違い
今回は少し少なめかな。
ついにフリクエ完了。 あとは帰るだけ! ………。
楽しんでいただけたら幸いです。
森を出て数分後、シエルも少し返り血を浴びた状態で、帰ってきた。 俺はその姿を見て安堵の息を吐く。 早速俺はシエルに疑問を投げかける。
「そういや、シエルの言っていた子犬とは全然違うんじゃないか? 毛もふさふさしていないし、大きな牙もなけりゃ、耳も尖っていない。 元気じゃないのは仕方ないけど」
「きっと容姿は変わったんだよ。 数週間前からこの依頼は出ていたしね」
容姿が変わる? 数週間過ぎたからってそこまで変わるか? よりにもよって、機械の子犬が。 と、抱きかかえている子犬を見下ろす。
「機械の子犬だったんだな。 探していたのは」
本当に機械ばかりで、普通の人間を最近見ていない気がする。 博士くらいか。
「うん、そうみたいだね。 あっ、あそこにいるのは飼い主さんじゃない?」
遠くの方から歩いてくるのは、俺よりも一段と背の低い金色の髪を後ろに縛っている女の子と、その隣にいる帽子とサングラスをかけた化粧の濃いおばさん?がいた。 親子だろうか。 それにしても、歩きながら何かを言い争っている様子だ。 何を言っているか聞き取れなくとも、声だけはここからでも聞こえるくらいだ。
「あーっ!」
ん? 何かに気がついたかのように金髪の女の子がこちらに走ってくる。 俺の方に一直線に。
「その子犬の飼い主よ、あの子」
「へぇ、あの子がふっ!」
「ドイフー!ドイフー!」
俺の胸に体当たりをして、抱きかかえていた壊れかけの子犬を俺の腕の中から取り出し抱きしめていた。 壊れかけだと言うのに、とても嬉しそうだ。
「頑張ったかいがあったな。 こんな笑顔見せられると」
こそばゆい気持ちだ。 初仕事にしては上出来だったんじゃないだろうか。 俺の目の前で、涙を浮かべながら子犬との再会を喜んでいた。
「ありがとう! お兄さん、お姉さん! ドイフー見つけてくれて。 あっ、私はミオ! この子はドイフー! 本当にありがとうございました! 」
ミオがペコペコお辞儀をしながら感謝してきた。 あぁ仕事後の癒しだなこれは。 と、疲れを感じていると、ズンズンと苛立ちを露わにするおばさんがやってきた。
「こん度は迷惑かけたなぃお二人さん。 この子が新しいの買いにくと何度言ってもきかぁせんのでね。 やっとこれで、解決したんで、お礼を言いまさ……」
おばさんの方も礼をしながら喋っていたが、途中何かに気づいて止まった。 視線は壊れかけの子犬にいっていて、
「あ、すいません! 見つけた時にはもうボロボロで、ここまで運ぶので精一杯でした。 修理すれば直ると思うんで、もし良かったら……」
焦りながら俺は親であろうおばさんに必死に話すが。
「気にしてまいですよ。 なぁミオ、それうちに寄越しなぃ」
「嫌だ! 久しぶりの再会なんだから手放したくない! 修理は明日でもいいよ私は」
「寄越しなぃ」
「いーやーだ!」
どこかで見覚えのある親子のやり取り、だがそこには普通とは違う雰囲気が、おばさんから漂っていた。 徐々に目付きが変わっていき、
「…………」
沈黙の睨み、鼻息荒く背の高いおばさんは、実の娘であろうミオを見下し魔女のような形相で見つめていた。 それに気づかず、再会を喜ぶミオ。 その後、おばさんは無言で、報酬金が入った袋を俺に乱暴に押し付け、ミオに帰るよう促し歩いて行った。 こんな依頼人がいるのか、とシエルに聞くと冷めた目をして聞いてきた。
「あれ、助ける?」
「助けるもなにも子犬はもう森から助け出したし、あの子も明日には修理に出すみたいだから、俺達のやることなんて特にもうないだろ?」
まさかまだやることあるのか?フリクエって、と聞くと「いや、クエストはこれで終了だよ」とテンション低めに答える。 なにを心配しているのか、こうして無事クエストも終わったようだし。
「あとはミオちゃん次第でしょ。 あのおばさんの目付きは相当怒ってたな。 帰ったら怒鳴られるの確定かなアレは」
「うん……そうだね」
■■■
フリクエ終わりの帰り道、車はないのか?と聞いたら都市部の人間なら持っているよ、と返され格差を感じながら疲れた足で帰路を歩いていた。 周りは人ひとりも通っていない道。 無駄に長く感じてしまう。それなのに、さすがはシエルさん。 戦闘をきっと2度もしているのに、疲れそうじゃないね。
「今日は疲れたなぁ。 明日もフリクエってあるの?」
と話しかけた瞬間だった。
ドゴォォン……
「うおっ!? なんだなんだ? 」
遠くの方で砂煙が舞い上がっていた。 爆発? 工場とかで何かあったのか?
「あの方角、工場などはあまり建っていない住宅街辺りだよ。 被害は……場所は空き地らしいね……」
すぐさま分析を始めるシエル。 空き地か、爆竹でもやったのか? いや、でもあの砂煙の大きさは……。
ドガシャンッ!
数メートル離れた所に何かが落ちた。 飛んできた方向が砂煙の起こっている場所。 ここから空き地まで、俺が見た限りでも結構距離があると言うのに一体何が飛んでき、た……のか。
「おいおい、なんなんだこれは……」
落ちてきたのは、俺が今日必死で守り抜いた機械の子犬の頭。 発見時の時よりも左目あたりは更に潰されている状態だ。
「ミオちゃんが危ない! シエル、行こう!」
この機械の子犬、ドイフーの頭ならさっきまでそれを抱いていたミオが今危険に晒されているはずである。 何も起きないで、抱えていたドイフーの頭が、ここまで勝手に飛んでくるわけない。 だが彼女は首を振った。 なんで!?と俺は反射的に言うと、
「あの、さっきの親子は、きっと都市部の人間。 ここらへんで、あのような服装の人はほとんど見かけない。 それにきっと、もうミオちゃんは、」
「やめろ!」
俯き叫ぶ。 俺はその言葉を遮った。 初仕事で命懸けで守ったものに、純粋に喜んで俺にありがとうって言ってきた女の子が、何故会って早々こんなことにならなければならない? あんなに喜んでいたのに。 その時ふと思い出すのは、あの嫌な目付きをして見つめていたおばさん。 まさか……
「まさか、あのババアが……!?」
シエルは静かに頷いた。 肯定して欲しくはなかったんだけどな。
「ここからは私の推測になるけど、ミオちゃんはフリクエに依頼を出すほどあのドイフーが好きだったと思う。 だけどフリクエはここ、機械街に住む人々のために設立された何でも屋みたいなもので、そこに出したことに都市部に住むプライドを持ったあのおばさんは許さなかったんだろうね。 おばさんはきっとミオちゃんの家族だと思う。 でも機械街の人々の力を自分の家族が求めたよいうことが引き金となり怒りは増していったんだ。 でも都市部のルールで犯罪は禁止されている以上、おばさんはミオちゃんに手を出せなかった。 だから、都市部のルールがきかない、ここ機械街で殺したんだよ。 子犬は、きっと見つけたんだろうけど殺害のために、おばさんがあの森に放ったんだろうね」
今の説明を聞き疑問を抱く。 都市部のルール? あそこはどんな世界が広がってるんだ? そして今更感じた疑問がもうひとつ……。
「でも、やっぱり行こう! ミオちゃんがまだ生きてるかもしれない」
「さっきのおばさんのあの表情から予想すると今現在のミオちゃんの生存確率は相当低いよ」
それでもだよ! 俺はシエルの手を引っ張り走り出す。 まだ生きててくれよ……。
「そういや道どっちだ!?」
「こっち!」
うおぁ! 引っ張っていた手が、いつの間にか引っ張られる手に変わり、ミオちゃんの元へ急いだ。
読んでいただきありがとうございます!
次回は、ミオちゃんのため走るエルト達。
その先に待っていたのは……?
次回も読んでくれたら嬉しいです!