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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
64/197

本物の強き意志

今回も長めです。

楽しんでいただけると幸いです。

「あんた、なにをしでかしてここに落ちてきたんじゃ?」

そう言って疑いと警戒の目を向ける見知らぬお爺さん。 その後ろには先程勢いよく飛び出して行った男の子もいる。

「お、俺は……そうだ俺は、人助けをしたんだよ! 大男がフード被った少女を襲ってたから少し痛い目に合わせただけだ。 そしたら変な機械人間? みたいなのが来てボコボコにされて……ってかどうして俺が落とされなきゃなんねぇんだ……?」

「そうか……」

少し焦りながら事の顛末を話す俺に息を吐くように、お爺さんは低い声でそう答えた。

「じいちゃん……」

直後には男の子が心配そうにお爺さんに声をかける。 お爺さんの服を軽く引っ張って目でなにかを訴えているようだ。

「安心せぃ……白じゃ」

そのような呟きに男の子は表情を明るくした。

警戒されるのは当たり前か……

そんなことを思いながら俺も警戒して左腰の剣の鞘に触れていた左手の力を抜いた。 その瞬間。

シュッ……

「っ!?」

音も無く視界横から棍棒のようななにかが俺の顔面横に襲い掛かる。 反射的に俺は左手で左腰の剣を抜きそれを間一髪で防いだ。 と言うのは正しくなく、どうやら当たる寸前で寸止めしてくれたようだ。

よく見ると棍棒ではなくそれは杖だった。 お爺さんがいつの間にか抜刀するかのごとく杖をどこかから出していた。

「ふむ。 やりおるのぉ……あんたぁ……」

品定めするようにお爺さんは俺を凝視する。 横では男の子が「すげー」と俺を見ていた。

そしてお爺さんはやっと杖を床についた。

「ようこそ新人。 わしの名イング・ヴァニラ。 ここら一帯で村長みたいなことをしとる老いぼれじゃ。 こっちはわしの孫ヘイオ・ヴァニラ。 ここでは助け合いが基本、その力を見込んであんたには戦場に行ってもらおう。 名を名乗れ、罪無き若造よ」

「ヘイオ! よろしくっ!」

はきはき喋りだすお爺さんと、横で元気に自己紹介をする男の子。

「あぁ、えーと……俺の名前はエルト。 よろしく」

「よろしく! エル兄!」

エル兄!? エル兄だと!?

いきなり馴れ馴れしさ全開でくるヘイオ。 友達多そうだなぁと思った。 出会ってまだ一日も過ぎていないというのにすげぇ馴れ馴れしい。 イラついてはいないが、なんか歯がゆいな。

「ようこそエルト。 皆にも紹介するつもりじゃから、ほれ、行くぞ」

そう言って背を向けるイング。 それに元気よくついて行くヘイオ。

「あ、ちょっと待ってくれ。 さっき言ってた戦場って……?」

「……なぁに、後で教えてやるわい。 はよ行くぞ、時間は有限じゃからな」

そう言って部屋から先に出て行く。

俺もこんな所でのんびり過ごすつもりはない。 ガースラーがいるから多分大丈夫だろうけど、やはりシエルが心配で仕方ない。 半機械人間と言えど、戦うことができても、女の子なのだから。

「こんな所……すぐに出て行ってやる……」

決意を胸に俺は部屋を出た。

「面白いこと言うね。 エル兄」

「ひっ……!」

薄ら笑みを浮かべて廊下に立つヘイオ。 扉を開けて出た瞬間、真横にいたので俺は思わず小さな悲鳴をあげる。 そんな俺のビビり具合に特に反応を見せず、ただ本当に期待の眼差しを俺に向けてさらに言葉を続けた。

「エル兄、いつか僕たちのことも一緒に連れ出してね」

どこかになにかを色褪せたような不思議な表情を影の中浮かべて、まるで誰かに言うのではなく呟くように言った。

「さ、行こ! 皆待ってる!」

直後に表情をコロッと変えて、元気よく子どもならでは高い声をあげて俺に一緒に行こうと促す。

不思議っ子だなぁ、と思った。 でも、こういう子がいたら空気が明るくなるんだろうな。 ムードメーカーみたいな。

「はいはい。 もうあんな風に驚かすんじゃないぞ、ヘイオ」

そう言ってついて行こうと一歩踏み出した瞬間、俺の言葉に反応したのかビクッとするヘイオ。

「お、おう!」

どこか歯切れが悪そうな返事とともに歩きだした。 俺もその横に並んで歩く。 何故か拭えない謎の違和感を無視して、これからどうするかを考えながら。


まず頭の中で今の状況整理と今までの出来事を振り返っていると、もう目的地手前に到着したらしい。

「早いな……」

「まぁ建物自体小さいからね」

そして外に出て数分後……

「早いな……」

「まぁここにいる人が少ないからってのもそうだけど、そもそも今生きてる人は少ないからね」

んー? 今聞き逃してはいけない言葉が聞こえたぞー?

俺達は外に出て自己紹介をした。 が、イングとヘイオ以外には男性女性ともに一人ずつしかそこにはおらず、自己紹介はすぐに終わりを迎えた。

男性の方は、名前はストッチ。 身長は俺よりも少し高いくらいで力持ちらしい。 いつも無表情で感情が分かりづらいらしいが、実はとても優しい性格。 ここら一帯の力仕事を主にストッチと他数名の人でやっているそうだ。 その中でストッチはリーダー的存在として頼られている。 アニメとかでよく見るような傷などは一切ないことから、戦ったことはほとんど無さそうだ。

女性の方は、名前はアミー。 母性溢れる雰囲気を醸し出す彼女は、ここら一帯の料理関連や食料などを管理しているそうだ。 もちろん一人ではなく数名でやっているらしく、こちらもリーダー的存在で皆に頼られている。 いつも笑顔を絶やさず微笑み頑張る姿に、戦場に行く戦士達は幾度となく救われていることから人気もあり皆に愛されている、まるで母親的立場にもいるらしく、それが最近の悩みだと話していた。 あまり目立つのが好きではないらしい。

そんな二人も、俺の自己紹介の時は時折素の反応を見せていた。

「こ、これ。 双剣?」

「あ、はいそうですよ。 ストッチさんもこういう武器とか好」

「おおおおぉぉぉ!!! す、すすすげぇ……かっこいいな………おおぉ……おー!」

と言うような子どもらしい反応を見せた。 鞘から抜いて少し貸してあげると、テンションをさらにあげて「う、うほぉぉぉ……」と感動しながら軽く双剣を離れた所で振り回していた。 その後、恥ずかしがりながら「ぶ、武器って、かっこいいよな……」と少年に戻ったかのような口調で返してくれた。 残りの3人は初めてストッチさんの素の姿を見たかのように呆然としていた。

「あの、エルト君?」

「あ、はいなんですか?」

「エルト君って、その……料理とかできる系男子?」

「まぁ、それなりにはできるとは思いますよ」

なのにどうして今までシエルに作らせていたかと言うと、シエルの料理の方が何倍も美味いからである。 そもそも前世での料理知識しか知らんし、この世界の人の口に合うかも分からんし。 そもそも! 半機械人間でも女子の手料理が食えると言うのに俺が率先して作ろうとか思わない。 ってか、まぁたまには作ろうかなぁなんて考えることもあるけど、そう思ってる間にシエルの作った見た目よりも味重視の料理が出てくるから、俺の出る幕など無いわけで。

「きたー! 来たわ! ついに来たわ!」

おぉっと。 こちらもなにやらテンションが上がってるようだ。 上がりすぎて、その場で軽くピョンピョンジャンプしてる。 可愛らしい。 今この瞬間、俺からしたらこの人はお姉さん的立ち位置に固定された。

「あなた、料理できるのね!? ここの戦場にいるむさ苦し……熱い男共は料理なんてできないから女性ばかりが毎日毎日料理や比較的安全地域での食料調達で楽しみの欠片も無いのよ。 あぁ、今までに何度男らがやればいいのに、と思ったことか。 しかも料理作りすぎて余ったものは他の、幼い子供たちやお年寄りに配って回らなきゃならないし、人手が足りないし、楽しみももう無いし大変なのよ。 たしかに戦場は命のやり取りだけど、こっちは精神駆使して死ぬ気で皆に温かいものを提供しようと頑張ってるの。 もちろん料理等だけじゃなくて洗濯や風呂などもこなしてるのよ? あぁ、戦って勝てず負けて帰ってくる奴らの世話などどうしてやらなきゃ……今のは忘れなさい」

押し寄せる嵐のごとく喋りだすアミー。 日頃の鬱憤を引き金に、所々本音らしき言葉も入っていたみたいだが、忘れろと恐ろしいほどにこやかな笑顔で言われたので忘れることにしよう。

「ってことで、この飽き飽きしている日常にスパイスが欲しいから、あなた、料理やらない!?」

「いや、すまんのじゃがエルトも戦場行きじゃ」

そこでイングが口を挟む。 直後アミーは俺の方を向いたままイングに背を向けて俯き「チィッ」と舌打ちをする。 その後に聞こえたクソジジイという言葉は聞かなかったことにしよう。

「じゃあたまに! たまにでいいから料理を私達の代・わ・り・に!! お願いしてもいいかしら! ねぇ、いいでしょ? ねぇねぇ」

「あ、えと、はい。 いいですけど。 さすがに一人じゃ厳しいと思うので手伝ってくれるのであればまぁ、たまになら……」

「よし決まりぃ!」

ガッツポーズで母性溢れるアミーは心の底から喜んでいた。 そのような姿を見てストッチとイングは呆然としていた。 ヘイオはと言うと、

(あね)さん! やりましたね!」

と共に喜びを分かちあっている。 両手でハイタッチしている姿を見るあたり、ヘイオはもう既にアミーの本性を知っていたってわけか。

そのような自己紹介が終えた後、イングに呼ばれふたりきりになった俺は聞きたかったことを聞いた。

「んで、戦場ってなんだ? 言っとくが俺はここに長居する気はない。 置いてきちまった大切な仲間が上にいるんだ。 俺はここを脱出したい。 それを踏まえて教えてくれ。 俺になにをさせる気だ?」

そう強めの口調でイングに問いかけると、イングは鼻で笑った。

「ふんっ。 脱出か。 そのような言葉はここではただの妄言と一緒じゃ。 たしかにお主は強いかもしれん。 じゃがここからは出れんよ。 ここダーク・サイドは案外とても広大なのじゃ。 天界都市とほぼ同じ広さ。 そして犯罪公認地帯とも囁かれるこの場所は、もちろん調子に乗った支配者づらをする輩も多くいる。 しかも脱出を試みようとしてもお主が上で戦った奴らに足止めされ、最悪殺されてしまう。 ここは巨大な牢獄じゃ。 どんな手段も上の奴らに阻まれ、中で生きようとも犯罪集団との少ない資源の取り合い。 資源というのは毎週上から少ない最低限の資源が送られるのじゃ。 食料が主な資源じゃが、それを独り占めしようと様々な集団が奪い合う。 わしらはその輩がいる場所や殺し合う場所を全て戦場と呼んでおる。 お主はそこに行き資源を取って来て欲しいのじゃ」

「つまり、その見ず知らずの輩と殺し合ってこいと?」

「その通りじゃ。 もちろん毎日帰ってくる人が少なくなってきておるのも事実。 死人は毎日何十人と出ておるのじゃ。 同時に上から落ちてくる者も何人もいる。 奇跡的に生きてる人をこうして仲間に加え役割を振り分け、今日を生きるため協力を強いるのじゃ。 これこそ助け合い、これらをこうして義務化せんと誰もここで生きてはいけぬのじゃ」

「そうか……」

「だからお主は」

「でも俺は脱出する!!」

「なっ!?」

「出会った時と比べ、俺をお主呼ばわりしてくれてるあたり信頼を少なからず置かれているのは感じている。 イングの考えも分からなくもない。 だが、俺は上に戻るぞ。 さっきも言ったろ。 大切な仲間が待ってんだ。 置いてきちまったんだ」

俺は決意を固め、イングに言った。 これだけは譲れない。 ここで一生を過ごすなんざお断りだ。 この世界に来て初めて出会った仲間を、やすやす忘れてここで生きるなんて考えができるほど、俺は善人じゃない。 そこまでお人好しになるつもりはない。

「くっ……馬鹿者。 そんな戯言言うたら、わしにも置いてきたものがいくらでもあるわ! 家族を数年前に置いてきた! わしの不甲斐ないばかりに孫まで巻き込んでしまった始末じゃ! お主だけがそう思っとると思うな! わしも戻れるのなら戻りたい。 孫をまた楽しいあの普通の日常に戻してやりたい! なにも知らん若造が、ここに落ちてまだ一日の若造が偉そうに物事言うな。 時期にお主も分かる時が来よう。 自分が生きるため、周りにいる見ず知らずの人間が生きられるようにするため、置いてきたものを忘れなくてはいかん時が」

強く重い言葉が、多くのものを背負う言葉が俺の決意を揺らした。 イングは本気だった。 だった、のだろう。 過去、きっと俺と同じように思ったに違いない。 あの実力だ。 そう思ったはずだ。 そして挫折した。 思い知ったのだろう。 現実を、そして理想は理想で潰え、立ちはだかる壁にぶち当たり自分の望むものを手に入れようとするよりも、周りを助けることを、今を生きることを選んだのだろう。

どのくらいの挫折か俺には想像もつかない。 だけど、相当のものだったのだろう。 その証拠に、イングの左足は義足だ。 イングは隠しているようだけど、異様な片足の形と所々ズボンの穴から見える金属はそれを物語っていた。

「気づいておったか」

俺の視線にイングは気づいた。左足を手で撫でイングはそれ以上口にしようとはしなかった。 自分も戦った結果こうなったことで、他の誰もが戦ったらこうなることを思い込み幾度俺みたいな人を止めて来たのだろう。 勝手な考えだが、それは誰もこうなってほしくないからだろうか。 価値なき勝ち無き戦いはするな、と言われたような気がした。

「それでも俺は……」

諦めきれない。 諦められるわけがない。 ルーダ博士のあの話を聞いた今なら尚更諦められるわけがない。 決意は揺らいでも、変わらない。

「ーーーーーーならば、証明してみろ」

重きイングの口からは、重みのある挑戦状が渡される。

「戦場で支配者づらをする輩を全滅させてみぃ。 この下界ダーク・サイドで頂点に立て。 そして天を穿ってみろ。 さすれば、お主はまた晴天を拝めよう。 その仲間とも再会を果たせよう」

熱が籠った口調で、イングは俺に言い渡す。

「このわしを超えてみせい。 新人エルト」

思い込み激しい老人イングは、無駄な戦いを止め目の前の生にしがみつき藻掻くことを強いるこの老人イングは、願い事を呟くように俺に言う。

「そして、ここダーク・サイドを生きる弱者も共に救ってみせよ」

「……無茶なお願いばっかだな。 イング」

ここまで熱く言われると、自然と笑みがこぼれてしまう。

「なぁに簡単じゃ。 英雄になれと言っとるだけじゃ」

爺さんの笑みは、孫を想うただのおじいちゃん。 ダーク・サイドを生きる弱者、その言葉の裏には最も強く孫のヘイオのことを言っているのだろう。

そしてその笑みには、なんだか寂しさが混じっているような気がして……

「ほれ、そろそろ飯時じゃ。 さっさと行かんかいエルト」

いきなりそう急かされて走るよう促される。 同時に遠くからアミーが俺を呼ぶ声が聞こえる。 あの人声量やべぇな……

「エルトくーん! 手伝ってぇぇ!!」

「はいっ! ただいまー!!」

俺は走ってアミーの元を急いだ。


「やるべき事はこれで終わりじゃな。 後は若いもんに任せるかのぉ………頼んだぞエルト」


走る。 風が吹く。 でこぼこした道、荒くなる呼吸。 後ろのイングの、呟いた声は。 俺の耳には届かなかった。

一瞬。 イングを目で追った。 イングは俺とは真逆の方を眺めていた。

まるでなにかを待っているような。 そんな空気感。

だがそんな思考は、余所見していたせいか足を引っ掛け躓きそうになり体制を整えるため、切り替わる。 俺はアミーの元へ気にせず急いだ。 老人の考えなど若者には分かりかねない。




「わしの攻撃に反応できたのは、お主が初めてじゃよ」

躓いたかのような足音を背に、わしはとある決意を胸に遠くを眺めていた。

読んでくれてありがとうございます。

イングは、決めた……

次回、エルト戦場に赴く。

次も読んでくれると嬉しいです。

次回の投稿予定は来週末です。

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