望んでいた再会
楽しんでいただけると幸いです。
まずは見張りの2人を倒さなきゃだな。 天砲団を俺とザークの2人で潰すんだ。 最初はまず慎重にいこう。 速急でと言われているが、焦りは禁物。 正確さを重視していこう。
「よし、ザーク。 まずは……」
フシュッ、フシュッ。
俺が考え込んでいる間、ザークはまるで遠足に行く小学生のように興奮していた。 鼻息を荒くして、目を輝かせている。 ワクワク感を放ちながら敵地をずっと見ていた。
「んお? なんだエルト。 行くのか? 行くんだな? よしすぐ行こう! 戦おう! やってやろう! 王女様ディア殿下様のためにぃ!」
興奮しすぎだろ。 ガキか。
俺よりも年上なはずのザークは今、はしゃぎすぎて好奇心を引き金にして問題行動へ突っ走る小学生みたいな状態になっていた。
「ザーク、一旦落ち着こう。 な? 落ち着こう」
「お、落ち着いてるぜぇぇ? 俺ぁよぉ。 ってか速急なんだろ? 早く行こうぜ。 はよはよ」
フライングしてしまいそうな勢いで急かしてくるこの精神年齢低い大男は、鼻息をさらに荒くして俺に詰め寄る。
「いや、ザーク。 あのな、まずは冷静に」
「もうダメだ。 俺ぁ行くぜぇ! ひゃっほぉぉい!」
「人の話を聞けぇ!」
その場で思いっきり跳躍して宙を舞い、
「死ねよコラァァ!」
見張りの団員の頭に、その大きな足で踵落としをくらわせる。 蹴られた団員は額から地に強打。 そのまま動かなくなった。 もうひとり見張りがすぐに銃口をザークに向け叫ぶ。
「敵襲ぅぅぅ!!」
そう言って発砲。 だが、ザークはすぐに自分の両腕に魔法陣を展開させ銃弾を防ぐ。
「うるせぇなぁ! 黙ってくたばれやぁ!」
魔法陣によって弾かれた銃弾の音がした直後、見張りの団員はザークの左アッパーをくらい宙を舞った。 ザークはすかさず跳躍して一回転し、宙を舞う団員に回し蹴りをくらわせる。 そのまま団員は、見張りをしていた扉に激突。 脆かったのか、扉は団員の直撃により破壊される。 団員はそのまま室内の床に着き動かなくなった。
それを確認した後にザークが俺の方を向いて親指を立て、めっちゃ笑顔で『完了だぜっ!』と合図を送ってくる。
……なんだあいつ。 つい2日前までは殺し合ってたっていうのに。 うわっ、ウィンクしてきた……
いまいち距離感が掴めないザークの元へ俺も急ぐ。
だが、俺が着くよりも前にザークの目の前には数人の団員が駆けつけていた。
「敵襲だぁ!」
「貴様、よくも2人を……」
「でけぇ男だな。 的がでかくて殺りやすい!」
「ってかなんでこいつ、こんなに笑顔なんだ!?」
「構え!」
一斉にザークへ銃口を向ける団員達。
「撃てぇ!」
「死ねぇ!」
「クソがァ!」
ドガガガガガガガガッ!!!
発砲音がザークの元から幾度となく聞こえる。 だが、ザークは……
「ははははははっ! 無駄だぜぇ! そんな弾ぁ俺に当たるかってんだぁよっ!」
魔法陣で全弾防いで笑っていた。
「おらっ!」
ガシッ!
ザークが団員のうちのひとりの顔面を鷲掴みにする。 ちなみに俺は出入口で顔を出して登場する機会を伺っている。
「ははっ! こいつが殺されたくなけりゃあ、団長さんを呼べよぉ。 なぁに、別に完全にてめぇらゴミ共を血祭りにあげに来たってわけじゃねぇんだ。 てめぇらのリーダー出せって言ってんだぁ」
そしてザークは鷲掴みにした団員をさらに上へ掲げて言う。
「それともなにかぁ? てめぇら、仲間であるこいつが死んでもいいなんて思ってんのかぁ? あ?」
「ぐ……」
歯を噛みしめて悔しそうに俯く先程指示を出していた団員。
「ここは彼らの要求を飲み込むのが良いかと」
仲間の団員が耳打ちする。
「あの方々もいない今、このような強者を相手できるほどの団員は多くありません。 ここは団長様に相談し、交渉という形で戦うのが今我々ができる最善策だと」
「えぇい、分かっている」
そして団員はザークに顔を向けて言う。
「分かった。 お前の要求に応じよう。 だから、今すぐその手を離してくれ」
ザークはそれを聞くと、また口角を上げて言った。
「あぁいいぜぇ? 俺ぁ仲間思いの奴ぁ大好きなんだ。 ほらよ」
そう言って半ば乱暴に、鷲掴みにしていた団員を彼らに放り投げた。 それを上手く団員が4人がかりでキャッチする。
俺は内心ホッとしていた。 転移直前にイングに「できる限り人は殺さんでくれ」と頼まれていたからだ。 ザークはそれを忘れていなかったみたいだ。 まぁ気絶している相手が2人程いるけど……
■■■
「ははははっ、今回は俺の手柄だなぁ? なぁエルト」
笑いながら横を歩くザークは得意気になって笑っていた。
「はいはい。 まぁ少し興奮気味だったけど、今のところはお前のおかげだよ」
「ははははははっ! もっと褒めてくれたっていいんだぜぇ?」
ははは……こいつ距離詰めるのめっちゃ早いなぁ……気持ち悪いと思ってしまうほどに。 スポーツとかやってたら絶対ムードメーカー的存在だろうなぁ。 そういやムードメーカーと言えば、初日以来ヘイオに会ってないけど元気にしてっかなぁ。
そんなことを考えているうちに、団長がいるという部屋の前に辿り着く。
「ここだ。 失礼のないようにしろよ。 なにかをしでかそうなんて考えるんじゃないぞ。 俺達団員全員がいつでも戦えるようにしているのだからな」
そう言って案内役の団員が扉を開き、入るよう促す。 そして彼入らず、俺達を中に入れると扉を静かに閉めた。
「ようこそ」
背を向けていたひとりの男がこちらを振り向く。
その瞬間、
ドッ……
キン……
ザークの右肩あたりの肩甲骨付近を狙って銃弾が発砲される。 すかさず俺は背中の左斜めに装備している双剣の片方の剣を抜き、ザークに当たる直前でそれを防いだ。 ザークは一切反応がとれずただただ驚いて硬直してしまっている。
「へぇ」
相手側も珍しいものを見たかのように驚いて笑みを浮かべた。
「へぇ、じゃねぇよ。 いきなりなんだお前。 振り向く直前に撃ってくるなんて。 挨拶のつもりか?」
そう言うと、さらに相手は驚いたような表情を見せる。
今奴は、背を向けていた時後ろに組んでいた手に一瞬だけ拳銃を召喚させたように出し、即引き金を引いて拳銃を消し振り向いたのだ。 一瞬の出来事で常人なら気づかない、否、見えないのかもしれないが、俺の目は確かにそれら一連の動作を捉えていた。
「ほぉ、あれを見ていたのか」
「あぁ見てた。 でもそんなこともういいだろ。 さぁ話し合おうぜ」
「お、おう……そうだ。 話し合おう話し合おう」
ザークも気を取り戻す。 さっきの興奮が無きものになってしまったようだ。
「話し合う? ふっ、そんなことただの時間の無駄だ」
「無駄だと?」
「あぁ無駄だ。 何故なら、今日お前達はここで死ぬからだ。 だから話し合いなど無意味な」
ドガシャンッ!!
相手の台詞はいきなり切られた。 破壊音がこの部屋に突っ込んで来たからだ。
そして音ともに部屋の壁は外側から破壊され、室内に人が突っ込んでくる。 壁の瓦礫と家具の残骸の上に横たわるのは、見知らぬ男。 だが、その男を見た相手の顔はみるみると青ざめていく。
そして物音を聞いたのか、室内にわらわらと団員達が駆けつけて来る。
「何事ですか!」
「団長ご無事ですか!」
「じゅ、銃攻隊!?」
銃攻隊、カインの話によると天砲団内の組織名であり、要するに団の中でトップクラスの戦闘能力を誇る屈指の団員達ということらしい。 だが、この今目の前に横たわるボロボロの男を見ると、本当にそうなのかと疑ってしまう。
「今すぐ手当てを!」
「大丈夫ですか!」
忙しく流れていく団員達。 困惑するザーク。 青ざめた顔から一変、怒りに満ちていく団長。
「おのれぇぇぇ!! 誰だ、こんな真似をしたのは! お前達か! お前達の仲間がこんなことをしたのか!」
そう激怒して指をさす団長。 だがしかし、俺達じゃないと言っても聞き耳をたててはくれなそうだ。
その時だった。
壊れた壁から、人が侵入する。 それはまた見知らぬ謎の男。
「団長っ! 逃げてください! 俺達じゃもう歯が立たない! ですがなんとか時間稼ぎをします! どうかお逃げください!」
「なに!? 敵は、敵は誰だ! どこのどいつがこんな惨たらしいことを! 敵は誰だ! 総力を持って敵を穿ってやる!!」
「敵は……最近名を上げたザックザーク兄弟の……あっ! こいつです! こいつの弟、ザックです!」
そう言ってザークを指さし団長に叫ぶ銃攻隊員らしき男。 そして、その言葉を聞いてザークは戦意を爆発させる。
「っ!! ザックがいるのか……!! どこだ! ザックはどこにいる!?」
今度はザークがその指さす男に叫んだ。
「ザックは」
ドゴォォン……
「「「っ!!?」」」
男が答えようとした瞬間、男が居た場所に縦に人ひとりが立てるくらいの穴が空く。 全ての階の床を貫いてできた風穴。 いきなりの出来事にそれを見ていた俺達3人は息を飲む。 そして、今さっきまで男が立っていたあたりを、浮遊している者がいた。
「ここだよ。 お兄ちゃん」
あの日見た時と変わらない、片目を長い前髪で隠した笑みを浮かべるザックがいた。
読んでくれてありがとうございます。
ついにザックと再会!
次回、ザックを止めようとするが……
次も読んでくれると嬉しいです。




