謎は謎を呼ぶ
今回はいつもより少なめです。
楽しんでいただけると幸いです。
「っ!」
俺が台詞を言い終えると同時に、ザックはいきなり距離を詰めて拳を鼻目掛けて突き出してくる。 俺は反射的に後方へ軽く跳ねて距離を置き回避。 跳ねた直後、地に着いた瞬間をスタートとし、地を蹴り今度は俺からザックとの距離を詰める。 そして同様、俺もザックの顔面目掛けて拳を突き出した。
瞬間。
ザックは身体を丸めるように腰を曲げて猫背になり、頭を低くしてその場で片足軸に一回転。 そして素早くもう片足を出し膝を曲げ、俺の突き出した拳を横から回し蹴りをする。 蹴られた拳は大きく軌道を変えて、俺は体制を崩してしまう。
一瞬の動きがここまで器用だとは……ザークよりザックの方が手強いか。
前のめりに倒れそうになる俺を見過ごすわけもなく、ザックはすぐに魔法陣を指にくぐらせ俺に刺そうと突き出してくる。 俺はそのまま眼前に迫る地に両手を着き、逆立ち。 からの腰を上手く使い蹴りでザックの腕を蹴った。
「なっ……」
ーーーーーー硬い。
腕を蹴ったが、ザックの迫り来る指には何の影響もなかった。 まるで柱にでも蹴りつけているような感覚。
「死ねっ……」
そのザックの呟きと共に指が迫る。
俺はそんなザックの首元に手刀を入れようとする。 ザックはすぐさま頭を低くしそれを躱した。
「どういうことか、分からない……」
「でも気づけただけマシじゃないか?」
俺はもうザックの背後に立っていた。 腕を蹴った直後から、全てを殺してザックの背後に回り込む。 ザックは目の前にあるものと背後に感じるもののどちらが本物か分からなかったのだろう。
そしてザックはこちら側に体の向きを変えながら跳躍して俺との距離を置いた。
「何者? 分からない。 なら、本気で殺す。 殺す」
そう言って俺に指を向ける。
「ん……?」
「発射」
直後俺の足元に妙な力を感じ、俺は高く跳躍した。 直後、俺がいた場所に勢いよくクレーターができる。
指のあの爆発を銃みたいに飛ばせんのか。
なら、
「転移!」
石が微かに光る。 瞬間視界に写る景色が変わり、目の前にザックが現れる。 だが、ザックはあまり驚いた様子ではない。
これは予想できたってか……
俺は即相手の手首を掴もうと素早く腕を伸ばす。 だがそれをザックは内側から腕を振り俺の腕を伸ばした起動を弾いた。 そして左手を突き出し至近距離からの爆発の発砲。 俺は外側に弾かれた右へ上半身を横に曲げ回避。 そのまま流れるように、左足を上げザックの右肩辺りへ蹴りを狙う。
だが、ザックはそれを見切り俺の左脚に右手の指を向ける。 そして俺の脚へ近づけた瞬間、さらに俺は右へ上半身を曲げその場で側転する勢いで右手を着地。 左足の軌道をさらに上に上げる。 そして流れるように右手へ体重をかけ、右足も上げる。 少し上がった左足とさらに下から上へ上げた右足で上手くザックの右手首をキャッチ。 それらの動作を瞬間的に行う。 直後、右手の指から爆発の発砲が行われる。
ひぃぃ……間一髪。
両足にこれでもかと力を込めザックの右手首を固定。 ザックは抵抗はしようとしない。 これでも今不利なのは俺の方であるからだ。
ザックはそのまま左手を俺に向ける。
俺はそんな余裕なザックを見てニヤリと口角を上げた。
右手右腕に力を込め全体重を支え、俺は左手でさっき使ったばかりの石を取り出した。
「このままこれ使ったら、もちろんお前も来るよなぁ?」
「っ!」
ザックはすぐに右手の指を左手の指も俺に向け爆発を発砲しようとする。
「だけど死んだら終わり」
「じゃあ、撃てよ」
その時、ふたつの方向から物凄い力を感じる。 全力の2発が来る……
だが、簡単なことだ。 タイミングさえ合えば回避は、可能だ。
ドッ、シュン…
「よし!」
「……!」
簡単なことだ。 発射された直後、俺に着弾するまでの間に転移すればいい。
俺とザックは今、空にいた。 ダーク・サイドの上空。 ここまで飛んでもまださらに上の天界都市には届かないけれど。
「さぁどうする」
「……」
その時だった。
カチッ……
カチ? なんか今物音がしたよう、
「なっ!?」
いきなりザックの手首がほぼ直角に曲がる。 そしてガっと俺の片足首を掴むと、何にも逆らうことができず、まるで空中に立っているように飛行して俺を回しだした。
やばい。 他の魔法も使えたのか。
そしてザックは地とは逆の真上へ俺を投げ飛ばす。 直後ザックはどこかに転移した。
「ぐっ………どこ、だ……」
天界都市に届くんじゃないかと思うほどの速度で上がっていく俺は、さらに上に気配を感じる。
そして……
ドッ……
「ぁっ……!!」
ザックは両手を合わせ俺の背中に叩きつけ、直後落下させないと言うようにその攻撃によって生まれた勢いは、ザックの膝蹴りで即食い止められた。 背に打撃、腹に膝が食い込む。
唾液がこぼれる。 声が上手く出ない。
そして項を鷲掴みされたままザックはその場で数回転して勢いをつけ地に俺を再度投げ飛ばす。 そして落下中の俺との距離をすぐに詰めて、目に見えぬ速さで様々な方向から打撃を与え続ける。 そして最後に背中にかかと落としをしてさらに落下速度を上げた。
俺はそんな落下の中、なんとか仰向けになって数メートル上で落下中のザックを挑発する。
「もう終わり、か? はぁはぁ……この程度、まだまだだぜ……」
そんな下手な挑発にザックは無表情でまた俺との距離を詰めてくる。 瞬間的に。 そして指を突き出す。
「おい、どこを見てる」
俺はザックの背後に回り込んで脇の下に腕を入れ肘を曲げ相手の動きを封じる。
まではいかずとも、僅かな瞬間は抑えられるはずだ。
「転移!」
「っ!」
この速度のまま地上に転移をするんだ。 さすがにザックでも多少ダメージは受けるだろう。 まぁ俺もだけど……!
そして地上が眼前に広がった。 着地まで数メートル。 身体を勢いよくひねり、上手くザックを下にする。 それでも無表情を貫くザック。 そしてーーーーーー
ドォォン………
そしてすぐに転移を使い着地地点から距離を置いた。
さすがにやったか……?
荒い呼吸のまま俺は立ち尽くす。 そんな状態の俺に構わず、無表情のままダメージを負った服で普通に歩いて砂煙からザックが出てくる。
「……何者だ?」
「……」
何も喋らず、何もせず、ただ俺と同じく立ち尽くし無表情のまま目線だけを俺に向けていた。 まるで目が付いただけの置物。 カメラのような。 そんな人ではないなにかに感じながら俺はさらに言葉を続けようとしたその時だった。
「きっと人じゃない」
闘技場の端でひとりの男が地べたに座りながら言った。
先程のダメージのせいだろうか、彼の足元が透けて見える。
「人じゃないって、どういうこと?」
次は少女の声。 どこかから跳躍して闘技場内に着地する謎の少女。
ん? あれ、この人どこかで……
「最近新たに出た犯罪組織の調査をしてたら、あんなに激しい戦闘が行われてたから見守っていたわ。 あなた達何者?」
いや見守ってたって……助けてくれてもいいんじゃん……まぁ人のこと言えないけど。
そんな中、ザックは未だに無表情のまま、上を向く。
「時間、ここは撤退する」
「時間? あぁ、もうこんな時間か」
「長居しすぎたわね」
そう言って3人は上を向き言った。
「時間? いったい何の……」
っ!?
例えるのなら雪。 だがそれは白ではなく黒。 暗黒と言った方が近いかもしれない。
そんな謎の現象がダーク・サイドで起こっていた。
そしてそのままザックはいつの間にか、兄であろう気絶したザークを残し姿を消す。
残りの2人は、片方は泊まる所が無いために、片方は新人調査という名目で俺の落ちた村に行くことになった。 自由だなぁ……
ザークは、まぁ……一応連れてくか。
ダーク・サイドはまだまだ謎で満ち溢れているらしい。 雪は地を闇に染めていく……
読んでくれてありがとうございます。
次回、始まり。
次も読んでくれると嬉しいです。




