がじゃねぇ!! ………いや………あぁ。 最悪だ、最悪だよ。 くそったれぇぇぇぇぇ!!!」

地を殴りだす不安定なザークを目の前にして、何故かザックは襲おうともせず何もしない。 いつものように無表情、いや。 少し、悲しそうに微笑んでいる。 そして……

「ごめん、ね………お兄ちゃん……」

そう静かに言って、姿を消した。

「ザーク……」

「………」

それから数分、いや数十分だろうか。 時間が過ぎてから、静かになった世界でザークは口を開いた。

「ザックはザックじゃなかった」

「………そりゃあ、そうだろ。 偽名って言ってたじゃないか。 お前が」

「あぁ、そうだな」

明らかに暗い声色で話すザーク。

「いったいなんなんだ。 教えてくれ、ザーク」

「………あれは。 あいつは、俺の実の妹だ。 名前はネーウ」

「妹? なら何故もっと早くに気づかない。 あの前髪のせいか? でも、それでも気づくもんだろ」

そう言うと、ザークは静かに首を振る。

「生きて、いないと思っていた。 なんせ、数年前。 改造が起きていた頃、俺の妹は捕まって、強制的に改造を、施されたからだっ………!!」

「っ!!?」

「改造が幕を閉じ、全ての被害者は弔われたというニュースが流れた。 もう解放されたんだなって思ってた。 何度も抗議をし、救おうと力をつけていた俺は、その時からネーウのことをずっと引きずるのも、あいつ嫌がるだろうからと断ち切ったんだ。 なのに…………なのに、あいつは! ネーウはまだ苦しんでいる!! 自分勝手な兄だよな。 くそったれ……」

「ザーク……」

「だからあの強さは、改造によるものだ。 だから謝らなくていい。 仕方ねぇことだ。 傷つけたことも、怒ってねぇからよ……」

「……………」

何も言えなかった。

そうか、だからか。 あの時、戦えないと言ったのは。

薄々気づいていたんだな……

ということは……

「カインは。 まさかこれも読んでいたって言うのか」

「え?」

「ザークまだ希望は捨てるなよ。 今から俺達はザック、いやザークの実の妹ネーウを救うために動くぞ!」

カイン……お前何者だよ。 偶然にしてはできすぎている。

再会は、新たな敵を呼んだ。

悲劇という名の、救うべき敵を。

読んでくれてありがとうございます。

次回、カイン&ディア対無名軍。

次も読んでくれると嬉しいです。

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