一致約束
楽しんでいただけると幸いです。
それは早朝から行われた。
朝食を食べ終えて広場に出る。
火を焚いてその周りに座り、俺は眩しいその光に目をこすった。
「こんなに……早くにやらなくても……ふぁぁ……」
あくびをしながら、俺を起こしたカインにそう言った。
昨日はあの後に交流会なんて名目で一日中、アミーの手伝いでそこら中の子供達やお年寄りに料理を運んでいった。 いつもやってるベテランの女性達は俺達の数倍もの食料を運んでいて、見た目では一番力持ちに見えるザークでさえ、「ホントに女か?」とこぼし笑顔が張り付いたままのアミーにぶん殴られるなんてこともあった。
「早起きくらい当たり前だろう?」
「だからって、朝から昨日の続きなんて……頭まわらないよ……」
しかも昨日の自己紹介時よりも早い朝だぞ。 まだ陽の光が薄ら山の向こう側に見えるくらいだ。
「そうよそうよ」
広場でカインと俺が話していると、2人目の犠牲者らしき人物がやって来る。
「早起きくらい当然でしょ?」
そう言って目をこすりながら出てくるのは、元王女のディア・シュミーヌ。
「……今の入りからして俺と同意見だと思ったのに……」
小さな裏切りに合いながら、俺は前世の覚えている数少ない記憶を巡らせる。 そういやこんなに朝早くに目覚めるのはいつぶりだろうか。
「朝に弱いのか? エルト」
「そんなんじゃここでは生きてけねぇぜぇ?」
杖をついて歩いてくる老人イング・ヴァニラと、昨日と打って変わって完全に元通りになったザーク。
「さて、んじゃあ全員揃ったということで、これからどうするか決めるか」
「ていうかなんであなたが仕切ってるのよ」
張り切ってカインがそう言うと、すぐにディアが苛立ちを見せる。 さすがは元王女、人の上に立っていた故の苛立ちか。
「こういうのは早い者勝ちだと思うんだよ。 だから俺が仕切る」
「なっ!?」
ディアの顔に怒りの色が染まる。 カインはそれが当たり前だと言うように言う。
「そもそもリーダーとかそんな偉い立ち位置にいるつもりはないよ。 ただ今だけは俺が仕切るだけ。 リーダーになりたいのならなればいい。 君にはその資格があるんだから」
「ぐぬぬぬぬ……」
なんだか気に入らないが資格ありと言われていい気がしなくもない、と思ってるような複雑な表情になるディア。 俯いて、続けてと促す。
「で、まずはダーク・サイドを支配するためにリーダーづらしている組織を片っ端からぶっ潰す。 大きく分けて4つの勢力がいる。 1つ目は商売等で勢力を伸ばしているロバレッタ商会だ。 ここは平和的な奴らが多いが交渉術で様々な信頼を各所から得ている厄介な組織だ。 だが味方に加えられたら相当な戦力になるだろう」
「ロバレッタ商会か……よし、その商会にはわしの知人も入っておるからのぉ、わしがそやつらん所に行こう」
イングが行くのか。 まぁあの強さなら大丈夫だろう。
「分かった。 この組織についてはイングに任せよう。 それで2つ目は、遠距離攻撃を得意とする輩が揃った集団、天砲団だ。 銃を主に使う集団であり彼らの最終目標は天界都市に風穴開けることだ。 無駄な戦いは避け、自分達に利がある戦いなら総力をもって望むのが特徴だ」
そう言うと、今度はザークが挙手をして発言する。
「なら俺の魔法で盾がわりになってやるぜ。 銃弾くれぇなんのそのだ。 もう一人攻撃できる奴と俺で行けばそこは落とせるだろうよ」
確かに俺と交戦した時のあの魔法を使えば銃弾くらいは防げるだろう。 強度を見る限り魔力等で強化された銃弾でも大丈夫そうだ。
「ならザークに行ってもらおう。 もう一人のアタッカーは後に決めるとしようか。 次に3つ目だが、こいつらの組織名は無い。 よって無名軍と言う仮名で呼ぼうと思う。 こいつらは超好戦的で今一番勢力を広げている厄介もんだ。 主に近接戦闘を主流にしていて武器も数多く揃えている。 総力戦となったら一番手強い敵と予想される。 ここは俺とディアで落とそうと思う」
「え……」
直後ディアはすげぇ嫌そうな顔をした。
「そ、そんなに嫌そうにしないでほしいかな……」
「そうだぜぇ? そんなに嫌なら俺んとこに来てもいいんだぜぇ?」
「嫌」
直後、相手をどん底に落とすかのような蔑んだ目でディアはザークを睨んだ。
ガクリと膝から崩れ落ちるザーク。
「こんなに他人に嫌われたこと初めてだ……女怖ぇ……王女めっちゃ怖ぇ……」
メンタルどんだけ弱いんだよザーク。 世間知らずの引きこもり人見知り野郎か。 それとも元王女の気迫が凄すぎるのか。
「あぁ、ちなみにザークと一緒に行くのはエルトだからね」
「え」
「へっ、てめぇかよ。 足引っ張たりしたら殺すかんな。 …………よろしくなっ」
ツンデレかよ。 いや、気持ち悪いよ。 最後に俺にだけ聞こえるように囁いてんじゃねぇよ。
「それで、4つ目はどこなんじゃ?」
「あぁ、4つ目は情報屋だ」
その言葉を聞いて、イングは眉をひそめる。
「ほぉ、あれを敵視するとは、なかなかの覚悟とみえるのぉ。 あれはわしでも敵に回したら厄介だと思っとる相手じゃのに」
「だからこそだ。 結局の所ダーク・サイドは情報屋を仲間に引き込むことができれば勝ちのようなもんだしな。 支配への近道でもあるし、なんならゴールだ」
「ふむ、若造なりに情報は仕入れておるのじゃろうなぁ」
疑いとは違う、何かを試すような目でカインを見つめるイング。 情報屋という組織はそこまでのものなのか。
「あぁ勿論だ。 情報とはいついかなる時も、どの国でも時代でも大事なものだ。 それらを扱うプロ集団、ダーク・サイドの情報屋。 その情報屋が握る情報は天界都市でも重宝され、裏で貴族が派遣した小規模の騎士団が情報屋を取り抑えようとすることまである。 だが一度たりとも捕まったことがない。 それは、情報を守る守護者がそれなりに手強いからに他ならない。 俺の手に入れた情報だと、情報屋には守護者と呼ばれる情報を守る者が複数いるらしい。 その中には聖騎士クレイ・オーエントや謎の商人レバニー・バンムッチ、盲目の格闘家サチェゼンなどが分かった。 だが分かったのは名前だけで詳細はまだ分かっていない」
「じゃあそっちの方がやばいじゃないの。 その情報屋っていうのには誰が行くのよ。 ここにいる者の名前は全員すでに挙がってるわよ?」
確かにそうだ。 イングはロバレッタ商会に、俺とザークは天砲団に、カインとディアは無名軍に行くことになる。 情報屋に行くのは、まさか……ストッチ達に行かせる気じゃ……
「あぁそれも俺とディアで行くから大丈夫だ」
「はぁ!?」
早朝静かな広場にディアの何度目かの大声が響く。
「何言ってるのあなた! 一番勢力が大きい組織を壊滅した後に一番手強そうな相手をする気なの!? ここは戦力を整えて攻め込むのが基本でしょ! ロバレッタ商会、天砲団、無名軍を引き入れてラスボスに戦うのがいいに決まってるでしょ!」
「あぁ確かにそうだ。 確実性も増すし成功率も高まる。 けれど時間が掛かり過ぎるんだ。 きっと情報屋に立ち向かう頃には、事がもう決着してるだろうね」
「は? あんたなにを言って……」
カインは深刻そうな表情をして、口調を所々変え、王女様に頼みごとをするかのように喋りだす。
「……ディア殿下、失礼ですが、貴女様は間違っておられます。 時間は限られているんだ。 今この瞬間も苦しんでいるダーク・サイドの民がいる。 今もし何もせず過ごしたら今日のうちに何人倒れるでしょうか。 それに、エルトが置いてきてしまったという少女も今どうなっているのか分からない。 ザークの言うザックも同様。 そして俺の追う『改造』もまた悲劇を生み出していることだろう。 できる限り無理なく早くダーク・サイドからは脱出しなければいけない。 それに……」
そこで俺やザークなど周囲に巡らせていた視線をディア一点に向け、一度言葉を止め込めるようにして、口を開く。
「お忘れですか。 貴女様の側近を。 経歴を持つあの側近がひとり、厄介者は傍にはいない。 このまたとない機会、あの愚か者共がなにもしないわけがないでしょう。 勿論、側近も同様ですが」
「っ!? ………貴様、カインと申したか」
カインの言葉に、ディアは元王女の気迫を完全に今だけ取り戻した。 そんなことを思ってしまうほど、ディアからは王の怒りとも言うべき圧が感じられる。
「何故。 我の、たったひとりの、大切な家族を存じるか。 その口で、よくも語ってくれるではないか。 カインよ、我は、腐っても朽ち果てようとも、たとえ忌み嫌われる元王女だとしても。 あやつの王女じゃ。 王……なのだ。 なに、あやつの名を喋るなと申すわけではない。 だがしかし、あやつの侮辱とあらば、王たる我が、このディア・シュミーヌという我が、黙ってはおらぬぞ…………!!!」
その目になにが宿っているのか、俺には分からない。 分からないけれど、どこか見覚えがある瞳だった。 ディアのその目は。
だが、そんなディアに怯むことなくカインは口を開く。
「悪く言ったわけではないが、不快にさせたのなら謝ろう。 悪かったよ殿下」
普通の口調でカインはディアに頭を下げる。
「でも、先程言った方針を変えるつもりはないよ。 俺達ふたりは無名軍を壊滅した後に情報屋に攻め込む。 なに、大丈夫だ。 もう無名軍の攻略法は分かってる」
「…………」
疑いの目を向けるディア。 全くそれにも気圧されないカイン。
「ほっほっほ。では決まりじゃな。 全員準備完了次第出発でよろしいかの、ディア殿下よ」
「え? あ、そ、そうよ! 準備完了次第出発! あとカイン、そこまで言うんなら魔法の腕は相当あると見ていいんでしょうね? 全員に魔法通信かけなさい! 命令よ! リーダー命令!」
おぉ、いきなり調子取り戻したなぁ。 めっちゃ張り切っていてなんか微笑ましい。 そして全員の身の安全を気にするディア。 優しい。
「はいはい」
そう言って軽く全員に手を翳す。
「これでいつでもどこでも会話できるようになったよ。 オンオフ自由自在、どんな状況下でもできるし、ある程度の妨害魔法も貫通するよう細工も施しておいたから」
わお、優秀。
「あとは、転移」
そう言ってカインは指を鳴らす。
「「「え?」」」
俺とザークとディアの声が重なる。
次に視界に広がったのはとある森林の中。 木々の間、数十メートル先には怪しげな廃墟が建っている。 そして、隣には固まっているザークがいた。
「え?」
いきなりのことでまだ状況が上手く飲み込めていないらしい。
その時、
『あー、あー、マイクテスマイクテス……聞こえてますかー?』
カインの声が耳元で聞こえる。
『聞こえてるわよ。 隣に居るんだもの』
『いやまぁそりゃあそうだけど……ここにいない人に聞いたんだよ』
『ほっほっほ、わしの方は大丈夫じゃぞ』
「あ、お俺も大丈夫だ、ぜぇ?」
ザークもだんだん状況が理解できてきたようだ。
「俺も大丈夫だよ」
『よし、皆大丈夫そうだな。 では、リーダーのディア殿下。 あとは頼みますよ』
『うむ!』
張り切ってんなぁ。 相当嬉しいんだな。 まぁそれもそうか、ひとりでこのダーク・サイドにいる人々を救いに来たのに、他にも別な理由でそういう奴いて脇役のままいるなんてできるわけないよな。 しかも元王女様なんだし。
『我、元ではあるが王女ディア・シュミーヌが命ずる。 必ず自らが背負いし任を果たし、生きて帰還せよ! 陽の光もろくに浴びれぬ、罪無き者も生きるこのダーク・サイドという名の地に光を浴びせるがために、闇の雪など危険な輩などに怯え恐れるこの日々を、いつの日かまで過ごしていた平和な暖かな日常に戻すがために。 どうか耐え凌ぎ戦い抜いてほしい。 我らの目指すは誰もが笑っている理想的平和な日常。 偽善を垂らし生きる天の王共の玉座を砕き引き摺り落とすその日まで、その歩み止めるな。 だが、休む時は休め。 死は平和になった世で受け入れろ。 こんなところで死ねるものか、死ぬものか。 我ら業火の魂持ちし者、戦え! 貴様らの守りたいものがために! ここに今誓え! 生にしがみつき大切な者の元へ帰ると! 進め! 我らの成すべきことを成すために』
長々しく、けれどやる気を出すには充分すぎる台詞に、俺の心に火がついた。
その時だった。
どこからか、大勢の雄叫びが聞こえる。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
『え、なに? なんなの!?』
『実は殿下の演説、俺達と同じようなことをしようとしている者たちやストッチ達のような戦士達にも聞こえるようこっそり垂れ流しにしてたんだ。 いやぁ、さすがだね殿下』
そんな会話を耳にしながら、俺の横ではザークもやる気を出して無駄に体に力を込めていた。 さすがにここで叫んだら気づかれるしな。
『ディア殿下、さすがじゃのぉ。 大事になるぞカイン、どうやら波紋のようにさっきの演説が様々な各地に放送されたようじゃ』
「ということは……この雄叫びはカインが流した場所以外からもなっているのか?」
『ははは……どうやら速急で事を終わらせなきゃいけなくなった。 大事になれば死人の数は増す。 大事になる前に標的全壊滅、目標切り替えだ』
『はぁ!? 無理でしょ!』
「あんなに心に響く言葉並べた後じゃあ無理なもんもできちまうってわけだぁ。 諦めなぁディア殿下ぁ、あんたが灯した業火だ。 そう易々と消えやしねぇさ」
『じゃあやることは決まったのぉ。 大事になる前に速急にこれらを壊滅する』
「そしてザックを見つけ出す」
「ダーク・サイド脱出!」
『改造を終わらせる』
各々目標を言うのを聞きディアもやけくそ気味で叫ぶ。
『んもーっ! 分かったわ! やるわよ! やってやろうじゃないの! 我が命ずる! 4つの組織を壊滅させるか引き入れる! その後は行方不明者探し、改造の幕引き、このクソッタレなダーク・サイドからの脱出! 覚悟決めるわよ! 全員生きて必ず帰還すること! 約束しなさい!』
「「了解!」」
『『了解』』
王女様の命令に俺達は返事をした。
これより始まるダーク・サイドを舞台とする戦いは、さらなる戦いを呼ぶことになるだろう。 だがしかし、だからと言って、止まる理由などないわけで。
「さてと、じゃあ行くか」
「おう!」
ザークの素直な返事が聞こえる。 同時にタイミングよく陽の光が顔を出す。
木々の間を光が駆け抜け、俺の視界に明かりを入れてくれる。 木々の葉に緑の色が濃く描かれていく。 それでも空には巨大な天界都市が覆い被さっていて、青空はよく見えない。
そんな景色の中、5人の老若男女は約束を胸に戦いに身を投じる。
「さぁ、作戦開始だ!」
読んでくれてありがとうございます。
次回、天砲団のアジトにて……
次も読んでくれると嬉しいです。




