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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
65/197

それはまるで

楽しんでいただけると幸いです。

アミー達の絶品料理に腹を膨らせ、戦場から帰ってきた人達と軽く交流し寝床に入って夜が明けた。

朝もアミー達の絶品料理に腹を膨らせ、俺は今日初の戦場に行くことになる。 まさかの案内がイング。 あの実力からみて大丈夫そうだけど、やはり心配である。

「大丈夫なのか? あっちの方は」

「なに、わしの孫は統率もしっかりできるんじゃ。 大丈夫じゃろ」

すげぇなヘイオ。 ムードメーカーで統率力あるとかリーダーに抜擢じゃねぇか。

「そういやお主は魔法は使えるのか?」

魔法……そう言えば毎回シエルに頼ってたなぁ。 身体強化とか転移くらいは教えてもらえば良かった。

「使えないです……」

「そうか、ならこれを持っとれ」

そう言ってイングは明らかに準備していたかのように謎の光り輝く石を俺に渡した。

「なんすかこれ」

「それは魔法を込めた石じゃよ。 知り合いにこの手の専門家がいてのぉ。 その石ん中には転移魔法が組み込まれておる。 お主の魔力が尽きぬ限り使い放題じゃ。 持っとって損はないじゃろう」

マジか!! これで俺も今日から魔法使いになれるのか!

俺はテンションが軽く頂点を貫いた。 もちろん表には出さない。

異世界に来たんだ。 魔法のひとつやふたつ使いたいと幾度となく思った。 だが周りには魔法のプロばっかいて俺は使えなくてもいいという状況が毎回起きていた。 話を聞く限り最強のルーダ博士や半機械人間のシエルやエルフのスートや……

「うおおおおぉぉぉぉぉ…………」

それでも口からは喜びの声が漏れる。

「まぁでも今回はお主にとっては初めて行く所だから、その石を使うのは帰りからじゃな」

「分かりました!」

「お、おぉ……なに、分かればいいんじゃ」

少し引き気味に驚いているイング。 俺は慌ててテンションを抑え冷静になる。

これから行く所は殺し合う場だ。 命のやり取りだ。 ふざけた気で行くわけにはいかない。

「では、行くぞエルト!」

「おう!」

足下に魔法陣が描かれ、俺達二人を枠内に入れるほど広がる。

その魔法陣を俺は改めてまじまじ見ていると、イングに声を掛けられる。

「着いたぞ」

相変わらず早くてすげぇな。

そう思いながら目の前に視線をやると、そこは人通りの無いただの一本道だった。 周囲には壊れかけているボロボロの家々が並んでいる。

「この先じゃ」

そう言ってイングは歩きだす。 俺もそれについて行く。

「これから出会う相手は、このダーク・サイドで最近名をあげはじめている兄弟じゃ。 壊れた家の残骸を集めて逃げられないよう闘技場らしきもん作りおって、決闘で資源の奪い合いをしておるのじゃ。 特徴は必ず二対一でやらされることじゃな。 最初は片方の兄らしき大男が手始めに攻撃して来て、戦いの中盤から弟らしき者が加わる。 それで大体挑戦者は殺されるってわけじゃ。 多量の資源を餌に何人もの人を殺している悪党じゃ」

悪党て……そしたら俺らはヒーローか何かですか。 まぁでも英雄はそんなもんか……

「ってか殺されんならなんでそんな情報知ってんだ?」

「ん? あぁそれはダーク・サイドには全てに中立の情報屋がいるんじゃよ。 誰にでも得する存在だから支配者づらしてる輩もそいつだけには手を出せないんじゃ」

ほぉ、情報屋なんているのか。 ならそいつに聞けば脱出方法も……

そんなことを考えているとイングはいきなり立ち止まって振り返る。

「ここじゃ。 そんじゃ、あとは一人で頑張りぃな。 武運を祈るぞエルト」

「おう。 は? ちょおい! 待てコラ! え、見届けるとかないの? おい!」

そんなことを言ってる最中にイングは転移で帰りやがった。

マジで案内だけ!?

「おぅ……今日一発目は新人らしいなぁ……」

影が掛かる。 背後から男の声が聞こえる。

振り返ると、そこには俺と同じくらいの背丈の片目を髪で隠した少年と大男がそこにいた。 しかし、どうやら話し掛けたのは俺にでなく、足を微かに震るわせている青年だった。

「お、お前らがザックザーク兄弟か! しょ、勝負しろ! 資源寄越せ!」

「おぅおぅいいねぇ、威勢がいいねぇ」

「じゃあ来なよ。 殺し合い取り引きしようよ」

そう言って3人は家の残骸で作られた簡易的闘技場の中に入っていった。 俺はその戦いを外から見ることにした。

ある程度見たら、俺も乱入しよう。

「に、二対一かよ! ずりぃぞ!」

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ。 最初は俺と一体一してやっから、ほら始めんぞ」

そんな感じで戦いが始まった。

「この野郎……うっ、うおおおぉぉぉ!!!」

挑戦者の男は持っていた短剣を振り回しながら大男に詰め寄る。 だが、すぐに短剣は大男の拳で弾かれ、その瞬間男は短剣を手放してしまい短剣が宙を舞いそれを上手く大男の後ろにいる少年がキャッチする。

「そんな物騒なもん持って……男は拳だろぉ?」

「う、う、うわあああぁぁぁぁ!!!」

泣きそうになりながら男は雄叫びをあげて大男に拳を突き出す。

大男はタイミングを見計らい、相手の拳を防ごうとはせず、その腕を挟むように左膝と左肘を同時に動かし、男の右肘を挟んだ。

グゴキッ……

鈍い音が鳴る。 俺は目を見開く。

男の右肘を大男は左肘と左膝で砕いたのだ。 いとも容易く。 そりゃあそうだ。 腕の太さも脚の太さも差がありすぎる。 痛みに男は絶叫し後ろに後ずさる。

瞬間。

「イヒッ」

大男の後ろにいた少年が後ずさる男の顔面を殴りつけるような動作をしていた。 今の一瞬で距離を詰めたのか? 魔法陣すら見えなかった。

そして青ざめる男の額に少年は人差し指をぶっ刺した。

「ああああああああああああああああああああ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃ!!」

俺はいてもたってもいられなくなり闘技場の乱入した。

「やめろぉぉ!」

闘技場内に足を着けた瞬間、少年はさらに指を深くくい込ませ、直後男の顔が吹っ飛んだ。 首から上は何も無い状態となり、ぐちゃぐちゃななにかと血が地に勢いよく転がった。

「おいおい、乱入者とは。 待っていられないほどやる気に満ち溢れてんだなぁ? 新人2号?」

そんなことを言う大男。 巨大な体に強靭な肉体、太い唇を歪ませだらしなく舌を出し、見下すように嗤う目を俺に向けた。

「くっ……お前らがザックザーク兄弟か……」

「あぁ! いかにもその通りだぁ! 俺ぁ骨砕きのザーク。 この小せぇのが刺しのザックだ」

「………よろしく」

少年の方、ザックは戦っていた時とは打って変わって気弱で大人しく見える。 戦闘時にだけ性格変わるみたいなやつか。 しかもなにやら異名みたいなもんを自分で名乗ってるのか。

だが……そんなことはどうでもいい。

「んなこたぁどうでもいい。 さっさと殺ろうぜぇ? そのためにここまで来たんだろう?」

「あぁ」

ここは犯罪公認地帯、まるであの場所に戻ってきたみたいだ。 そのおかげか思考が冴え渡る。 研ぎ澄まされていく精神、力を込め熱が篭もりだす肉体、コンディションは異世界に来て一番と言っていい。

体制を低くする。 同時に相手も警戒し戦闘態勢に入る。 まずは大男が相手、基本は俺にも行ってくれるらしい。 双剣を使ったら弾きに来るだろうか? 肉弾戦が相手はお好みらしい。 だからと言って殺し合いでわざと相手の望みを叶えるなど馬鹿馬鹿しいことなどしない。

ほんの数秒の長考後に俺は……

「んっ!?」

「時既に遅し」

もう、地を蹴っていた。 今、止まったところだ。

大男、ザークの懐に潜り、俺は双剣を両手に腹に2本の筋を入れる。

「うぐっ!」

痛みに反射的にザークは片手で腹を押さえて、もう片方の手で俺に反撃しようと動き出す。 瞬時に体制をさらに低くし、上半身を軽く斜め後ろに倒し、そして思いっきり前に突っ込むように頭を前方に突き出す。 それを助走の代わりにして上手くザークの股の間を通る。 その瞬間にも太ももの内側を斬りつける。

「いでぇ……おのれぇ器用なまねを……」

俺は即座にザークの背後をとり、双剣を素早く片手直剣に変えて、心臓のある位置を貫こうとするが、気配を感じ、背後の敵の対処に動作を切り替える。

振り返ると、ザックが人差し指を俺に向けて放つ直前だった。 迫り来るその手を、剣の刀身を上手く使い起動を変える。 ザックはそのまま軽く後ろに後ずさった。 そしてその場で素早く一回転してザックを横に一刀両断。 と見せかけて、背後から襲いかかろうとしてくるザークの気配をいち早く察知し、その場で跳躍して回転斬りをザークの迫り来る腕に斬りつける。 浅かったのか、腕を斬り落とすまではいかなかったが、少し深めの斬り傷をいくつかつけることに成功した。

着地。 だがザックに背を向けて地に足を着いたからか、ザックは背を向ける俺にすぐ次の一手を仕掛けてくる。 横目で確認。 先程と同様指で刺す攻撃のようだ。

俺はすぐにその場で逆海老反りジャンプでその指を回避。 まさかこんな避け方をするなどとは思わなかったのだろう。 宙に浮いた少し高い位置から見たザックの表情は驚愕に満ちていた。

「おらっ!」

そのまま片手直剣を両手で握りしめ、空中で横になっている状態の俺はそのまま体を半回転させてザックに剣を振り下ろす。 半回転プラス重力による自由落下で威力が普通の斬撃よりは上がっているはずだ。 だが……

ガギィン……

「っ!!」

俺の剣を指でキャッチしていた。 まるで物を摘むように。

そんなザックの指には指輪をしているように小さな魔法陣が全ての指にいくつも付いていた。

俺はすぐに剣を振った方向とは真逆に振り、その指から剣を抜く。 そして着地、直後に2人から距離をとる。

「なるほど、さっきの顔破裂もそれが原因か……」

「正解だ」

そう言って両腕に腕輪のようにいくつもの魔法陣をくぐらせたザークが不敵な笑みをこちらに向ける。

「おめぇ案外やるなぁ? だから、こっちもちと本気出して殺ろうってわけだ」

「さっきの戦いを見るあたり、様々な強化と、ザックの方は少なからず爆発みたいなのもできるみたいだな」

そう聞くと笑いながらザークは答える。

「爆発ねぇ……そりゃあうってつけの表現じゃねぇ……かい!」

そう言ってザークは足下に拳を突いた。 凄まじい破壊力だが、クレーターができないあたり調整も可能らしい。 突いた直後に宙を舞った石や砂や土などに手を翳し、

「吹き飛べやぁ!」

そう叫ぶと強風のような突風のような風がザークの手元あたりから吹く。 そして宙を舞う石や砂や土が勢いよく俺に襲いかかる。

目くらましか? その間にザックを接近させて破裂を狙おうという算段だろうか。 確かにザックの破裂の方が威力があるし必殺性もありそうだしな。

「まぁだからと言って」

やすやすそんな手に、否、どんな手にも俺が引っ掛かることはないが。

目の前、迫り来る突風構わず俺は低い戦闘態勢をとる。 剣を握りしめる。 腰を下げ膝を曲げ、肩を曲げ肘を曲げ首元を守るように振りかぶり、手放さないように剣を握るが、握りしめすぎず、いつでも全力で握れるように意識する。 剣を握らない左手は、まるで盾のように手のひらを相手に向ける。 そして少しづつ脚全体に力を込めて、抜いて。 全神経を研ぎ澄ませ、集中。

さぁ、引き金はできた。 あとは引くだけだ。

眼前、突風。 石と砂と土の嵐。 周囲、敵の気配。 ザックだな。

そして。

地を蹴る。 瞬間、全力で脚全体に力を込め放つ。 そして心の中、石に命じる。

転移……!

直後、視界は切り替わり目の前にザークが姿を現した。

「なっ!?」

全力跳躍のおかげでザークがなにか反撃をする前に、俺はザークとの距離を詰めた。 だがやはり身長差からか、首は狙えそうにない。 ならば、

「瞬刻式一等、(ふり)()り」

真横に思いっきり振り斬る基本中基本の技。 それをザークの腹に一筋入れる。 完全に両断まではいかずとも相当深い斬り傷をつけられた。 さすがにもう戦闘不能だろう。

ってかまさかこの技名を叫ぶ日が来ようとは……あーここ異世界で良かった! マジで。 だってこれ基本中の基本的な技だし。 今の俺じゃまだちゃんとした技使えんし。 魔法使えるようになったらできるようになるかもだけど。

と、呑気なことを考えながら俺は振り返る。

「ぐあぁぁぁ………」

勝負あったかな。 俺は別に命までとろうとは考えてはいないかったし、支配者づらの情報等吐かせてから考えても遅くはないだろうと思っていた。 そして俺は剣を双剣に変えて鞘に収めた。 その時だった。

頭上からの気配に俺はその場から離れる。 直後ザックが俺がいた場所に降ってきて。

ズッパァン!!

その落下地点を中心に軽くクレーターができた。

「お前はまだやる気か、ザック」

痛みに項垂れる兄を背に、まるでそんなこと構わないかのようにザックは俺と戦う意志をみせる。 戦闘態勢に入って軽く口角を上げたのがその証拠だろう。

どこか、異質だな。

戦闘中に性格が変わるとはいえ、何故か拭えない異質な感じに俺は違和感を感じていた。

「まぁいい。 どっちが本当のお前か分からない以上、肉弾戦で相手してやる」

その時、笑みをつくるザックの表情を見て俺は思い出した。

この異質な感じ、全部が全部ってわけじゃないけど。 どこか似ている。

そうだ、似ている。 初めて出会った時の、シエルと……

読んでくれてありがとうございます。

次回、ザックに異変が……

次も読んでくれると嬉しいです。

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